2022.11.17

在来工法+CLTで大空間を実現した医院建築

工務店と設計事務所のコラボで需要を開拓

【物件】竹尾皮ふ科、なかむら腎・泌尿器科クリニック(愛知県尾張旭市)
【施工 】阿部建設 株式会社(愛知県名古屋市)

阿部建設は独自に薄型のCLTを在来工法に用いた「Aパネ工法」を展開している。同じ敷地内に建設した竹尾皮ふ科と、なかむら腎・泌尿器科クリニックでも同工法を採用、コストを抑えつつ大空間の建築を具現化している。

厚さ36㎜のCLT
極端なコスト増なく大空間を創造

名古屋に本社を構える阿部建設では、注文住宅事業のほか、自社で独自に開発した薄型のCLT「Aパネ」を用いた非住宅建築も数多く手掛けている。同社が開発したAパネの厚さは36㎜。一般的なCLTの厚さが60㎜であることを考えると非常に薄く、「少し厚いベニア板をイメージすると分かりやすい」(阿部一雄社長)という。

36㎜厚のCLT「Aパネ」

1枚の重量は最大でも60㎏程度で、「なんとか1人で運べる」(阿部社長)ため、通常のCLTよりも施工性に優れている。

耐力壁として壁倍率4.2倍、4.5倍の認定を取得しているほか、性能評価機関から床倍率2.5倍、3.7倍の性能評定も取得。

A パネの実用化に当たり様々な性能試験を実施した

階高は最大で3m60㎝程度まで可能だ。通常の在来工法では難しい開放的な大空間を実現できるため、非住宅建築の提案の幅を広げることができる。

同社では、Aパネ工法普及協議会という組織を創設し、Aパネ工法の普及促進を図っている。「全国の工務店の方々に無償で技術提供することで、大手の住宅メーカーと非住宅の分野で対抗することをお手伝いできればと考えています」(阿部社長)。

Aパネ工法は、在来工法と同じノウハウで設計や施工が行えるようになっており、特殊な技能などを必要としない。また、在来工法に比べて2~3%程度のコストアップで済むという。

「一般的なCLTを全面的に採用しようとすると、どうしても材料コストが高くなってしまいます。Aパネであれば材料費のコストアップを抑えながら、現しで仕上げることも可能なので、全体的なコストを圧縮することにつながります。また現しであればメンテナンスコストも抑制でき、ライフサイクルコストの削減に貢献します」(阿部社長)。 

野地板にA パネを利用した様子

非住宅の場合、一般的な住宅以上にコストに対してシビアに判断されることが多い。多くが事業用の建物であるため、ある意味では居住性以上に投資対効果が求められる。しかし、単純に材料コストなどを抑えていくと、間取りの自由度や意匠性、性能などを損なう懸念もある。住宅同様の性能や品質を維持しつつ、コストを抑えていくことが必要になるのだ。

阿部建設が手掛ける非住宅建築については、G1レベルの省エネ性能や全館空調、耐震等級3といった性能を備えた建物であっても、例えば一般的なデイサービスの建物の場合、ウッドショック前であれば坪単価70万円台、ウッドショック後でもなんとか80万円台に抑えているという。

工務店から設計事務所へ依頼
意匠性もあきらめない木造建築を

阿部建設が手掛けた同じ敷地内に建築された竹尾皮ふ科と、なかむら腎・泌尿器科クリニックは、Aパネ工法によって大空間を実現している。

「竹尾皮ふ科」のエントランス部の屋根にもAパネを採用

竹尾皮ふ科では、待合室の壁や天井にAパネを現しで採用しており、患者の不安を和らげる暖かみのある空間に仕上げている。なかむら腎・泌尿器科クリニックは、大きく庇をはねだした外観デザインが特徴的で、待合室の壁などをAパネ工法で仕上げている。こちらも木質感を感じる室内空間になっている。

大きく庇をはねだした外観デザインが特徴的な「なかむら腎・泌尿器科クリニック」

阿部建設では、阿部社長自身が車椅子を使用していることもあり、かねてから福祉系の施設や医院建築を得意としてきた。自社で設計から施工までを手掛ける体制を整えており、今回の2つの建物も全体的な計画設計は阿部社長自身が手掛けた。ただし、構造設計や細かな意匠設計などは、外部の設計事務所(加藤設計)に依頼したという。

「事業として非住宅分野を手掛けていくためには、外部の設計事務所の方々とのコラボが大事になると思います。物件数が増えてくると、なかなか全ての建物の詳細までを見ていくというわけにもいきませんから。また、デザインを洗練させていくためには、使用する家具などまで含めて細かな配慮が求められます。こういう部分は設計事務所の方々の得意分野です。地域の工務店から、地域の設計事務所に仕事の依頼をするという、通常の住宅建築とは逆の形で協働していくことが、非住宅分野を開拓していく上では大事になるのではないでしょうか」(阿部社長)。

竣工した竹尾皮ふ科と、なかむら腎・泌尿器科クリニックは、CLTの良さを生かしながら、内観、外観ともに非常に洗練されたデザインを具現化している。また、過度な木質感によって、デザイン性が損なわれることがあるが、2つの建物ともに適度な木質感を実現している点も特徴のひとつだろう。事業用の建物だけに、こうしたデザイン性も強く求められそうだ。

待合室の壁や天井にA パネを現しで採用(竹尾皮ふ科)

さらに阿部社長は、「木造に慣れていない設計者だけで木造建築を設計すると、木造では難しい特殊なデザインによってコストが膨れ上がるということもあります。そういう建築物はメンテナンスコストもかかってしまい、将来的には木造建築の評判を落としてしまうかもしれない。だからこそ工務店と設計事務所がコラボし、デザイン性をあきらめずに、現実的な建築に仕上げていくべきなのです」と語る。

待合室の壁などを「Aパネ」 工法で仕上げている(なかむら腎・泌尿器科クリニック)

安定した木材需要でサプライチェーンを安定化

竹尾皮ふ科となかむら腎・泌尿器科クリニックで使用したAパネは、鹿児島の山佐木材で製造したものを使用した。それ以外の構造材にも三重県産などの木材を利用している。

同社では住宅でも国産材を使っており、主に三重県のウッドピア市売協同組合を通じて木材を調達している。阿部建設が月2棟、年間24棟の着工ペースを守ることで、ウッドピア市売協同組合も需要予測を行いやすく、ウッドショック後も木材の調達には困っていないという。

こうした住宅事業で培ったサプライチェーンが、非住宅分野でも生きてきているようだ。

工務店3社で将来の施工力不足に対応

阿部建設では、名古屋市に本社をおく鈴起建設、安井工務店という3社で、(一社)名工家という組織を運営している。3社では、それぞれの業者会を名工家に統一し、施工力が足りない場合などに融通し合うという取り組みを進めているのだ。

阿部建設、鈴起建設、安井工務店では、それぞれの業者会を(一社)名工家に統一し、施工力不足に対応している

非住宅分野についても、名工家に所属する事業者が施工を手掛けているそうだ。

名工家では、将来的には木材の調達などの面でも連携を図っていきたい考えで、ここに木材を供給する事業者が加わることで、より大きなサプライチェーンの環がつながることも期待できそうだ。

さらに阿部建設では、外国人労働者なども活用しながら、基礎の施工から上棟まで請け負う事業も展開しており、他の工務店からの依頼にも対応している。

阿部社長は、「非住宅は安易に参入できる分野ではありません。しかし、何か案件の話があった時に、『出来ない』とすぐに判断するのではなく、当社のようなサービスも活用して対応していくことを考えてみてください」と述べており、Aパネ工法とともに施工の面で工務店が非住宅にチャレンジするためのバックアップをしていきたい考えのようだ。

阿部建設 阿部 一雄 社長

非住宅の分野については、「住宅市場が縮小してきたから」といった理由で、安易に参入できるものではありません。住宅とは異なる工事監理や不動産のノウハウ、さらには入札に参加するためには経営事項審査などで高い評価を得る必要もあります。ただ、7000~8000万円という規模の建築は、なかなかゼネコンも手を出し難く、地域の工務店が木造建築のノウハウを武器に活躍すべき分野だとも考えています。それだけに、当社としても非住宅に本気でトライしようという工務店の方々と一緒になって活躍の場を増やしていきたいと考えています。