【国産材活用 最前線レポートVol.1】良い子、悪い子、普通の子 それぞれの行く末
佐伯広域森林組合 佐伯共販所 佐伯港
大分県佐伯市は、大分県の南東部に位置し、南側は宮崎県と接している。面積は903㎢。九州で最も広い面積を誇る。二万石を誇る旧佐伯藩時代は、漁獲量の豊富さによって、石高以上に裕福であり、「佐伯の殿様、浦で持つ」との言い伝えがあったほど。また、魚附林(うおつきりん:魚介類の生産を促す森林)の思想は、江戸時代初期に全国に先駆けて初代藩主である毛利高誠の時代におこなわれ、「浦の恵は山で持つ」と言われるほど。
古くから林業も盛んで、かつては天然林を利用した燃材生産が行われ、白炭の産地としても名をはせた歴史があるそうだ。化石燃料の台頭で白炭の需要が減ると、広葉樹から針葉樹の人工林への転換が推し進められた。森林面積は約7万8577ha。森林率は87%で、大分県内で最も高い。民有林の54%が人工林化し、その90%にスギが植栽されており、その多くが伐採期を迎えている。
ツアーの1日目。時期は桜が咲く少し前。重度の花粉症の身に不安を抱きながら、大分空港から佐伯市へと向かった。目的地は佐伯広域森林組合が運営する佐伯共販所。佐伯広域森林組合は、全国でも先進的な取り組みを進めている森林組合だ。その取り組み内容は後述するが、今回のツアーの案内役のひとり、森林連結経営の文月恵理副社長は「佐伯広域森林組合さんが進める循環型林業は、今後の林業のあり方のひとつではないでしょうか」と語る。
佐伯共販所には、佐伯市内で伐採されたスギを中心とした木材が運びこまれる。月に2回、8日と22日に市が開かれ、主に九州管内の製材業者などが買い付けに来る。
市が開催されると、2000㎥の木材が取引きされる。その量はトラック200台分。2021年度の年間取扱量は、5万2994㎥。金額ベースでは6億8834万9000円の取扱量を見込む。取り扱いがあった全ての木材の平均単価は前年度の1万1291円から1万2989円に上昇している。ウッドショックの影響により国産材価格が上昇したことが、単価上昇の主な要因だ。
共販所に集まった木材は、長さや太さ、痛み具合、割れの有無、色、曲がりなどを基準にして人の目とセンサーを使い選別を行う。選別された丸太は選別機のレーンの上を移動し、A材、B材、C材に分けられていく。この工程を通じて、丸太の“その後”が大きく変わる。例えるならA材が良い子、B材が普通の子、C材が悪い子とでも言えばいいだろうか。佐伯広域森林組合の場合、色味が良く、丸太の曲がり具合を示す矢高が2㎝以内であればA材(良い子)となる。
矢高が3~5㎝ならB材(普通の子)、矢高6~10㎝で、痛みや割れ、芯の部分が黒いものはC材(悪い子)となる。さらに、大曲材と呼ばれる極端な曲がりや痛みがあるものはD材と呼ばれるそうだ。A材、B材、C材の割合は、それぞれ3割ほど。極端にA材が多いというわけではない。
A材、B材は製材され建築用途に使われるが、C材は合板などに加工されたり、海外への輸出用や梱包資材に使われる。またD材とともにチップにされ、バイオマス発電の燃料に利用されることもあるそうだ。
C材やD材についても、しっかりと自らの進むべき道を歩んでいくというわけだ。その意味では、先ほどの「悪い子」という表現は撤回すべきだろう。
育てば育つほど価値が減るという矛盾
素人考えであれば、太ければ太いほどA材として高値で取引されると思いがちだが、そうでもない。直径が30㎝を超えるような大径材については、使い難い存在なのだ。
大径材を製材する生産設備を備えている事業者が少ないことや、スギの中断面製材の需要がそれほど多くないことなどが、その原因。スギの大径材を中断面の製材に加工しても、強度の問題などから梁などに使うことが難しい。柱には、それほどの中断面の材料は必要ない。せっかく伸び伸びと育っても、今の日本の建築市場の中では、そのポテンシャルを活かしきれないというわけだ。そのため、良質なものを除き、B材、C材となっていく大径材が少なくない。もったいない気もするが、それが現実。佐伯共販所から近くにある佐伯港に足を伸ばすと、莫大な量の丸太が旅立ちの時を待っていた。その多くが中国へと旅立つ。
出航を待つ丸太の多くはC材とD材。中国に輸出され、土木用資材やフェンス材などに利用される。佐伯港では、年間に10万2000㎥の木材を輸出しており、全国4位の実績を誇る。中国への輸出だけに限ると、全国3位だという。
中国への輸出が活発化する以前、C材、D材は国内では㎥当たり4000円ほどで取引されていた時期もあったが、今では1万3000円ほどの値をつけた。さらにC材、D材の価値を高めている要因がバイオマス発電の燃料需要の高まり。バイオマス発電には、東南アジアなどで製造されるヤシ殻を使ったPKSの人気が高いが、C材、D材をチップにした燃料の需要も高まっている。国産森林資源の有効活用という点では、歓迎すべきことなのだろうが、「そのうちB材、さらにはA材までもチップにして燃料にしてしまえとなり得る」と警鐘を鳴らす関係者もいる。
佐伯港に山積みにされた輸出用の丸太の中には、一見すると立派に見える大径木の丸太も数多く含まれていた。関係者にその使い道について聞くと、「恐らく木製の梱包資材に加工されるのでは」と教えてくれた。かつては大径材がもてはやされた時代もあり、丁寧な木取りをすれば、大径木であっても建築に使えるという。木取りとは、丸太からどのような材料を、どのくらい取るかを考えながら製材すること。
しかし効率性ということを考えると、そう簡単な話ではない。丁寧な木取りを行うことで、経済的な価値も高まるのであればいいが、現実はそうはいかないのだ。木材を使用する側が闇雲に経済合理性だけを追及するあまり、山側がその歪みを吸収せざるを得ない状況にあるのかもしれない。
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