脱炭素で“気密”への気運が高まる

C値1.0を目指し、取り組みが加速

2050年カーボンニュートラルの達成やSDGsの推進などに向けて住宅の高断熱化が急速に進んでいる。
この波のなかで今、改めて注目されているのが気密だ。
断熱性能だけを高めても気密が取れていなければ十分な効果は期待できない。
住宅に高い省エネ性能が求められるなか、気密市場が着実に動き出している。

断熱と気密はセット
適切な気密施工で断熱性能を担保

2020年10月の臨時国会において、菅義偉前首相が「2050年カーボンニュートラル」を宣言して以降、脱炭素に向けた施策が国をあげて意欲的に取り組まれている。日本は、2030年度にCO2排出量を2013年度比46%削減する目標を掲げており、特に家庭部門は66%の削減が求められている。

こうした状況を受け、住宅分野においては高断熱化に向けた様々な施策が行政レベルで進められている最中だ。例えば、2022年6月、改正建築物省エネ法が可決され、2025年以降に新築される住宅・非住宅建築物への省エネ基準の適合の義務化が決定した。併せて2030年度までにこの基準をZEH水準に引き上げる方針も掲げられている。さらに、2050年までにはストック平均でZEH水準の省エネ性能の確保も目指され、長期優良住宅の認定基準がZEH基準相当へ引き上げられ、「フラット35S」にZEHが新設された。また、22年10月には住宅性能表示制度に断熱等性能等級6および7が新設された。

住宅の高断熱化が急ピッチで進められるなか、改めて注目されているのが気密性能だ。断熱性能だけをどれだけを高めても、隙間だらけの住宅ではその効果は大きく損なわれてしまう。気密は断熱性能を最大限に発揮するためには欠かせない。

「断熱と気密は両輪の関係にある。当社は両方の部材を取り扱っているが、高断熱化に併せて気密性能にも注目が集まってきたことで、ようやく本来求められてきた高性能が正しい形で評価される時代になってきたと感じている」(マグ・イゾベール マーケティング部・魚躬大輝・住宅商品戦略マネージャー)と、気密性能についての関心が高まってきている。

電気代高騰も普及を後押し

また、昨今の電気料金の高騰も普及の一因に挙げられよう。2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻が開始されたことで、各種燃料が高騰、日本でも火力発電を行うための燃料が不足し、電気料金の値上げが相次いで発生している。直近でも、東京電力が規制料金をおよそ3割値上げする方針を公表するなど、エネルギー問題は深刻化する一方である。

住宅においては、的確に気密施工をし、きちんと断熱性能を発揮することができれば、その分エネルギー使用量を抑えることにつながる。日本住環境・営業本部兼開発部商品企画の小林輝久課長は、「経済状況が悪化すると、施主の意識の中に節約術として『省エネ』が芽生えてくる傾向がある。実際に、当社の気密テープやパッキン類の売上は2019年から2022年の間で30~40%増加した」と、気密施工の広がりを指摘する。

SNSやYouTubeが強力な武器に
エンドユーザーの認知度が高まる

SNSやYouTubeなどネット媒体の果たす役割も大きい。インフルエンサーだけでなく、住宅や関連メーカーが動画で気密施工の重要性について発信しているケースは少なくない。日本住環境もそのうちの一社だ。同社はYouTubeチャンネル「イエのサプリ」を開設し、住宅に関する様々な情報を幅広いユーザーに向けて発信している。動画によっては再生回数が50万回を超えるなど、反響も大きい。

「誰もが気軽に情報にアクセスし、発信できる世の中になったことで、情報がエンドユーザーの耳に届きやすくなった。あまり気密に精通していない工務店やビルダーよりも意欲的なエンドユーザーの方が知識を持っていることもある。一生に一度の住宅選びを失敗したくないというユーザーが増えているのではないか」(日本住環境・小林課長)と、積極的に情報収集を行う先進的なユーザーの存在を指摘する。

C値は1.0以下が目安?
本当の省エネ住宅を実現するために

ただ、省エネ基準や性能表示など断熱性能の基準はあるものの、気密に関連する定量的な数値基準は存在しない。正確には、1992年に改正された省エネ基準(H4年基準)において基準となる数値が設定されていたが、実測が必要なため設計段階では評価できないこと、そもそも実測による性能確認には時間やコストを要すること、建物の形態毎に数値が大きく左右され単位量当たりの規定が意味を持たないこと、などを理由に2006年の改正で廃止されている。それゆえに、住宅の高性能化を考えた際に気密は断熱に比べて疎かにされがちになっており、気密施工をしようにも何からすればいいのか分からない工務店やビルダーも少なからずいるという。

こうしたなか、(一社)20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会(HEAT20)は、気密の定量的な推奨値として「C値0.7~0.9」を掲げている。C値(相当隙間面積)とは、建物の延床面積に対する隙間面積の割合のこと。数値が小さいほど隙間がなく、性能が高いことを意味する。

この推奨を受けて「C値1.0」をひとつの目安として位置づけ、その実現に取り組む動きが広がりつつある。

硝子繊維協会の訴求する「GWS工法」は、地震に強く、省令準耐火構造の高性能・高気密住宅が実現できる(硝子繊維協会のパンフレットより)

硝子繊維協会は、このC値1.0を防湿気密フィルム付断熱材を用いた場合でも十分に満たすことができることを訴求している。一般的に、防湿気密フィルム付の断熱材よりも裸品に防湿気密シートを別貼りする方が確実に気密が取れると言われている。しかし、「防湿気密フィルム付を使用した場合でも貫通部や取り合い部ごとに正しい施工をすればC値1.0以下の気密性能を確保することができる」(同協会断熱委員会・布井洋二委員長)と、実住宅で行った検証結果を基に、この誤解を解きたい考え。例えば、1階の柱下部においては、1階床合板の柱欠きこみ部を気密テープ、コーキング、ウレタン充填などで気密処理を行うことが重要になる。

防湿気密フィルム付断熱材は、一般的に広く普及しており、慣れている業者も多い。防湿気密フィルム付でもC値1.0が確保できることを示せば、気密施工に対する住宅事業者の意識にも変化が現れるかもしれない。防湿気密フィルム付でC値1.0を満たす施工方法は、今後改訂予定のマニュアルに掲載し、対外的な認知度の向上を図る方針だ。

また、同協会では高性能な住宅を実現するための工法として「GWS工法」の訴求も図っている。「GWS工法」は、地震に強く、省令準耐火構造の高性能・高気密住宅が実現できる、グラスウールを採用した工法。住宅の各取り合い部などに①石膏ボードの張り上げ施工、②構造用合板などの外張り、③剛床構造の採用を行うことで、気流止めや壁倍率、気密性、施工性の向上、通気層の確保などが可能になる。従来から同様の施工方法で気密施工を行っていた住宅事業者はいたが、さらなる普及を図ろうと、2018年に同協会で「GWS工法」という名前を付けた。近年、剛床構造、省令準耐火構造が増加していることから、「採用は広がっているのではないか」と布井委員長は話す。

日本住環境ではパンフレットを発行し、C 値1.0に向けたトータルソリューションを提案している

日本住環境は、「気密と換気はセット」(小林課長)と考え、「漏気」によるリスク低減のために、目安としてC値1.0を提唱している。同社は、「四季を問わず室内を同じ環境にする」ことを基本理念に掲げており、快適性や健康性も併せた「本当の省エネ住宅」の実現を目指している。

しかし、気密性能は施工者の技量に左右される面も大きい。そこで、同社では誰でも簡単に施工できる「ボード気密工法」を中心に、気密テープやパッキンなど自社で取り揃える様々な気密部材を用いたトータルソリューションを提案している。「ボード気密工法」は、合板を用いて「面」で気密を取ることで、継ぎ目を極力減らすことができるため、比較的性能が出しやすい。

「C値1.0の確保に向けては、ボード気密工法だけが有効な方法ではないが、数値を確保しやすい手段の一つではある」(小林課長)。「本当の省エネ住宅」の実現に向けて、C値1.0を全面的に押し出している。

様々な部資材で気密施工をサポート
施主の期待に応える住宅づくりを

住宅においては、快適性や健康性など住み始めてからの性能は重要なファクターだ。高断熱に対する意識の高まりに比例し、完成後の住宅に対する施主の期待値も高まっている。しかし、中途半端な気密施工によって十分な性能を確保できなければ、施主の期待を裏切ることになりかねない。では、どういった方法で気密を確保すればいいのか。

十分な気密を確保するためには、住宅の隙間という隙間を徹底的に塞ぐことが重要だ。気密部材にはシートやパッキン、テープ、ウレタン発泡剤など様々な種類があり、施工箇所に応じて適切に使い分ける必要がある。

エービーシー商会の「エラスティックフォーム」は低発泡であることから窓回りの施工に適している

発泡ウレタンフォームを展開するエービーシー商会は、一液タイプの「インサルパック」シリーズの出荷数が好調に推移する。一棟当たりの使用量の増加や、これまで気密施工にそれほど注力していなかったような工務店やビルダーから採用されるケースが増加。2022年の出荷量は前年比10%増となった。配管まわりやボード系断熱材の継ぎ目、窓回りなどに吹き付けることで手軽に気密を確保することができる。

「インサルパック」シリーズのなかでも注目を集めているのが低発泡で伸縮性を持つ「エラスティックフォーム」。通常のウレタンフォームの発泡倍率が1.5倍~2倍程度であるのに対し、「エラスティックフォーム」は、1.1倍~1.2倍程度と膨らみ過ぎず、施工箇所が変形する懸念が少ないため、窓回りの気密施工に適している。また、発泡ウレタンフォームは吹き付け後に膨らんだ余剰箇所をカットする仕上げ作業が必要だが、「エラスティックフォーム」は低発泡ゆえにその量も少なく、廃棄物削減と時短にも寄与する。「気密市場が広がりつつあるなかで、積極的に情報を発信し、認知度の向上に努めたい」(インサル事業部・佐藤佳信課長)考えだ。

気密テープも近年、引き合いが増えている。断熱材と透湿シートの接合、開口部、配管回りの気密処理などで活用される。

光洋化学は「エースクロス011」を中心にアクリル系粘着テープの訴求を図っている

アクリル系粘着テープのパイオニアである光洋化学は、気密・防水テープ「エースクロス」シリーズの出荷量が年々右肩上がりで推移してきている。特に東北や北海道など寒冷地で引き合いが多い。近年ではホームセンターなどにも流通を広げており、リフォーム需要なども堅調だという。

同社は、30年ほど前に気密テープ業界で他社に先駆けてアクリル系粘着テープを開発。それまではブチルテープが一般的に使用されていたが、手切れ性の良さを含めた施工性の高さから使用者が増加しており、「ブランド力や実績が市場で高く評価されている。気密テープは決して住宅部材の主役ではないが、高性能を実現するためには重要な補助役」(開発部・谷洋次郎課長)と、「エースクロス」を気密部材のスタンダードとして訴求する。

住化プラステックの「のびっとエース」は伸縮性が特徴で、配管回りなどもシワなく隙間を埋める

同じくアクリル系粘着テープを取り扱う住化プラステックも主力である伸長タイプの防水気密テープ「のびっとエース」の出荷量がこの3、4年間右肩上がりで推移している。従来のテープは凸凹した立体面への接着に弱かったが、「のびっとエース」は、伸長性を持たせたことでシワがなく隙間を埋めることができ、施工性の高さから市場で支持を得ているという。
粘着資材部の松崎泰伸部長(取材当時)は、「省エネ性にスポットが当たることでテープを含めた気密部材の出荷量は増えてくると思われる。しかし、中長期にわたってはこの予測も不透明だ。そのため、今後は顧客との接点の強化を図り、着実に一棟当たりの使用量を増やしていくことに加え、これまで省エネを意識してこなかったビルダーや工務店の意識の変革を図っていきたい」と先を見据えた今後の戦略について語った。

高気密化をしたがゆえの問題も?
夏型結露対策の検討を

近年では、住宅を高気密化したがゆえの問題も発生している。それが夏型結露だ。

夏型結露とは、夏季の高温多湿な空気が壁内などに侵入した際、エアコンなど使用によって冷やされた室内側の空気とぶつかって起こる結露現象のことだ。近年、地球温暖化などの影響を受けて気温や湿度が上昇、夏型結露は温暖地で多く確認されている。通常の冬型結露とは逆に、室内がエアコンによって外気よりも冷やされることで壁などの室内側が結露する。住宅の基礎や壁内など目に見えない場所で結露するため、気付かないうちに進行しているケースが多い。湿気によって断熱性能の低下や躯体の腐朽を招く恐れがあり、対策が急務となっている。

こうした夏型結露を防止するために使用されるのが可変透湿気密シートだ。湿度条件に応じて透湿抵抗値が変化する。壁内の断熱材と石膏ボードの間に施工することで、低湿度環境では透湿抵抗が高まり、室内側からの湿気を壁体内に通さず、逆に高湿度環境では透湿抵抗が低下し、壁内の余分な湿気を室内側へ逃がすことができる。年間を通して壁内を調湿することが可能なため、建物躯体の腐朽、カビや断熱材の劣化などの抑制が期待できる。

酒井化学工業の「すかっとシートプレミアム」は屋根裏への採用も増えている

酒井化学工業が販売する「すかっとシートプレミアム」は、近年売上が右肩上がりで推移しており、2022年は前年比で10倍と激増した。「夏場の厳しい日射の影響により、壁だけでなく屋根裏にも可変透湿気密シートが採用されるケースが増えている」(笹本洋一常務取締役)という。欧州規格よりも厳しいJIS耐久試験において50年間性能の劣化がないことが強みとなっている。

同社では、シミュレーションを使った住宅性能の見える化での訴求を行っている。ドイツのFraunhofer建築物理研究所(IBP)で開発された非定常熱湿気同時移動解析プログラムの「WUFI pro」を用いた壁内結露シミュレーションにより、様々な気象条件下による3年間のシミュレーションを実施。壁や屋根を構成する各建材の熱・湿気の挙動を正確に予測することで、顧客の安心感を高めている。

マグ・イゾベールは「イゾベール・バリオ・シリーズ」で展開する「バリオ エクストラセーフ」の売上が好調に推移する

マグ・イゾベールは、グラスウール断熱材メーカーだが、「サンゴバングループ」の強みを生かし、ヨーロッパ由来の先進的な気密システム「イゾベール・バリオ・シリーズ」を展開している。商品群に可変透湿気密シート、仮留め固定用補助部材、気密テープ(2種)を用意。「4つのコンポーネント」として調湿・気密施工をサポートする。

なかでも、可変透湿気密シートの「バリオ エクストラセーフ」は、2022年の売上が前年比100%増と大きく伸長した。魚躬マネージャーは、「夏型結露対策として調湿気密シートの認知度が高まってきている。現時点で対策の基準は設けられていないが、今後の温暖化の進行を考慮して、夏型結露の対策に乗り出しているビルダーや工務店が増えている」と話す。

今後、さらなる住宅の高断熱化に合わせて、気密市場もますます過熱していくことだろう。正しい気密施工の広がりによって、本当の意味で高性能な住宅が広がっていくことに期待したい。