在来工法とトラスによる木造体育館
変形地への対応力などで高評価
【物件】加納体操クラブ体育館千葉県印西市
【施工】小倉建設 株式会社 千葉県柏市
加納体操クラブの体育館は、小倉建設が設計・施工を行った木造の体育館。在来工法とトラス構造を組み合わせることで、木造の良さを活かしつつ、変形敷地に柔軟に対応した建物となっている。
鉄骨造やシステム建築で解決できない課題を解消
加納体操クラブが建設された敷地は、変形の長方形の形状になっており、手前の間口が狭く、奥に行くと広くなっている。この敷地形状に柔軟に対応しつつ、一部を2階建てとするという条件を満たす必要があった。
設計を担当した小倉建設設計企画部の鈴木裕子氏によると、「当初は鉄骨造や倉庫などで使われるシステム建築などを検討したのですが、やはり敷地条件への対応が難しいという問題がありました」という。
そこで木造での建築を検討したが、体育館として成立させるためには、壁のない大空間を実現する必要があり、大断面集成材などの利用も検討した。しかし大断面集成材で対応しようとすると、かなりの強度が求められる。「コスト面の問題だけでなく、木造でありながら、シャープな仕上がりにしようとすると、梁に使う大断面集成材の存在感が大きくなり過ぎるのではないかと心配しました」(鈴木氏)。
照明の問題もあったそうだ。体操競技のための体育館であるため、大断面の集成材を使用すると照明の影が出来てしまい競技に影響を及ぼす懸念がある。
こうした問題を解決する方法として採用したのが木造トラス工法。プレカット事業を行うハイビックに紹介されたもので、大空間にするための架構設計を容易にする。11.58mのハイブリッドトラスを6フレーム、19.45mのものを8フレーム採用しており、敷地の奥に行くほど間口が広くなるという敷地形状への対応を図った。
外壁部などはプレカット材を使用した一般的な在来工法と同じものになっている。トラスの施工に関して鈴木氏は、「登り梁とトラスを組んだものをレッカーで吊り上げて施工しましたが、それほど大きな混乱はありませんでした」としている。
なお、今回の体育館の構造躯体にはベイマツの集成材を利用しているが、「国産材や地域産材などの活用も検討しましたが、調達が難しいこととコストコントロールの面で今回は採用しませんでした」(鈴木氏)という。同社では木造の保育園舎などを数多く手掛けているが、施主の意向などを踏まえながら、国産材と輸入材を使い分けているそうだ。
設計段階からプレカット業者と連携
住宅と非住宅両方の技術が必要
前述したように、加納体操クラブの体育館では、ハイビックからプレカット材の供給を受けたが、鈴木氏は「住宅でも同じことが言えますが、とくに非住宅建築の場合、設計段階からプレカット事業者の方々とコミュニケーションをとることが大事ではないでしょうか」と語る。
どういった工法、材料を選択することが最適なのかといった問題をコストコントロールも含めて検討していくためには、設計者、施工者、そしてプレカット事業者の知恵も大事になるということだろう。
加えて、「施工に関しては住宅と非住宅、両方の技術が必要になります」とも鈴木氏は指摘する。同社には住宅、非住宅両方の現場監督が在籍しており、施工業者についても両方の分野との付き合いがある。
構造躯体の木工事などに関することは住宅分野の知識や経験が生かされる場合が多いが、例えば電気工事や空調工事などは非住宅分野の施工業者の方が適していることが多い。今回の体育館は鉄棒を設置するために、基礎の一部に深さ1.5mのピットを設けているが、こうした工事も非住宅分野が得意な施工業者が担当している。
施主や保護者などは木質感ある体育館を歓迎完成した木造体育館について、施主である加納体操クラブの関係者や、クラブに通う子供達の保護者からは高い評価を得ているという。構造材を現しで仕上げているため木質感があるため、暖かみがあるといった点が歓迎されているようだ。
また、施主からは競技中の音楽が外部に漏れて近隣に迷惑をかけることを心配していたが、壁部分に住宅のような通気工法を採用していることもあり、音漏れは抑制されている。温熱環境という点では、断熱材は施工していないが、屋根面に遮熱シートを張っているほか、窓には複層ガラスを使用するといった対策を施したことで、7台設置したエアコンがフル稼働することはない。
建物の壁の上部と下部に窓を設けたことで、通風や換気も十分に確保できているという。在来工法とトラス構造によって実現した加納体操クラブの木造体育館。是非とも将来のオリンピック選手の誕生を期待したいところだ。
小倉建設 小倉 宏庸 代表取締役
当社は、木造住宅建築から商業施設、公共建築、リフォーム、不動産など様々な事業を展開しています。木造の非住宅建築については、保育園などを中心に年間2棟くらいのペースで手掛けています。技術の向上により、木造の大規模建築が可能になりました。再成可能資源である木材の可能性を追求し、今後も木造の非住宅建築にも積極的に取り組んでまいります。
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