サウナ施設として大きな空間が必要に SE構法でコストとデザインを両立

事例① 秀建(千葉県千葉市) 物件:おふろcaféかりんの湯(千葉県香取市)

 

脱炭素社会の実現に向け、木造建築が脚光を浴びている。住宅づくりの延長線上で、どのように技術を応用し、地域の木を活かしながら新しい建築領域を切り拓いているのか。現場の知恵と工夫から、木造建築の今を探る。


千葉県香取市にある「THE FARM」は、10万㎡を超える広大な敷地を持つ農園リゾートだ。グランピング、コテージ、キャンプ場など多様な宿泊スタイルを備え、野菜収穫体験やジップラインなどのアクティビティを提供。園内にはカフェ・食堂、BBQ施設なども併設され、自然と触れ合いながら非日常を過ごす拠点として運営されている。

秀建の(左から)コーポレート ストラテジーユニット マネージャーの伊藤大輔氏と、ビジネスプロモーションDIV. 第2ルームリーダーの塚田拓也氏

「おふろcafé かりんの湯」は、THE FARM内にある日帰り温浴施設で、2022年4月に、既存の「かりんの湯」を拡張・拡大する形でリニューアルオープンした。キッズスペースやリラックススペースの新設、複数のサウナの導入など、利用者がゆったりと長時間滞在できるようにリニューアルされた。地上1階、延べ床面積493.26㎡の木造軸組工法(SE構法)で建てられた施設であり、設計はプラネットワークス、施工は秀建が手掛けた。

秀建は、公共工事や商業建築をメインに手がけており、時には住宅系の仕事も行っている。業務構成は新築工事が3割、残りは改修工事が占める。エリアとしては千葉を拠点としつつ、関東圏を中心に全国で事業を展開。これまでの新築実績としては、温浴施設、病院、宿泊施設、飲食店など、様々な規模の建物を手がけてきた。従来は鉄骨造やRC造が多かったものの、最近では木造が増えてきている。ビジネスプロモーションDIV. 第2ルーム リーダーの塚田拓也氏は、「近年、鉄やコンクリートの価格高騰により、当初予算内に収まらないケースが増えている。そのためコスト面から木造を選択する事例が増えている。特に公共工事では、木造で建てるよう指定されることもある」と話す。

男女で一緒に楽しめる「サウナガーデン」。特注の大型サッシを採用し、解放感を高めた
キッズスペースやリラックススペースなど内のインテリアも秀建が手掛けた
外気浴にぴったり広い「ととのいスペース」
サウナ施設の大空間を創出するためにSE構法を採用。工場で加工した構造部材を用いることで、大幅に陸屋根の施工手間を削減することができた

「おふろcaféかりんの湯」で採用したエヌ・シー・エヌのSE構法は、木造建築にラーメン構造を取り入れ、高い耐震性能と自由な空間デザインを両立させる建築システムである。SE金物を使用して柱と梁を強固に接合するため、間仕切りのない大空間や、開口部を広くとる設計も可能になる。秀建にとってSE構法の採用は初めてであったが、サウナ施設として使用するために大きな空間が必要だったため、採用に至った。最大約5・4mのスパンを確保することができた。また、鉄骨造に比べて工期が大幅に短縮できる点も大きなアドバンテージとなった。施工上の工夫としては、足湯やサウナ・外気浴に面した開口部に、特注の大型サッシを採用し、木造大空間の解放感をより高めた。また、工場で加工した構造部材を用いることで、現場での天井屋根部分の小屋組みの施工手間を大幅に軽減。構造計算とプレカットが一体になっているため、設計から施工までの流れがスムーズになるSE構法の強みを生かした。

コーポレート ストラテジーユニット マネージャーの伊藤大輔氏は、「木造のフィールドでも、建築から内装まで一貫して対応できる当社の強みを生かしていきたい。幅広い用途、中小規模の建物にも柔軟に対応できる」と話す。

エヌ・シー・エヌ 企画室 部長の木津正裕氏は、「物価高や人件費が上昇する中、特に大規模な建築物では、工期が長いため物価変動の影響を受けやすい。今後は、木造建築への対応力を整備しておくことが、ビジネスチャンスを逃さない鍵となる」と指摘する。