New   2025.11.28

旧宿場町越谷の蔵や古民家を保存・活用 まちなみに調和した分譲住宅を開発

ポラスグループ 蔵のある街づくりプロジェクト

 

ポラスグループは、本社を置く埼玉県越谷市で宿場町のまちなみを保全する「蔵のある街づくりプロジェクト」に取り組んでいる。
2013年から開始し、12年目となる今年8月には分譲住宅地「ことのは越ケ谷」の第二弾4邸を完成させた。


東武スカイツリーライン越谷駅から北へ数分歩くと、線路と並行するように旧日光街道が続く。道沿いには古い建物が点在し、かつて栄えた宿場町「越ケ谷宿」の雰囲気を伝えているが、その姿は次第に消えつつあるという。そうした歴史ある街並みを保全し、未来につなげるために、ポラスグループは2013年から「蔵のある街づくりプロジェクト」に取り組んでいる。江戸末期に建てられた内蔵を改修し、蔵を囲むように8邸の分譲住宅を建てた「ことのは越ケ谷」、明治後期に建てられた蔵・母屋を改修し、複合施設として再生した「はかり屋」、大正時代に建てられたコンクリート造の蔵を改修し、市民の憩いの場とした「糀屋」。いずれも歴史的建造物の良さを残しながら、新たな形で活用されている。

主に分譲住宅を供給するポラスグループにとっては、古い建物を壊して、新しい家をつくる、いわば“スクラップアンドビルド”がビジネスの基本である。しかし、この越谷の「蔵のある街づくりプロジェクト」は、いかに残すか、という逆の考えを重視している。現在「ことのは越ケ谷」第一弾の4邸が建つ土地を取得したのは2012年。当初は、敷地内に元々あった建物をすべて壊して新築分譲を開発する予定だったが、そこには江戸時代に建てられた3つの蔵と見事な石畳が残っていた。その光景を目にした中央住宅の品川典久社長が「越谷市の歴史的建造物を簡単に壊してしまっていいのか」と計画の変更を決定。3つの蔵のうち、比較的損傷の少なかった内蔵を残し、新たな分譲住宅と融合させるプロジェクトを始めることとなった。

再生した「油長内蔵」は2017年に越谷市へ寄贈。現在は地域住民が集まる拠点やカフェとして活用されている。複合施設「はかり屋」は、ポラスグループがオーナーとなり地元のまちづくり会社を通して事業者に貸出している。こだわりの茶葉を提供するカフェ、ビストロ、リラクゼーション店、地元農家の野菜販売所など個性的なテナントを集める。20年に補修を支援した「糀屋」は、個人オーナーによる私設図書館などの複合施設としてオープンした。いずれも国の登録有形文化財に登録されており、歴史を伝えるだけでなく、まちのにぎわいをつくる場所となっている。

2025年8月に国の登録文化財に登録された「油長内蔵」。通常は地域住民の拠点、休日にはカフェとして活用されている

始動時からプロジェクトに携わってきた中央住宅の戸建分譲設計本部 設計二部営業企画設計課 池ノ谷崇行課長は「手間も期間も費用も通常の分譲地とは比べものにならない。それでも今まで続けてきているのは、『地域文化の価値の創造に努める』という経営方針があるから。1985年の第1回から社を挙げて越谷市で阿波踊りを全面支援し、文化を根付かせてきたのと同様、住宅会社として建築を通して地域貢献することに意味がある」。ポラス コミュニケーション部広報課の青柳孝二氏も「採用面でも自社の理念を示すまちづくりの例として非常に良いアピールポイントになっている。金額的な部分では測れないほど、メリットが大きい」と話す。

瓦屋根や格子などで街に調和する新たな4邸

「ことのは越ケ谷」第二弾の街並み

中央住宅は2016年、地域拠点として再生した内蔵のまわりに4邸の分譲地「ことのは越ケ谷」を開発した。解体した2つの蔵などに使われていた古材や建物の一部を新築分譲住宅の一部として活用するほか、4邸とも蔵と調和した外装とし、歴史を感じさせる街並みをつくりあげた。翌17年には、「景観協定」を越谷市で初めて制定。用途、外壁色、植栽に関する自主規制を設け、住民が協力して、古き良き街並みを維持していく仕組みをつくった。完成から約9年経った現在も4邸の街並みは住民によって美しく保たれている。そして2025年8月、この最初の4邸に隣接する地に第二弾「ことのは越ケ谷」4邸を完成させた。この地に住んでいたオーナーの母屋が売りに出されたことから購入し、蔵を囲む計8棟の分譲地となった。

設計を担当した中央住宅 戸建分譲設計本部
 設計二部営業企画設計課 玉越啓資係長
設計を担当した中央住宅 戸建分譲設計本部
設計二部営業企画設計課 池ノ谷崇行課長

特徴の1つは、街の入り口から奥までを共有地とし、住民が自由に行き来できるようにした点だ。解体した母屋に使われていた古い敷石を組み合わせ、風情のある石畳を創出。石畳を進んだ奥には、憩いの場となるテラスを設けた。4邸の外観は、屋根瓦や格子を採用するなど、和を感じさせるテイストで統一した。また、美しい街並みと開放感の形成のため、電柱・電線を地中に埋設した。

4邸はそれぞれ「坪庭」「縁側」「土間」「掘り炬燵」と異なるコンセプトで住空間をつくりあげた。特に、旧街道に面する3、4号棟は3階建てとし、1階に土間を設けた。3号棟を設計した中央住宅 戸建分譲設計本部 設計二部営業企画設計課の玉越啓資係長は「街道側に土間と掃き出しのテラスをつくり、玄関とは別に出入りができるようにした。自身の制作活動や、レンタルスぺースなどとして活用してほしい」と狙いを説明した。また第一弾の4邸と同様、解体した建物で使われていた欄間や梁を照明や家具として各住宅に散りばめた。土地面積は109.77㎡~151.90㎡で、建物面積は99.77㎡~145.94㎡、販売価格は7780万円~8480万円。10月段階で2号棟が契約済となっている。

同プロジェクトは、まちづくりや古い建物の再生事例として注目を集めており、全国から視察が来るという。ポラスグループへの相談も寄せられており、現在別の自治体でも蔵と隣接した地で景観に配慮した分譲住宅を開発する事業がスタートしている。

越谷市内に残る古い蔵や古民家は今や「30棟もない」と池ノ谷氏は言う。「個人で古い建物を直すとなると何千万円もかかる。壊す判断をするのは理解できるが、少しでも止めないとという思いがある」。ポラスグループでは、市と連携しながら今後も街並み保全の活動に努めていく方針だ。新たに建てるだけでなく、古い建物や景観をいかに守るか。「蔵のある街プロジェクト」は、住宅業界全体にも課題を投げかけている取り組みといえる。

1号棟 坪庭のある家

石目調の素材や天然木を随所に用いたリビングから坪庭がみえるように設計。坪庭には、白砂利と天然石、この場所で使われていた敷石や街路灯を配した。

2号棟 縁側のある家

リビングダイニングの横に半個室感覚の和室を配置。屋外には白砂利を敷き、広めの縁側を設えた。1階天井部分中央に化粧梁を設け、壁面に藍染建材を用いるなど和の風情を重視した。

3号棟 土間のある家

1階に土間空間を確保。石の素材を敷き、外から靴を脱がずに入ることができる。2階のリビングダイニングは勾配天井を特徴とした心地良い空間に仕上げた。

4号棟 掘り炬燵のある家

1階に土間空間を採用。2階のリビングダイニングは白い壁面、勾配天井、障子窓により開放感を実現。掘り炬燵にもなる小あがりの畳空間を設けた