大型補助金で窓改修が急拡大 玄関などと合わせた提案も
先進的窓リノベ事業など住宅の省エネ性向上の目的で開口部改修に対する手厚い支援が行われるなか、急激に勢いを増す窓改修。各社はこの好機に今まで注目度の低かった開口部改修を推進するため、様々な提案を行っている。各社の施策を探った。
3月31日より、「住宅省エネ2023キャンペーン」の申請受付が開始された。国土交通省、経済産業省、環境省の3省連携で、住宅の省エネ化に繋がるリフォームへ補助金を出している。なかでも予算総額の大きさと還元率の高さから、大きく注目されているのが「先進的窓リノベ事業」だ。既にサッシメーカー各社に問い合わせや受注が相次いでいる。LIXILの営業本部リフォーム推進部、渋谷和徳部長は「今回は申請開始前から反響が大きかった。工場をフル稼働して、従業員総出で対応している」という。各社は、今回の補助金を契機にした開口部リフォーム市場の拡大を目指し、商品の拡充や「こどもエコすまい支援事業」と合わせた提案などに力を入れる。
【三協立山】
内窓の複層ガラスの需要が拡大
断熱性の高いサッシをラインアップ
三協立山は、2050年カーボンニュートラルに向けた開口部の高断熱化を推進している中で、新たな補助金制度を絶好の機会ととらえており、高断熱商品を拡充し、補助金での盛り上がりを契機に住宅の高断熱化を一気に加速させたい考え。
「先進的窓リノベ事業」の反響としては内窓設置が最も大きく、「プラメイクEⅡ」の見積り件数は前年比5倍以上だという。また、内窓の中でも、単板ガラスからより性能の高い複層ガラスへと需要の変化があったといい、以前は、5:5であった割合が、複層ガラスの割合が2月時点で6割になっており、今後もさらに増加すると見込んでいる。こうした状況を受け、4月3日より、複層ガラス仕様にさらに断熱性能の高いガス入りLow‐Eガラス仕様をラインアップに追加した。これについても既に問い合わせが殺到しているそうだ。
一方で、カバー工法の断熱改修窓「ノバリス サッシ」は、窓リノベ事業の発表前から出荷を伸ばしており、現状の出荷量は前年比1.5~2倍。同商品はシーリングを不要とする施工性の高さを有し、1日で施工完了できる。また、室内側からの施工が可能なため、2階の窓に設置する際の足場も不要だ。前述した施工性の高さや、省エネ住宅への注目の高まりから引き続き需要は伸びるとみている。「ノバリス サッシ」については、アルミ樹脂複合で枠の構造を新しくすることで、より断熱性能の高いものを用意する予定。
とはいえ、改修においては、水回りや外装など目につきやすい部分が優先されがちであり、窓に関してはエンドユーザーからの問い合わせもさることながら、業界側からの積極的な発信が必要だとする。同社は、特に需要の高い内窓について断熱だけでなく防音や遮熱についての効果の提示や、補助額をわかりやすく伝えるための特設ページを開設、SNSと併用してエンドユーザーに向けた情報提供を行っている。2010年の住宅エコポイント制度で内窓文化が根付いたなかで今回の大型補助金となり、価格面などで水回りや外装に加えた+αとして窓改修を獲得できるのではないかとみている。自社の取扱店や、サッシ・ドア改修のボランタリーチェーンとして運営している「一新助家」の会員に対しては補助金制度の申請方法の解説や、わかりやすいマニュアル作成を行い、補助金活用をサポートしている。
また、今回の窓リノベ事業は国土交通省の「こどもエコすまい支援事業」との併用が可能だ。同社はエンドユーザーに配布するチラシやホームページ上で、窓改修と合わせた玄関ドアの改修を提案する。そのうえで、「ノバリス」シリーズの玄関商品を強化。4月3日から「ノバリス 玄関引戸」に、4枚建てが可能なタイプを含む4デザインを追加したほか、現場での作業時間短縮を見込めるガラス入り完成品を設定した。また、スマホで施解錠ができる「e・エントリーSLタイプ」も追加し、解錠方法の選択肢を増やした。住宅建材部インテリア建材課の山本智裕課長は、「内窓設置が必要な住宅は約20年前のものが多い。20年前の住宅は玄関についても十分な断熱性能が確保できていないものがほとんどなので、住宅の高断熱化のためにも窓とあわせての改修を検討してほしい」と、今回の補助金が開口部全体を見直すきっかけになることを期待する。
【LIXIL】
取替窓「リプラス」の販売に注力
窓のプロが適切な改修方法を提案
LIXILは、1年半ほど前からユーザーのニーズに合わせて窓、部屋ごと、家全体の3プランで改修を行う「性能改善リフォーム」の取り組みを行っている。しかし、開始当時はユーザーの断熱への関心度は低く、リフォーム会社がユーザーに窓リフォームを提案する優先順位も低かった。同社は、CMでの窓断熱の認知度向上や営業活動を通じて積極的に開口部リフォームの重要性を喚起してきた。こうした同社の取り組みや社会的な流れの中で、窓断熱が意識され始めたなか、今回の補助事業が打ち出され「重要性は分かっているが手をつけられなかった」層に対して断熱改修を進める契機になったとする。内窓の受注量は過去最高を更新し続けており、納期には1か月以上の遅れも出るほどだ。
一方で同社は、内窓だけでなく取替窓においても普及を促進したい考え。2014年4月よりボランタリーチェーン「LIXILリフォームネット」を展開、会員向けにマイスター制度を導入しているが、このたびの補助金で窓リフォームを手がけたことがないプロユーザーも含む、さまざまな事業者が窓リフォームを提案、施工するきっかけになるよう「窓マイスター制度」をブラッシュアップ。より売る力・集客アップにつながるような制度に体制を整えている。同制度は窓のプロであることを証明できる資格制度だが、住宅の状況や悩みごとに、適切な窓リフォームを提案できるようにする。「内窓と取替窓、どちらにもメリット・デメリットはある。正しい知識を持ってユーザーに説明できることが大切」(渋谷部長)としており、例えば、防音性を高めたかったら内窓、築年数が古く、ガラスやサッシに問題が生じている場合は取替窓などと、状況に合わせた提案を行っていく。特に、取替窓は、市場への浸透度が内窓よりも低く、同社の出荷数も9割が内窓と、まだまだ伸びしろがあるとして、販売を強化する。
同社は、取替窓(カバー工法)の「リプラス」について、2023年4月3日より「リプラス専用枠」を大幅モデルチェンジ。従来の「専用枠」と「汎用カバーモール浴室用」を終息させ、新しく「専用枠」の居室仕様・浴室仕様を追加した。これにより、施工・現調方法が「リプラス汎用枠」、「リプラス高断熱汎用枠」と同様になり、従来品に比べ短時間での施工が可能となった。また、「リプラス」全体で施工・現調方法が統一されたことで、リビングから寝室、浴室など様々な部屋での施工がしやすくなった。
さらに、「リプラス高断熱汎用枠」には窓リノベ事業のSグレードに相当する、これまでのトリプルガラス仕様に加え、Aグレード相当の複層ガラス仕様を追加し、補助金対象商品を拡大、予算や要望に合わせたリフォームの選択肢を増やした。また、同商品については「カバー工法は今あるサッシの上にサッシを取り付けるため、開口が狭くなりがちだが、アルミと樹脂のハイブリッドサッシを採用することで最大限開口を取れるようにした」(サッシドア事業部市場戦略部 山本英司部長)と、カバー工法でありながら、採光性や眺望性に優れている点も強みであるという。
「こどもエコすまい支援事業」を併用した玄関ドアの断熱改修も推進する。同社は、玄関や勝手口は窓の改修だけでは断熱しきれない部分だとし、玄関商品でも高断熱仕様を展開している。2022年1月に発売した「リシェント玄関ドア3 高断熱仕様」は、ドア枠にサーマルブレイク構造や断熱スペーサーを採用し、内部に高性能断熱材を充填した厚さ60㎜の扉で1.44W/(㎡・K)(片開きドア、ガラスなし)の熱貫流率を実現。補助金発表前は受注が前年比およそ100%で推移していた玄関ドアだが、前年比120%に伸びてきているという。そのほかにも水回りやデッキなど、同社の多彩な商品ラインアップを生かし、玄関にとどまることなく、窓改修を起点とした様々な改修の提案を行っていきたいとする。
4月1日からは期間限定で、LIXIL TEPCOスマートパートナーズの、設置費用のみで太陽光発電システムを搭載できるサービス「建て得リフォーム」の対象を窓改修にも拡大。9窓以上の改修を行う場合にサービスを使用できる。電気代が高騰するなか、断熱と合わせてユーザーの生活の安心へつなげる。
【YKK AP】
営業専任化で販路を開拓
特設サイトで予算の把握を簡単に
YKK APは、内窓「プラマードU」の受注が約3倍で推移しており、日によっては5~6倍の受注量になるという。同社は、補助金に伴って、設備増強や人員強化を行ない、10月~11月を目安に生産能力を3倍にするとしていたが、予想以上の受注状況を受け、計画を前倒し、7月を目安にした生産力強化を図る。人員強化については、サッシ業者以外の施工者に向けた講習会などを行っており、意欲のある業者へ積極的に窓設置の方法を提供していく。販売については、CMの放送や、営業の専任化による補助金の啓蒙と販路開拓を進める。
外窓については、「マドリモ 樹脂窓」のリニューアルを2023年10月に予定している。枠見込みをコンパクト化することにより、内付け納まりの既設窓や、壁厚の薄い住宅への対応を可能にする。
加えて同社は、2022年12月にマンションの戸別改修に対応した「ドアリモ マンションドア」を発売している。こちらの商品は、もともと流通店からの「マドリモと同じように、パッケージングされ作図レスなものがほしい」という声から誕生した商品であり、こうしたドア商品と一緒にした提案も強化していく。
そのひとつが、エンドユーザーに向けた、住宅省エネ2023キャンペーンの対象商品についての特設サイト「窓・ドアリフォーム省エネ補助金ナビ」だ。「補助金の活用で、場合によっては単価の高い高性能な商品の方が安くなることもある」(同社)とし、居住地域とリフォームしたい箇所を選べば、断熱商品ごとの補助金額や省エネ効果が一目瞭然で分かるようになっている。こうした取組みもあり、補助金の効果でマドリモ・ドアリモについては、前年比1・5倍程度の受注を受けているという。
今回の補助事業について、堀秀充会長は「住宅エコポイントの際も、一時的な落ち込みはあったが、内窓の認知度が上がったことにより市場の拡大につながった。今回の補助金終了後も、窓改修について一定の需要は続くとみている」としており、補助金による長期的な効果を見込んでいる。
【日本板硝子ビルディングプロダクツ】
独自の真空ガラスが強み
セミナーで正しい施工方法を喚起
日本板硝子ビルディングプロダクツは、特に、同社独自の真空ガラスが好調だという。同社の真空ガラス「スペーシア」は、2枚のガラスの間に0.2㎜の真空層を設けることで、熱の伝導、対流を防ぎ、さらにLow‐E膜が放射を抑えることで、高い断熱性能を実現する。厚さは6.2㎜と、一枚ガラスとほぼ同じであるため、サッシを換えずにガラス交換ができる点もポイントだ。そのため同社は、「先進的窓リノベ事業で普及が拡大している内窓に真空ガラスを採用することに加えて、内窓の設置に向かない場所などでは、ガラス交換をしていただければ」(営業本部 川崎愼司氏)と、内窓設置と併せたガラス交換の提案を進めていきたい考え。流通店に補助金活用の提案などを含めたセミナーを開催しているが、補助金の流れを受けて新しくスペーシア取扱店に登録したいという業者も増えてきているという。
一方で、同社が懸念しているのが内窓を設置した場合の熱割れだ。既存の窓と新たに設置した内窓の間に過剰に熱がこもることで、ガラスにひびが入ってしまう可能性があるという。同社は、熱割れを防止するために「スペーシア」を内窓に採用する際に、保護キャップを室外側にした向きで設置することを促しているが、今回の補助事業での内窓への採用拡大を前に、改めて、補助金活用の説明会などで正しい施工方法と注意喚起を行っている。
商品については、「スペーシア」に加えて、強い日差しが入る西側に面する窓などには遮熱性の高い「スペーシアクール」を奨励する。暑さの原因となる太陽熱を51%カットし、冷房の効果を高める。昨今のエネルギー費用の高騰から光熱費の負荷軽減を実感したとの声が挙がっているそうだ。
住宅高断熱化の動きの中で、徐々に認知度が広がってきた窓改修だが、各社はストック住宅の戸数からみるとその普及は未だ不十分であるとしている。また、窓改修は断熱性能だけでなく、商品によって遮音、防犯といった機能を向上できることもある。住宅の機能性を高めるために必要不可欠な存在である窓。窓改修を起点としたリフォームの加速、住宅の高性能化がなされようとしている。
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