住宅高性能化でニーズが高まる、全館空調システムの新天地
相次ぐ商品提案、販売提案
高断熱・高気密住宅の普及を受けて勢いづくのが全館空調システムの市場だ。
住宅の性能向上に合わせて高性能、高効率化が進み、これまでの全館空調システムとは一線を画す製品が次々に登場している。
今、全館空調システムの市場が大きく変化しようとしている。
HEAT20が公開している「暖房方式・外皮性能別のNEB・EBチャート(ぼんぼりの図)」では、外皮性能ごとの最低体感温度と年間の暖房負荷が示されているが、これによるとH28省エネ基準の住宅において部分間歇運転で暖房制御を行った場合から年間暖房負荷を上げずに全間空調を稼働するにはG2水準以上の住宅の断熱性能が必要になる。反対にG2水準の住宅でも、部分間歇運転では最低体感温度が14度まで下がってしまうため、G2水準の断熱性能を持つ住宅と全館空調システムがセットの提案が増えているという。
こうしたなか、満を持して全館空調システム市場への参入を発表したのがLIXILだ。同社は、HEAT20のG2水準以上の住宅に向けた全館空調システム「エコエアFine」を23年6月より販売開始、9月時点で160棟の物件で見積りの問い合わせが入っており、受注件数も50棟を超えている。
パナソニック 空質空調社は、19年から主に4地域以南の戸建て向けにルームエアコン1台と熱交換気ユニットを組み合わせた全館空調システム「with air(ウイズエアー)」を販売している。ZEH基準を上回る高気密・高断熱な住宅が増加傾向にあることに加え、近年各社のTVCMなども増えたこともあり、商品の認知度が高まったのではないかとしており、問い合わせの件数は増加傾向にある。また、全館空調システム全体として関心が高まってきており、施主からの全館空調システムを採用したいとの要望で、どのような全館空調システムがあるのか比較したいという工務店からの問い合わせも増えているそうだ。全館空調開発営業部の鈴木康浩部長は「全館空調システムは常に一定のエネルギーで動くため、導入する家庭が増えれば、地域の電力負荷が一定の時間帯に集中するなどの課題解決の一助にもなりうるのではないか」と、全館空調システムは将来性の高い製品だとし、同社の展示会でも昨年秋から大々的な展示を行い、提案を強化している。
また、キムラ(北海道札幌市、木村勇介代表取締役社長)は、1階の全室床暖房と全館空調システムを掛け合わせた「air volley(エアボレー)」を販売する。もとは蓄熱暖房機を主な商材として販売していた同社だが、電力不足などを背景に、住宅事業者などからヒートポンプを利用した暖房機器をつくってほしいとの声があり、開発を始めた。
15年に販売を開始した当初は、1階のみをエアボレーで空調し、2階はビルトインエアコンや壁掛けエアコンで対応していたが、17~18年頃から全館空調システムに対する機運の高まりを感じ、エアボレーのシステムで全館空調を行える製品の研究を進めた。現在は、コストなどのニーズに対応するため、1階のみにエアボレーの空調機能を使う「エアボレー+2階壁掛けエアコン」、1階はエアボレー、2階はビルトインエアコンを併用し全館空調する「エアボレー+2階ビルトインエアコン」、2階にもエアボレーの空調効果を利用する「エアボレープラス」(エアボレー+2階壁掛けエアコンを使用した簡易型全館空調)、「エアボレーネクスト」(全館空調)の4プランで展開しているが、「エアボレー+2階壁掛けエアコン」以外の全館空調の依頼が増え、受注の半数程度になっているとする。
一方、メーカーである三菱電機と研究、連携を図り、95年に全館空調システム「エアロテック」を導入したモデルハウスを発表以降、28年にわたり普及と機能の拡充に取り組んできたのが三菱地所ホーム。現在、同社の新築注文住宅には標準仕様で「エアロテック」が取り付けてあり、直近10年間の新築住宅のシステム採用率は8割から9割で推移している。
19年からアライアンス契約での外販事業も行っているが、第一弾の提携先である宮城県の北洲ではエアロテックの採用率が右肩上がりで、22年4月~3月の採用実績は前年の倍近くになっているという。
各社が展開する全館空調システムは、それぞれの技術により快適な環境づくりを競い合っている。LIXILのG2水準以上に的を絞った低容量・低風量、三菱地所ホームの近年の気候変化を踏まえた冷房・除湿自動切替機能、パナソニック 空質空調社の空気清浄などだ。また、温熱環境は住宅の断熱性だけでなくプランなども大きく影響する。しっかりとシステム計画を行うことは省エネ性にもつながり、各社が持つノウハウが力を発揮する場面と言える。
LIXILはこれまで、95年に開始した高性能な独自のSW(スーパーウォール)パネルと高断熱サッシ・ドア、計画換気システムのSW工法を中心に、高性能住宅の普及に向けた取り組みを続けてきた。その中で、かつては施主任せだった空調設備の選択が一次省エネ計算の関係から住宅事業者側の設計範疇で行うようになり、事業者が空調提案による快適性と空調負荷低減の両立に奮闘する様子を見て、今後は空調まで含めた提案が必要になると考え、5年前に全館空調システムの開発をスタートした。
「エコエアFine」は、大きく3つの特長を持っている。
そのひとつが、G2水準以上にターゲットを絞っていること。高断熱住宅向けにターゲットを絞ったことで、低容量、低風量を実現。風量は500~700㎥/hとなっており、他社の全館空調システムの約4分の1程度としている。空調の気流感を苦手とする人は多いが、低風量のため気流を感じることはほとんどない。本体サイズは換気と空調が一体となって柱1本分程度で、冷房の出力はルームエアコン1台相当の約4kWだという。低風量のためダクトの内径が小さく収まりもよい。「3年前にターゲットの住宅をG2水準以上と決めた際は、販売の間口を狭める可能性があり、重い決断だったが、前提を明確にしたことで高断熱住宅に最適な全館空調システムを実現できた。住宅市場も変化し、今ではターゲットをG2水準以上にしたことは正しい方向性だったと感じている」(ZEH推進商品開発部 澤村亮一グループリーダー)と、住宅の高断熱化のなかでタイムリーな発売となった。
二つ目の特長が、「邸別空調負荷診断」による空調負荷低減提案だ。住宅を空間ごとに分け、夏は日射遮蔽を考慮して朝、日中、夕方の3つの時間帯で、冬は外気温が最も低くなる明け方の負荷率(冷暖房負荷/能力)を測定する。住宅の設計初期段階に、住宅事業者が記入するチェックリストなどを踏まえて、負荷率が100%を超える空間には、日射遮蔽物の提案や窓の性能のアドバイスを行う。空調設備の効果がデータで見えるため、住宅事業者と施主が安心して全館空調システムを導入できる。空調の負荷診断として空調シミュレーションを外注で行うと100万円近い費用が掛かることもあるが、同社は要点を押さえつつ通常より簡略化した計算方法を開発、全棟で運用できる仕組みを確立しており、住宅事業者からは「負荷診断だけでも利用したい」との声があるそうだ。
三つ目が「循環切替システム」。暖房時には冷気の溜まる空間下部から、冷房期には熱気の溜まる空間上部から給気を行い、再空調することで室内の温度差をできる限り減らし、快適性を向上した。
また、空調ユニット内の熱交換器やダクトには空調を使用していないときにも換気システムの空気が常時流れるため、カビの心配が少ないこともポイントだとする。
三菱地所ホームの「エアロテック」の特徴は、省エネ性能と部屋ごとの温度調整にあるとする。特に、部屋ごとの温度調整では、手動調節のほか、各部屋にあるルームコントローラーに内蔵された温度センサーが部屋の温度を感知し、部屋の温度に合わせて自動で風量を制御するため、日当たりなどによる温度のばらつきが起きず快適に過ごせることがポイント。
また、近年、梅雨時期に気温の高い日が増えたことから、冷房と除湿のどちらで設定するべきか迷うというユーザーの悩みが生じるようになった。こうした課題を解決するため、21年3月に「冷房・除湿自動切替機能」を追加。1部屋でも室温が高く、冷房が必要な場合には「冷房」運転モード、すべての部屋で室温がそれほど高くなく、湿度が高い場合には「除湿(再熱ドライ)」運転モード、すべての部屋で室温も湿度も低い場合には「温調オフ(換気のみ)」運転モード、というように3つのモードの切り替えを自動で行う。また、新型コロナウイルスの流行以降、ウイルス除去機能の注目度は高いそうで20年10月に医療機器メーカーの日機装の深紫外線LEDを採用した「エアロテック-UV」は大きな武器になっているという。
住宅メーカーとして長年にわたり全館空調システムを取り扱ってきた同社だからこその強みとして挙げるのが、設計・施工のノウハウだ。住宅の構造や、施主の希望する家具の配置などを考慮に入れて、設計者が間取りのプランと並行して全館空調システムの計画も立てていく。施工においては、ダクト計画図に基づき、たるみやつぶれが少ない硬質なグラスウール成形ダクトを使用することで、現場で設計と異なる配管が行われることを防ぐ。
部屋ごとの風量制御や、曲がりづらいダクトを使うことによる圧力損失の軽減によって、必要最低限の風量で家を快適な温度に保ち、高い省エネ性能を実現、21年10月にはエネルギー消費効率(COP)を従来の4.15から4.43に向上し、当時販売している床置き型全館空調システムとして業界トップの省エネ性能を打ち出した。「住宅の断熱性能が今ほど高くなかった28年前から省エネ性能を追求してきたからこそ、他社に追随を許さないほどの省エネ性と搭載率を誇ることができた」(新規事業創造部エアロテック外販事業グループ 舘野裕志グループリーダー)と省エネ性能にはこだわりを持ち、同社の坪数のボリュームゾーンと断熱性能に鑑みて、メーカーである三菱電機に最も効率よく使えるようにエアロテックの能力をチューニングしてもらうなどの工夫を行っている。
引き渡し後の10年保証や、定期メンテナンス、本体が寿命を迎えた際の取替の体制を整えており、三菱電機と常時連携を取りながら、設計から販売後のサービスまでを一気通貫で実施する。
パナソニック 空質空調社の「ウイズエアー」は、空気質にこだわりを持った商品。部屋ごとの温度調整機能に加え、0.3㎛の粒子を99.97%以上集じんするHEPAフィルターを内蔵することで、家全体の空気清浄を行えるようにしている。
メンテナンス性にも配慮している。例えば、エアコン内部は掃除ロボットが毎日清掃するため、半年に一度ネットに溜まったごみを捨てるだけでよい。また、将来の設備交換や故障などで全館空調システムを新しいものに取り換える際は、エアコンに指示を出すコントローラーであるIAQポータルが交換後のエアコンに適したソフトウェアに自動更新する。そのため、エアコン(専用品番)を取り換えれば、常にその時の自社最高性能の全館空調システムを体感することができる。
また、特長的なのが、全館空調システムに3つのプランを用意している点だ。部屋ごとの温度調整が行える「GRAND」、フロアで温度を均一化する「FREE」、フロア制御と部屋ごとの温度制御を組み合わせた「CAST」があり、住宅や家族のスタイルに合わせて選択できる。例えば、普段使わない部屋がある場合には、部屋ごとの制御ができるタイプを選び、温度調整をすることでエネルギーの無駄をなくすことができる。
23年10月から販売している新製品では、エアコンのオン/オフの頻度を抑制し、高効率運転を可能にする制御システムを搭載し、従来に比べて20%の省エネ性能を実現した。オフ回数が減ることで除湿も効率よく行え、一般的なルームエアコンよりも平均湿度を抑えられる。壁の上部からの吹き出しで温度差の生まれやすい暖房時でも、風量と温度のバランスを計算した高効率運転で、不快にならない程度の低めの吹出温度で上下間の温度差を軽減する。
24年春には、オプションの加湿ユニットを発売予定。遠心力で水を微細化、破砕する「遠心破砕方式加湿ユニット」の採用で、通過風量とモーターの回転数により加湿量のコントロールができるようになる。自動給排水なので手間なく冬場の加湿ができる。また、空調、加湿ユニットともに、ルーターを繋げばスマートフォンでの操作が可能なため、就寝前に湿度を好みに設定するなどの調整が簡単に行える。
キムラの「エアボレー」は、最大の特長が1階の全室床暖房と空調を同時に行える点だ。ヒートポンプ式の空調機を1階に床置きし、チャンバーボックスとダクトを床下に伸ばす。1階の床部分に設ける吹出口とダクトを接続しないことで、床全体が温まり床暖房の働きをする。一般的なルームエアコンを使用した場合との比較では、脱衣所が16.8度、居間が19.1度の床温度だった住宅において、エアボレーを使用した場合、脱衣所で24.8度、居間で25.9度となり、床全体の温度上昇に加え、部屋間の温度変化を減少できていることが分かった。
ダクト配管により基礎間での温度の差をなくし、常に床下に空気が流れているため、結露やカビの心配がなく、シロアリ対策にもつながるなど副次的な効果も見込める。
最新の全館空調システム「エアボレーネクスト」では、2階の空調は床下で温めた空気をダクトとファンで吸い上げて天井から吹き出す。温度が低くなりやすい1階の床部分をしっかり暖房することで、上下間の温度差がほとんどなく暖房の効きが良いとし、キムラの本社がある札幌など暖房での需要が高い地域に適しているという。
また、換気においても排気ダクトを1本床下に伸ばし、1階と2階に1カ所ずつ給気口を設置すれば全館の換気ができるため、換気システムのダクト配管を省施工で行える。
22年9月からはオプションとして室内機内蔵型イオン発生ユニットを発売、筒状の電極表面に張り巡らされた約2㎜角のメッシュで400か所から高濃度イオンの面状放電を行う。
全館空調システムは、設置した部屋のみで完結する単体の冷暖房機と異なり、家中にダクトを張り巡らせ家一棟の温熱環境、空気環境をコントロールするもの。
それだけに単に機器を販売するだけでは普及は望めない。ユーザーのみならず住宅事業者、また、施工者がシステムの特性を理解し正しく使う、施工することが求められる。さらに単体機器のように身近な寿命で買い換えられるものではないため、持続的なメンテナンスも重要となる。
各社はこうした特性を踏まえながら、さまざまな販売戦略を打ち出し、その普及に力を入れている。
三菱地所ホームの「エアロテック」は、もともと同社のみが扱う商品だったが、19年4月からは「エアロテック・アライアンス事業」として、アライアンスを組んだ住宅事業者に外販を行う事業を開始している。
アライアンス事業では、機械の提供だけでなく、これまで行ってきて有効だった営業ツールの共有や、契約会社ごとの独自のカタログ製作、合同での営業研修なども行う。「全館空調システムは売って終わりでなく、住宅と同じだけ使い続けられる商品でなければならない」(舘野グループリーダー)とし、設計の仕方や販売後のアフターメンテナンスなどもパッケージ化し、総合的にサポートする。
第一弾として契約を締結した北洲は、東北を中心に住宅事業を展開している会社。「エアロテック」以前にも全館空調システムを取り扱っており、普及させたい思いを持っていたが価格の高さからなかなか進まなかった。もっといいものはないかと探す中で、「エアロテック」と出会い契約に至った。北洲では、採用数の増加とともに、施主からの評判の高さから「エアロテック」に対する社員の意識も変化してきているという。社員教育も進み、自信をもって商品を売れる環境が整ったとし、23年9月からの新年度では岩手県以外の事業エリア(宮城県、福島県、栃木県、埼玉県)において「エアロテック」を標準仕様に設定、今後は年間100棟を目標に取り組む。また、寒冷地の岩手県においても「エアロテック」を採用した施主から「電気代が高くなかった」との声が挙がるなど感触が良いそうだ。
現在、中京エリアでの販売拡大のために、愛知県を中心に住宅販売を行うアライアンスパートナーを探している。
LIXILの「エコエアFine」は、SW工法加盟店だけではなくG2水準の住宅を扱う事業者に広く販売していく。
「最初にプロトタイプの販売を行った際は住宅事業者の反応が良くなかった。そこで数台を無償提供し、『エコエアFine』を導入した物件を建ててもらったところ、実際に空調の効果を体感した事業者の方が次は自分のところでも採用したいと即決してくれることが多かった」(澤村グループリーダー)と、効果を体感してもらうことが一番の販促になるとし、体感会を中心に訴求を行う。2030年に全館空調システム市場の中でシェア10%を取ることを目標にしているが、SW工法加盟店以外の大手のビルダーからの反応も上々で、実現への手ごたえはあるという。
パナソニック 空質空調社は、22年4月より「IAQ検証センター」を稼働。設備機器メーカーながら恒温恒湿層の中に試験住宅を設置することで、より定量的な全館空調の検証試験が可能になったとしている。今後もパナソニックグループ全体の技術力を生かしながら、市場に合った全館空調システムを開発していきたいとする。
キムラの「エアボレーネクスト」は、吹出口が床面にあるため、1階の天井を下げずに使えることで設計士からの評判が高い。吹き抜けのある住宅であってもダクト配管を工夫することで採用できるケースもあるといい、住宅設計の自由度の高さが訴求ポイントとなっている。
施工を行う住宅事業者には、窓の性能など住宅の断熱性能の部分から指導を行う。マーケティング部新商品開発課の高井誠課長は「大手企業ではないからこそ、住宅事業者や施主に寄り添った細やかな対応を心がけている」とし、施主の要望に合わせたプランニングを住宅事業者に提案する。また、換気システムや断熱材については商社機能を持ち合わせているため、全館空調システムと合わせて幅広い商品を案内できる点も強みだとする。
断熱化の動きの中で、高性能住宅のメリットとして全館空調システムが提案されたり、テレビCMの放送がされるなど、一般消費者から注目度が高まり、全館空調システムには強い追い風が吹いている。
一方で、全館空調システムは、一度入れたら長期的に渡って使い続ける必要がある商品。住宅の長寿命化で、長く快適な暮らしをおくることが求められるなか、全館空調システムの提案はさらに加速しそうだ。
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