本格離陸する中大規模木造市場

市場拡大を下支えする技術・サービス

「脱炭素化」や「ウッド・チェンジ」を背景に木造建築の注目度が高まるなかで、中大規模木造建築に関連する技術、サービスが進歩している。地域工務店をはじめ新規参入する事業者の動きも加速しているが、本格離陸し始めた中大規模木造市場は新しい分野であるだけに、日々進化するこれらの技術・サービスを使いこなせるかが、差別化を図り、勝ち残っていく上で重要になってきている。

伐採期を迎えた国産材の利用拡大に向けて、建築物の木材利用を促進していこうとする機運が高まり、木造建築市場にかつてない追い風が吹いている。また、脱炭素、SDGsといった観点からも、循環型資源であり、炭素貯蔵効果が期待できる木材を建築物に積極的に活用していこうとする動きが広がっている。中でも新市場として期待を集めるのが中大規模木造市場だ。人口減から新設住宅着工戸数が減少することが見込まれる中で、非住宅、中高層住宅や店舗・事務所をはじめ住宅以外の建築物での木材利用の促進を進め、脱炭素化、SDGsに貢献していこうという動きが活発化している。

こうした中で、林野庁は、2019年から「ウッド・チェンジ」というスローガンを掲げて、川下の木材需要を喚起する施策を展開する。住宅や非住宅、家具や日用品まで、様々なものを木に変えていこうという運動だ。「ウッド・チェンジ」では、非住宅、中大規模建築を重要なターゲットとして定める。現状、コンクリート造、鉄骨造がほとんどで、木造の割合はわずかである非住宅を木造にチェンジすることで、木材利用の拡大を目指す。

中大規模木造を建てやすくする法改正が進む

中大規模木造を建てやすくするための法改正も進む。

2022年10月、「脱炭素社会の実現に資するための建築物等における木材の利用促進に関する法律」(通称:都市(まち)の木造化推進法)が施行された。

「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(木促法)」の施行から10年以上が経ち、SDGs、脱炭素化といった観点から木材利用、木造建築に脚光が集まる中で、建築物への木材利用を促進する目的で、同法が改正され、都市の木造化推進法が施行された。民間建築物の木造化を支援するとともに、国・地方自治体の公共建築物の木造化を率先して推進する。

市場拡大のポテンシャルを秘めた
オープン工法の市場で技術開発が進む

中大規模木造市場拡大への期待が高まる中で、様々な事業者が、取り組みを活発化させている。中でも注目の分野が、2×4工法、在来軸組工法など、オープン工法による中大規模木造の取り組みだ。一般流通材を用いて実現できるため、地域の工務店などが新規参入しやすく市場拡大のポテンシャルは特に大きい。

MPWで2×4の中高層化と大空間創出を両立

2×4工法は、枠組み壁による強固なモノコック構造を積み重ねることで、中高層化しやすいという特性を持つが、一方で、均等に個室が並ぶ、集合住宅や老人施設などがメインで、広い空間を確保することは不得手と見られていた。しかし、この課題を克服する技術開発も進む。

建築及び木材製造業においてカナダ産木材製品の普及促進活動を行うAPAエンジニアード・ウッド協会は、面材を枠材で挟み込む構成により耐力が大幅に向上し、面内せん断力が高まる高耐力壁、ミッドプライ ウォール システム(MPW)を日本に導入し、戸建住宅をはじめ、中大規模木造建築において普及を目指す。2×4材とOSBなどで構成する間仕切り壁用のMPW1と、2×4材と2×6材、OSBなどで構成、壁をより厚くし断熱材の充填スペースを設けることで外壁用として使用できるMPW2の2つの製品を用意。MPW1については緑本「枠組み壁工法の手引き」及び「構造計算指針」に記載されており、MPW2については、(公財)日本住宅・木材技術センターと(一財)ベターリビング発行の評定書を取得。構造設計者が使用しやすいように、実験により性能値を明らかにしている。また、設計事務所などからMPWを使用したいという問い合わせがあれば、迅速に対応できるように、2×4コンポーネント工場などと連携し、MPW製造に対応できる拠点の整備、ネットワークづくりも進めている。

富士リアルティ・湘南乃工務店(藤沢市)が、藤沢市辻堂新町で建設した湘南地域初となる木造5階建中高層複合ビル(1階はRC造、2~5階は2×4工法)においてもMPW1が採用された。カフェ、保育園、エステサロンなどが入るため、オーナーの広い空間を確保したいという要望に応えるためだ。壁耐力15倍相当のMPWを2階~4階に採用することで、中高層化と各フロアにおける大空間の創出を両立した。2×4パネルの加工、MPW1パネルの加工は、三菱地所住宅加工センターが担い、一部で神奈川県丹沢産材の縦枠材も使用した。

東京芸術大学国際交流拠点として前田建設が増築工事を請け負った5階建て施設には、3階以上の鉄骨部分と木造部分の床にNLT(ネイル・ラミネイティッド・ティンバー)が採用された。製材品を小端立て(こばだて)にして積層し、釘や木ねじで留め付けたパネル状の材料で、マスティンバーの一種で、北米では100年以上前から利用されてきたが、近年は日本でも建物に木質感を醸し出し、意匠デザインの幅を広げる構造材として注目されてきている。2020年8月に日本ツーバイフォー建築協会から準耐火構造大臣認定がリリースされ準耐火建築物への採用が可能となった。現場でのサイズ調整が可能で、軽量であるため省施工、工期短縮にも寄与する。CLT床同様に長いスパンを構成でき、かつCLTに比べて費用が安価であることも強みだ。

APAエンジニアード・ウッド協会がゼネコンはじめ大手設計事務所やハウスメーカー、賃貸住宅事業者、プレカット工場などに対して行ったヒアリング調査では、「各事業者の声を平均すると、今後5年で中大規模木造市場は30%以上成長する」という回答結果が得られたとする。機運が盛り上がる中大規模木造市場へ2×4工法ならではの強み、MPWやNLTなどの差別化アイテムを訴求し、さらなる需要開拓につなげていきたい考えだ。

東京芸術大学国際交流拠点の増築工事では、3階以上の鉄骨造、木造の床部分にNLTが採用された
ビスダックジャパンが開発した「在来軸組パネル構法」は、柱、梁も含 めて一体化したパネルで、木造軸組工法の6工種すべてをパネル化しているため、1つの構法で構造躯体すべてを完成させることができる

「在来軸組パネル構法」を開発
運搬・施工効率を向上

在来軸組工法の分野においても、中大規模木造市場開拓を視野に入れた技術開発、提案が活発化している。

ビスダックジャパン(大阪府堺市、橋詰出社長)は、独自に開発した耐力壁「タフボード」を展開する。タフボードは、特殊な材料は一切使用せず、木質系面材、製材というシンプルな部材のみを組み合わせて高耐力を実現した耐力壁。柱間にはめ込み釘で留め付け、施工するだけで、在来軸組工法において壁倍率4・5倍の耐力壁を施工できる。2023年から、大阪公立大学と共同で、タフボードを活用した在来軸組の完全なパネル化の研究開発にも取り組み、タフボードや、独自に開発した接合金物などを組み合わせたパネルによって、在来軸組工法をシステム化した「在来軸組パネル構法」も開発した。

2025年4月、省エネ基準の適合義務化と合わせて、4号特例の縮小が予定されている。木造2階建て、200㎡超の木造平屋建ては、新たに構造関係規定などの図書の提出が必要になり、耐震性能確保においても対応が求められている。「在来軸組パネル構法」の構造計算のソフトなどを開発、オープン化することで、工務店などがよりスムーズに4号特例縮小への対応が可能になるように支援していきたい考えだ。

さらに、その先に見据えるのは中大規模木造市場だ。木造建築が中大規模化、中高層化することで、部材が多くなり、施工の負担が増える。加えて、数㎜の誤差の施工ミスが重大な建物欠陥につながりかねない。大工・職人の不足は深刻化している。工務店などが中大規模木造市場に取り組む際に、現場施工を担う大工・職人の負担を軽減するソリューションとして提供していきたい考えだ。

職人不足が深刻化する中で、現場施工の省力化の観点から、近年、在来木造、中大規模木造の分野でもパネル化への注目度は高まり、様々な提案が活発化している。しかし、パネル工法の大半は、柱、梁で組んだフレームの枠の中にパネルをはめ込むものであり、二段階の施工が必要になる。対して、「在来軸組パネル構法」は、柱、梁も含めて一体化したパネルであり一段階の施工で済む。さらに、床、壁、間仕切り、天井、小屋組み、屋根の木造軸組工法の6工種すべてをパネル化している。これは他のパネル工法にはない「在来軸組パネル構法」独自の強みであり、1つの構法で構造躯体すべてを完成させることができる。壁用のパネルには、外壁下地材や開口部材を施工した状態で搬入することも可能だ。

また、従来のパネル工法のパネルは、軸材の外側に金物が露出するため、搬入の際、平積みすることができず、運搬効率が悪かった。対して「在来軸組パネル構法」のパネルは、接合金物が軸材の中に内蔵され、露出しないように設計されており、平積みすることが可能で運搬効率を高められる。また、パネルのサイズを小さくすることも可能で、運搬や施工が行いやすい。パネル幅は450㎜~2700㎜、軒高については3000㎜~9000㎜まで製造可能だ。

使用するパネルの枠材をなくすことで材積を減らすことにも成功している。従来のパネル工法では、パネルを柱などに取り付けるために枠材が必要になり、この分の材積が増えるため、プレカット木造に比べてコスト高になる傾向があることが指摘されている。対して「在来軸組パネル構法」では、独自に開発した「タフトライ」という部材を活用することで枠材なしでも施工できるようにした。これは土台の四隅の入隅部分、柱と梁の接点の直角を簡単に確保できる三角定規のような形状をした専用部材で、パネル全体の強度を高めることで枠材をなくすことが可能になった。プレカット木造と同じ材積、コストに抑えることができる。

こうした強みが支持されて2021年以降、東京都・伊豆諸島などの離島で、宿舎建設などの建設において「在来軸組パネル構法」の採用実績が増えている。1度の海上輸送で済み、工期通りに簡単に短工期で建てられると引き合いが増えている。関東、中部、大阪などの都市部においても提案を強化している。

さらなる中大規模木造分野の開拓に向けて、「在来軸組パネル構法」と併用する専用部材の開発も進める。「中大規模木造では、わずかな施工の甘さが大きな歪につながる懸念がある」と、梁継手の補強に使用する梁受け材に用いる短ざく金物の代わりに、テーパー状ビスを用いて確実に胴付けを行うための専用の引き寄せ金物を開発中だ。また、接合金物が露出しないグルードイン・ロッド接合を適用し、柱頭、柱脚部の強度を高める技術開発なども進めている。

4号特例縮小を控え軽量化、高耐震化が課題に

4号特例の縮小を控え、建物の軽量化、高耐震化をいかに両立していくかが、中大規模木造建築においても重要な課題になっている。この課題に対し技術開発で対応を急ぐのが金物メーカーのタナカだ。

同社は、幅455㎜の狭小壁に対応した筋かい耐力壁「新・つくば耐力壁」のラインアップを拡充し、非住宅向けの提案を強化する。「新・つくば耐力壁〈K型〉」は、狭小耐力壁で高耐力を確保できるのが大きな特長で、900㎜モジュールに対応しやすい450㎜、455㎜、500㎜の3サイズをラインアップ。455㎜幅で相当壁倍率5.0倍(1mあたり)の耐力を確保した。効果的に配置することで設計の自由度を高めることが可能で、建築基準法で定める許容応力度計算を行うことにより採用できる。専用の柱脚金物や柱材・梁材への加工が不要で、施工性の高さも特長の一つであり、筋かいを取り付けるような感覚で施工が可能だ。


タナカの「新・つくば耐力壁」は、2階建てオフィスに採用されるなど木造非住宅物件にも広がる。この2月からは〈X型〉の新商品もラインナップし、提案を強化する。

前述したとおり、間もなく、省エネ基準の義務化と共に、住宅の高性能化に伴う、太陽光パネルの搭載、複層ガラスの採用などによる建物の重量化に対応し、4号特例縮小もスタートする。構造関係図書の提出や、構造計算などが新たに求められていく。また、近年、地震被害が頻発する中で、耐震等級3などの高耐震住宅へのニーズは高まっている。いかに高いレベルの耐震性を確保しつつ、設計プラン、間取りの自由度を高めることができるか。この課題を解消するのが「新・つくば耐力壁」だ。

発売当初は主に都市部の狭小地の3階建住宅への採用を想定していたが、平屋や2階建、共同住宅などへの採用も全国で広がっており、その割合が大きく伸長している。

実際に、2023年には四国のビルダーが請け負った中大規模木造、2階建てのオフィスで「新・つくば耐力壁」を採用。オフィス空間の袖壁に配置することで、すっきりとした奥行きのある空間や、大空間の一部に配置することで、必要な耐力を確保しつつ、スパンを飛ばした大空間を実現するなど、「新・つくば耐力壁」だからこそ実現できるユニークな中大規模木造を建設した。

また、2024年2月、かねてより要望の多かった、より高耐力で、狭小壁に対応した(室内壁用)の筋かい耐力壁が欲しいというユーザーの声に応え、「新・つくば耐力壁〈X型〉」を追加した。筋かいのみで相当壁倍率6.3倍~7.0倍(1mあたり)の耐力を確保することができる。構造用面材を張ることが難しい室内壁への使用に最適だ。

同社では、「新・つくば耐力壁」の最新カタログに、上下階どこにでも配置できる強みを生かし、柔軟な設計でインナーガレージ付きの狭小集合住宅を可能にする「メゾネットアパートプラン」や、「新・つくば耐力壁」を囲柱として、1階空間を駐車場として使用する「事務所・店舗プラン」などを掲載。中大規模木造市場の開拓へ提案をさらに強化している。

同社が2023年4月に販売開始した「勾配用オメガメタルブレース」も、中大規模木造建築において、付加価値を高め、差別化を図ることができる注目の製品だ。横架材間隔0.9m~3.0ⅿ(芯‐芯寸法)に対応し、構面サイズに応じた水平構面の床倍率および勾配屋根の屋根倍率(勾配によって屋根倍率は異なる)を確保できる鋼製ブレースで、国土交通大臣指定の確認検査機関であるハウスプラス確認検査の評価を取得。これは業界初となる。居室空間の付加価値創出、斜線規制への対応などで、勾配屋根設置のニーズは高いが、一方で、案件ごとに複雑な倍率計算が必要で、採用のハードルが高かった。「勾配用オメガメタルブレース」では、倍率一覧表が用意されているため計算が不要で、構面の長さと屋根勾配を入力するだけで、最適な寸法のブレースが選択できる計算シートも用意し採用のハードルを大幅に下げた。

同社は、「新・つくば耐力壁」と「勾配用オメガメタルブレース」を採用し、自由な設計と屋根剛性の確保を実現できるセット提案を進めている。この組み合わせにより、狭小3階建て住宅で大開口と、それに必要な屋根倍率を確保でき、従来よりも設計の自由度が増す。

また、「TKcafe」という架空のカフェプランをつくり、中大規模木造のモデルプランとして提案する。「TKcafe」では、勾配をつけた大屋根に、構造用面材ではなく、「勾配用オメガメタルブレース」を使用し屋根剛性を確保。構造用面材を使用するよりも大幅に軽量化することができ、プランの自由度の向上、柱脚金物設置の抑制によるコスト削減効果などが期待できる。また、構造用面材と併用することもでき、コストとのバランスを取りながら採用数を調整することも可能だ。

中大規模木造に合わせた
高耐久化、防腐防蟻対策も重要に

中大規模木造は、戸建住宅よりも規模が大きくなるため、雨風にさらされる個所、面積は大きくなり、その分、雨水浸入のリスクは高まると言える。温暖化の影響でシロアリの被害地域も拡大傾向にあり、中大規模木造建築に合わせた高耐久化、防腐防蟻対策が必要になる。

兼松サステックのニッサンクリーンAZN処理木材は、業界で唯一の乾式保存処理木材で、木造建築をシロアリや腐朽菌から守り、長寿命化に貢献する。注入処理装置内に木材を入れて、減圧・加圧処理を行い、非水溶性溶媒に溶かした薬剤を注入することで、注入処理装置内で溶媒を揮発させることで木材内部に薬剤のみを留める。水を使用していないため再乾燥は不要で、木材の加工、プレカット後にも処理することが可能。注入処理木材の寸法変化が極めて少なく、納品から施工までの時間も短縮できる。エンジニアリングウッドなど、ほとんどの木質材料に対応可能だ。

兼松サステックの茨城工場の乾式加圧注入処理装置では、最大巾2.2mの木材、最大18㎥に対応。大断面サイズの製品も処理が可能に

もともと住宅用構造材での採用が多かったが、近年は、中大規模木造市場への追い風もあり、中大規模木造建築の屋根の木材、外装としてアクセントとなる木製ルーバーや、窓枠に組み合わせる木製の化粧材外構、などに採用される事例が増えている。

また、中大規模木造市場の開拓に向け、営業推進部には、木構造を専門とする構造設計一級建築士のアドバイザーも在籍しており、大手ゼネコンや設計事務所などに対して、設計プロジェクトの初期の基本設計段階から、中大規模建築の木造化、木質化の技術提案を強化する。

さらに、同社は「高耐久の樹種であっても、きちんとした防腐防蟻処理をしなければ辺材部分は腐ってしまう」と警鐘を鳴らす。特に、集成材などでは、辺材の割合が多くなりやすいため積極的に呼びかけを行う。2021年に住宅設計者、建材購入者に向け、適切な保存処理を促す説明書となる「ヒノキ等の高耐久樹種であっても辺材は適切な保存処理が必要です」を発行。樹種ごとの辺材、心材別の耐用年数やヒノキの蟻害について写真やグラフを用いて説明する。

近年、海外情勢の不安定さに起因し、米国材、欧州材の価格が高騰、供給も不安定化している。この影響を受けて、特に住宅の土台に国産のヒノキ材を使用するケースが増えている。中大規模木造建築においても同様に、土台などにヒノキ材が使用されるケースは徐々に増えており、ヒノキ材にも防腐防蟻処理の必要性のアナウンスに注力している。

ホウ酸処理を施したOSBも
中大規模木造市場向けに販売強化

製材生産の世界最大手であるウエストフレイザー(カナダ・バンクーバー州)は、日本向けにホウ酸亜鉛入りOSB製品を開発、2020年9月、(公財)日本木材保存協会から登録製品として新規認定された。OSB製造工程で、接着剤など併せて防腐・防蟻処理を行うことで、ボードの表面だけでなく、製品内部にも均一にホウ酸系薬剤が入り、防腐・防蟻性能を発揮する。コロナ禍中の認定取得であり、出だしはスロースタートとなったが、中大規模木造市場などの旺盛な需要を見込み、仕切り直して提案、販売を強化していく考えだ。

ソフト面のサポートも充実
検査・保証で安心安全の提供も

中大規模木造市場が本格的に離陸し始める中で、技術・部材などのハード面のサポートだけでなく、保証により安全安心を提供するサービスなど、ソフト面でのサポートも充実してきている。

住宅では、2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」において住宅取得者の保護を明確にするため、新築住宅の構造耐力上重要な部分などに瑕疵があった場合、住宅事業者が10年間の瑕疵担保責任を負うことを義務付けた。しかし、瑕疵があった場合の修理等には住宅事業者の資力の有無が重要になることから2009年に施行された「住宅瑕疵担保履行法」において、住宅事業者に瑕疵担保責任が生じた場合の資力確保を義務付けている。同法では、保証金の供託、住宅瑕疵担保責任保険(以下、「住宅瑕疵保険」)の加入のいずれかによって資力確保を求めており、住宅瑕疵保険では、契約者である住宅事業者が瑕疵担保責任を履行した際の修理費や調査費などが支払われる仕組みとなっている。

しかし、非住宅では、同じ建物であるにもかかわらず、このような仕組みがなかった。工務店などから、非住宅においても、住宅同様、検査・瑕疵保険の提供を求める声は以前から少なくなかったが、住宅瑕疵担保責任保険を引き受ける保険法人としては対応することが難しかった。また、新築住宅市場が縮小していく中で、中大規模木造市場に新たに挑戦する工務店は全国的に増える傾向にある。こうした中で、非住宅向けの「検査」と「保証」で事業者をサポートしようとする動きが加速しているのだ。

住宅あんしん保証(住宅瑕疵担保責任保険法人)のグループ法人、(一社)住宅あんしん検査は、業界に先駆けて2021年11月、非住宅向けの検査・保証サービス「あんしん建物検査・保証制度」の販売を開始した。同制度の開発・販売に携わる赤西一宏氏は、「販売開始から3年で、販売実績は急角度に伸びている」と話す。

住宅あんしん保証のグループ法人、(一社)住宅あんしん検査は、非住宅向けの検査・保証サービス「あんしん建物検査・保証制度」を手掛ける。実績も急角度で伸びている

同制度では、検査員が工程に応じて3回(基礎配筋、上部躯体、防水)の現場検査を実施。住宅の瑕疵保険には、防水の検査は必須とされないが、非住宅向けでは防水の検査も必須とした。建築基準法で定められた基準レベルで、設計図書通りに施工されているかをチェックする。加入するためには3回の検査にすべて合格する必要がある。

「現場検査で何らかの指摘事項が見つかる割合は、住宅では約10%であるのに対して、非住宅では20~30%にのぼる。規模が大きくなり、確認すべき箇所が増えることが多くなることで、現場監督の目が行き届きにくいことが要因の一つと考えられるが、指摘を受けても、是正を図ることで検査に合格できる。施工品質の向上、関係者の意識向上も期待できる」(赤西氏)。

対象となる建築物は、木造、木造を含む混構造で、原則として延べ床面積1000㎡未満の事務所、店舗、保育園、診療所、介護施設、倉庫など。1000㎡以上の建築物にも対応しているが、実績ベースでは約500㎡以下のものが全体の約8割を占める。保証期間は完成引渡から10年。万が一、瑕疵が発生した場合の期間中の支払限度額は2000万円~5000万円。制度料の目安として、延べ床面積約123㎡の事務所で、支払限度額2000万円、免責金額10万円の場合、15万5500円(税別)、年間1万5500円となる(制度料は2024年3月1日時点)。

非住宅の分野では、「BtoB」のビジネスが主流となる。特に、発注者が入札などで施工者を選定し、初めて取引する場合において、コストだけでなく、会社の規模、施工実績などが考慮される。その際、施工者側で、この「あんしん建物検査・保証制度」を利用し、第三者のチェックを入れて検査保証を付けることで、発注者からの信頼を勝ち取る一つのきっかけとなり、第2、第3の受注につながるケースも出てきているという。

「令和4年 国土交通省建築着工統計」より、同社が、算出した非住宅木造建築物は、約1万5000棟の規模になるという。赤西氏は、「脱炭素やウッド・チェンジの流れが大きくなる中で、非住宅建築物の木造化は今後も加速して、これに伴い非住宅向けの検査・保証の需要はさらに高まっていくと見ている。非住宅木造の新スタンダードを目指して提案を強化していきたい」と話す。

日本住宅保証検査機構(JIO)の子会社であるJBサポートは、2023年4月から、非住宅向けの「JBS建築物検査・保証サービス」の販売を開始した。

対象建築物は延床面積3000㎡未満、地下を含め9階以下の店舗、事務所、介護施設、保育園、幼稚園、児童福祉施設、診療所など。木造(軸組工法、枠組壁工法、木質パネル工法(CLT工法))のほか、S造、RC造にも対応。木造とRC造などのハイブリッド構造の建物も対象となる。

保証期間は引き渡しから10年間。保証限度額は2000万円から最大5000万円まで任意で選択が可能。同サービスの参考価格(税込み)は、老人ホーム(木造2階建)、延床面積1460㎡の物件で、56万2540円(3回検査・保証限度額:5000万円)となる。

階数3以下の住宅瑕疵保険には、防水に関する検査が義務付けられていないが、「JBS建築物検査・保証サービス」では、基礎配筋検査・躯体検査に加え、防水検査も必ず実施する。

検査は設計図書通りに施工されているかをチェックするもので、検査に合格することが同サービスを利用するための必須条件となる。

日本住宅保証検査機構(JIO)の子会社であるJB サポートは非住宅向けの「JBS 建築物・検査・保証サービス」を23年4月からスタート。大規模建築物への対応など、対象の広さが大きな特長

グループ親会社のJIOでは、長年にわたり住宅分野での瑕疵保険業務の実績があり、雨漏りなどによる瑕疵リスクに関して豊富な知見、ノウハウを持っている。JIOのノウハウを生かして、非住宅向けの「JBS建築物検査・保証サービス」においても、検査を通じて瑕疵リスクを未然に防ぐための適切なアドバイスを行う。「第三者の検査・保証を受けることで、非住宅建築物を手掛ける工務店にとっては、品質向上、リスクヘッジにつながる。建て主にとっても、検査・保証により安心安全が担保されることは、大きな魅力になる」(同社)。

そのほか、非住宅分野においてもより高いレベルの省エネ化が求められる中で、「JBS建築物検査・保証サービス」では、断熱施工完了時の状況を確認する検査や、完工時の設備検査などのオプションも用意している。

材木屋の総合力を駆使し木造建築のDX化を推進

木材問屋事業、木材加工事業、建築事業、内装木質化事業などを幅広く展開し、2022年に創業100周年を迎えた長谷川萬治商店/長谷萬は、川上から川下まで一貫して対応できるその総合力を生かして中大規模木造を担う、住宅事業者やゼネコン、デベロッパーなどの事業者を総合的に支援しようとする動きを加速する。

中大規模木造建築には、大きく分けて、部資材の標準化・単純化により、合理化を図るアプローチと、加工性の高い木材の特性を生かして案件ごとに施主や建築家などの要望に応え、オーダーメイドで対応するアプローチの2つの方法があると言える。同社は、両方のアプローチともに対応できる体制整備を進めるが、特に近年は、他社に先駆けてデジタル技術を駆使し、後者のアプローチでの支援体制の強化に注力する。

長谷川泰治社長は、「木材の加工性の高さを生かして、美しいもの、楽しいもの、豊かなものを建てたいというニーズは高くなってきているが、それを実現するために、対応する事業者側は簡単ではない。『漠然とこうした建物を木造で建てたい』といった要望は少なくない。そこで我々は木造建築のDX化に注力している。建築プロジェクトの初期段階で3Dモデルデータを作成し、どうすればより合理的・効率的にプロジェクトを進められるのか、事前にシミュレーションを行ってからプロジェクトを進めている」と話す。

例えば、栃木県佐野市で施工を請け負った「サンテック新店舗兼倉庫」(315.9㎡)では、CLTを用いた複雑な屋根の加工などが求められたが、事前に意匠図面と構造図面の2Dデータを統合し3Dモデルを立ち上げた。モデルを立ち上げやすいソフト「スケッチアップ」で形状データを作成し、軸組との取り合いや、ボルト接合の位置、意匠上の納まりなどについて設計と協議して調整を行った。また、モデルデータをそのまま加工データとして流用、CADWORKSと互換性のあるファイル形式に変換し、ボルト孔加工やクリアランスなどの細かな調整を行った。いかに現場に効率的に運搬し施工できるのかも、モデルデータ上でシミュレーションすることで、運搬・施工の最適解も導き出し実行した。

また、東京・谷中の住宅密集地で建設したCLT住宅においても、納まりや施工手順などを3Dモデルで検討、確認し施工計画を立ててからプロジェクトを実行した。

モデルデータ作成などの業務を担う設計部の高木俊太氏は、「モデルデータがあることで、関係部門間で問題をその場で解決することができる。従来のように、部門間で行ったり来たりして時間を浪費するといったことを圧倒的に少なくできる」と話す。

こうした「木造建築のDX化」の取り組みは、総合力を持つ同社だからこそ進めやすかった面がある。各工程を内製化しており、それぞれどこにプロジェクト進行を阻害する要因があるのかを、部門間で連携して対応することで、課題解決が図りやすくなる。長谷川社長は、「中大規模木造では総合力が求められる」と話す。

また、前職がソニーのエンジニアであった長谷川社長の肝いりで、「生産改革」、「セル生産」を進めた成果によるところも大きい。「モデルデータの作成だけでなく、CAD設計、加工、物流、施工、あらゆる工程で、高い技術力、専門のノウハウが求められる。生産改革、セル生産の推進により経営効率化を図り、優秀な人材を適材適所に配置することができるようになり、技術力が蓄積されつつある。これにより、ゼネコンやCLTメーカーなどから信頼を得ることができ始めている」と話す。

国産材サプライチェーンの構築へ

中大規模木造は、戸建住宅に比べて、計画から完成まで期間が長く、山側から川下側まで、多くの事業者が携わる。それだけに、計画の初期段階からマネジメントする仕組みや、設計から資材調達、製造・加工、施工までを一気通貫で対応できる体制整備が重要になる。

長谷川萬治商店は、設計段階からプレカット業者や施工者が協議に加わり、設計に対する技術協力や助言を行う「ECI(アーリーコントラクターインボルブメント)」という考え方をベースに、木材関係事業者間で木材需要情報を早期共有することで、木材の安定調達・供給を実現するプラットフォームを整備して、木材サプライチェーンの合理化・円滑化を進める。「木造版ECI普及推進協議会」を立ち上げ、木造版ECIを推進するグループの連携体制を構築し、併せて、木材需要を川上、川中の事業者が中小工務店など川下を起点とするプル情報の連鎖で共有するプラットフォームシステムの整備を目指す。その成果として2023年3月、クラウドシステム「ウッドナビ」を立ち上げ、試験運用を開始した。「案件情報管理・共有」、「在庫・受発注管理」、「過不足材問い合わせ補助」の3つの機能により国産材サプライチェーン構築を支援する。

長谷川萬治商店/長谷萬では、建築プロジェクトの初期段階で3Dモデルデータを作成し、より合理的・効率的にプロジェクトを進めるため、事前にシミュレーションを行ってからプロジェクトを進めている

追い風が吹く中大規模木造市場において、事業者を支援する新技術・サービスなどが充実してきている。この時流に乗るためにも情報のアップデートが欠かせない。うまく使いこなせるかが事業の成否を分けそうだ。