2023.7.3

人生100年時代の幸せを実現する住まいを追求

積水ハウス 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 仲井嘉浩 氏

価値あるものを提供していけば、その価値を見出してくれる顧客は常にいる

厳しい市場環境の中でも、2020年~22年の第5次中期経営計画の期間を終え、順調に業績を伸ばした積水ハウス。23年からの第6次中期経営計画においては、「国内の安定成長と海外の積極成長」という方針を掲げた。仲井社長は、「価値あるものを提供していけば、その価値を見出してくれる顧客は常にいる」と話す。

──国内の住宅市場について、今後、どのように推移すると考えていますか。

積水ハウス 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 仲井嘉浩 氏

シンクタンクによっては、30年に60万戸割れという厳しい予測も出ています。その調査データを読みましたが、重要なことは、住宅の老朽化などによる建て替え需要は一切、入れていないことです。そこで、別のシンクタンクに依頼して、建て替え需要を見込んだ場合にどうなるのか、分析してもらいました。その結果、30年までは80万戸時代が続く見通しであることが分かりました。資材価格の高騰や、ウクライナの紛争など、さまざまな外的要因により、多少の凸凹はあるとは思いますが、トータルとして30年までは80万戸の市場規模は維持できると見ています。その結果をもとに23年からの第6次中計を検討しました。

住宅着工数の予測に、建て替え需要を入れたのは、日本にはまだまだ質の低い住宅ストックが多いからです。日本は地震大国であり、寒暖差も激しい国であるのに、耐震性能、断熱性能が不十分な住宅ストックがたくさんあります。高度経済成長期に、先に量を求めたので、そのつけが今出てきているのだと思いますが、これからはリフォームなどでは補うことができない住宅ストックを建て替えによって性能を高めていく必要があるのです。25年には、住宅にも省エネ基準の適合が義務化され、4号特例の縮小も予定されています。そうしたことを加味すると、まだまだやらなければいけないことはたくさんあると考えています。

──一方で空き家の問題もありますが。

空き家については、全体でざっくり約800万戸あり、その内訳は貸家が約400万戸、持家が約400万戸という状況です。持家のうち、別荘やセカンドハウス、駅から離れすぎていて住宅地として活用できないものを除くと200万戸程度になるのではないでしょうか。このうち耐震性、断熱性が不十分なものが半分あるとすると、十分な性能を備えた残り100万戸程度の空き家というのは、これからの移住、住み替えとか、二拠点居住とか、新しいライフスタイルが生まれてくる中で、バッファとして必要かもしれません。

また、性能が不十分な住宅は、当然ながらリフォームで性能向上を図るべきものもあるでしょう。しかし、残念ながら新築当時の図面やリフォーム工事の履歴などの情報が残っているものはそれほど多くありません。当社もリフォーム事業を行っていますが、当社が以前に供給した住宅であれば履歴が残っているのですが、他社の住宅では履歴情報がないために容易に工事を行うことができないという問題があるのです。現場に行ってみると図面がないとか、耐震壁がどこにあるかわからないとか、怖くて触れない部分があります。

また、人間のそもそもの心理として、自分の家の耐震性、断熱性が不十分だなと思っているときに、再投資をするのかは、非常に微妙だと思います。その意味でも、空き家の増加を抑制しつつも、今後も住宅地としての可能性を秘めているエリアでの建替え需要を掘り起こしていくことも重要であると考えています。

戸建は3ブランド戦略を展開
賃貸はエリアマーケティングを徹底

──第5次中計の期間は、コロナ禍や資材高騰など、厳しい状況を強いられましたが、順調に業績を伸ばすことができた要因はどこにあったのですか。

第5次中計を発表したのが20年2月で、その後、4月に第1回目の緊急事態宣言が発出され、5月末まで続きました。対面での接客が難しくなり、展示場の来場者も激減しました。その後も、ウッドショックが起こり、鉄やアルミの価格も上がり、さらにロシアのウクライナ侵攻と、厳しい状況が続きました。中計の1年目は目標未達となりましたが、2年目、3年目で取りかえすことができました。

その要因は、手前みそになりますが、戦略が間違っていなかったということです。価値のあるものを提供していくと、その価値を見出していただけるお客様は常におられて、受注できるということを再確認でき、自信を持つことができました。戸建住宅については3ブランド戦略できっちり分けて展開しています。主力である中高級商品に加え、よりスペックを高めた高付加価値商品を拡販するほか、積水ハウス ノイエによるセカンドブランドを強化しています。技術陣も頑張ってくれて、大空間リビング「ファミリースイート」による生活提案、次世代室内環境システム「スマート イクス」が好評です。また、楽しみながら学べる体験ミュージアム「Tomorrow,s Life Museum」をリニューアルオープンしソフト面の提案も強化しています。

賃貸住宅のシャーメゾンについては、エリアマーケティング重視の戦略が奏功しています。戸建と同じように、30年までは底堅い需要が維持されると見ています。ただし、国が推進するコンパクトシティの実現に貢献するような事業を行う必要があります。人口・世帯減は進みますので、中心部の人口密度が高いエリアには、賃貸や分譲マンションなどの高層住宅が集まりさらに高密度化されていくでしょう。一方で、低密度な郊外エリアには戸建住宅という流れがさらに鮮明になっていくのではないでしょうか。

当社は、土地に関して、Aエリア、Bエリア、Cエリアというものを決めています。Aエリアは駅から徒歩圏内、Bエリア、Cエリアは、さらに駅から距離のあるエリアです。Aエリアよりも一等地のSエリアも設定しています。当社は基本的に、SエリアかAエリアでしか賃貸住宅の受注はしません。

Cエリアについては、地主さんから賃貸経営をしたいと言われてもお断りするか、その土地を売却し、Aエリアの土地と交換されて、こちらで賃貸住宅を経営することもおすすめします。積水ハウス不動産で何十年と管理し、オーナーの方々に安定的な収益をもたらすためです。無理に賃貸住宅経営に適さない土地で受注してしまうと、オーナーの方々にもご迷惑をかけてしまいます。

Bエリアについては、大型の敷地であり、その区画全体で、当社の開発力、設計力を生かして、複合型のまちづくりなどを手掛けることができると判断すればゴーサインを出すこともあります。

──今のお話と関連するのが仲介・不動産/マンション/都市再開発の開発型ビジネスです。第5次中計においても順調に伸長しました。

開発型ビジネスの難しさは、投資額が大きいですからリスクもあり、きっちりと財務規律を立てる必要がある点です。第5次中期経営計画中に財務規律をより明確にした結果、リスクを最小化しながら、しっかりと利益を出せる体制を構築することができました。

当社は、戸建、賃貸を中心に請負型ビジネスと言っています。そこで価値を提案して対価、利益をいただいています。さらに、積水ハウス不動産の賃貸管理や、戸建のリフォームで、その良質なストックを維持するためにやっているのがストック型ビジネスです。この請負型とストック型は、大きな投資額が不要で、ノンアセットで利益をいただけるビジネスです。そこで得たキャッシュを3大都市圏+福岡の4大都市圏に限定して、開発型ビジネスに再投入し、魅力的な街づくりを行っています。この請負型、ストック型、開発型の3つのビジネスモデルは有機的につながっている。そういったバリューチェーンになっているため、どこに投資をして、どう回収するのかといった出口戦略を慎重に検討するようにしています。そこがしっかり実現できたのが第5次中計です。以前から財務規律を重視して開発型ビジネスを展開してきましたが、第4次中計、第5次中計で軌道に乗った感じですね。

第6次中計では「国内の安定成長と海外の積極成長」という方針を掲げました。国内については、請負型、ストック型、開発型の3つのビジネスモデルが有機的につながるバリューチェーンが強みであり、それぞれのビジネスをさらに進化させていきます。

“Trip Base 道の駅プロジェクト”で新しい旅のカタチ
地域活性化に貢献

──開発型ビジネスの中で、地域の道の駅を拠点に“Trip Base 道の駅プロジェクト”も展開しています。

日本が目指す観光立国の動き、地方活性化に貢献できないかと、世界最大のホテルチェーン、マリオットグループと組み、4大都市圏以外で始めたプロジェクトです。マリオットの会員数は1億7500万人いますから、世界中の日本ファンを呼び込むことが可能です。日本への旅行者の特性として、1回目は、東京から入り、京都に行って、大阪から帰るというゴールデンルートをたどられますが、2回目以降はかなりディープなところに旅されるツーリストの方々も多いようです。そのニーズに応えるプロジェクトを組めばきっと喜んでいただけるだろうということで、”Trip Base 道の駅プロジェクト”をスタートしました。

道の駅はポテンシャルが高く、憩いの場、買い物、防災など、さまざまな機能を備えた地域の拠点として発展していますが、唯一ないのが宿泊機能でした。結果として旅の通過点にならざるをえない場所だった。道の駅に宿泊施設を加えることによって、もう少し街に滞在する時間が長くなるのではないかという発想を思いついた人間が社内にいまして、マリオットに声をかけたら、のってきていただいたという経緯ですね。今さら山を切り開いて、ホテルを建てても、水道、ガス、電気、インフラを整備するだけで環境負荷も大きくなってしまいます。その点、道の駅にはインフラは整備されているわけですから、その隣の土地を生かせば環境に負荷もかけない。町が持つ公営の土地が多く、そこを借地させていただいています。現在、11道府県、25か所で開業、運営しています。宿泊特化型なので飲食はできないため、地域を宿泊客が回遊して、地域のお土産屋や飲食店、居酒屋などへ波及効果も生まれています。地域活性化という意味では非常に喜んでいただいているのかなと思っています。

ある道の駅がホテルの宿泊客用に朝食ボックスをつくったら、その話題が広がり、各地の道の駅で隣に負けていられないということで、朝食ボックス合戦みたいになり、地域に応じたボックスを開発されています。地域の特産品を上手く活用しており、どれも美味しいです。また、町の居酒屋さんもたくましくて、夕方になるとホテルまで送迎にきます。宿泊客は車、バイクで来られているため、それで居酒屋に来られてもお酒は出せません。だから、夕方に来て送迎する。宿泊客は帰りの運転を気にせずにお酒を飲むことができます。

また、町の観光課や、商工会の方も、地域の観光、アクティビティを楽しむコースなどのリーフレットをつくり、ホテルにおいてくれたり、我々の進出を前向きにとらえていただいています。アウトドアスポーツのメーカーなど53社とも協定を結んでいます。ラフティング、カヌー教室など、さまざまなご提案をいただいているのはありがたいですね。Trip Baseは、「渡り歩く旅」がコンセプトです。全国に道の駅はいっぱいあるわけで、今後も一定の距離を確保しつつ増やしていく計画です。新しい旅のカタチとして、積極的に展開していきます。

──国際事業についてお聞かせください。

積極的に投資をして成長させていきます。3年後には海外で1万戸を供給したい。アメリカでビルダー3社をM&Aをしたので、6000戸くらいまでは見えていますが、1万戸には足りません。さらなるM&Aも検討しています。海外に進出する基準というのは、我々の技術を移植できるかどうか、我々は中高級路線ですので、そのニーズがある層の人口増加がある国かどうか。また、ESGを標榜していますので、当社の環境技術が受け入れられるか、必要とされているか、この2点が非常に大きいポイントです。現在のところアメリカ、オーストラリアが中心になります。

カリフォルニアでシャーウッド57戸
何が響くのかマーケティング

──日本の工業化住宅の技術、ノウハウを導入していく可能性はあるのでしょうか。

工業化住宅というビジネスモデルは日本にしかありません。その技術が求められていることはひしひしと感じています。我々は、耐震性能、断熱性能、耐衝撃性能、防火性能といった高いレベルの技術や、バリアフリー、「ファミリースイート」のようなソフト面のノウハウも豊富に持っています。海外へ持っていきたい技術、ノウハウはいっぱいあるのですが、どの国が、どの技術、ノウハウを欲しがっているのかを探るためのマーケティングを実施している段階です。現在、当社の木造住宅、シャーウッド57戸を、カリフォルニアで建設中です。このうち、この5戸は完全な日本型のZEHにしようとか、いろいろな住宅のバリエーションをつくり、何が現地の方々に響くのかを探ろうとしています。それ以前に、ラスベガスで6戸のシャーウッドを建設したのですが、すぐに売れたので自信は持っています。マーケティングの結果なども踏まえながら、今後はシャーウッドで100戸規模の住宅団地をつくるなど、300戸くらいは第6次中計で建築していきたいと思っています。

──現地に工場を建て、プレハブ住宅を供給していくことは。

アメリカやオーストラリアは広いですし、州によって法律が違うので、州ごとに工場をつくっていけば採算が合いません。日本と同じように工場をつくることは難しいでしょう。その代わりに企画型住宅のように設計の自由度を限定し、サプライチェーンを工夫した工業化に近いビジネスモデルはあるのかなと思っています。

──ESG経営を積極的に進めています。

今、SDGsESGということが盛んに言われていますが、当社の場合は昨日今日の取り組みではなく、長年かけてさまざまな取り組みを積み重ねていった結果、気がついてみたら今の状況になっていたというのが正直なところです。

当社は1999年から環境配慮型住宅に取り組んでいます。家庭部門のCO2排出量の増加が指摘され、97年には京都議定書が締結されました。こうした社会情勢を受けて環境配慮型の技術開発を活発化させていきました。かつては家庭にカラーテレビが一台あるかないかの時代でした。今や各部屋にエアコンがあり、パソコン、モバイルは個人単位で持つことが当たり前になりました。その結果、家庭部門の環境負荷が増えているわけですが、当社はその増加分を住宅の方でなんとかしようと考えてきました。

99年にやったことは、1階の南側のリビングのサッシだけ、ペアガラスにしようと、そんな取り組みからスタートしました。さらに数年後、CO2排出量を30%削減する家を開発、さらに、その数年後に、50%削減、75%削減と上がっていき、今は標準でZEHになっています。市場、世界全体の環境意識が高まってくるのと、技術開発によりコストアップなしで断熱性能を上げてきた地道な活動とが相まって今や戸建住宅のZEH比率93%というところまで来ました。一朝一夕でここまで来たわけではありません。ESG経営とは短期でやる話ではなく、中長期ビジョンを持ってどうやるべきかだと思っています。賃貸住宅「シャーメゾン」、分譲マンションのZEH化はまだ90%に至っていません。今後はそこに注力していきます。

事業活動で消費する電力を100%再生可能エネルギーで調達するRE100も標榜しています。当社は、「積水ハウスオーナーでんき」を展開し、当社が販売した太陽光発電付き住宅に住むオーナー様から余剰電力を買取っています。FIT切れのお客様は年々増えており、自然体でRE100に近づいています。

また、新築住宅の庭に在来種の樹を植える「5本の樹」計画の取り組みで、生物多様性に貢献できているというエビデンスも得られました。20年経つと街の中に鳥と蝶が戻ってきている。これも約20年前に、お客様の家に在来種を植えていこうという運動を起こしたことがきっかけであり、ようやく今の状況にまでたどり着いたのです。

大工確保の好循環をハウスメーカーがつくる

──最後に、これからのハウスメーカーの役割をどのように考えていますか。

人生100年時代の幸せを実現する住まいを提供していくことだと考えています。幸せは、抽象的な言葉ですが、当社は、「健康」と「つながり」と「学び」という3つの要素に因数分解しています。人生100年時代の幸せには何が必要か―。土地、株、お金といった目に見える有形資産よりも、「健康」、家族や友人などとの「つながり」、また、自分自身の体験の豊かさだとか、自分が持っているスキル、得意なことなどを含めた「学び」、この3つがそろっていた方が、長生きしたときに、幸せに暮らせるだろうということです。そうした無形資産をお客様が得るために住宅に何ができるかを考えていきます。

その一環として「プラットフォームハウス構想」を立ち上げ、「健康」、「つながり」、「学び」を通じて幸せに暮らせるスマートホームの具現化に向け、18年から実証実験を重ね研究を行っています。21年には、第一弾のサービス「PLATFORM HOUSE touch(プラットフォームハウスタッチ)」の提案を開始しました。また、現在、家の温度・湿度といった住環境や住まい手の行動パターンのビッグデータと、住まい手のバイタルデータを組み合わせることで、健康サービスを提供するための研究開発も実施しています。予防医学、慢性疾患、急性疾患、この3つに対してどう家が対応できるか、将来を見据えた研究開発も進めています。

社会資本とは、道路やトンネルといったインフラ関係を想定されがちですが、私は住宅も立派な社会資本だと思っています。社会資本であるからには良質なものでなければいけないし、また、美しさも求められるでしょう。それだけに、住宅業界が団結して、日本の住宅ストックを次世代に引き継ぐ社会資本として、もっと良質なものにしていく必要があると考えています。

また、いい家をつくるということは、やはり大工さんなどの職人の方々の力が非常に重要です。海外に行って住宅の建設現場で、水平と垂直がそろわないとか、目地がガタガタだとか、釘一本打てないとか、トラブルを目の当たりにすると、日本の大工さんの資質は世界一であるということを改めて感じます。まずは当社のような住宅会社が美しくて良質な住宅をつくるという決意を固め、そうした住宅を日本の優秀な大工さん達がつくっていくということをもっともっとアピールしていくと大工のなり手も増えると思います。

(聞き手:中山紀文、沖永篤郎)