改めて見直す小屋裏の通気換気 結露から住宅を守るための心得3か条
小屋裏の通気換気は、結露による構造材の腐朽を防ぎ、住宅の寿命を左右する重要な要素である。
しかし、断熱・気密性能に注目が集まる一方で、その重要性は十分に認知されていない。
なぜ小屋裏換気が必要なのか、そしてどのような方法が最適なのか。
小屋裏換気の「正しい考え方」と実践のポイントをまとめる。
小屋裏換気とは、住宅の屋根と天井の間にある小屋裏に外気を取り入れ、空気を入れ替える仕組みだ。これは、建物の耐久性の維持と室内環境の快適性向上のために非常に重要である。小屋裏は、夏場には屋根からの熱で高温になりやすく、この熱気が天井を通して室内に伝わることで、冷房効率を大幅に低下させる。小屋裏換気は熱気を棟や軒などに設けた換気口から外部に排出することで、小屋裏の温度上昇を抑え、室内の冷房負荷を軽減する役割を担っている。また、冬場には、生活空間から上昇した暖かい湿気が、外気で冷やされた屋根面で結露(内部結露)を起こしやすく、これが建材の腐朽やカビの発生、ひいては建物の構造的な劣化に直結する。小屋裏換気は、この湿気を外部に排出し、構造材を乾燥した状態に保つことで、建物の寿命を延ばすための必須のメカニズムなのである。
しかし、この小屋裏換気の重要性は、一般の住宅所有者や事業者間であまり認知されていないのが実情だ。多くの人が、室内の換気や断熱材の性能にばかり注目し、小屋裏という「見えない部分」の空気環境への関心が低い。
住宅の躯体を劣化させないために、どのような方法が推奨されるのか、通気部材メーカーへの取材を基に小屋裏換気の最適解を探る。
【心得其の一】やらないをやめる
小屋裏換気の基準は、(独)住宅金融支援機構のフラット35の融資条件となっており、同法人が発行する「【フラット35】対応 木造住宅工事仕様書」が一般的な基準として普及している。一方で、法律で義務付けられた必須事項ではないため、施工者の判断に委ねられる部分が大きく、現場によって対応にばらつきが生じやすい。
また、仕様書では屋根断熱を行う場合には、換気材の設置位置のパターンによる有効開口面積の基準は設けられてはいない。そのため通気層の入口と出口である軒と棟に換気材を設置していないケースも多い。また、棟換気を一部にしか設置していないことにより、通気できない部分が発生することもある。しかし、実際には屋根断熱であっても、断熱材の隙間や欠損から湿気が屋根通気層に侵入し、野地板の劣化を引き起こす可能性がある。そのため十分な有効開口面積の換気材を軒と棟に設けて、通気層の入口と出口を明確にし、滞りのない通気経路の確保をした方が良いとされる。
さらに、(独)住宅金融支援機構の仕様書にある基準は、〝以上〟という記載があるように、最低ラインであることも留意しておく必要がある。
しかし、こうした技術的な留意点があるにもかかわらず、躯体換気への意識の低さも大きな課題として残る。現在の住宅事業者の関心は、顧客への訴求力が高い断熱性能や気密性能に偏りがちであり、躯体そのものの耐久性を担保する換気には十分な関心が向いていないのが現状だ。躯体の通気・換気が不十分なまま高断熱・高気密化を進めると、湿気が内部に閉じ込められ、かえって躯体の腐朽を早める結果となる。そのため、法的な必須事項ではないにせよ、十分な換気を確保することが、長寿命な住まいを実現するための不可欠な一歩となるのである。
【心得其の二】吸うは軒、吐くは棟
「【フラット35】対応 木造住宅工事仕様書」では、換気上有効な位置に2ヵ所以上換気孔を設けることを定めているが、どの位置に換気部材を設置するかにより、求められる基準が異なる。
なかでも、各社が推奨するのが、軒で給気、棟で排気を行う軒―棟換気だ。太陽熱や下階からの熱気・湿気により温められた空気は、上昇気流で上に上がるため、屋根の最も低い位置にある軒から新鮮な外気を効率よく取り込み、最も高い位置にある棟から熱気と湿気を排出する仕組みにすることで、小屋裏全体をムラなく換気し続けることが可能となる。
こうした軒棟換気の高い有効性をさらに追求するため、日本住環境は、どの方向から風が吹いても十分な換気を行うために、「棟なら端から端まで全長にわたって途切れなく設置、軒なら全周」という独自の基準をもって提案活動を行っている。一方で、屋根全体の換気や全周換気はコスト面から懸念があるという事業者に対しては、旧・住宅金融公庫の「北海道版仕様書」で採用されていた基準を提案する。「(独)住宅金融支援機構の基準は最低ラインであり、条件によっては基準を守っても結露することがある。住宅事業者から相談が寄せられることも多く、その際に当社の最低基準として〝北海道基準〟の説明をしている」(営業統括本部 総合企画部 小林輝久部長)。
旧・住宅金融公庫の「北海道版仕様書」には、現行基準の基礎となった「全国版」よりも厳しい小屋裏換気基準が規定されていた。例えば、軒―棟換気方式の場合、軒給気部材の有効換気口面積は、天井面積の1/900以上に定められているが、北海道版仕様書の計算では天井面積の1/290以上が必要とされており、2~3倍程度の差がある。ただ、北海道版仕様書では換気部材の素材ごとに計算基準が定められているため、メーカーによっては採用しづらい点がネックとなる。
また、住宅事業者によっては、「換気扇などを用いた機械換気の方が、効率が良いのではないか」という意見もあるというが、同社は自然換気が最も効率が良いとする。「機械換気は設定された能力以上の換気はできない。例えば、50㎥/hの換気扇を4つ設置しても、最大200㎥しか換気できず、充分な換気量とはいえない。また、プロペラファンは屋外が微風でも影響を受けてしまうため、換気量が減少したり、空気が逆流する可能性もある」(小林部長)ためだ。
ジェイベックは、「軒―棟換気を採用している住宅であっても、小屋裏と壁内の通気層が換気経路として分断されているケースが見受けられるが、当社としては、壁内の通気層と小屋裏が一体となった換気方法を推奨する」(東京営業所 今井真也 所長)という。壁の底から取り入れた空気をそのまま小屋裏へ流れ込ませ、棟からまとめて排出することで、家全体に強力な上昇気流を生み出し換気を推進することができる。
一方で、トーコーは、「昨今は、外壁と下屋の取り合いである雨押え部分の通気も重要視されている」(マーケティング室 大沼義明室長)として、雨押え部分に設置できる部材の展開も拡充している。特に雨押え部分は、棟に比べ吹き上がりで雨が入りやすく、防水納まりが難しい部位だ。
こうした課題に対し、同社はアッパー換気とアンダー換気という2つの部材で2重に防水する「デュアルベンチレーション構造」(特許出願中)を採用。通気経路と雨水浸入経路を完全に分離することで、防水ラインを二重化した点が特徴だ。上部のアッパー換気は、小屋裏の熱気を排出しつつ、雨水が浸入しない形状で一次防水ラインを形成する。一方、下部のアンダー換気は、補助的な通気を担うとともに、一次防水をすり抜けた雨水や内部結露水を受け止め、外部へ排水する二次防水ラインとして機能する。これにより、難易度の高い雨押えの通気と防水を両立した。
【心得其の三】製品選択の正解〟は建物ごとに
近年、軒ゼロ住宅がトレンドとなっている。軒ゼロ住宅では、空気の入口となる軒天スペースがなく、雨仕舞も難しくなるため、軒ゼロ専用の換気部材を外壁と屋根の取り合い部に設置する必要がある。また、住宅密集地などでは準耐火製品であることも必須だ。こうした住宅に合わせた製品選びも重要になってくる。

日本住環境は、今年5月に「MIKATA」ブランドを立ち上げた。建築会社・職人・住まい手などあらゆる三方関係を幸せにする「三方よし」の関係を築いていきたいという思いから生まれたブランドで、通気と防水の「性能」、施工者にとって使いやすい「施工性」、仕上がりの良さで貢献する「美観」の3つの要素が高いレベルで共存することをコンセプトとしている。
例えば、屋根施工業者向けの「REV‒15」は、軒ゼロ、軒アリのどちらの屋根でも使用でき、住宅の形状によっては屋根周りを1周カバーできるなど、汎用性の高さが強み。野地板キャップと一体の形状で、施工性の高さも好評を博し、2桁ペースで販売が伸びているという。10月には広小舞のような厚みのある屋根下地木材にも設置できる「REV‒15 Model2」も発売、これまで「REV‒15」が普及できなかった地域でも採用しやすくした。
また、屋根施工店向けには新商品として「RFP‒18」も展開する。片流れ屋根の水上側や下屋に使用できる通気材で、通気部品のみを販売するため、棟包みの色・形を自由に設計できる。これにより、外観に干渉しがちな棟換気を、住宅全体のデザインに自然と馴染ませられる。
さらに、「MIKATA」ブランド以外では、今年7月に発売した「ep120軒ゼロ」が、業界初となる120分準耐火を取得。2019年の建築基準法改正で、新たに準耐火構造で建てられるようになった4階建て以上の共同住宅などの市場開拓を狙う。
現在、大規模木造建築の市場においては、建物の耐久性を確保するために不可欠な通気・換気に関する公的な基準が全く存在しないという重大な課題がある。このため、特に耐火建築物として建てられる大規模木造では、通気換気防火仕様ですらない製品が使用される事例も見受けられ、建物の長期的な安全と耐久性の両面で深刻なリスクを抱えている。こうした大規模木造市場に対し、大規模木造建築においても通気換気の必要性を周知徹底する意味もこめて、他社に先んじた製品開発を行った。
法的に120分の準耐火構造が設定された建築物はまだないが、より安全性を担保できる商品として75分準耐火、90分準耐火構造が必要な建築物で利用してほしい考えだ。
トーコーは、23年にグッドデザイン賞も獲得した、金属屋根専用棟換気部材の「ⅰ‒ROOF Ⅱ」が「片流れ屋根、平屋根など様々な形の屋根にフレキシブルに対応できる点が重宝されている」(マーケティング室 大沼義明 室長)という。ブランドの認知度も高く、現場では、トーコーの名前は知らないが、「ⅰ‒ROOF Ⅱ」は知っているという声もあるそうだ。
最大の特長は特許出願中の独自技術「サイドウィング換気構造」だ。飛行機の翼(ウィング)が空気の流れで負圧を発生させるように、風の力を利用してサイドウィングで負圧を発生させ、小屋裏内から屋外へ空気を排出する流れを作ることで雨水の浸入を防ぐ。
施工性については、本体だけでなく、水切りなどの部品も、ビス止めの位置など細かい部分にこだわり、現場での施工がしやすいように工夫している。棟換気部材を棟包みと同一の高さに合わせられ、表面がフラットな仕上がりになる点でも評価が高い。
軒アリ、軒ゼロどちらの住宅にも採用できる軒先給気部材の「エアーフレッシュ」も好調。軒先全体から給気できるため、空気が流れやすく良好な小屋裏環境が維持できるほか、軒先兼用のため通常の屋根施工の工数で給気部材を取り付けられる。軒先給気部材のため、防火認定の試験は受けられないが、民間検査機関にて独自の検査基準による防火試験を行い、遮炎性能を確認している。
ジェイベックは、関東以南の切妻屋根などに対して、棟掃気ガラリ「NEW テッペン」を、寒冷地に向けては「テッペン大中小」を展開している。
「NEW テッペン」は、切妻屋根や寄棟屋根など、様々な勾配屋根の棟に設置される高機能な棟換気部材。特徴的なのが、3つのブロック層と千鳥の円柱構造によって雨や雪の吹き込みをブロックする点。間隔をあけて山形のブロック層を3つ配置することで、吹き込んだ雨が横に逃げ、排水される。また、中央のブロック層は円柱型の突起を互い違いに配置することで、雨が突起にぶつかり入り込まないよう工夫している。
「テッペン大中小」は、雪の入り込みを防ぐために不織布を使用しており、粉雪のような粒の小さい雪が降る北海道・東北地域に最適だ。
また、片流れ、陸屋根、軒ゼロ住宅に対しては、「NEW アウトイン」、「アウトイン35」を用意。「アウトイン35」は、より幅の短い破風に取り付けが可能だ。
ハウゼコは、通気機能を一体化した立平葺き金属屋根材の「デネブエアルーフ」のライセンス生産を開始している。「デネブエアルーフ」は、独自の形状に加工した通気リブと野地合板の上に施工する透湿ルーフィングの組み合わせで野地板から発生する湿気を効率よく輩出し、小屋裏や野地板の通気・排湿に大きく貢献。野地面の含水率20%以下を維持する。
屋根の通気がとれていないと、上面の含水率が高くなり、毛細管現象で軒先から雨水を吸い上げ野地板が腐朽するケースがあるほか、吸い上げられた雨水によって軒先唐草上部の野地板が腐り、台風などの災害時に屋根が飛んでしまう恐れもある。
金属立平屋根は、もともと板金業者が施工を行っていたが、「板金業者は雨仕舞に重きを置くため通気がとれていないケースがある」(神戸睦史代表取締役社長)として、通気機能を有した金属立平屋根「デネブエアルーフ」の普及を目指す。
現在、大阪府、和歌山県、愛媛県、岐阜県、鳥取県、福岡県、熊本県、鹿児島県でライセンス生産をしているほか、北陸、関東でも年内に生産開始を予定し、さらなる採用数増加を目指す。地域によって金属屋根の板厚が異なる場合があるが、デネブエアルーフは、通気リブの形状効果で0.35㎜、0.4㎜どちらの板厚でも同じ強度を得ることができる。
9月には、神戸社長が理事長を務める(一社)住まいの屋根換気壁通気研究会で「実物大モックアップで学ぶ耐久性向上のための施工実技研修会」を開催。兵庫県三田市にある同社の工場で、座学と様々な屋根、外壁の施工実習を行い、約80名が参加。通気・換気についても、雨仕舞と両立する方法などを研修した。「デネブエアルーフの施工も行ったが、職人の方から普通の立平屋根と比べて施工性は全く遜色ないと言っていただけた」(神戸社長)という。また、昨年からは「デネブエアルーフ小屋裏漏水保証」を開始。施工業者、工務店を対象に、新築後10年の換気棟からの漏水に対して最大500万円の補償を行う。
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