2022.11.29

徹底した事前準備と的確な設計助言でスムーズな施工を実現

在来工法で魅せる現しの大型木造園舎

物件】まちのこども園 代々木公園(東京都渋谷区)
施工】株式会社 大和工務店(東京都江戸川区)

緑豊かな公園内という立地を考慮して木造で計画された認定こども園。木の家づくりを得意とする大和工務店が施工を担い、在来工法で800㎡超えの建物を実現。過去に中大規模建築を手掛けた経験とノウハウを強みに、徹底した事前準備と設計への的確な助言を行いながらプロジェクトを成功へと導いた。

「まちのこども園 代々木公園」は、2017年10月に都立代々木公園内に開園された保育所型認定こども園である。社会問題化する待機児童対策を背景に、国家戦略特区制度を活用して実現に至ったもの。

現しの意匠が美しい吹き抜けのアトリエホール。柱は杉、梁は米松の大断面集成材を採用。構造材は最大12m のスパンを飛ばしている

渋谷区が実施した事業者プロポーザルで選出されたのは、「こども主体のまちぐるみの保育」を理念とし、地域にひらかれた保育施設を運営・展開するナチュラルスマイルジャパン。設計監理は一級建築設計事務所のブル―スタジオ、施工者は大和工務店(東京都江戸川区)が選定された。

大和工務店は創業180年の歴史を誇る木造建築の老舗で、集合住宅や非住宅分野でも多くの施工実績を持つ。今回の建築でも、中大規模木造建築に関する同社の専門知識と経験が最大限に生かされている。

柱や横架材は最大12mのスパンを確保 

同施設は都立代々木公園 原宿門近くに位置する。建設地は、かつて原宿村と呼ばれる農村集落を見渡す丘陵だったことから、設計コンセプトに掲げられたのは「大屋根のある日本家屋」。

木造2階建て、延床面積約870㎡という規模の建築を実現するに当たり、構造設計事務所の意向で一般的な在来工法を用いることになった。

 大和工務店では、日本の木材自給率アップに貢献するため、適正価格で国産材を購入し、自社設計による家づくりでは100%国産材での建築に努めている。また、ホワイトウッド集成材柱指定の案件では、E70E90の強度を持つ国産スギやヒノキを、レッドウッド集成材やベイマツ集成材など外材指定の案件では国産スギとベイマツのハイブリッドビームを用いることもあるという。

今回の建物では、棟木、梁、柱ともに最大12mのスパンを確保する必要があり、構造計算の結果、外材を中心に使用することになった。棟木は梁幅300㎜、梁せい700㎜、長さ12m、登梁は梁幅220㎜、梁せい500㎜、長さ12mで、これら特殊寸法の横架材は滋賀県の集成材工場からベイマツ集成材を調達し、用いている。

2階ランチルーム。壁上部は強化ガラスで光を取り入れ、明るく開放的な空間に。床材と室内の框戸は檜で統一している

プレカットは、日ごろ取り引きのある愛知県の会社に依頼。構造金物は特注することになり、静岡県の会社に製作を依頼している。

壁倍率を確保するために、多くの柱の両側に構造用合板を貼り、両面耐力壁としている。建物の特性上、配線や配管の数も膨大になったが、構造躯体に干渉しないベストな納まりを大和工務店がパートナーを組む電気設備店と話し合い、設計側にアドバイスしたという。

施工を担当した大和工務店の初谷仁専務取締役は「すべての壁をふかせば配線・配管処理が楽になりますが、電気設備をある程度集約させることで、全体的にすっきりとした空間づくりを目指しました」と語る。

非住宅設備に強い施工店と協力関係結ぶ

今回のような規模の非住宅建築では、通常の住宅づくりの延長では対応できない部分が多々出てくる。誘導灯や非常用照明や自動火災報知設備などの設置といった消防署管轄の設備工事もその一つだ。その点、大和工務店はこれまでにも集合住宅や非住宅の中規模木造建築を手掛けた実績があり、非住宅設備の専門知識を持つ施工店とスムーズな施工を可能にしている。

「空調設備も木造建築ではあまり使用しないビル用マルチエアコンを採用しています。RC造や鉄骨造は、躯体工事~設備工事~内装工事と工程が明確に区分されていますが、木造建築は大工工事の進捗に応じて設備工事を進めていくため、木造建築の工程の段取りを熟知している施工店でなければ対応が難しいと思います」(初谷氏)。

内装材、建具にも木を多用
遮音性能にも配慮

内装材や建具にも木をふんだんに使用した。

園舎のエントランスとなる公園に面した土間アトリエには引き違いの木製サッシを採用。天井は内装制限をクリアするため、不燃板の上にカラマツの突板貼り仕上げとしている。

公園に面した土間アトリエ。園舎のエントランスであり、地域との交流の場でもある。天井は不燃板の上にカラマツの突板を貼ることで内装制限をクリア

圧巻なのは、吹き抜けのアトリエホールに採用したカーテンウォールの木製サッシ。高さ6・5m、・幅12・5mあり、米ヒバの集成材を用いて格子状にデザインしている。木製サッシの専門メーカーに発注し、3カ月かけて制作したものだ。

アトリエホールに採用したカーテンウォールの木製サッシ。米ヒバの集成材を用いて格子状にデザインした

保育室の床にはヒノキの無垢材を使用。室内建具もヒノキの框戸とし、統一感を図っている。今回、大和工務店が造作も多く手掛けており、腰壁やカウンター、下駄箱などはラワン合板で製作している。内部・外部の仕上げ材には、大谷石やシラス漆喰など自然素材を多く用いた。

性能面では、木造建築のネックに挙げられる音の対策が一つのポイントとなり、1階天井裏にセルロースファイバーを施工。さらに、遮音対策として、2階の床に70㎜のALCパネルを敷設している。

最大15名の大工で建て方に対応

建て方にあたっては、大和工務店の社員大工と専属大工の5名に加え、上棟後の数週間は外部からの応援大工10名を加えた最大15名で対応。愛知県のプレカット会社の工場へ足場業者とともに訪問し、建て方の段取りなどについて綿密な打ち合わせを行ったという。

建て方は外部からの応援大工を含む最大15名で対応

「今回のような非住宅建築ではプレカット材の番付の数も相当数になるため、日頃なじみのない文字に対応しなければなりません。そこで、職人が混乱しないよう、現場に番付を書いた紙を貼り、プレカット図面と照合しながらスムーズに施工できるように工夫しました」(初谷氏)。

平仮名を書いた紙を足場に貼り、プレカットの番付が一目で分かるように。施工を円滑に進めるためのアイデア

工期は約9カ月におよび、2017年8月末、予定より数週間早く引き渡しとなった。上棟の半年前から設計に承認を取るための図面を準備し始めていたと初谷氏。大規模建築では、事前準備にしっかり時間をかけることが成功を左右すると強調する。「大規模建築の施工中のトラブルとして、監督と設計者の打ち合わせ不足で必要な部材を発注できておらず、工期が遅れるということがよくあります。今回の現場では木工事部分はほぼ承認済みの状態で上棟を迎えました。事前にできること、ゼロから考えなければならないことはほぼ全て済ませておき、いざ工事が始まったら工程管理と品質管理に徹する。これが大規模建築を手掛ける上で当社が心掛けていることです」。

引き渡し後もイベントを通じて園との交流続ける

「まちのこども園 代々木公園」は当初の予定どおり2017年10月に開園。子どもたちが出入りする土間アトリエを「まちぐるみの保育」を実践する場として設定し、展示会などのイベントを行っている。

大和工務店と同園の交流も続いており、コロナ禍前は毎年、卒園する園児向けのイベントを行っていたという。

「当社の大工と共に園を訪問し、建設現場で出た端材を使って箸づくりを行うのが毎年の恒例でした。子どもたちにもカンナ削りを体験してもらい、終了後は作った箸で一緒に食事をします。その中で、子どもたちから園舎についての感想を聞いたり、手紙をもらうことも。『木の匂いがしていい園です』との声は嬉しかったですね。コロナが収束したらぜひイベントを再開したいです」と初谷氏。引き渡し後もこのような関係を築けるのは地域工務店ならではの強みだと語る。

今回の施工を手掛けた実績と信頼で、本業である住宅の受注にもつなげている大和工務店。地域工務店としての存在感をより高めている。

大和工務店 初谷 仁 専務取締役

地域工務店の間で中大規模木造建築に取り組もうという機運が高まっています。

800㎡規模の非住宅では、ゼネコン、工務店どちらが建築を担うべきか判断が微妙なところですが、今回のように本物の木を多用して現しにする設計では工務店の実力を大いに発揮できると思います。ただし、現場全体のマネジメントとなると住宅建築の延長というわけにはいきません。特に、非住宅建築の電気設備、消防設備工事においては、専門知識を持ち、実績豊富な施工店の協力が不可欠です。

大型建築は一度工程の歯車が狂うとなかなか元に戻すことができません。現場での手直しリスクを限りなくゼロに近づけるために、当社は設計者とのコミュニケーションを含め事前準備を徹底し、現場監督には決まったこと以外はやらないよう徹底しています。

撮影:淺川敏