木質構造用ねじのJISが制定
最大2000億円の市場ポテンシャル、木造建築普及の後押しを期待
経済産業省が木質構造用ねじの耐震性等の品質や検査方法などを規定したJISを制定した。接合力や設計自由度の高い木質構造用ねじが使用しやすくなることで、木造建築物の普及に更なる拍車がかかりそうだ。
木質構造用ねじは、木材同士を直接接合する金属製のねじで、ねじ部の摩擦力により従来のくぎよりも接合力が高く、ボルトや金物の使用に比べて安価で、本数や接合箇所が自由で施工しやすいなどの特徴がある。一方で、これまで性能について明確な基準がなく、製品開発や規格開発が欧州を中心に行われていることから、耐震性について性能を担保することが難しかった。そのため、建築に使用する際には、その都度、部品を取り寄せて接合部のモデルをつくり、耐久性などについて実物試験を行う必要があり、その時間や手間、コストが木質構造用ねじを使うに当たってボトルネックとなっていた。
今回のJISは、欧州の規格を参考にしつつ、主に①繰返し曲げ回数や最大ねじりトルク等の機械的性質、②形状、寸法、③製品の呼び方、表示、報告について基準を設けた。
2022年3月に制定された JIS A1503(木質構造用ねじの試験方法)を適用し、地震に対する強度や耐久性に関する品質として、繰返し曲げ回数や、最大ねじりトルクなどの機械的性質の項目及びこれらの最低性能値を標準化。繰返し曲げ回数は、固定されたねじを規定角度まで曲げ、その曲げる力が規定値を下回るまで繰り返し行う回数のことで、回数が多いほど、曲げに対する耐久性が高いと分かる。最大ねじりトルクとは固定されたねじを中心軸の周りに回転させたときの最大回転力のことで、大きいほど地震のような外力に対して変形しにくいとされる。
形状、寸法については、木質構造用ねじの国内市場が草創期であることを勘案し、製造業者が自由に定めてよいとした。ただし、一定以上の品質を確保するために、長さや径(太さ)などの寸法については、製造業者がカタログなどに表示するねじの設計上の寸法に対して、許容差を±2・5%の範囲内であることとした。また、注文者(設計者、施工業者)などの取引当事者間の相互理解促進や取引の単純化のために、製品の呼び方や、包装に表示すべき事項、注文者から要求があった場合に試験報告書に記載すべき項目などを規定。これらの規定により、地震が多発する日本固有の国土状況に即した木質構造用ねじの品質向上や粗悪品の排除、建築物の設計者や施工業者などに対する信頼性の向上が期待される。
また、木質構造用ねじの活用により、コストの削減も見込める。例えば、非住宅建築で接合部に金物を使う場合、多くが現場ごとの特注となり、制作費がかかってしまう。(一社)日本木質構造用ねじ工業会の苅部泰輝代表理事(シネジック社長)は、「シネジックの社屋は木質構造用ねじでつくられているが、建材費を概算したところ、金物を使った際の2分の1から3分の1程度で収められることがわかった」という。
同工業会の調査では、現在の木質構造用ねじの市場は10億~20億円だが、国内で最大2000億円程度のポテンシャルがあるとみている。「今回のJIS制定を踏まえ、まずは1~3年後をめどに数値計算で接合部の強度を算出できるようにし、設計者が使いやすい環境を整備する。木造建築に適した接合部材である木質構造用ねじが使いやすくなることで、木造建築物の普及に貢献していきたい」(苅部代表理事)と木造建築物の拡大へ意欲を見せた。
木質構造用ねじの普及で中大規模木造に取り組みやすい社会へ
日本木質構造用ねじ工業会 苅部泰輝代表理事(シネジック社長)
従来、木造の建築現場で使われるねじは石膏ボード用など小型のものがほとんどでした。一方で、直近10年~15年の間で中大規模木造が増加しており、木造の接合部にダイレクトに使用できるねじを求める声が現場から上がってきました。
当時はそうした声に対応できる製品が日本になく、また、製品ができたとしても使用方法を確立しなければならないという課題がありました。であれば、我々がJISで規格をつくり、ダイレクトに接合できるねじの市場を整備しようと考えたのがJIS開発のきっかけです。欧米ではすでに中大規模木造の建築に適した大型のねじが流通していたので、日本でも早急に使用できる環境を整える必要があると思いました。
JISの制定に向けて、具体的に動き出したのは2016年頃ですが、それよりも前の2010年頃から市場調査などは行っておりました。木質構造用ねじの市場については、もともとがあまり大きくないということもありますが、近年の木造推進の動きもあり、ここ数年は2桁台のペースで拡大しているのではないでしょうか。流通量でいうと、4~5年前に比べて2~3倍程度になっていると思います。
これまで、木質構造用ねじを使いたい場合は、木質構造用ねじを開発している会社からねじを取り寄せて接合部の模型をつくり、試験データを基に設計をするという進め方になっていました。接合部の試験だけで1か月以上かかるため、設計者が使用するにあたって負担となります。JIS制定を踏まえ、まずは、数値計算で接合部の強度を算出できるように取り組みを進めています。机上で様々な接合部のパターンを変更することができるようになれば、設計面での時間や費用の削減効果は大きいはずです。また、試験を行うにあたっても、ノウハウがなければできないところがありましたので、そうした部分でも使用へのハードルが下がると考えています。
木質構造用ねじは、接合力やコスト、施工性など優れた点が多くあります。我々の最終目標としては、木造建築の普及による脱炭素などの社会課題の解決のため、今回のJIS制定により木質構造用ねじが利用しやすくなることで、より多くの設計者の方に木造建築に挑戦してみようという流れを作り出せたらと思います。
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