2022.10.23

【国産材活用 最前線レポートVol.2】使う者の「育てる責任」 50年後へとつなげる輪

佐伯広域森林組合 伐採現場、コンテナ苗生産場、宇目工場

ツアー2日目の始まりは、佐伯市内の山林。伐採現場を訪れた。伐採現場までの車中、文月副社長が「見て下さい」と言う。文月副社長が示す先に視線を移すと、ハゲ山になった斜面に成長前の可愛らしいスギの姿。伐採後に植林されたものらしい。

「佐伯ではこのように植林が行われていますが、全国ではコストや獣害のため再造林をしようとしない山主さんも増えています。なかには、自分が儲かればいいと他人の山の木を勝手に伐ってしまう伐採業者さえいて、問題になっています」と文月副社長は言う。ここにも歪みが生じているようだ。

やがて車は伐採現場に到着。革靴で来てしまった自分の読みの甘さを後悔しながら急斜面を登っていくと、まさにスギの木が倒れる寸前のところに遭遇した。この山林では、3人体制で伐採作業を行っており、重機を使った作業道の開通から、チェーンソーなどを使いながらの伐採、集材・造材、運搬、枝葉などの片づけという一連の作業を行っている。作業は佐伯広域森林組合から委託を受けた事業者が行う。この事業者は1カ月に約1600㎥の丸太を伐採する。

佐伯市内の伐採現場。3人体制で1カ月で約1600㎡の丸太を伐採する
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佐伯広域森林組合は、伐採をした後は、必ず再造林を行うことを決めている。組合の戸高壽生代表理事の陣頭指揮のもと、「伐ったら必ず植える!」という方針を徹底し、年間に350haもの再造林を行っているそうだ。1haに植える苗は2000本。そこから下草刈りや間伐などを行い、最終的には1haに1000本のスギが成長している状態を作りだす。1000本のスギが伐採期を迎えるのは50年後。今、植えた苗木を50年後の世代が使うことになるのだ。

サスティナブルな森林経営。一言で言えば、そういうことだが、佐伯広域森林組合がここまで来るには、理想論だけでは解決できない壁を乗り越えてきた。1haの山林に2000本の苗を植えるためには、100万円を超える費用が必要になる。苗代だけでなく、シカなどから苗を守る「スカート」と呼ばれるネットの設置などのコストが必要になるからだ。

急峻な斜面で植林作業を行うには、かなりの労力も必要とする。佐伯広域森林組合は、平均すると、立木代金として1ha当たり200万円ほどを森林所有者に支払う。再造林を行うのは、あくまでも所有者の責任であるため、そこから100万円の植林コストを支払えば、山林所有者の手元に残る利益は50年育てて100万円ほどになる。それであれば、再造林はしないでいいかな…。正直、そう思ってしまう気持ちも理解できる。山林所有者のそういった気持ちにつけこみ、「伐るだけ伐って、売ってしまいましょう」と囁く伐採事業者などもいると聞く。

伐採後に植林した山。50年後の世代が成長したスギを使うことになる

100万円の再造林費用のうち、佐伯広域森林組合が所有者に代わって伐採するケースでは、85万円ほどを国や自治体の補助金で賄うことができる。伐採だけした山林が放置されれば、土砂災害リスクなども高まる。国や自治体も放置するわけにはいかない。とは言え、補助金を使ったとしても、所有者は15万円の再造林コストを負担しなくてはいけない。佐伯広域森林組合では、未利用材代金や基金の利用など工夫を凝らし負担感を抑え、1ha当たり約15万~20万円を再造林費用として山林所有者から預かる。その代わりに、責任をもって再造林を行い、5年間にわたり下草刈りを行う。

森林所有者にとっては、再造林費用を支払うことで、手にする利益が減ることになるが、佐伯広域森林組合では森林を育てることの重要性を根気強く説明し、所有者の理解を得ていったのだ。

伐佐伯型循環林業が示す理想像

さらに、植林するための苗木の不足という問題にも直面する。そこでコンテナ苗木の生産方法を学び、自分たちで苗木の生産まで手掛けるようになった。

一般に流通している路地苗は、畑に直接穂を挿して育てるものだが、価格は安いが3〜4月という限られた期間に植林しなくてはいけない。対してコンテナ苗は、価格は高いが、11月~6月まで植林できる。植林後の活着率も高い。廃校になった学校跡地を利用したコンテナ苗の生産場では、若木達が春の日差しを浴び青々と光る。

スギのコンテナ苗。今後、植林のために使われる

こうして育てられた苗木が、我々の子ども、孫の世代へと贈られていく。佐伯広域森林組合では、製材事業やバイオマス発電のためのチップの製造なども内製化している。丸太の状態での売買だけでなく、より付加価値の高い製材などを自分たちで製造・販売することで、収益力は高まっていく。

佐伯広域森林組合では、最新の設備によって
バイオマス発電のためのチップも製造している

原木の曲がり具合を1本1本計測し、それぞれの曲がり具合に合わせながら製材を行う機械も導入しており、6~7秒で1本の丸太を製材でき、担当者は「国内でもトップクラスの製材工場」と胸を張る。

最近では「地域材パネル」として、断熱材や開口部材と構造躯体を構成するパネルが一体化した製品の製造にも取り組む。こうした取り組みによって、自らが潤うだけでなく、より多くのお金を山林所有者に戻していくこともできる。そのお金は再造林へと向かい、サスティナブルな森林経営を成功へと導いていく。そういった理想像を描きながら、佐伯モデルとも呼ばれる「佐伯型循環林業」を形にしてきたのだ。

6〜7秒で1本の丸太を製材できる佐伯広域森林組合の製造工場

案内役の文月副社長は言う。「従来型の協同組合を中心としたモデルでは、木材に今以上の価値をもたらすことが難しい。佐伯型循環林業は、協同組合が川上から川下までも担う“垂直型協同組合”であり、新しい付加価値を生み出し、その価値が再造林へとつながっていくということを示しています」。

木材を利用する川下から、川上である森へとつながるチェーンのなかで生じた歪み。その歪みをなんとか是正しようという佐伯広域森林組合のチャレンジは続く。