大空間が求められる農業用倉庫をトラス工法のメリット生かし実現
鉄骨に引けを取らない強度と性能を確保
【物件】平林建設 株式会社 木造倉庫新築工事 千葉県夷隅郡
【施工】平林建設 株式会社 千葉県夷隅郡
鉄骨造が主流とされている農業用倉庫も近年、環境問題や国の木材利用推進の動きなどを背景に木造化のニーズが高まっている。非住宅の中大規模木造建築市場で需要が期待される分野だ。千葉県夷隅郡の平林建設は、トラス工法を用いて木造でのモデル倉庫を建設。今後、農業用倉庫として積極的に展開する考え。
平林建設は、木造軸組工法を柱とする新築事業とリフォーム事業を推進する傍ら、社内に特販事業部を設け、中大規模の木造事務所や倉庫、大規模鉄骨造の工場、倉庫など非住宅建築も展開している。特販事業部は、大手ゼネコンで現場監督経験がある平林重徳社長自らが責任者を務めている。
さらに、物置や倉庫・ガレージといった箱物からカーポート・フェンスなどの外構工事全般をカバーするエクステリア事業部も配置。地域のJAと提携し、組合員の農家に軽量鉄骨造のプレハブ倉庫を供給しており、確認申請などを含めワンストップで対応している。プレハブ特有のスピード施工と低コストを武器に農家から引き合いが多く寄せられていたが、構造計算を必要とする中大規模の倉庫になると対応が難しく、地元の鉄骨事業者の撤退などもあり、軽量鉄骨造から木造へのシフトを模索していたという。
そうした折、(一社)JBNの関係で(一社)中大規模木造プレカット技術協会に参画。「まずは一棟、自社用の物件を試作してほしい」という稲山正弘代表理事の言葉通りに、中規模木造倉庫のモデルを自社敷地内に建設することを決めたようだ。
トラス工法の採用で梁下6mを確保
今回のモデル倉庫は、延べ床面積約200㎡で、米農家が穀物乾燥機を設置することを想定し、平屋で6mの階高を計画。併せて下屋も施工することになった。
しかし、在来軸組工法で11mもの大スパンを飛ばすには大きな梁が必須となり、実質、梁下は6m確保することができない。そこで、在来軸組の上に2×4材で構成されるトラスを載せる工法の採用に至った。
今回採用したトラス工法は、軽量で変形に強いという特性を持つ。屋根荷重はすべて外周梁と耐力壁にかかるため、内部の壁や柱を取り除くことができ、10m以上の大スパン空間を在来木造で容易に実現することを可能とした。また、屋根構面の耐力を数値化することに成功しており、国の認定機関である(一財)ベターリビングによる評定も取得。構造検討に基づいた最小断面の2×4材で構成されるため剛性が高く軽量な小屋組みが可能で、耐震性の高い建物が実現できる。
柱のない大空間が確保されることで間取りの可変性も高く、用途変更時の設計自由度を上げることができるのも特徴だ。特に広いスパンを必要とする倉庫や施設などには最適な工法と言える。
JBNの提携団体会員から建て方職人の供給受ける
今回の倉庫の設計監理は、一級建築士の資格を持つ平林社長が自ら手掛けた。
構造材に関しては、トラス材メーカーが構造設計会社と協議の上、集成材と2×4材を調達している。土台はカラマツ、柱と梁桁はカラマツ・欧州アカマツ、ベイマツの集成材をそれぞれ採用。ウッドショックの影響で部材価格が通常の2〜3倍になったが、早い段階から準備していたこともあり、工期にはさほど影響がなかったという。
構造材にはJAS材を用いており、「JAS構造材個別実証支援事業」に申請。木材調達費の一部が助成対象となった。
施工にあたっては、大規模木造の建て方を専門とする協力会社に野地板張りまでを依頼し、10日ほどで完成。それ以降の作業は平林建設の社員大工と外注大工で対応した。「当社には3名の自社大工がおり、住宅は年間10棟ペースで手掛けていますが、大規模物件の工事が同時期に複数入ると住宅事業が手薄になってしまいます。そこで、(一社)JBNの連携団体会員である千葉土建一般労働組合から職人を供給していただく事業に登録し、施工体制を整えています」(平林社長)。
平林建設では現在、耐震等級3相当の耐震性能に油圧の制震ダンパーを装備した家づくりを行っているが、今後は微動探査による地盤調査と構造計算を標準仕様にしようと考えているという。
布基礎が主流になる中大規模木造の白蟻対策も重要視しており、新築時に防蟻薬剤注入用のパイプを土壌中に埋設し、注入口から10年サイクルで薬剤注入する新しい発想のシロアリ防蟻システムも採用している。倉庫のため、断熱材は施工していない。モデル倉庫ということで、シャッターはオーバースライダー、電動、手動の3タイプを組み合わせている。
2021年9月に竣工し、翌月にプレス発表を兼ねて現場を公開。鉄骨に引けを取らない強度や性能を確保し、空間としての美しさもある木造建築として大きな反響を集めた。
「今後、農業用途に特化して、今回のトラス工法を用いた倉庫建築を展開していきます。特に穀物乾燥機を設置する倉庫としての需要を見込んでいますが、建築基準法上、内装制限の対象となるため、対策についてトラス材メーカーと打ち合わせしているところです」(平林社長)。
平林建設は非住宅建築を展開する上で職人の確保も課題として掲げており、さらなる事業の発展に向けて、今後、若手大工を雇用していきたいとしている。
平林建設 平林 重徳 社長
農業用倉庫は、短期間での見積りとなるとプレハブ建築という選択肢になるでしょうし、通常、企業物件で採用しているシステム建築で提供することも可能ですが、農家の方が求めているのは木造建築です。木造の方が後から農具を立てかける棚を増設しやすいほか、使い勝手がよいことも挙げられます。農業分野に進出する地元企業も多く、確実に需要はあります。今回のモデル建築を機に、今後、トラス工法を使った木造での農業用倉庫を積極的に展開していきたいと考えています。
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