品質・コスト競争力のある中大規模木造の普及へ 技術開発、普及、人材育成のハブに
(一社)中大規模木造プレカット技術協会
(一社)中大規模木造プレカット技術協会設立から約10年が経過した。
品質・コスト競争力のある中大規模木造の普及に向け、技術開発、普及、人材育成のハブとしての役割が期待されている。
設立10年で会員は約200社に
中大規模木造プレカット技術協会(PWA、事務局・静岡県富士市)は、低層系の中大規模建築物の市場において、品質・コスト競争力のある木造建築の普及を図ることを目的に、2015年4月に木造建築に係るメーカー・設計事務所などにより設立された。
住宅用構造木材や在来軸組工法の住宅プレカット技術を使い、標準化・合理化の仕組みの整備を進める。
従来、学校、庁舎、事務所、店舗などの低層系中大規模建築物は鉄筋コンクリート造や鉄骨造が主流だったが、これらを木造に転換することで、環境負荷の低減と木材需要の拡大を目指している。代表理事は東京大学名誉教授で木質構造家の稲山正弘氏が務めている。
設立から約10年で会員数は約200社まで増加、会員の主体はプレカット工場、構造設計事務所で、そのほか、意匠設計事務所、金物メーカー、ソフトメーカー、流通、工務店などが参加する。
委員会及びワーキンググループを設け、標準詳細図などの作成、構造計算ソフトの整備、設計者対象の講習会の開催、標準詳細図の配布、テキスト作成などを行っている。
事務局長の遠藤龍一氏は、「一般の工務店がすぐに中大規模木造に取り組むのは難しいため、プレカット工場が設計事務所と協力して受け皿となり、木造化を進めていくことが重要なポイントとなる。中大規模木造を進めていく上で、実際に建てるのは工務店だが、それをサポートするプレカット工場と構造設計事務所が陰で支える重要なプレーヤーになる。プレカット工場も構造設計事務所にアドバイスができるように勉強する必要がある」と話す。
会員からの要望を受けて最大23.6mを飛ばせるトラスを開発
PWAは、木造校舎の構造設計標準である「JIS A3301」や、標準断面寸法による市場流通材、および標準接合による機械プレカット加工にもとづく木造軸組工法を推進している。これにより、住宅用プレカットラインを活用した中大規模木造建築が可能となり、コストと品質の両面で競争力を高めることができる。
JIS A3301は、学校建築などに使われていた標準をより使いやすくしたもので、このJIS A3301をベースに、中大規模木造の可能性を広げるトラス、高耐力壁などの実験、開発を行ってきた。幼稚園、工場の倉庫、コンビニなどの低層建築から始まり、現在は4階建てまで対応できるように技術を拡大している。
近年の技術開発の成果の一つが、最大23.6mまでスパンを飛ばすことができるトラスだ。
これまで約15mまではトラスでスパンを飛ばすことができたが、会員企業から「大空間を確保するために、もう少しスパンを飛ばしたい。鉄骨にすれば対応できるが、コストアップになるため、木造でなんとかならないか」という要望を受けて、PWAとして技術開発に取り組んだ。林野庁の補助事業を活用して様々なトラスや接合部の実験を行い昨年、開発に成功した。そのデータを無償で全国の会員企業に提供するセミナーを開催してきた。
最大23.6mまでスパンを飛ばすことができるトラスは、同協会の会員企業であるプレカット事業者のマルオカの新工場、あさま工場で初採用された。積雪地域にも対応できるよう設計されており、あさま工場では、地域材(カラマツなど)を使用することでコスト削減も図っている。
4階建ての高層化にも挑戦
壁倍率20倍相当の耐力壁
また、近年注力するのが4階建てまでの中層建築を実現するための高耐力壁の開発だ。「中大規模木造へのニーズが高まる中で、今までは平屋が多かったが、2階、3階、4階へと上に伸ばしていきたいという流れが強まっている」(遠藤事務局長)ためである。
こうしたなかで昨年度は、林野庁の補助事業「中大木造建築普及加速化プロジェクト事業」(運営主体:(公財)日本住宅・木材技術センター)の採択を受けて、壁倍率20倍相当の耐力壁を開発した。同事業は4階建ての事務所及び共同住宅を対象として想定し、コスト、施工性などの点で高い競争力を有する構法や部材開発を支援するもので、PWAは4階建てモデルプランの試設計のほか、プレカットCADソフト、構造計算ソフト等、今後4階建てを可能とするために必要なツールの洗い出し検討も行った。
住宅用一般流通材(製材、中小断面集成材)を用い、構造用合板張り高耐力壁や中断面集成材とLVLによる引きボルト式ラーメンを用いて施工が容易で重量鉄骨と同等なコストの4階建て事務所、共同住宅を実現する。
より安価に使いやすく
技術開発を継続
コスト削減のための技術開発にも注力する。特に地元の流通材を使って安くできることが重要で、例えば、高耐力壁において、ビスの本数を減らして斜め打ちにするなどの工夫で、性能を落とさずにコストダウンを図ることを検討している。
これらの技術開発には実験による評価が必要で、構造委員会が2カ月に1回開催され、次年度の実験計画を立てている。
また、(一社)日本CLT協会との連携や、JIS A3301の改定に向けた共同提案も進めている。
工務店と構造設計事務所をプレカット事業者がマッチング
同協会の設立から約10年が経ち、中大規模木造を建てやすくするための標準設計図の整備、大スパンを飛ばすためのトラス、高層化を実現するための高耐力壁などの技術開発は着実に進んできた。今後は、それらの技術をマニュアル化し普及を進める段階に来ている。構造設計ができる人材の育成も重要な課題だ。
遠藤事務局長は「構造設計事務所でも中大規模木造に対応できていないところが多く、セミナーだけでなく、より体系的な教育プログラムの必要性を感じている。また、工務店からは構造設計に対応している事務所を紹介してほしいという要望も多く、プレカット事業者が相談窓口となり、設計事務所とのマッチングを行っている。新築住宅市場の縮小により、多くの工務店が中大規模木造に活路を見出そうとしており、相談件数も増加傾向にある」と話す。
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