次世代を担う高付加価値ルーフィング
職人高齢化、温暖化などに対応
住宅の屋根を浸水から守るルーフィング。ルーフィングと言えば、かつては原紙にアスファルトをしみこませたものが一般的であった。しかし、社会環境や住宅市場が変化するなか、アスファルトに加え樹脂などを添加し性能を向上した改質アスファルトルーフィングの勢いが加速、構造や素材の工夫でバリエーションが豊かになっている。さらに、最近ではアスファルトを使わない高分子ルーフィングも台頭している。現在のルーフィングを取り巻く環境はどのようになっているのか、またそれに向けてどのような商品が展開されているのか―。
各社の注力商品を軸にルーフィング市場の移り変わりを探る。
2022年は、8月上旬から中旬を中心に梅雨前線や湿った空気の影響で、北日本、東日本で曇りや雨の日が続いた。特に、北陸地方や東北地方では、8月3日から4日にかけて複数の地点で24時間降水量が観測史上1位の値を更新するなど記録的な大雨となった。こうした大規模な台風・豪雨被害は、平成30年7月豪雨をはじめ、令和元年東日本台風、令和2年7月豪雨など、ここ数年はほぼ毎年のように発生しているのが実態だ。
また、住まいに関するトラブルの多くが雨漏りに起因するものであり、豪雨に負けない性能の確保が求められる。屋根の防水に欠かせないのが、下葺材(ルーフィング)による二次防水。野地板の上に張り付け、屋根材の間から浸入してくる雨水が、下地に染み込まないように守る役割をもつ。素材や性能により、アスファルトルーフィング、透湿ルーフィング、非透湿ルーフィングなどの種類がある。
住宅の市場変化に合わせて、こうした防水材も変容を遂げている。主に戸建木造住宅の屋根を陰で支えるルーフィングについて市場の変化や、それに対応した商品展開など各社の取り組みを追った。
長い歴史と実績から生まれた技術で確固たる地位を築く
アスファルトルーフィング
ルーフィングのなかでも、圧倒的なシェアを誇るのがアスファルトルーフィング。原紙にアスファルトを染みこませたものであるが、近年は、さらに樹脂やゴムなどを添加し、不織布などを貼り付け、引き裂き強度及び釘穴シーリング性などの性能を向上した改質アスファルトルーフィングが一般化してきている。2004年に当時のアスファルトルーフィング工業会(現在の(一社)日本防水材料協会に統合)が、改質アスファルトルーフィングの工業会規格「ARK04S」を作成して以降、瑕疵担保責任の義務化などの追い風を受け改質アスファルトルーフィングへの転換が加速し、2017年には改質と非改質のシェアが逆転した。
田島ルーフィングは、約40年前から改質アスファルトルーフィングの先駆けとなる「ニューライナールーフィング」を販売している老舗企業。同商品については、施工後40年が経過した住宅でのサンプル調査により十分な防水性能を確かめており、実際の耐久性を証明できていることが長年にわたりルーフィングを扱う同社の強みだ。
2010年に販売開始した、耐久性を追求し耐用年数60年を実現した「マスタールーフィング」の採用も、徐々に増えてきている。「マスタールーフィング」は両面にバリア層を設けることで、酸素の侵入を抑えて劣化を防ぐ。長期間使えるため、廃棄やライフサイクルコストの削減ができ、これからの時代に即した商品だ。住建営業部住建宣伝課 吉川浩一課長は「安い商品ではないため、購入へのハードルは高いと思うが、コスト重視の事業者からも違う切り口の商品として話を聞いてみたいという問い合わせが増えている」という。採用数増に伴って認知度が高まってきたことも問い合わせに繋がっているそうだ。「マスタールーフィング」を始めとした耐久性や防水性の高い商品は、施主から直接に銘柄指定で問い合わせが入ることも多い。その要因の一つが付加価値の高いルーフィングが住宅メーカーのアピールポイントになってきていることだ。「以前は、住宅メーカーがどんなルーフィングを使っているかの説明をすることはなかったが、ルーフィングの仕様について話題に上がることが増えているのではないか」(吉川課長)と、住宅提案の変化も高性能ルーフィングの人気を高める後押しとなっている。
同社は、約20種類ある改質アスファルトルーフィングを、高品質なもの、施工性の良いもの、コストを重視したものの3つに分けて販売している。高品質のカテゴリには、先述した「ニューライナールーフィング」や「マスタールーフィング」が含まれる。耐用年数が30年の「ニューライナールーフィング」は、太陽光パネルの普及が進むなかで、太陽光パネルの出力保証の期間である20~25年の耐用年数を確保したいというニーズが出てきており、低価格帯の「PカラーEX」と並ぶ主力商品になっている。
施工性のよさで人気なのが、粘着タイプの「タディスセルフ」だ。強みは遅延粘着型であること。ズレやヨレができてしまった場合も、貼った後すぐであれば貼り直しが可能となる。緩勾配の屋根、寒冷地で採用されるほか、カバー工法での改修の増加により売れ行きがよいという。
日新工業は、機能性改質アスファルトルーフィングの「アルバシリーズ」を展開しているが、なかでも「アルバエース」は、高い柔軟性を有する超耐久改質アスファルトの両面に3層構造のブロック基材を使用することで、60年の長期耐久性を確保した。また、同シリーズでは、高温時のアスファルトのベタつきを抑制した「アルバクリア」や、ベタつきを抑制すると同時に、防水性・耐久性・施工性を重視した「アルバフェイス」もラインアップしている。
静岡瀝青工業は、もともと瓦屋根を扱う事業者がクライアントに多く、瓦屋根を施工する際に必要な、縦桟木の役割を果たす凹凸のある独自のルーフィング「パターンシート」なども扱っている。改質と非改質の割合については、改質アスファルトルーフィングの方が多彩なラインアップを持っていることもあり、月によっては数量ベースで10倍ほどの差が出るのではないかとしている。
同社は、滑りにくく高温時にベタつかないことを特に意識して製品開発を行っている。防滑性とベタつき防止の両立は難しく、これまでのアスファルトルーフィングの歴史の中では特殊塗料を施し滑りにくくした珪砂をまぶすなどの工夫がされてきた。一方で、営業部執行役員の川上武部長によると「温暖化により屋根上の温度が上昇しており、珪砂ではベタつきを防ぎきれなくなってきた」そうだ。そのため近年は、不織布を表面に張り付け、ベタつきを防止しつつ防滑性を高める手法がとられることが多く、同社もほとんどの改質アスファルトルーフィングでこの方法を取っている。
また、防災面や施工者の高齢化から、軽量な製品が好まれる傾向にあり、ニーズに応え「奏」や「爽(さやか)」といった製品を用意している。「奏」は、両面に不織布を使用し、珪砂を一切使わないことで、重量は約16㎏と従来品の3割程度の軽量化に成功した。高価格帯の商品ではあるが、寸法安定性やシーリング性にも優れており評判は良い。「爽」は、工業会規格に沿った汎用品「雅」の、よりベタつきを抑えた製品として開発された。長さを短くすることで、重量を19.5㎏に抑えている。
高耐久なものとしては、60年の耐用年数を持つ「極」を2019年に発売。「良い商品なので宝の持ち腐れにしたくない」(川上部長)と、高品質、高価格な同商品の普及について模索しながらも、建材などの流通企業が主催する展示会への出展や、設計事務所への営業など販路の拡大に取り組んでいく。
軽量さに強みを持つ高分子ルーフィング
遮熱や粘着などニーズに合わせて提案
住宅業界では職人の高齢化に歯止めがかからない。屋根という不安定な場所に重いルーフィング材を持って何度も昇り降りすることは職人にとって大きな負担となる。そこで、より軽量な高分子ルーフィングに注目が集まっている。
フクビ化学工業は、2009年に透湿ルーフィング「遮熱ルーフエアテックス」の販売を開始している。透湿ルーフィングは、雨水を防ぎながら湿気は通すことができる戸建住宅の屋根用防水シート。湿気を排出することで屋根裏の乾燥状態を保つことができる。2016年8月に透湿防水シートのJIS規格が改正され、屋根用透湿防水シートの区分が設けられたことで提案が活発化した。
「遮熱ルーフエアテックス」は、名前の通り、透湿性に加えて高い遮熱性能を有していることが大きな特徴だ。「自社のバックデータを活用し、より効果的に輻射熱を跳ね返すことができる波長を採用した」(建材事業企画部建材事業推進課小仲雄久課長)というように、実験では、一般的なアスファルトルーフィングと比べて野地板裏面の温度を6~8℃低減した。発売当時は、まだまだ断熱性能の低い住宅が多く、屋根からの輻射熱による住宅内外の温度上昇に、施主も施工者も困っていたそうで、これを解決するための策として市場に投入した。施工する際に反射でまぶしくならないような加工も施してある。施工性に関しては、軽量さと防滑性の両立もこの商品の強みとなっている。重さは40m巻で11.5㎏だ。
JIS規格で定められたくぎ穴止水試験をクリアしており、透湿能力により乾燥排出することが実証されている。また、50年相当の加熱処理後の防水性・引張強度残存率に関するJIS規格もクリアしている。屋根との間にある程度の通気層が必要なため、当初は屋根材を瓦に絞ってのプロモーションであったが、5年前からは金属屋根についても、垂木を2重にするなど通気層を広くとれる工法であれば採用可能とした。このように対応できる屋根材の幅が広がったこともあり、販売数量は順調に推移している。特に、アフターメンテナンスも手掛ける住宅事業者が、メンテナンスの際に野地板の傷みがひどい住宅を目の当たりすることで、屋根の結露が起きにくい透湿ルーフィングの採用を検討するきっかけとなっているという。小仲課長は、「夏の瓦屋根はおよそ80℃の高温になることもある。遮熱効果によって、通気層の温度が上昇し、棟換気への排熱がより効果になると考えている。今後も健康な屋根を実現するために提案を進めたい」と、まずは認知度の向上を目標に販売を進めていく。
セーレンは、高分子ルーフィングのなかでトップシェアを誇るメーカーだ。同社の高分子ルーフィングは一般的なアスファルトルーフィングの2倍の長さである40m巻で、重さは20m巻のアスファルトルーフィングの約半分である8~11㎏と軽量なため、屋根上での施工負担を軽減できる。
また同社は、透湿ルーフィングに加えて、より多くの屋根材に対応できる非透湿ルーフィングを扱っていることが特徴だ。環境・生活資材事業部の杉田賢造事業部長は「透湿ルーフィングは通気層が必要なため、どうしても瓦屋根への下葺きがメインとなる。しかし、屋根材のシェアが変動し、様々な種類の屋根材が使われるようになり、さらには職人の減少、高齢化という問題が表面化している。高分子ルーフィングは透湿だけでなく、そういった時代の変化対応できる商品だと考えた」といい、屋根壁一体の通気にこだわるのではなく、時代の変化に合わせた商品の提供をしていく姿勢だ。実際に、同社の扱う高分子ルーフィングの割合は透湿ルーフィングと非透湿ルーフィングで、おおよそ4:6となっており、「軽量」、「施工性の高さ」といった特長が市場に受け入れられているようだ。
同社の非透湿ルーフィング「ルーフラミテクトZ」は、海底ケーブルでも利用される特殊ポリマーを用いた特許技術で止水性を高めている。ポリマーが膨張することで、くぎ穴などからの漏水を防ぐ。ルーフィングが苦手とする低温時の止水性能も確保できることも強みだ。
また、ルーフラミテクトZシリーズには、遮熱タイプと粘着タイプを揃える。特に粘着タイプはカバー工法の屋根リフォームに適しており、大手不動産のリフォーム事業などに採用されている。
非透湿ルーフィングでは、素材を工夫して価格を抑えた「ルーフラミテクトEX」も人気を集める。一般的なアスファルトルーフィングの約1.2倍の価格設定となり、高分子ルーフィングは高いというイメージを覆す商品だ。
現在は、鋼板のメーカーや問屋経由で、地域のビルダーや工務店への販売に力を入れている。一例として、商品の採用が10本未満だった福井県の工務店では、鋼板の問屋経由で採用してもらったところ、良さを実感してもらい50本近くにまで採用が増えたという。杉田事業部長は「これからの住宅には多少価格が高くても長く使えるものが求められてくる。その中で、安定供給が可能で耐久性にも優れた高分子ルーフィングのポテンシャルは高いのではないか」と高分子ルーフィングの普及を意気込む。同社は、実暴露試験で耐久性の検査や同社のルーフィングの中で劣化しやすい素材の調査などを行っており、今後、波及効果の高い大手メーカーでの採用を目指す。
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