2023.6.6

不動産関連の改正民法施行土地活用促進に期待

所有者不明土地、空き家解消へ

所有者不明土地問題の解決を目的とした改正民法が2023年4月、施行された。
127年ぶりの大改正とも言われており、業界内だけでなく多くの生活者に影響を与えそうだ。

土地問題研究会は2017年にまとめた報告書で、所有者不明土地は国土の22.2%、面積にして九州以上の410万haあり、新たな対策が進まない場合、2040年には北海道本土面積とほぼ同等の約720万haに拡大、機会損失や税の滞納などで経済的損失は累計約6兆円にのぼると試算する。

今回の民法改正のポイントは大きく、1「財産管理制度の見直し」、2「共有制度の見直し」、3「相隣関係規定の見直し」、4「相続制度の見直し」の4つ。

1「財産管理制度の見直し」では、所有者が不明であったり、所有者による管理が適切にされていない土地・建物を対象に、個々の土地・建物の管理に特化した財産管理制度が新たに設けられた。調査を尽くしても所有者やその所在を知ることができない土地・建物について、利害関係人が地方裁判所に申し立てることによって、その土地・建物の管理を行う管理人(弁護士・司法書士など)を選任してもらうことができるようになる。管理人は、裁判所に許可を得れば、所有者不明土地を売却することも可能になる。管理不全の土地・建物についても同様の管理制度が設けられた。

所有者不明土地の割合(2017年国土交通省調査)

2「共有制度の見直し」では、共有物の利用や共有関係の解消をしやすくするルールを整備。従来、兄弟や親族などによる共有名義の土地・建物について、不明共有者がいる場合には利用に関する共有者間の意思決定や持ち分の集約が困難であった。1人でも不明共有者がいると、その他の共有者が建物の解体を希望しても解体することはできなかったが、民法改正により、管理人を裁判所に選任してもらうことで解体できる仕組みなどを整備した。

3「相隣関係規定の見直し」では、隣地所有不明状態にも対応できる仕組みを新たに設けた。従来、「隣地から越境した木を切りたいが、隣地から許可が取れず切ることができない」、「水道管を引き込みたいが、許可が取れず工事できない」といったケースがあったが、民法改正により、所定の手続きを行うことで、工事・利用が可能になる。ライフラインの引き込みを円滑化し、土地の利用を促進する。

4「相続制度の見直し」では、相続から10年が経過したときは、画一的な法定相続分で簡明に遺産分割を行う仕組みを創設、遺産分割の長期未了状態の解消を促進する。

パワービルダーも注目
都市部などで土地が動く契機に

近年、都市中心部や利便性が優れた地域において分譲地開発が進み、土地の取得が難しくなってきているが、今回の民法改正により新たな展開が期待できそうだ。オープンハウスグループの矢頭肇執行役員は「権利関係が複雑で住宅密度が高いエリアにおける不動産の売買が可能となり、流動性と資産価値が上がる可能性がある。これまで諦めていた物件を買取ることができるようになる」と話す。

同社は、東京都内において年間4000現場で物件・土地の仕入れ契約を行っている。しかし、前述の共有制度や相隣関係規定などがハードルとなり、白紙解約になるケースは少なくないという。都内で同社が仕入れる物件・土地のうち、約7割は古家付の土地であり、仕入れ全体のうち4~5%は空き家となっている。この空き家に関する課題が、今回の民法改正によって解消され、仕入れ、販売の拡大につながっていくと期待する。例えば、不明共有者の問題により建物の解体が進まない場合においても、前述の2「共有制度の見直し」により、同社のような買取事業者側からも所有者不明土地・建物の管理人選出の申し立てをすることができ、利用・処分を円滑に進めやすくなる。「空き家は仕入れ全体の4~5%だが、都内の総数から見るとインパクトは大きい。所有者不明土地・建物の管理制度を活用した第一号の事業者となりたい」(同社)と意気込む。一方で、「裁判による解決には期間の定めがないため、実際の事例で所有者不明土地・建物を利用できるまでに、どのくらいの期間がかかるのかを重視している。成功事例を蓄積し、契約の入り口での積極的な告知と、条件の順次適用を進めていきたい」(同社)考えだ。

空き家、所有者不明土地の活用が大きな課題となっている。今回の民法改正は、そのネック解消を目的とするもので、今後それらの活用拡大が期待される。

不動産登記制度の見直しなど
その他の新制度も段階的に施行

23年4月の民法改正に続き、所有者不明土地、空き家の解消を目的とした新制度も続々と施行される。23年4月には、相続土地国庫帰属法が施行、相続土地国庫帰属制度が創設された。
相続土地国庫帰属制度とは、所有者不明土地の発生予防の観点から、相続などによって土地の所有権を取得した相続人が、法務大臣(窓口は法務局)の承認により、土地を手放して国庫に帰属させる制度。申請時に審査手数料の納付が必要になるほか、承認を受けた場合には、負担金(10年分の土地管理費相当額)の納付が必要になる。

さらに所有者不明土地の発生予防の観点から不動産登記制度が見直され、24年4月には相続登記申請義務化、26年4月までに住所変更等登記の申請が義務化される。

これまでの相続登記の申請は任意とされており、かつ、その申請をしなくても相続人が不利益を被ることが少なかったこと、相続した土地の価値が乏しく、売却も困難であるような場合には、費用や手間をかけてまで申請をする意欲がわきにくいことが指摘されてきた。そこで相続登記申請を義務化。新ルールでは、相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請を義務付ける。また、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容を踏まえた登記の申請も義務化。正当な理由なく義務に違反した場合は10万円以下の過料の適用対象となる。

住所等の変更登記についても、申請は任意であり、かつその申請をしなくても所有者自身が不利益を被ることが少なかったこと、転居等の度にその所有不動産について住所等の変更登録をするのは負担であることが指摘されている。そこで、新ルールにより、登記簿上の所有者については、その住所等を変更した日から2年以内に住所等の変更登記の申請することを義務化する。正当な理由なく義務に違反した場合は5万円以下の過料の適用対象となる。

所有者不明土地、空き家解消に向け、様々な制度改正が行われる。市場環境が大きく変わっていくことが期待されるため、新しいビジネスチャンス創出、市場拡大の契機ともなりそうだ。