2023.10.2

特長やメリットを前面に各社各様のプロモーションを展開

断熱材はそれぞれに特徴を持ち、これまでは仕様部位などにより、ある程度の住み分けができていたが、高断熱化が進むなかで断熱仕様が変わり、断熱材の使用量も増えている。一方で、住宅事業者は断熱化を気にしてこなかった事業者から、すでに等級7の取り組みを進めている事業者まで幅広く、それぞれニーズは異なる。

こうしたなかで断熱材各社は、どのような戦略を描いているのだろうか。

等級6でも7でもない「等級6”+”(プラス)」を前面に打ち出したプロモーションを展開するのがマグ・イゾベールだ。

「等級6“+”」の提案を勧めているマグ・イゾベールでは、「付加断ボード」を使った付加断熱の採用も選択肢として示している

上位等級が設定されて以降、住宅事業者からは「今後どのレベルを目指すべきか」という声が多く出ている。最高等級である等級7の実現にはコスト、費用対効果、技術的な難易度などさまざまなハードルがある。特に全国で付加断熱が必須になることは大きな違いだ。一方、等級6までであれば5~7地域で高性能グラスウールの充填断熱だけでも対応が可能であり、従来の延長線上で考えることができる。そこから等級7の間にワンクッションを置くというのが「等級6”+”」の一つの考え方だ。

もう一つ重要なのが、実際に建設した住宅がどのような住宅なのかということだ。等級6を24時間全館空調に必須な断熱レベルと位置づけ、そこに少し「+(プラス)」することでより少ないエネルギーで快適な暮らしを実現することができる、つまり一番コストパフォーマンスが良い断熱レベルを「等級6”+”」と、「まず、ここを目指してみませんか」と打ち出しているのである。「+」には付加価値がプラスされるという意味合いも込めている。具体的な「等級6”+”」の目安は5~7地域でUA値0.4前後と、等級6の同0.46を少し上回るレベルだ。

昨年11月から等級6・7に関するセミナーを実施してきたが、今年は特に「等級6”+”」にフォーカスし、4月に施工面、7月に提案面のセミナーを開催した。

住宅事業者からの「等級6”+”」に対する反応は上々で、その考え方は徐々に市場に広がりつつある。「どのレベルまで取り組むべきか多くの住宅事業者が持つモヤモヤ感への一つの回答になるのではないか」(魚躬マネージャー)とみられる。

北海道や東北エリアという寒冷地において高性能グラスウール断熱材「太陽SUN」でトップシェアを誇るパラマウント硝子工業は、寒冷地での実績の多さを強みに、温暖地での等級6・7といった上位等級に対するニーズに応えようとしている。

その中心商品となるのが、フラッグシップ商品の「太陽SUNR」だ。同商品は「太陽SUN」の上位製品で、防湿層なしのいわゆる”裸”のグラスウール断熱材。

パラマウント硝子工業では、シェアが高い寒冷地での実績の豊富さを強みに、防湿層なしの「太陽SUNR」の提案を温暖地でも展開。関連の副資材も拡充

その施工には防湿気密シートを別張りする必要があるが、別張りは壁内に隙間ができにくく、その隙間の確認もしやすい、筋交いなどの施工がしやすいといった断熱・気密に対する施工精度のメリットもある。寒冷地ではそうした防湿層なしのグラスウール断熱材+別張りの防湿気密シートによる施工が一般的であり、同社は寒冷地で普及するこの仕様を温暖地でも広げていきたい考えだ。「寒冷地以外の地域では、これまでの等級4までであれば「太陽SUNR」は不要であったかもしれないが、上位等級を目指すうえでは大きな力を発揮する」(雨田祐一代表取締役社長)と「太陽SUNR」の拡販に力を入れていく。

「太陽SUNR」を温暖地で普及させていくにあたり、必要となる商材が別張りシートなどの気密部材だ。同社では気密関連部材など周辺部材を見直し、断熱+防湿気密をセットとして提案していく。これまでも気密関連部材は取り扱ってきたが、あらためて整理し、商品力の強化、カタログなどの整備を行った。

温暖地で「太陽SUNR」を展開するにあたり、新たにラインアップした気密関連部材が可変調湿気密シートの「太陽SUNR調湿すかっとシートプレミアム」である。高温多湿な状況であることを意識し、夏に壁の中で結露が起こる”逆転結露”対策となるもので、同商品は低湿時は室内から壁内への湿気の移動を防いで冬型結露を、また、シート表面の湿度が高くなると透湿機能が働き壁内の余分な湿気を室内に逃がして夏型結露を防止する働きをする。関東以西の販売展開において、「住宅事業者が地域の特性を踏まえた提案の幅を広げることができ、差別化につなげることができる」(雨田社長)と、「太陽SUNR」と可変調湿気密シートとのセットで提案を強く推し進めている。

等級6への取り組みについては、2019年に福島県須賀川市の本社・長沼工場に建設した「パラマン館」が大きな武器になっている。屋根・天井、壁、床に「太陽SUNR」を使用し、UA値0.30を実現した高性能住宅だ。グラスウールの特徴などを紹介するさまざまな展示を行うが、やはり一番はグラスウールのみでの高い断熱効果を体感できることで、大きな説得力となっている。

繊維系では、ロックウールやセルロローズファイバーの動きも見逃せない。

ロックウール断熱材を展開するJFEロックファイバーは、居住者の快適性、健康面、コスト面などの視点から、等級5・6の対応支援に力を入れている。省エネ基準適合義務化を前に、等級5への取り組みが必須となりつつある。その対応を進めるなか、一歩先の等級6の相談について適宜個別に対応を進めている。

JFE ロックファイバーでは、「アムマットプレミアム」などのロックウール断熱材でさまざまなバリエーションを展開しているが、今後、新商品の発売も控える

同社の主力商品は「アムマット プレミアム」と「アムマット」。違いは表面の防湿フィルムで、「アムマット プレミアム」は50μ以上のフィルムを用い結露対策を強化した商品だ。

これら商品でさまざまなバリエーション展開を行っているが、年内に商品ラインアップを見直す予定。具体的には、等級5誘導仕様基準向けに天井用に熱抵抗値4.4㎡・K/Wをクリアする「ロクセラム サイレント」を、さらに壁用に2.7㎡・K/Wを満たす商品を来年1月から順次発売する予定。仕様ごとの商品選択をしやすくすることが目的で、既存品番の統廃合を行い、新商品を追加することで販売強化を図る。

一方、等級6以上への対応としては、低熱伝導率・高熱抵抗値の高性能商品の開発を進めている。また、「鍵となるのは壁厚。105㎜では性能が満たないため、充填と外張りを組み合わせる付加断熱工法での対応も求められる」と、外張断熱材メーカーとのコラボレーションも検討を進めている。「等級6・7では使用部位ごとに断熱材の種類を考えてお勧めすることが必要になる。そのなかでいかにロックウールを使っていただくか、これまでとは違ったアプローチが必要になる」(品質保証室 濱田康寛係長)と、新たな取り組みを加速させる。

ロックウールは、耐火、耐水、吸音などが同断熱材ならではの特長だが、製造エネルギーが他繊維系断熱材の2分の1程度と少なくてすみ、100年持つ耐久性も兼ね備える。「省エネ性はもとより、製造時、施工した後も全体としてCO2排出削減に寄与する」(濱田康寛係長)と、SDGs時代に求められる特長も兼ね備えることを強く打ち出していく。

王子製袋のセルロースファイバー断熱材「ダンパック」は寒冷地の天井断熱などで多くの実績を持つ。セルロースファイバーを吹き込むという工法のため、例えば天井であれば厚く吹き込むことで熱抵抗値を高めることができることが大きなポイントだ。高断熱化が進むなか、グレードアップを目的にハウスメーカーから小屋裏吹き増しの問い合わせが増えているという。

一方で、壁は壁厚で吹き込む量が決まるため、上位等級への対応は、地域によってポリスチレンフォーム断熱材やフェノールフォーム断熱材を付加断熱として使用することになる。日本セルローズファイバー工業会では外張断熱にスタイロフォームを使った付加断熱で「30分防火構造」の認定を取得している。

王子製袋のセルローズファイバー断熱材「ダンパック」は、天井に厚く吹き込むことで熱抵抗値を高めることができる

吹き込みという特殊な技能が求められることから、同社は施工込みの販売を行っている。住宅事業者にとっては施工手間を増やすことなく、施工品質を確保できることが大きな魅力だ。登録施工店で組織する「全国ダンパック会」で年2回の講習会を行うなど施工品質の確保、向上につとめている。

「ダンパック」は、熱伝導率0.040W/(m・K)という性能だけでなく優れた耐火性能、吸音効果、撥水性などを併せ持つ。さらに新聞古紙を主原料とするリサイクル商品であるとともに製造時の消費が少ないなど環境負荷低減に貢献する商品であることも大きなポイントだ。「SDGs達成にも貢献することができる」(西川健・営業本部 ダンパック販売部部長)ことを強く訴えている。