住まいの情報提供の場に変化 くらしのイメージにつなげる場所に
インターネットが普及し、だれもが簡単に住まいの情報を集められるようになった今、
ショールームやモデルルームなどのこれまで主要な情報提供の場となっていた空間に変化が表れている。
移り行く時代の中でショールームやモデルルームの在り方、役割はどのように変わっているのか―販売方法や空間の作り方のポイントを探った。
TOTO
商品をゆっくり検討できる展示に
居心地の良さや動線を工夫
設備メーカーのTOTOは、約3年前にこれまでのショールームを見直し、「来場した人が夢を抱ける空間展示」をコンセプトに展示スペースづくりを行っている。2021年に兵庫県姫路市のショールームを改装する際に、社内のデザイン部で見直しの必要性を話し合い、コンセプト刷新に向けた取り組みを始めた。
新しいショールームでは、従来のコーポレートカラーを前面に出した青色の外観から、街並みに溶け込む白色を基調にした見た目に変更。内装は、白が使われることの多い水回り製品が映えるようにグレーを基調とした。
ショールーム刷新にあたっては、外部からクリエイティブデザイナーの津野大氏に監修を依頼し、商品の見やすさや動線を意識した展示にリニューアル。以前のショールームでは、中央にコンサルティングスペースを設け、それを取り囲むように商品の展示をすることが主流だったが、コンサルティングスペースを壁側に配置し、空間展示を増やした。また、来場者が歩きながら一つひとつの商品をゆっくりと見られるような展示とし、商品のポイントを抑えられるようにした。販売統括本部 ショールーム企画第一グループ 箕輪雅夫グループリーダーは「特にリフォームを検討しているお客様は、どの商品が自分の家に合うかを気にされる方が多い。空間で展示することで自分の家ならこんな感じというイメージにつなげやすくなる」としており、リフォーム検討者の購入を後押ししたい考え。リフォーム検討時のショールームの活用は、18年から活動しているTOTOあんしんリモデルクラブでエンドユーザーに配布している冊子でも周知しており、ショールームでもリモデルクラブ加入店の紹介を行っている。
壁側に移動したコンサルティングスペースは、「展示を見学している人が視界に入ると落ち着けない」、「ほかの来場者の話し合いの声が耳に入る」といった不具合を改善するかたちで、テーブルごとに間仕切りを設け、プライバシーを確保。カフェをイメージし、テーブルごとに形の異なる照明を設置するなど、オシャレさのあるスペースにした。また、2世帯で来場する場合にも対応できるよう6人以上が座れるテーブルも増設している。
一方、商品を一度も見ずに購入する人とそうでない人がはっきり分かれてきたとし、「オンラインで相談した後にショールームへ来場する方や、一度見学して来場後に商品変更をする際にはオンラインで行うなど併用される方もいる」(箕輪リーダー)と、うまく併用して商品検討をしてほしいとする。
23年2月には新コンセプトの8か所目となる千葉ショールームを稲毛区天台から中央区登戸へ移転しリニューアルオープン。移転前の1.2倍に及ぶ広い展示スペースで、エリアの特徴に基づいたマンションリフォームのための展示なども行う。
日鉄興和不動産
首都圏の物件をまとめて扱う
顧客体験を重視したマンションサロン
不動産会社の日鉄興和不動産は、マンションブランド「LIVIO」について、20周年の節目を迎えた2021年にリブランディング、ブランド力の強化に向けてシリーズ全体でロゴの統一などを図った。「従来は敢えてブランディングをせず、利便性の高い土地を安く仕入れて手ごろな価格で売る戦略で不動産販売を行っていたが、地価や建築費用が高騰するなか、これまでと同じ戦い方が難しくなっていく」(住宅事業本部リビオライフデザイン総研室 白木知洋氏)と今後を見据え、ブランド強化に踏み切った。また、同社は2018年以降の首都圏分譲マンションの供給ランキングにおいて、毎年5位以内にランクインするなど資産性の高い物件が強み。一方で、その認知度は高いとは言えず、リブランディングによって知名度向上につなげたいとする。リブランディングに伴って、マンションを買う時、住み始めた時、住んだあとの暮らしなど様々なシーンを生活者視点で研究するリビオライフデザイン総研(以下、リビオ総研)を創設。23年3月に、常設ブランド発信拠点として「LIVIO Life Design! SALON」を品川に開設した。
マンションサロンとしては、これまで上野の「LIVIO Life Design! SALON UENO」にて、城東城北エリアの物件を中心に「LIVIO」のブランド発信や販売を行ってきた。しかし、マンション価格の高騰から顧客の検討範囲が広域化していることや、より一層の事業経費圧縮を図るため、扱うマンションの範囲・規模を拡張。423坪の面積を生かし、品川駅から1時間程度圏内の物件を集約し、23区に加え神奈川、千葉、埼玉まで範囲を拡大し、規模は100戸程度の物件まで取り扱う予定だ。
また、時代による変化として、情報の格差を利用したクロージング営業が適さなくなり、クリーンな情報開示を求められるようになったとする。そのため、マンション情報の収集から、購入手続きまで行えるオンラインストア「sumune for LIVIO」の提供を開始。その上で、マンションサロンについては、「郊外からは時間もかかる品川にわざわざ来てもらうためには、体験が重要」(白木氏)だとし、顧客体験を重視した場所へと変化させた。具体的には、様々な間取りでの空間展示や、リアルサイズスクリーンを利用して、展示にない部屋でも実際の間取りや家具のレイアウトイメージ、部屋からの眺望を体験できるようにした。また、遠方から足を運んだ来場者がリラックスして見学できるよう、アロマや音楽を駆使した空間づくりを行っており、来場者は最初に靴や荷物を預けることでゆっくりと見学ができる。広い展示場のため、ベンチを点在させ、来場者が休憩がてら意見を言い合えるようにすることも意識した。上野のサロンに引き続き、営業を行わないライフデザイナーが常駐し、マンション購入の疑問や入居後の暮らしについての相談体制も整え、顧客に寄り添ったサロンづくりに取り組む。
積水ハウス
エリアに合わせたコンセプトや空間づくり
気軽に立ち寄り家づくりをはじめる場所
住宅メーカーの積水ハウスは、都内5か所に「SUMUFUMU TERRACE」を展開している。2021年11月に新宿、立川、錦糸町でオープンし、12月に池袋、22年2月に青山にもオープンした。
従来、住宅購入検討者が事前に得られる家づくりやハウスメーカーの情報は少なく、一度展示場などで担当者に会ったうえで、担当者や会社の雰囲気を見て、家づくりをする会社を決めることが多かった。しかし、情報化社会が進み、自分で多くの情報を手に入れられるようになる中、建てたい住宅の具体的なイメージを持ってから、来場するケースが増えてきた。そこで、従来の情報提供のかたちにプラスして、まだ住宅の検討がそれほど進んでいない層を含む、幅広い層の人と同社が接点を持てる場所としてオープンしたのが「SUMUFUMU TERRACE」だ。東京営業本部CX推進室 竹島朋宏室長は「かつては営業担当とマンツーマンで計画を進めることが当たり前だったが、今は、当社を知りご興味を持っていただけていれば、住宅購入を具体的に検討されるタイミングでお客様からご相談いただけることも増えてきた」とし、同施設をこれまで同社を知らなかった層とのタッチポイントにしたい考え。
そのために、空間づくりにも工夫を凝らしている。施設内は、住宅らしいつくりにこだわりすぎず、住まいづくりや暮らしのインスピレーションにつながる、新しい刺激をもたらすような設計やしつらえとしている。例えば、SUMUFUMU TERRACE青山は、回廊型の空間にアーティストの作品や社会性のあるマテリアルなどを展示している。展示を見て回るなかで来場者自身が、自分はどういったものに感性を動かされるのか、新しい発見や気づきを得てほしいという。施設は、所在エリアの地域性に合わせてコンセプトを設定したり、カフェの併設や、暮らしの実例を見れるデジタルサイネージが設置されており、ゆっくり過ごしながら住宅の情報収集ができる。
もう一つの特徴が、オフィスとしての役割も併せ持つ施設であること。「かつてはお客様と企業というつながり方だったものが、最近では素敵な設計士、デザイナーと家をつくりたいというように、人が重視されるようになっている」(竹島室長)と、来場者からスタッフが働いている様子が見えることで、親近感を持ってもらえるよう設計している。
リアルとオンラインでそれぞれイベントを開催して集客につなげる。税制や住まいの手入れといった内容のほかにも、アート体験や盆栽など直接的に住宅との関わりは強くないテーマも扱うことで、様々な人が参加しやすくなっている。オンラインイベントからの集客は想定の3倍以上だったそうで、来場者からは「家づくりの検討はまだ先の予定だが、『SUMUFUMU TERRACE』へはイベントきっかけに気楽に来れた」と、展示場へ行くのはハードルが高くても、同施設なら構えずに来られるという声が聞けているという。一方で、対面で会話することで顧客の潜在ニーズを引き出せるとしており、オンラインはあくまで入り口のひとつで、実際に会って価値観を共有することで理想の住まいづくりができると考える。積水ハウスは今後も、同施設などを活用し、住まいづくりのサポートをしていく。
コロナ禍が落ち着き対面でのコミュニケーションが回復しつつある。一方で、オンライン化が進むなかでショールームやモデルルームに訪れてもらうためには、そこでしかできない体験が求められているようだ。また、どこまでをオンライン化するかの使い分けも重要となってくるだろう。住宅や設備の販売方法は今後も変化を続けそうだ。
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