2022.10.26

【国産材活用 最前線レポートVol.3】「何でも持って来て」という挑戦 先進の製材工場の可能性と課題

中国木材 日向工場

3日目の訪問先は、中国木材の日向工場。宮崎県の日向灘に面した約55万8407㎡の敷地に、自他ともに認める“最先端”の工場が広がる。

日向工場の稼働は2014年6月。2019年には第二製材工場の稼働もスタートさせている。この工場の何が“最先端”なのか。前述したように、通常の製材所であれば、A材やB材のみを製材していくが、この工場ではA材からD材までを受け入れる。分け隔てなく、「何でもいいから持ってきて」というわけだ。

当然ながら中には受け入れないものもあるが、森林所有者や森林組合にとっては、選別することなく全ての丸太を引き受けてくれるので好都合だ。また、伐採場所から市場、市場から製材所、そこから建築現場へ、という流れを短縮できるため、物流コストの削減にもつながる。

しかし、中国木材の堀川智子会長は、「計画当初、社外の方々だけでなく、社内でも本当に丸太が集まるのか疑心暗鬼でした」と当時を振り返る。工場が稼働すると、その心配は取越し苦労に終わる。そのことは2019年に第二製材工場が稼働していることからも分かるだろう。

現在では年間約65万3000㎥、月間約5万4500㎥の製材量を誇る。ちなみに、林野庁の統計によると、2021年の全国での製材品生産量は903万5000㎥。宮崎県だけでは97万4000㎥となっている。エリア別の原木仕入れは、宮崎県から73%、熊本県から12%、鹿児島県から8%、大分県から7%という状況で、宮崎県については、宮崎県森林組合連合会を通じて丸太を調達している。

A材~D材までを受け入れた後、A材などは住宅用の構造材などに製材され、乾燥工程を経て出荷されていく。工場内には集成材工場もあり、年間11万5500㎥もの集成材管柱を製造している。製材による製品化が難しい材は集成材として活かされる。

年間約65万3000㎥、月間約5万4500㎥の製材量を誇る中国木材の日向工場

さらに敷地内にはバイオマス発電設備もある。日向工場から排出される樹皮やオガ屑、D材などの未利用材などを燃料として、18000kW・時の発電を行う。

日向工場にはバイオマス発電施設もあり、未利用材などを燃料として発電を行う

2023年7月には第二発電所も稼働する予定だという。製材工場だけでなく、集成材工場、バイオマス発電設備までが同じ敷地内にあるからこそ、A~D材までを受け入れることができるというわけだ。

中国木材では、現在、ベイマツと国産材を2対1という割合で使用しているが、これを1対1にまでしていきたい考えだという。そのために、秋田県能代市でも日向モデルを利用した新工場の建設を進めている。

また、スギの集成材だけでなく、梁にも使えるヒノキの集成材や、スギの無垢乾燥材を30㎜の厚さに仕上げた「カフェ板」といった、より多くの国産材を活用するための商品開発にも注力している。

補助金などを活用して国産材を扱いはじめた製材所が、上手くいかずに稼働を停止してしまうケースも少なくないという。国産材の価格が激しく乱高下するなかで、経営が安定しないためだ。ウッドショックによって国産材価格が上昇している状況であれば利益も確保できるが、この状況が続くとも限らない。

中国木材の日向工場は、バイオマス発電まで手掛けることで黒字化に成功しているが、中小の製材工場にとっては、なかなか難しい面もあるだろう。堀川社長は、「国産材需要が大きく変動すると山林の所有者の方々も困ってしまいます。国産材需要が低迷している時期でも持って来てもらい、日向工場で製材・乾燥を行いストックしておくことで、山側も、建築側にとってもメリットが生まれます。とにかく国産のスギを日本の家づくりのスタンダードにしていきたい。そうすれば山側に戻っていくお金も増え、再造林の意識も高まるのではないでしょうか」と語る。

中国木材では、「必要な時に木材を提供できるように」という方針のもと、大量の在庫を抱えながら国産材活用を推進しようとしている。

年間約65万3000㎥、月間約5万4500㎥の製材量を誇る中国木材の日向工場

そのリスクさえも飲みこみながら、国産材のサプライチェーンの歪みを是正しようと挑戦を続けるプレイヤーの一人なのだ。