2023.2.22

デベロッパーの脱炭素への施策

拍車がかかるZEH-M

社会的に環境への意識が高まる中で、住宅産業での環境配慮、特に脱炭素が強く求められる。
2022年6月には省エネ基準の適合義務化も決定し、集合住宅においてもZEHへの取り組みが加速している。

内閣府が2020年度に行った世論調査によると、脱炭素社会の実現に向け、一人一人が二酸化炭素などの排出を減らす取組について、「取り組みたい」と回答した人の割合は91.9%(「積極的に取り組みたい」24.8%、「ある程度取り組みたい」67.1%)と環境問題について何らかの行動を起こしたいという人が大多数を占めており、近年の社会全体における環境への意識の高まりが伺える。

こうしたなか、集合住宅における脱炭素への取り組みとして、ZEH化が加速している。

ZEHとは、net Zero Energy Houseの略称で、住宅の省エネ性能の向上や、太陽光発電などを利用した創エネにより、年間の消費エネルギーをおおむねゼロ以下にする住宅のことだ。日本では、2015年12月に経済産業省から、戸建て住宅向けのZEHロードマップが公表されている。一方で、集合住宅については、創エネ設備の設置に対する屋根面積の問題や、建物特徴が非住宅建築物に近いといった点から検討が遅れ、ロードマップが作成されたのは2018年と、戸建て住宅から一足遅れるかたちとなった。

ZEH-M(ゼッチマンション)は、自然エネルギーの積極的な活用、高効率な設備システムの導入などにより、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギー化を実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとなることを目指した集合住宅を指す。原則として太陽光発電などを除く一次エネルギー消費量を、共用部を含む住棟全体で省エネ基準から20%以上削減し、太陽光発電などを含む一次エネルギー消費量を省エネ基準から100%以上削減することが求められる。

また、原則以外のものとして適合度順に、太陽光発電などを含む一次エネルギー消費量を省エネ基準から75%以上削減する「Nearly ZEH-M」、太陽光発電などを含む一次エネルギー消費量を省エネ基準から50%以上削減する「ZEH-M Ready」、再生可能エネルギーを加味しない「ZEH-M Oriented」が設けられている。

住まいが環境に与える影響は大きく、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表したIPCC第6次評価報告書第3次作業部会(AR6/WG3)報告書によると、世界全体で年間に排出される温室効果ガス600億t(2019年)のうち、2割が住宅・建築物から発生するという。

このような背景もあり、世界的に住宅の脱炭素への取り組みが進められている。日本では、2022年6月に参議院本会議で建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律が改正、2025年に省エネ基準の適合義務化が決まったが、2030年にはこの水準をZEHレベルに引き上げることが予定されている。

ZEH‐Mの標準化が加速
目標を前倒しにする企業も

東急不動産が1月に案内を開始した「ブランズ千代田富士見」は千代田区初のZEH-Mで、駐車場の38%の区画にEV充電設備を設置している

こうした変化の波を受けて、戸建てのみならず、集合住宅においても省エネ性能の高い住宅が注目を集めるようになってきており、デベロッパー各社は扱う物件のZEH標準化に向けて目標を表明している。

大京は、他社に先駆けてマンションのZEH化を推進してきており、2023年1月時点で竣工しているZEH-Mは14物件と、国内最多となっている。同社は、2021年9月に、開発する全ての新築分譲マンションにおいて、原則「ZEH-M Oriented」基準を満たす仕様で推進していると公表した。「様々な補助や認定においてZEHであることが前提になっているため、ZEH-Mも二次曲線的に増えていくのではないか」(建設管理部次長・商品企画室室長 中山雄生氏)と、今後その数は急激に伸びるのではないかとみている。

三菱地所レジデンスは2025年度以降に販売開始・賃貸募集する全ての新築分譲マンションにおいて、原則ZEH-M Oriented基準を満たすものを標準仕様化する。三菱地所グループで設定したSBT(温室効果ガス排出削減目標)を達成するための取り組みとしてZEH-Mの推進を図る。同社は、2022年1月に、グループのCO2削減目標である「2017年度比で35%削減」を上回る、2030年までに19年比で50%削減を独自で掲げた。目標は簡単に達成できるものではないとするが、「宣言することから始まる」(経営企画部サステナビリティ推進グループ統括 渡辺尚子氏)と、社内においての意識付けという意味でも目標を高く設定したという。

ZEH-Mが強く推進されるなかで、目標を前倒しする企業も現れた。東急不動産は、着工ベースで2025年度約50%、2030年度100%としていたZEH標準仕様化(ZEH-M Oriented以上)の当初目標を前倒し、2023年度以降に着工する全ての分譲マンション「BRANZ(ブランズ)」をZEH相当の環境性能とすると掲げる。都市型賃貸レジデンスや学生レジデンスへも対象を広げ、2025年度以降に着工する全棟でZEH相当とする。

東急不動産ホールディングスは2021年に発表した全社方針で「環境経営」、「DX」を通じた独自性のある価値創出を掲げており「東急不動産として環境への取り組みを住宅に落とし込んで、どんなことができるかを考えている」(住宅事業ユニット事業戦略部商品企画グループリーダー 一色圭氏)と他社がまだ行っていないことに先進的に取り組んでいきたいという。そのひとつとして、「BRANZ」については、ZEHと並行して低炭素建築物の認定も全棟で取得していく。

同じく、ZEH化の目標を前倒したのが阪急阪神不動産だ。同社は2022年10月、前年2021年に設定した「2030年度までに開発する全ての分譲マンションにおいてZEH-M Orientedを実現する」という目標を大幅に前倒し・対象を拡大し、2024年度以降に販売及び賃貸募集する全ての新築分譲マンション「ジオ」と新築賃貸マンション「ジオエント」をZEH-M Oriented以上とすることを発表した。「国の政策としてZEHを義務化する動きが見え始めているなか、先んじて動き始めた方がよいと判断した」(住宅事業本部マンション事業部 阿部真治氏)。

顧客の意識にも変化が
ZEHが当たり前の世の中に

東急不動産は、「今まではデベロッパーとしての使命感で取り組んでいたが、建築物省エネ法の改正などの国の動きがあり、顧客からの理解も得られやすくなった」(一色氏)という。こうした波に乗り、できるだけ早くZEH化を進めていこうという想いが前述した目標の前倒しにつながった。

阪急阪神不動産はSDGs、省エネ住宅という商品価値での訴求を行っているが、そのなかでも、高い省エネ性能により光熱費を削減できるというメリットはマンションの購入検討者に響いているようだ。

阪急阪神不動産が販売中の「ジオ彩都いろどりの丘」は、マンションサロンのリニューアル後に契約率が向上した

例えば、販売中の「ジオ彩都いろどりの丘」では、1戸あたり年間8万7千円の光熱費を削減できると広告を出して訴求する。また、2022年6月より、同物件のマンションサロンを、ZEH-Mの魅力をより分かりやすく伝えられるものに大幅リニューアルした。環境問題について世界の動きを取り上げたシアタールームや、クイズなどを取り入れ楽しみながらZEHを学べるタッチパネル、窓や壁の断面の展示で来場者の理解を促す。分譲マンションは、販売開始直後に購入意思の強い顧客が来場するため販売当初の成約率が最も高くなるが、マンションサロンの刷新後に、来場者の成約率が向上したという。

同社は、2018年よりZEH-M導入の検討を開始したが、当時は社内でも用語が浸透しておらず、何のことか分からないといった社員も多かったという。現在は戸建住宅でのZEHの広がりもあり、特に戸建と並行して検討している顧客からは「ZEHは当たり前」という声も聞こえるようになってきたそうだ。

国内でいち早くNearly ZEH-Mを達成した大京の「芦屋グランフォート」。同社は、これまでの取り組みで得たノウハウが強みだという

三菱地所レジデンスは、2010年に、高圧一括受電と太陽光パネルを組み合わせた創エネシステム「soleco(ソレッコ)」の分譲マンションへの設置を開始。当初は、社会的に環境配慮への認識は広まっていなかったが、「新しい価値を提供する」という考えのもと、環境配慮への啓蒙として開発した。現在では戸数が40戸以上の「ザ・パークハウス」シリーズすべてに導入している。あわせて、2013年からは太陽光で発電した電気を光熱費に換算して見える化した「マンション家計簿」という冊子を入居検討者に配布し、身近に理解できるようにした。だが、こうした取組みも住んでみてから実感できる部分が大きく、最初から大きな反応が得られたわけではない。同社は、顧客からのZEHの意識が高まった一番の潮目は、国の税制優遇でZEHが上位に位置付けられたことで、「ZEHはいいものであるようだという認識が少しずつ広がり始めてきた」(経営企画部サステナビリティ推進グループ・商品企画部上級エキスパート 石川博明氏)と指摘する。

大京は、「戸建て住宅でのZEHの基準が確立されつつあった中で、この流れはいずれ集合住宅にも来るだろうと、集合住宅でZEHを実現するためのシミューションに取りかかった」(中山氏)と、集合住宅向けのZEH基準が確立する前の2017年に、集合住宅でどこまでの性能を実現できるかの挑戦として、省エネに加え、創エネ設備の設置により基準一次エネルギー消費量を75%以上削減するNearly ZEH基準の集合住宅「芦屋グランフォート」を建設する事業を開始した。ZEH-Mの仕様基準が確立した2018年5月には、既にZEH仕様で集合住宅を建てる方法やコスト感が掴めていたため一気にZEH化を進めることができたという。

2019年に竣工した同物件は、当初リース目的での購入が多く、省エネや地球環境への配慮という面での訴求が難しかった。しかし、「販売終了する最後の方は光熱費の節約の有無を問わず、環境の良さや住み心地という価値で購入を検討する方が増えたという印象が強かった」(中山氏)とする。

環境配慮での差別化
各社の描く今後のビジョンは?

ZEHが標準化するなかで、各社はどのように差別化を図り、環境配慮に取り組んでいくのか。

LCCMも視野に、さらに高い省エネ性能を目指すのは大京だ。昨年、(一社)日本サステナブル建築協会が低層共同住宅を対象としたLCCM適合判定ツールを開発したこともあり、研究をすすめているが、性能の高い集合住宅を建てることにおいては、未だ課題も多い。「集合住宅は防火性能の規定が厳しく、防火認定を取っていて断熱性能の高い集合住宅用のサッシは少ない。以前からZEH-Mに取り組んでいる私たちは、不便さを痛感しているが業界全体での認識はまだ薄い」(中山氏)と、省エネ性能の高い集合住宅に対応する建材や設備が少ない点が課題だという。また、防火性能の高い断熱サッシの必要性を知らなかったり、組み合わせ次第で解決できる部分を過剰設計している会社も多いと述べ、業界全体の知識不足も指摘した。

ZEH Ready以上の性能を目指すためには、太陽光パネルを設置し、各住戸に電気を供給する必要があるが、これに関しても、パワーコンディショナーや共同住宅用の蓄電池を取り扱っている会社が少なく、かなりの金額がかかる。ZEH-M Ready以上の物件は、Orientedに比べ、技術も費用も必要だとし、「より省エネ性能の高い集合住宅の普及のために、さらなる補助金の充実を期待する」(中山氏)という。

ただ、技術面では、高い省エネ性能を目指すことは不可能でないとし、これまでのノウハウをもとに、より省エネ性能の高いZEHマンション、さらにはLCCMにも挑戦していきたい考えだ。「ZEH-Mのパイオニアとして進めてきたので、LCCMでも分譲マンションでの一番乗りを目指したい。そのために、サプライチェーンにおけるCO2削減にも力を入れていく」(中山氏)と意気込む。

三菱地所レジデンスの「ザ・パークハウス 新浦安マリンヴィラ」は独自のエネルギーシステムの構築でZEH-M Readyを達成した

三菱地所レジデンスは、2020年にZEH-M Readyの分譲マンション「ザ・パークハウス 新浦安マリンヴィラ」を販売。同物件を建設するにあたって、環境への取り組みとして三菱電機、関西電力グループと協働し開発したのが「新エネルギーマネジメントシステム ソレイユ」だ。日中発電した電力をお湯に変えてエコキュートに貯湯し、各戸の給湯機の稼働を使用状況に合わせて群制御することで、蓄電池なしでも電力を100%使いきれる仕組みを構築した。また、太陽光で発電した電力とマンションで購入している電力を一括で供給する新しい電力体系を導入、これにより、設備を設置するコストやスペースの大幅な削減を可能にした。

システムの検討を始めた当時は、マンションのZEH基準が設けられる前だったこともあり、新システムの開発を決断するまでにもいくつものハードルがあったというが、環境政策としてエネルギーを賢く使っていくことは重要な要素であり、総戸数528戸という大規模マンションでやる意義があると判断されたという。システムを発案した石川氏は「海沿いで、太陽の光が燦燦と降り注ぐ浦安の立地を生かして太陽光パネルを活用した住宅を建てたいという議論が社内でできたことは大きな一歩だった」と述べる。

同社は、SBT達成のために総量でCO2削減を目指すことが大きな目標だとし、今後についてはZEHや非化石電力の使用といった下流での取り組みはある程度進められてきたため、建設時に使用するコンクリートや鉄筋を環境に良いものを使用するなど、上流部分でのCO2排出削減に取り掛かりたいとしている。「太陽光をたくさん載せたい気持ちはあるが、将来の更新などを考えて顧客が損にならないような物件にしなければならない」(石川氏)と商品展開については、購入動機は人によって違うため物件の特性に合ったプランニングをすることでアピールしていく。

東急不動産は、ZEH-M Ready以上の物件に関して、目指したい意向はあるものの建物の条件として創エネ設備を導入するスペースなど、なかなか実現できる物件がなく難しさも感じているそうだ。ただ、「最終目標はカーボンニュートラル。そのためには本当のZEHを目指していかなくてはならない」(一色氏)と時間がかかっても実現していきたいという。一方で、現状のZEHの条件として敷地内に創エネの設備を設置しなければならないという決まりがあるが、敷地外で発電した再エネの利用が可能になればマンションでのZEHは取り組みやすくなるとし、条件に柔軟性を求めた。

同社はEV設備の設置を積極的に行い、2021年に全戸分の自走式平置き駐車場にEV充電設備を設置した物件「ブランズ上目黒諏訪山」を開発している。蓄電池に比べ導入へのハードルが低いEV充電設備の設置によってV2Hを進め、災害対策と両面で部分的にも太陽光の活用などを行っていきたいとした。また、BRANZ創設時から力を入れている緑化の推進について、入居者が関心を寄せたくなる仕掛けを用意するとし、例えば、マンション敷地内の樹木について花の咲く時期などを体験として学べる場の作成を検討中など、「入居者の方と一緒になってマンションの資産価値を高めていきたい」(一色氏)と取り組みを加速する。

阪急阪神不動産は、ZEH-M Orientedを最低ラインとし、物件の特性に合わせてZEH-M Ready以上の取得を目指す。また、低炭素建築物の認定をできる限りの物件で取得したいとする。差別化については、「今までLow—E複層ガラスを標準仕様としている点が強みであったが、ZEHが標準化していくにあたり、差別化できなくなってきた。マンション全体で顧客に働きかけられるものがないか模索している」(阿部氏)という。

今後の環境への取り組みとしては、顧客のニーズに合わせて、EV充電設備や太陽光パネルの設置、国産木材の活用などを視野に入れる。現在、提携先や資材の調達ルートなどの計画を詰めており、できる限り早期の実現を目指している。

集合住宅のZEH化が加速するなかで、どのような価値、性能を持った住宅が現れるのか。今後の動向に注目が高まる。