2023.11.29

建設業の人材不足 待たれる劇的な変革

全建総連は国会請願署名を呼びかけ 国交省は標準労務費の導入など検討

建設業の人材不足問題がますます深刻化している。こうした中、全国建設労働組合総連合(全建総連)は、持続可能な建設業の実現に向けて、100万人の国会請願署名を呼び掛けている。また、国土交通省でも待遇改善に向けた検討が進んでいる。

建設業をめぐる人材不足問題は、もはや一刻の猶予も許されないほどまでに深刻さが増している。総務省の「労働力調査」によると、2022年時点で建設業就業者のうち、55歳以上が約36%を占める。対して29歳以下は約12%であり、高齢化によって、今後ますます人材不足が深刻化していくことが予想される。

全建総連では、国会請願署名を呼びかけている

建設業者の中でも、とくに深刻な状況になっているのが大工と左官だ。大工は2010年の40.2万人から2020年には29.8万人にまで減少。10年間で15.8%も減少していることになる。左官は9万人から6万人へと、18.7%減少している。

こうした状況下で、建設業の有効求人倍率は高水準で推移している。2022年時点での全職業の有効求人倍率が1.16倍であるのに対して、建設躯体工事は9.31倍、建設は4.29倍。この数字を見ても、建設業における人材不足が特に深刻な状況にあることが分かる。

ここに追い打ちをかけるように、2024年4月から建設業でも残業時間の上限規制が適用になる。この2024年問題によって、社員の労働時間の圧縮を図っていくことも求められるのだ。

全建総連では、「劇的な変革を起こさない限り、状況は悪くなるばかり」として、建設労働者の雇用改善、担い手確保・育成に関する請願書を国会に提出するための署名の呼びかけを開始した。100万人の署名を目指しており──
・建設労働省の雇用改善、能力開発の推進及び向上を図るとともに、高い水準の賃上げに向けた環境整備に努めること。
・建築大工をはじめとした若手者等の入職・定着を促進し、建設業の担い手確保・育成を推進すること。
建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及促進を図ること。
──という3点を要望していきたい考え。2024年5月に署名提出集会を開催し、衆議院・参議院に各50万筆以上の署名を届ける予定だ。

全産業平均に満たない賃金
標準労務費とCCUSがカギに

建設業への新規入職を阻害する要因のひとつが給与問題だろう。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、2022年の全産業の年収の平均が496万6000円であるのに対して、建設業(技能労働省・男性)は451万3000円に留まっている。

高齢化が顕著な建設業

対して、建設業の2022年の労働時間は、全産業の平均よりも329時間も多いという調査結果もあり、「労働時間が長い割に賃金は安い」という状況に陥っているのだ。

全建総連によると、「バブル崩壊時に建設需要が急激に減少し、賃金水準も低下してしまった。その状況が今でも十分に改善されないまま続いている」(長谷部康幸 賃金対策部長)という。

こうした状況に対して国土交通省では、標準労務費の導入を検討している。受注者による不当な請負代金を禁止するために、標準労務費を明確にし、それを下回る請負代金で工事を発注した場合には勧告を行う。

その上で建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及を促進する。CCUSは、技能や経験に応じて賃金が支払われる環境を整備するもの。技能者が登録を行い、携わった工事などの履歴を管理しながら、レベル1からレベル4という4段階に分けて技能を評価する。

同省では、まずは標準労務費で最低限守るべき賃金水準を明確にした上で、CCUSによって技能レベルに応じた賃金が支払われる状況を創造していきたい考えだ。
全建総連でも、こうした国土交通省の動きを歓迎しており、標準労務費の導入が待遇改善に向けた大きな一歩になると見ている。

CCUSの登録技能者数は既に126万人を超えるが、その一方でレベル4の能力評価を受けている技能者は5万人弱に留まっている。今後は登録者の拡大だけでなく、より高いレベルの能力評価を受けた技能者の増加、さらには賃金を支払う元請業者側の理解を深めていくことも求められている。

2024年問題で社員大工化にブレーキがかかる懸念も

とくに若年層が建設業に入職したがらない理由のひとつが雇用環境の問題。未だにいわゆる「ひとり親方」が多く、雇用保険の問題などから、将来に不安を抱く若年層も少なくないだろう。

住宅業界では、大手ハウスメーカーや工務店などで社員大工化を進めようという動きが活発化してきているが、全建総連によると、「まだまだ一部の動きであり、どちらかと言うとひとり親方は増える傾向にある」(長谷部部長)という。

全建総連には、約62万人の建設業従事者が加盟しているが、そのうち「ひとり親方」は19万人だという。

大工についても、約30万人のうち正規雇用で働いているのは10万人以下とも言われている。

また、2024年問題によって社員大工化の流れにブレーキがかかることも考えられる。残業時間の上限規制によって社員化することで、労働時間の制約を受ける懸念があるからだ。

社員大工化の遅れは、雇用環境の問題だけでなく、技能伝承という点でも悪影響をもたらすだろう。

いずれにしても、建設業の人材不足問題が「待ったなし」という状況であることは間違いない。建設業の持続可能性を維持するためにも、相当な危機感を持って人材獲得のための活動を進める必要がありそうだ。