2024.4.26

地域活性化に取り組む多彩な事例からみる持続可能なサービスとは

東京大学IOGジェロントロジー産学連携プロジェクト オンラインアカデミーを開催

東京大学高齢社会総合研究機構ジェロントロジー産学連携プロジェクトが、2月26日、オンラインアカデミーを開催し、地域活性化に取り組む企業事例などを紹介するとともに、人口減少、少子高齢化を背景にした持続可能なサービスについて討論を行った。

東京大学高齢社会総合研究機構(IOG)は2009年に日本で初めての学際的なジェロントロジーの研究拠点として設置された。ジェロントロジーとは個人の加齢と社会の高齢化についての総合的な学問で、世界トップの長寿国となった日本において、すべての国民が幸せに健康長寿を実現するために、どのような地域社会を再構築する必要があるか、その命題に向けて分野横断型の総合知を活かし課題解決型実証研究を行っている。

研究の中心的役割を担うのがIOG産学連携プロジェクトで、産業界と大学とのパートナーシップのもと、変化する超高齢社会の中で地域社会およびそこに住む国民一人ひとりのあるべき姿の将来ビジョンを描き、新たなビジネスモデル創出を目指している。企業のニーズに応じて、「個別共同研究」、「ジェロントロジー・アカデミー」、「ジェロントロジー・ネットワーク」の3つのコースがあり、参加する企業はITや流通、住宅メーカーなど業種も規模も様々。現在50社を超える会員が参加している。

枚方信用金庫ロビーではコンシェルジュによるセミナーも開催

今回は、「ジェロントロジー・アカデミー」の情報交換の一環として、「持続可能なまちづくり」をテーマに開催した。第一部では、会員企業4社による取り組み事例と、IOGで共同研究を行う検討会からも1事例を紹介。第二部では参加者による討論会を行った。会員企業の関係者のほか東大の学生なども含めて44人が参加した。

各社の取り組み事例とIOG検討会の研究内容を紹介

枚方信用金庫の近居・住み替え促進事業「巡リズム」を吉野敬昌理事長が説明した。この事業は枚方市(大阪府)と京阪電鉄との3者連携による事業として平成28年からスタート、自治体も連携している公共性の高さと同信金のネットワーク力と営業努力により、アンケートによる1万8000件もの高齢者世帯データや空き家・空き地情報を収集。そのデータをもとにリフォームや建て替え、高齢者施設への住み替え等への提案につなげ、本業の融資業務のほか、提携企業との協業による手数料収入へとつなげている。近年は高齢者見守りサービス付きの定期積金商品の開発や、昨年10月には健康ステーションを開設し高齢者の居場所・体力づくり、生きがいづくりに取り組む。地方創生に貢献する金融機関の事例として内閣府からの表彰も受けている。

東急「住まいと暮らしのコンシェルジュ」(東京都と神奈川県に全8店舗、今後も拡大を計画中)

東急の「住まいと暮らしのコンシェルジュ」をプロジェクト開発事業部の能登弘子主査が説明。これは東急沿線住民へのサービス向上として、「買う・売る・建てる・リフォーム」をワンストップで提供する相談窓口で、駅前や駅隣接に出店。今後は8店舗から15~20店舗へと増設を予定している。宅建士などの資格をもつコンシェルジュが顧客の相談に応じて200超の提携企業から提案。企業から直接営業されない安心感や断りの代行もやってもらえる負担感の少なさが評価を得ている。2022年度実績で来店数5947人、相談3089件、成約960件。リフォームの相談・成約が多いという。収益は提携企業からの成約報酬からなりたっている。

東武不動産の不動産売却サポートシステム「リイカス」

東武グループの東武不動産「リイカス事業」をソリューション事業本部リイカス事業部の宮内克浩室長が説明。空き家や古家を買い取り、リノベーションによる再生や更地化による住宅用地の創生により新たな家族の生活の場を提供する。新規に世帯構成やライフスタイルの変化に合わせて平屋住宅を開発。”プレミアム、コンパクト、フラット”(PCF)をコンセプトに、3世代が交流でき、大容量収納付きが特徴。東武団地といった誕生して40年がたつ中古団地での再生事業でのメニューに加える。また、商店街に多く見られる店舗兼住宅を東武が所有しながら新たなオーナーに貸し出すサブリース事業の検証にも乗り出す。若者と高齢者が共存共栄する街、健康と学びをテーマにした「ウェルネス都市」を目指している。

生駒市の「日本版シュタットベルケ(いこま市民パワー㈱)」を生駒市地域活力創生部SDGs推進課の木口昌幸課長補佐が説明した。市民団体が出資する新電力では全国初の電力会社で、「市民による市民のための電力会社」を目指し平成29年7月に設立。電力調達は再生可能エネルギー電源を最優先しており令和12年時に再エネ比率40%、家庭への供給450件が目標だ。電力収益をコミュニティサービスに還元することが電力契約の条件となっており、子どもの登下校見守りサービス、置き配バッグ購入支援、エコタウンまちづくり応援補助金などに活用している。また複合型コミュニティづくり「まちのえき(自治会館・公園など)」との相乗効果により脱炭素と地域活性化を目指している。

IOG「成り行きまかせ危険度判定スケール」の判定の流れ

IOGの検討会からは、「高齢期の住宅資産の循環活用を促すプラットフォーム」検討委員会の副委員長を務めるマザアス吉田肇社長が東京大学の大月敏雄教授、並びに都市計画コンサルのアルテップ社と共同制作している「成り行きまかせ危険度判定スケール」を説明した。「親世代にしてみると元気なウチから、今の自宅に暮らし続けるか? 早めに住み替えるか? 子世代からみたら、親世代はいまは元気だが先々どうしたいと考えているのか?こうした悩みを具体的にご自身や親子で考える仕組みや相談先が必要になっているが、実際には”どこに相談したらよいか分からない”と言うのが今の現実」。そうした中、このスケールを使いながら学びの機会と具体的な相談体制を構築しようと研究が進んでいる。

IOG辻哲夫客員研究員は、総括として「全国すべての郊外団地が残るわけではなく先に持続可能なまちづくりを考えるところが残っていくのではないか。市民参加も大きなキーワードだ。高齢社会のなかでどう生きていくのか、若い学生にも意見を出してもらいながら企業や行政へ発信していきたい」と結んだ。