建物の状況に合わせたコーディネート力が求められる時代へ
(一社)リノベーション協議会 会長 内山 博文 氏
いま、中古戸建住宅における性能向上リノベーションへの関心が高まっている。
背景には、住宅価格の高騰や、新築住宅へのアクセス難があるとされる。
また、2025年4月から4号特例の縮小がスタートし、大規模な改修に対して確認申請が必要となるなかで、現場ではどのような影響が出ているのか──(一社)リノベーション協議会の内山博文会長に話を聞いた。

Japan. asset management(株)代表取締役
u. company(株)代表取締役
(一社)リノベーション協議会 会長
内山 博文 氏
中古住宅の成約数が急増
建物まで含めて〝割安感〟に注目
――戸建住宅の性能向上リノベーションへの注目度が高まってきています。どのような背景があるのでしょうか。
比較的自由に家をつくりたいと考える方々のなかで、新築という選択肢を検討したうえで、中古住宅を性能向上リノベーションするケースがこの1〜2年で顕著に増えています。
理由はいくつかありますが、まず挙げられるのは、都市部におけるマンション価格の高騰です。国土交通省が公表する不動産価格指数(令和7年2月/令和6年第4四半期)によれば、2010年平均を100とした場合、住宅地は115.6、戸建住宅は114.9であるのに対し、マンション(区分所有)は211と、2倍以上の上昇率を示しています。
新築マンションの価格は依然として上昇を続けており、仮に購入できたとしても、面積は以前と比べてかなり狭くなっています。中古マンションのリノベーションも選択肢の一つですが、中古も含めて価格が高騰し、手が届きにくい状況です。
さらに、マンション価格の上昇曲線に比べれば緩やかですが、地価も上昇していて、人件費、材料費の上昇も加わり、注文住宅の価格も上がっています。ハウスメーカーを含めた注文住宅に対応できる会社の単価は、以前に比べて2倍と言ってもいいくらいの価格になってきています。そうなると庶民が戸建て住宅を購入する選択肢として建売住宅しかないような状況で、新築で戸建て住宅を購入する選択肢が狭まっています。
こうした背景がある中で、中古戸建市場の重要性が高まっています。特に地価の上昇曲線の緩やかな郊外の住宅地に建つ中古戸建住宅の流通量、成約件数が顕著に増えてきています。(公財)東日本不動産流通機構が公表する月例報告によると、2025年5月度の中古戸建住宅の成約件数は、前年同月比プラス62.8%と7カ月連続の増加で、急増し続けている状況です。2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」以降、基本性能がある程度確保された住宅の流通量が増えていることも成約数増加を後押ししています。
もちろん地価が高くなったことで中古住宅を売りやすくなったことが流通量の増加を促す要因の一つと言えますが、成約件数自体が増えていることが非常に重要です。これは首都圏だけでなく、近畿圏、中部圏、西日本など、どのエリアにおいても同じような傾向が見られます。
こうした数字から読み取れるのは、「中古の戸建住宅の方が、割安感があると感じて、建物まで評価して購入する層が増えている」ということではないでしょうか。新築着工数が落ちている中で、中古戸建の成約件数が急増しているということは、新築では満たされない消費者ニーズが中古戸建の方に流れてきているということが言えるのではないでしょうか。
前述したように、あらゆるものが値上がりする中で、中古住宅が建つ土地を購入して建て替えることも、今はかなり困難になってきています。「建物まで評価して割安感がある」ということが今の市場の中で中古住宅のポジションだと思います。中古戸建を購入してそのまま住むという方も、もちろんいると思いますが、一方で、中古住宅をうまく活用して自分らしい暮らしを実現する、さまざまな事例が増えています。
性能向上までは至らないまでも、中古住宅を買ってリノベーションという市場も非常に伸びてきている。いわゆる一次取得者、家を新たに取得される方が、あえて中古住宅を買ってリベーションをする。しかも、見栄えのいい中古住宅を買って、さらにバリューアップするというよりも、品確法以前のものも含めて、老朽化した建物をうまく活用しながら、新築では得られないようなこだわりの家を実現しています。そうした選択肢の中に、性能向上リノベーションのメニューが当たり前にある。新築着工件数の減少に伴い業態転換をして、そうした戸建ての大規模リノベーションに対応できる工務店の数も増えてきています。
二次流通で性能が担保された住宅が増加
――25年4月からの4号特例の縮小に伴い、大規模な改修については、建築確認申請が求められるようになりました。
4号特例縮小に伴い、大規模リノベーションにおける確認申請の必要性が高まり、さまざまな影響が出始めています。しかし、新築や、自身が居住する目的で行う大規模な改修においては、むしろきちんとやるべきことをこれまで曖昧にしてきたと考えています。
新築住宅については、4号特例縮小により、しっかり構造計算がされるようになり、品質がある程度担保され始めるという意味では、非常に喜ばしいことです。これまでは、4号特例により、確認検査は受けているものの、曖昧な部分があったため、性能が担保されていないものが多すぎました。特に2000年以前に建てられた建物7割ぐらいは耐震性含めて、性能が担保されてないと言われています。4号特例縮小により、建物の履歴が残り、二次流通において性能が担保された建物が増加していくことは、メリットとして挙げられます。中古戸建を扱ってきた私たちからすると、性能が担保されてない中古戸建を、旧耐震、新耐震にかかわらず大量に見てきているだけに、期待するところが大きいです。
主要構造部それぞれの2分の1を超えなければ 確認申請は不要
――4号特例縮小により、リノベーションにおいてはどのような影響が出てきているのでしょうか。
これまで大規模改修という言葉自体の定義が曖昧であり、4号特例縮小の法改正が発表された当初は、明快な指針が示されていなかったので、業界内で混乱が生じました。国土交通省が25年春に、確認申請が必要な大規模改修について明確な指針を公表しました。ただ未だに、大規模改修には確認申請が必要になるということは分かっていますが、具体的にどのような改修工事で確認申請が必要になるのか、新2号建築、新3号建築で、どのような手続きが必要なのかというところまでは、業界全体に正しく伝わっているとはいえず、混乱は続いています。
国交省の指針によると、実は皆さんが思っているほど、何でも確認申請が必要ということではありません。全ての改修工事に確認申請が必要なわけではなく、構造部分の変更が少ない場合は申請が不要となります。主要構造部の部位ごとに過半 (2分の1を超える)を改修しなければ、いわゆる耐震補強、やりかえであれば確認申請はいりません。
一般的に、例えば、屋根のふき替えは、大規模改修だと思うかもしれませんが、そんなことはありません。下地の構造用合板を交換するなど手を加えれば、大規模改修になりますが、屋根の吹き替えだけでは確認申請は不要です。外壁も同じで、全面的に壁をはがし、断熱改修を実施する工事でも、筋かいなどを含めて主要構造部に手を加えなければ、壁や、内装材をはがそうが、主要構造部の過半ということには該当せず確認申請は不要です。大規模改修の過半は、仕上げも含めて過半だというふうに多くの方が思われているようですが、主要構造部の過半なので、仕上げ材に関しては該当しません。大規模改修で建物をスケルトン状態にすれば、確認申請が必要だと思われている方は多いのかもしれませんが、主要構造部さえ触らなければ、必ずしもそうでもありません。
建築がわかる人を内製化
あるいはパートナーに
――中古住宅を扱う事業者は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか。
大規模な改修工事は、場合によっては建築確認申請が必要になり、手間もコストもかかるということになれば、中古住宅を扱う事業者にとっては、これまで以上に、その建物がどのような状態にあるのかをしっかり把握しなければいけなくなります。築年数の古い建物は、図面すらないケースがほとんどなので、建物がどういう状況にあるかということをしっかり読み解くこと、インスペクションの体制を整えていくことが求められます。この改修工事は何を目的に行うのかといったことを考えずに計画することができなくなっていきます。
一般的に、これまで工務店などが持たない機能が求められていくことになるという意味では、設計士にとってはこの改正はビジネスチャンスになります。つまり、これまではリフォーム業者などから成長した工務店などが、大規模な改修にも対応するといったことが多かったのですが、確認申請の有無を判断することが求められるということは、建築士がいなければ、大規模改修、特に大規模な耐震改修などの判断ができなくなっていきます。しっかり建築が分かる人を内製化するのか、パートナーとして協力体制を築いていくのか、そうした経営判断が求められます。
施主は、性能向上のメリット、どこまでやるのがいいのか、やらないことのリスクも分かりません。確認申請が必要かの見極めをしながら、そのメリット、デメリットを説明でき、対話ができる能力が求められていきます。
確認申請を行う、行わない、を含め判断をして提案できれば、信頼を勝ち得るチャンスになると思います。併せて建物の省エネ、耐震に関するコンサルティング能力を向上させ、それを会社の強みとして打ち出すことができれば、他社との差別化につながると考えられます。
建築確認なしの増改築
既存不適格の解消がネックに
――そのほか、どのような影響が出てくる可能性があるのでしょうか。
築年数の古い建物は、検査済証がなかったり、確認申請をせずに増築されたものが多く存在します。そうした建物にリノベーションをして確認申請を出すためには、既存不適格部分を解消する必要がある場合があるため、申請できないとまで言いませんが、申請の難易度が高くなります。
私の経験上、既存の建物は、何らかの違法性を持っているものが多い。耐震性が不足しているということだけではなく、確認申請をせずに、平屋だったものが2階建てに増築しているケースや、あるいは、後付けでバルコニーをつける、カーポートをつける、といった簡単な増改築の事例が多いのです。50~60年前の建物で、20~30年前に増改築が行われています。昨今、親の世代が建てたそうした建物を、子世代が相続を受けるケースが大量に出てきていて、私たちは、そのような状況の空き家の再生、リノベーションに取り組んでいます。
確認申請の原則は、建物の違法性がある部分を解消して、元の状態に戻して、そこからプラスアルファの工事をしなさいということなので、原則に従えば、2階建て増築したものを、また平屋に戻さなければいけない、ということも考えられます。違法性がある部分をそのまま残して、確認申請が通るのか、通らないのか、今後、事例が増えていく中で注目されていくと思います。
実際には、検査済証のない中古物件の確認申請を出すために、既存不適格部分を調査する新しい法令ができ、そのガイドラインに従って調査を行うことで、確認申請を出せる仕組みは用意されていますが、これまで以上に手続きが煩雑になることは避けられません。
今まさに私たちは、そうした建築確認申請なしで増改築された既存建物の性能向上リノベーションに取り組んでいます。もともとは平屋で、確認申請の履歴は平屋の部分しかない。 2階を増改築されていて、その部分の履歴はありません。この建物を相続し性能向上をしたという依頼です。施主と打ち合わせをして、高齢者だけの少人数の住まいなので、2階はいらないが、壊すのには費用もかかるため、倉庫として確保しておいて、1階を中心に性能向上しましょうと、確認申請がかからない範囲で今設計を行っています。今の法規に合わせれば、容積率、建蔽率がオーバーしていることはく、現状の順法性も保てているので、確認申請がかからないやり方で、性能向上の部分リノベーションを進めています。
手間、コストの増加で空き家の再利用にブレーキ
――空き家活用にも影響は出てきますか。

空き家活用においても今回の法改正が厳しい制約となることを懸念しています。空き家活用では、住宅を住宅としてそのまま使うよりも、商業施設や事務所、民泊施設など、別の用途へ変更することが多く、できるだけ合理的に進めたいところがある。しかし、確認申請が必要となり厳密な報告が求められるようになれば、手間もコストも増大するため、採算が合わなくなり、空き家の再利用が進まなくなる可能性があります。家賃が高い東京圏であれば、経済合理性を確保しながら耐震性を高めたり、確認申請が必要となる工事を行うことも可能かもしれません。ですが、高い家賃収入などが期待できない地方都市で空き家活用を進めていく上では、今回の4号特例の縮小は、弊害にしかならないと考えています。
一方で、省エネ性能を高める工事に関しては規制緩和が進んでおり、これをうまく活用することで事業の可能性を広げることが可能です。例えば、太陽光発電の設置部分が道路斜線制限の高さ制限に含まれない、あるいは性能向上を伴う改修においては多少の違法部分があっても許容されるなど、規制緩和措置が充実してきています。こうした情報を把握しておくことは、決して無駄ではありません。
南海トラフ地震などの発生リスクが高まる中、建物の耐震性能向上は喫緊の課題です。また、エネルギーコストの上昇に伴い、断熱性能向上のニーズも高まっています。今後は、建物の状況に応じた最適なソリューションをコーディネートする能力が、ますます求められる時代になってきています。
(聞き手=沖永篤郎)
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