日本繊維板工業会、PB・MDFの新市場・新用途開発に注力 厚物の開発、野地板・床下地へ用途拡大も
業界団体の今:日本繊維板工業会
日本繊維板工業会に現在の注力事業と今後の展望を聞いた。
木質ボードには、木材を小片にして接着剤を加え、高温・高圧でプレスしたパーティクルボード(PB)と、木材を繊維状にして成形してつくる繊維板がある。2023年は、住宅着工戸数の減少に加え、石油をはじめ多くの原材料不足・原材料高騰など不安定な状況は継続し、木質ボードを取り巻く事業環境も厳しい状況にさらされた。こうした状況の中、木質ボードの国内生産量(㎥・年計)は、対前年比PB97%、MDF82%、HB90%、IB90%と、一旦概ねコロナ禍前の水準に回復した前年から大きく減少した。
一方、23年の木質ボード輸入の対前年比は、PB(OSB、メラミン化粧板を含む)65.8%、MDF83.1%、HB36.4%、IB(木質断熱材含む)76.3%と、こちらも前年から大きく減少した。
法的要求をクリア
使いやすい状況に
こうした事業環境の中で、工業会の重点事業としてワーキンググループ(WG)を立ち上げ進めているのが、新市場・新用途開発だ。
18年3月、耐力壁の改正告示が施行され、高倍率の耐力壁に厚さ9㎜のPB、MDFが使えるようになり、耐力面材市場で存在感を増している。さらに近年は脱炭素を背景に木造建築推進の気運が高まる中で、非住宅の木造化への注目度も高まっていることから、WGでは、(一社)木を活かす建築推進協議会の「面材耐力壁の詳細生産法検討委員会」に参加し、非住宅市場開拓に向け、厚さ18㎜のPB、MDF耐力壁の開発に取り組む。必要な試験データを揃え、JIS規格化、個別の大臣認定取得といった手続きを経て、早期の実用化を目指す。
また、一般建築物においても、MDFの野地板や床下地など使用部位の拡大を目指し取り組みを進めている。MDFは壁下地としては告示1541号により広く運用されているが、野地板、床下地は枠組み壁工法に使用する場合、告示への追加が必要となるため、国交省や日本ツーバイフォー建築協会など関係先に対し告示改正を要望した。令和6年度告示改正に反映される見込みだ。
また、防耐火構造の種々の法令、告示などにおいて位置づけが不明瞭なMDFの使用について明確化するため、建築研究所からのアドバイスをもとに試験を実施し、法的要求事項を満たす試験データを取得した。このデータをもとに、住宅性能評価・表示協会の審査を受け、国交省に「技術的助言」の発行などを要望していく考えだ。坂田徹専務理事は、「広くあまねく認められ、採用する側が使いやすい状況にしていきたい」と話す。
環境性能もアピールポイント
木質ボードは、リサイクル率が高く、建築廃材が原料の9割を占め、環境性能に優れた建材であることも特長の一つだ。脱炭素を背景に、建築業界全体で、ライフサイクルを通した二酸化炭素の排出量、WLC(ホールライフカーボン)、LCA削減に向けた動きが活発化している。
(一財)住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)の「ゼロカーボンビル推進会議」は24年10月、建築物ホールライフカーボン算定ツール=J‐CATの正式版をリリースするなど、国交省も建築物のLCA削減に向けドライブをかける。
日本繊維板工業会も木質ボードの環境性能を環境意識の高い事業者へ積極的にアピールすることで、需要増につなげていきたい考えだ。その取り組みの一環として、東京農工大学大学院農学研究院自然環境保全学部門の加用千裕教授の研究グループと共同で繊維板が貯蔵している炭素量を試算しその結果を公表。23年3月に発刊した「炭素貯蔵リーフレット」などを活用しPRを進めた。
過去70年に建物に使われた繊維板のうち、現存しているものが貯蔵している炭素量はCO2換算で約5350万tであることが分かった。これは国内で製造された繊維板に限った数値。輸入されたものまで含めると約8000万tにも達する。この研究成果をネイチャーの姉妹誌である科学的正当性のみを評価する「scientific Reports誌」に投稿したところ査読を経て、6月に掲載された。
日本において木質ボードが果たしている炭素貯蔵に関しての学術的裏付けが立証されたこととなった。
25年に全製造工場のLCA分析を実施
業界平均のEPD取得を目指す
日本繊維板工業会
坂田 徹
専務理事
年々、SDGsとESG経営の注目度が上がっている。24年度は、工業会の取り組みとして、昨年より頒布を開始した「木質ボードの炭素貯蔵量効果リーフレット」の中の木質ボードの炭素貯蔵に関する内容を最新数値に更新し、各方面への周知・訴求している。
加えて、IBECsに設置されたゼロカーボンビル推進会議で評価手法の検討が進められている「建材・設備のカーボン表示」への対応に向けて、木質ボードのLCA分析に着手した。具体的には(一社)日本建材・住宅設備産業協会が事務局の「建材EPD検討会議」に参加し、日本繊維板工業会として、業界平均のEPDを算出し、日本で唯一のEPD運営機関である(一社)サステナブル経営推進機構(SuMPO)に申請し、EPD取得を目指している。
EPDとは、LCAの手法を用いて定量的に製品の環境情報を表示する環境ラベルで、世界各国でISOに準拠した運営が管理。EPDを見れば、製品単位のLCCO2をはじめとする様々な環境負荷を知ることができる。
東京農工大学の加用教授の協力を得て、合計4種類の木質ボードそれぞれの調査項目を整理し、予備調査を開始した。25年に工業会加盟企業の国内の全製造工場のLCA分析を実施しEPD取得を目指す。さらに、26年に研究精度を上げるためにもう1回、全製造工場のLCA分析を実施する。工業会創立70周年を迎える記念の年でもある27年度春をめどに、その研究成果を海外の学術雑誌に投稿してもらう予定だ。
加えて、建築廃材が原料の9割占める木質ボードの環境貢献に資する点を、加点要素にできないか、学術的正当性を持って訴えることが可能かといったことも、加用教授の協力を得ながら検討していく。
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