2022.11.21

事業パートナーと協働でつくりあげた道産材活用のレストラン

「デザインビルド」のスキームを用いた建築

【物件】 サメオトレストラン(北海道夕張郡栗山町)
【施工 】武部建設 株式会社(北海道岩見沢市)

地域の建築家との協働で手掛けた住宅の建設をきっかけに、非住宅分野において、外部の設計者、構造設計の専門家とチームを組む「デザインビルド」に取り組んでいる武部建設。今回手掛けたレストランは、オーナーである施主も建築に参加し、関係者が一丸となってつくりあげた作品となっている。

メインホールの現しの構造架構は古民家解体から取り出した古材を継手仕口により組み直したもの。
樹種はカツラ、タモ。古材の持つ独特のテクスチュアが斬新な空間デザインを醸し出している。
また、テーブルもカツラの差鴨居を再生利用している

夕張山地を望む自然豊かな丘陵地にたたずむ一軒のレストラン。施主であるオーナー夫婦がそのロケーションに惹かれて移住し、開業したものだ。

新しいのに懐かしい―。新築でありながら古民家のような趣を持つ店舗を理想としていた施主が、道内のいくつかの建築事例を視察する中、施工者に選んだのが武部建設だった。

厨房部分には2.5間のスパンに梁成360mm、梁幅120mmの道産カラマツ無垢材を採用。一般流通材で対応できるよう、スパンを最大2.5間に抑えた

武部建設は1946年に造材・製材業としてスタート。創業以来、木にこだわり、伝統的な工法で北海道の気候風土に根ざした木造住宅を数多く手掛けてきた。JBN・全国工務店協会の大工育成ガイドラインに沿って自社大工の育成に努め、墨付け、手刻みを基本に、高断熱・高気密工法の家づくりを標準としている。材料として用いるのは主に道産材や国産材。社有林も保有し、カラマツなどを生育している。社有林は自社大工の育成の場と捉え、間伐作業などを自社大工の手で行っている。

民家解体時に出る梁や柱などの良質な古材を自社職人が取り出して
自社敷地内の「古材ギャラリー」でストック。家づくりなどで適材適所に活用している

さらに、民家再生にも積極的に取り組んでおり、民家解体時に出る梁や柱などの良質な古材を本社敷地内でストック。家づくりにおいて、適材適所に活用しているのも特徴だ。

施主は武部建設が古材を用いて施工したオーベルジュも視察し、最終的に施工を依頼する決め手になったという。

地域の建築家とコラボした住宅団地の経験を活かす

同社は2016年、北海道庁が事業主となり、北海道の地域工務店と建築家のコラボによって住宅をつくり上げるという住宅団地プロジェクト「みどり野きた住まいるヴィレッジ」に参画。この時の事業スキームや経験を今回のプロジェクトに応用したという。

武部建設の武部豊樹社長は、「当社は基本的に設計・施工を一括で請け負いますが、非住宅の場合、住宅とは異なるさまざまな要素が求められるため、体力的に自社ですべて完結することが難しくなります。そこで、住宅以外の中大規模案件では数年前から外部の設計者、構造設計の専門家とチームを組んで取り組む『デザインビルド』にトライしています。中小工務店が住宅レベル以上の建築を手掛ける上で、効率的かつ合理的な方法と言えるのではないでしょうか」と語る。

今回の案件では、基本・実施設計は武部建設が行い、一般住宅を中心に店舗設計も手掛けるHOUSE&HOUSE一級建築士事務所にデザイン設計協力を、山脇克彦建築構造設計に構造設計を依頼。武部建設で建築部長を務める金子大介氏が全体のプロデュースを担当することになった。

このようなチーム構成をまとめていくに当たって重要なことは、同社がこの建物の中核をなす古材を使った木組構造と大空間の温熱性能を担保する技術のノウハウを持っていること、そしてそれを実施できる社員大工集団を抱えていることであった。

一般に流通する道産材のムク材を構造材に用いる

建物は1階が店舗で、2階がギャラリー兼施主のプライベートスペースとなっている。

店舗は内装制限にかからないよう、延床面積を200㎡以内に抑えている。

施主からは、木組みの構造とすることや古材・道産材活用について要望があり、空間デザインに対するさまざまなこだわりを踏まえ、HOUSE&HOUSE一級建築士事務所と協働でプランをまとめ上げている。柱の径を大きくするなど、ダイナミックな空間としたのが特徴だ。

建物の土台は道南ヒバの無垢材、構造材は道産カラマツの無垢材を使用し、一部の柱に武部建設が保有する古材を用いた。

構造材は基本的に道産カラマツ無垢材で計画。最も大きな構造材を用いたのが厨房部分で、2.5間のスパンに梁成360㎜、梁幅120㎜の道産カラマツ無垢材を採用している。

建て方は、自社職人を中心に最大6名体制とし、3~4週間ほどで上棟。武部建設から独立した職人も協力している。

建て方は自社職人を中心に最大6名体制とし、3~4週間ほどで上棟

2階ギャラリーへと続く室内階段は当初、柱ありの設計としていたが、構造設計を担当した山脇克彦建築構造設計からのアドバイスで、最終的に柱を抜くことに。空間がすっきり見えると施主から喜ばれたと言う。

また、社有林の択伐によるカラマツの丸太を外観の回廊柱として7本採用。長さ5mの丸太は存在感たっぷりだ。 

このように、丸太柱や古材を墨付け手刻みにより組み上げていく社員大工の力が武部建設の大きな特徴となっている。

内装はビンテージ感を演出
開口部の配置にもこだわり

内装は施主のこだわりを最大限に反映した。店舗は現しにした構造材をあえて古材風に仕上げるなど、施主の意向を踏まえて全体的にビンテージ感を演出。店舗の床は道産ミズナラをアンティークに加工したものを、2階のプライベートスペースの床はB品の道産ミズナラをそれぞれ使用している。

店舗中央のカウンターは、ストックしている古材の中から施主が選定したものを2本並べて制作。当初は飾りとして使用する予定だったが、いまや店内で一番人気の特等席となっている。

開口部の設計にもこだわった。店舗奥にはおひとり様用のカウンター席を設けており、食事をしながら外の景色を楽しめるよう、前方にそびえる桜の木を起点にFIX窓の配置を設定。丘陵側の開口部は大きく取り、四季折々の豊かな自然を借景として取り込んでいる。

全体的に開口部の設計にもこだわった。おひとり様用カウンター席は前方の桜の木を起点にFIX窓の配置を設定

サッシは、冬の日射取得を想定し、トリプルではなくペアガラスを採用。屋根断熱は計385㎜のグラスウールを施工することで断熱性能を高めている。

室内熱画像:高断熱高気密施工と薪ストーブ、日射取得によって省エネで快適な温熱環境を確保している

施主も積極的に建築に参加

施工中は施主も頻繁に現場を訪れ、作業に参加している。

鮮やかなブルーに塗装された店舗の玄関ドアは、施主自らダメージ加工を施し、イメージ通りの雰囲気に仕上げている。2階の床は自らが納得する塗料を用いて塗装し、店舗のペンダントライトもオーナー自ら調達し、取り付けを行っている。

デザインビルド形式でそれぞれの専門家の得意分野を生かし、施主も巻き込みながら、関係者が一丸となってつくりあげた「サメオトレストラン」。地域工務店が非住宅・中大規模建築に取り組む場合、一社のみで完結するのは難しいケースが多い。同じ志を持つ各分野の専門家が有効に関わり合いながら、チームで取り組むことが大事になってくる。今回の事例のように、これからの地域工務店には、このようなチームをまとめ上げるプロデュース力が必要になってきそうだ。

武部建設 金子 大介 建築部長

今回、非住宅であっても一般に流通している材で対応できるよう、構造材のスパンを最大2.5間に抑えたのが設計で工夫した点です。断熱性能にもこだわり、飲食店としてはハイグレードな断熱仕様にしています。暖房はエコジョーズによる床暖パイピング床下放熱器と薪ストーブを併用していますが、開口部から暖かな日差しを取り入れているため店内は十分暖かく、床暖房の設定温度を当初の想定より5度下げているそうです。お施主さまからは光熱費の削減につながっていると喜ばれています。