LIXIL 窓選びに断熱性以外の選択肢を
地域の風土や気候とLCA計算を組み合わせた新提案
LIXILは窓の新方針として、断熱性能に加えて、地域に合わせ総合的に適した窓の提案を打ち出した。
環境負荷を低減する地域に最適な窓を「GREEN WINDOW」と宣言し、展開していく。
LIXILが、窓の新方針を打ち出した。住宅窓の選び方について、地球の未来を考えた新しい選択の仕方を提案していく。
住宅の熱の出入りの多くは開口部によるところが大きい。そのため断熱性能を軸とした住宅窓の選択が一般的になっている。
同社は断熱性のみにフォーカスを当てた住宅づくりが普及することで、利活用できる自然エネルギーが置き去りになり、日本古来の自然環境と共存する住宅のかたちが失われてしまうのではないかと懸念する。
家の造りから開口部が小さかった海外において景色や光を豊かに取り込める大開口窓がトレンドとなっている。また、海外では「断熱」だけでなく、「日射熱取得」、「日射遮蔽」、「自然風利用」、「昼光利用」など自然エネルギーを利用して快適な住宅をつくるパッシブ設計が浸透している。一方、日本の窓は本来、柱と柱の間の大きな開口部で、自然とつながり、日本の豊かな四季を感じるものであったが、断熱性を優先するあまり小開口、少数化の動きもある。
小林智 常務役員 サッシ・ドア事業部長は「日本は地域ごとに気候が違う。断熱性能は非常に重要で、高いレベルが必要だが、さらに地域に合わせて日射熱や採光なども考慮に入れる必要がある」と、日本でもパッシブ設計の考えをもとに、地域の特性に合わせて自然エネルギーを活用することが必要だとする。
例えば、冬(12~2月)の平均気温は北海道札幌市でマイナス2・3度なのに対し、福岡県福岡市では8.0度であり、必要な断熱性能が変わってくる。
日射量については同じ東北地方でも太平洋側と日本海側で大きな差があり、秋田県秋田市では冬の南面の日射量が171Wh/㎡なのに対し、岩手県盛岡市では335Wh/㎡と約2倍。地域に応じて日射取得と日射遮蔽の使い分けが必要となる。
大開口窓と同社のブラインドやシェードを組み合わせて利用することで、冬場は日射熱を多く取り込み暖房負荷を低減し、夏場は日射し対策で冷房負荷を低減する提案も行っていく。
環境負荷を低減し地域に最適な窓を
GREEN WINDOWと宣言
同社は、断熱をはじめとする基本性能と自然エネルギーの有効利用による省エネ性を持ち、さらに製品へのリサイクル材の使用やリサイクルしやすい構造により未来の地球環境に配慮した窓を「GREEN WINDOW」として定義し展開する。具体的には、基本性能として等級6以上の住宅に提案できる断熱性能を持ち、地域に最適な日射熱取得率を持ったもの。かつ、アルミ形材リサイクル率70%以上もしくは樹脂形材の社内端材リサイクル率100%のもので、分離解体のしやすさに配慮した窓を指す。
リサイクル素材の利用などによる自然環境への配慮を、ライフサイクルアセスメント(LCA)の計算により算出し、地域の日射熱取得率に合わせて最適な窓を提案する。
日本において建物のLCAは、評価・運用ルールが定まっておらず、計算自体も複雑なため活用が進んでこなかった。これに対し、同社はLCAを簡易的に計算できる方法を編み出した。以前から運用してきた外皮性能計算ツールの「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」の追加機能として来春より実装予定で、外皮性能シミュレーションのために入力したデータでLCAも算出する。住宅事業者はLCAの計算結果を用いて、環境意識の高い施主に、より説得力の高い説明を行える。「これからはLCA評価を用いて、オペレーショナルカーボンとエンボディドカーボンの両面から環境に良い窓を選ぶべき」(小林事業部長)と、地域によって異なるエンボディドカーボンとオペレーショナルカーボンの割合をLCA評価で見える化し、適した窓選びに役立てる。
10月に事業部内にサポートチームを設立、長年にわたってパッシブ設計や大開口提案を行なってきた技術営業が、事業者への考え方の説明や、事業者からエンドユーザーへ伝える際のサポートを行う。
GREEN WINDOWの商品として、まずは、樹脂窓の「EW」、高性能窓の「TW」を設定した。LCA評価に基づき、暖房の使用量が多くオペレーショナルカーボンの排出割合が大きい寒冷地には樹脂窓の「EW」、エンボディドカーボンの割合の方が相対的に大きい温暖地にはアルミリサイクル素材の活用でCO2排出減に貢献する高性能複合窓の「TW」を提案する。
エンボディドカーボン削減に向け
リサイクル技術の開発を推進
併せて、新たなフレーム素材の検討や、リサイクル技術の開発も進めていく。
同社はアルミリサイクル材の活用に力を入れており、23年3月期現在、6063材で74%のアルミリサイクル実績を有しており、31年3月期までにアルミリサイクル率100%を目指している。
また、樹脂についてもドイツのプロファイン社と協力してリサイクルを進めており、24年3月期で端材リサイクル率100%を達成する。今後は樹脂窓のリサイクル材が本格的に出回り始める20~30年後を見据え、さらなる資源循環を考えた樹脂窓の展開に向けて24年2月より樹脂窓の水平リサイクル実験を開始する。
さらに、アルミと樹脂がメインとなっているフレーム素材についても、新たな可能性を探る。例えば、断熱性能が高く環境への貢献度も優れている木製サッシについても視野に入れており、弱点であるメンテナンス性を改善するための研究を進めているという。
その他、同社の得意とするカーボン素材FRPによる極細フレームのサッシや、廃木材と廃プラスチックからなる循環型素材で現時点では舗装材に利用されている「レビア」のサッシへの活用の可能性も考えているそうだ。
[インタビュー]循環型社会に向けた+αの窓提案を
小林智 常務役員 サッシ・ドア事業部長
──環境配慮型の窓を「GREEN WINDOW」と宣言することにした経緯を教えてください。
窓について、正しい選択肢をわかりやすく伝えていくことが目的です。現在の住宅づくりにおいて、未来のことまで考えた窓の選び方が本当にできているのか、サッシメーカーとして、そうした提案をしっかりできていなかったのではないかという疑問符から今回の取り組みがスタートしました。
窓の機能として、断熱性能が重要な要素のひとつであることは間違いないのですが、風や光をどのように取り入れてコントロールするかといった視点が少し欠けていたのではないかと思います。断熱性能を追求するあまり、美しい景色や、採光などを犠牲にしているのではないか。例えば、断熱性能の高い窓として樹脂窓が人気ですが、温暖地などではそこまでの性能が必要ないことも多い。樹脂窓はどうしてもフレームが太くなってしまうので、場合によっては、樹脂窓に限定せず、眺望性や採光性のよい窓を提案していくべきではないかというのが当社の考えです。
最低限の断熱性能を確保したうえで、ライフサイクルを通しての環境への影響や、様々な窓の機能での選択肢を改めて提示し、そのうえで、どういった窓を選ぶかをユーザーに決めていただく。未来のことまで考えた時に求められるのはそういった窓ではないでしょうか。
極端な話、断熱性能だけを見るのであれば、窓をなくして壁にしてしまえばいい。しかし、採光も風の通りもない、長年住み続ける住宅にとってそれが最善なのか。私たちはそうは思いません。開口部の大きさと断熱性能は相反する部分ではありますが、これを両立させる難題にチャレンジしていくことがメーカーとしての使命だと感じています。広い開口部と断熱性能が両立できれば快適な暮らしを送れることは周知の事実です。そうした商品をこれまであまり提供できていなかったことが反省点であり、「GREEN WINDOW」として取り組んでいきたい部分です。
庭があり、その景色を楽しむ日本の文化を失ってはいけない。そのために開口部としてできることを追求していきます。
──「GREEN WINDOW」を代表する商品として挙げた「TW」、「EW」ですが、これまでも地域に合わせた商品提案を行ってきたのではないでしょうか。
今までも地域に合わせた提案は行ってきました。ただ、高性能窓の「TW」であれば、「ある程度断熱性能が取れて、フレームが細く開口面積の広い商品です」というような伝え方をしていましたが、なぜその地域にその性能が必要なのか、他の窓はどのようなものを使えばいいのかということに対しての答えをきちんと用意できていなかった。今回「GREEN WINDOW」という概念を設定することで、伝えきれていなかった環境配慮などの部分を強く訴求できればと思います。
断熱等性能等級による地域区分はあくまで断熱性能から見た区分です。これに加えて、循環型社会を実現するために、リサイクルなどによる環境配慮も考えていくのが「GREEN WINDOW」です。
この考え方の根幹となるのがLCAによる評価です。とても計算の難しい基準なのですが、まずは概略をシミュレーション算出できるようになったことで、住宅事業者の方々には、エンドユーザーの方への提案に生かしていただければと思います。例えば、北海道では暖房の使用による建物使用時の二酸化炭素、オペレーショナルカーボンの排出量が多いため、暖房効率をよくする樹脂窓の「EW」が推奨できます。一方で、3地域以南では、建物の建設から解体までの総和であるエンボディドカーボンの排出割合が相対的に高い。そのため、リサイクルが進むアルミを使っているサッシの方が環境にとってはいいものと言えます。これまで言葉で伝えていたリサイクル率の高さなどを定量的に示せるようになったことで、エンドユーザーの方に対して訴求力の向上になるのではないでしょうか。
また、少し趣旨がズレますが、台風の通過頻度が高い地域とそうでない地域、高地と低地など住んでいる場所の条件で窓選びは変わってくるのではないかなと。そうした点では多くの方に気づきを与えられるのではないかと思っています。
住宅を建てるにあたって、窓という建材はあまり選択が行われない。色や形は選んでも、窓自体の選択は行われないことが多いのです。最終的にはそのようなところまで変えていければと思います。すべての住宅事業者の方に対して訴求するのは難しいかもしれませんが、まずは、窓選びについてモヤモヤとした感情を抱いている住宅事業者の方に対して、アプローチをしていきたいです。
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