2022.12.9

住友林業/One Click LCA 建築時のCO2削減を促進

セミナー開催で脱炭素社会を訴求

住友林業はOne Click LCA社と提携し、CO2排出量を精緻に算定する「One Click LCA(Life Cycle Assessment)」の日本語版の販売を開始。日本での訴求に向けたセミナーを開催した。

近年、国際的にサプライチェーン全体のCO2排出量の開示を求める動きが加速している。例えば、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)では2021年10月に発行されたガイドラインで、企業の事業活動による温室効果ガスの直接的排出に係るスコープ1と、同間接的排出に係るスコープ2の排出量の開示を義務化し、原料調達や物流段階、また、製品の使用や廃棄などで発生する自社以外の排出に係るスコープ3においても開示を推奨している。また、IFRS(国際会計基準)財団の下部組織であるISSB(国際サステナビリティ基準委員会)では2022年10月にスコープ3排出量の開示義務化を決議。SEC(米国証券取引委員会)も2022年3月に、2023年度からスコープ3を含めた排出量の開示義務化案を発表している。さらに、EUは環境規制の緩い国からの輸入品について国境炭素調整税の導入で基本合意しており、日本企業も輸出時の対応を迫られるなど、脱炭素の一環としてCO2排出量の見える化が喫緊の課題として浮上している。

One Click LCA社のPanu PasanenCEO(写真右)と住友林業の光吉敏郎社長(写真左)

こうした背景を受けて重要になってくるのが「建設時のCO2排出量(エンボディードカーボン)」の見える化だ。建築と建設のためのグローバルアライアンス(GlobalABC)によれば、2020年の世界のエネルギーベースCO2排出量は315億tで、このうち建設セクターは37%を占めるという。その中の約70%にあたる「暮らすときのCO2(オペレーショナルカーボン)」については、昨今急速に普及するZEHやZEBなどの拡大によって削減が進むと考えられる一方、残りの約30%である「エンボディードカーボン」については今後、環境配慮型建築などの普及によりいかに削減していけるかが焦点になっている。One Click LCA社のPanu PasanenCEOは「建設業界において、エンボディードカーボンの削減は急務である。世界では既に具体的なプロジェクトがいくつも進行しており、世界グリーンビルディング協議会では2030年までに40%の削減目標を掲げている」と述べる。

エンボディードカーボンの算定には建物資材データなどをもとにサプライチェーン各段階における環境影響を網羅する必要がある。建物ごとに排出量を見える化した上で、排出量の少ない構造や資材を選定できれば、効率的にエンボディードカーボンを削減できる。住友林業の光吉敏郎代表取締役社長は「エンボディードカーボンの見える化はCO2排出量削減のための第一歩だと考えている」と話す。

計算ソフト導入で排出量の見える化をサポート

このようなCO2排出量の可視化には算定システムの使用が欠かせない。そこで、住友林業ではOne Click LCA社と建物のCO2排出量などを見える化するソフトウェア「One Click LCA(Life Cycle Assessment)」の日本単独代理店契約を締結し、2022年8月に日本語版の販売を開始した。同ソフトは約13万の建材・部材データに対応しており、世界130カ国以上の企業で導入が進んでいる。日本でも8月の販売開始以来、大手デベロッパーやゼネコン、設計事務所などが既に利用を開始。販売を通じて住友林業は脱炭素設計の推進と環境普及型建築の普及促進を図りたい考えだ。

エンボディードカーボンの算定により、サプライチェーン全体のCO₂の見える化を目指す
住友林業の掲げるWOOD CYCLEのイメージ図

One Click LCAの特徴はCO2排出量を精緻に算出できる点にある。ISO(国際標準化機構)準拠の汎用データや環境認証ラベルEPD、各社が持つプライベートデータなど、幅広い建築資材の原単位の利用が可能だ。加えて、木質建材などの炭素固定量も算定することができる。

また、国際認証との高い適合性も備える。ISOや建築・都市環境の性能評価システムであるLEED、英国発祥の建築物環境性能評価手法のBREEAMなど50以上の世界のグリーンビルディング認証に適合しており、高い信頼性を得ている。

さらに、効率的なデータ算出ができることも特徴だ。BIMやエクセルとのデータ連携が可能で、資材データの取り込みがスムーズに行えるほか、自動算定機能を活用することでライフステージ毎のCO2排出量を短時間で算定する。過去に選択した原単位を記憶し、自動で紐づけもできるため、利用するほどデータが蓄積され、利便性が高まるという。

今後、日本市場での展開をさらに強化していきたい考えで、①日本の建築現場の実態に合わせた自動算出の条件設定、②日本市場に合致したISO準拠の原単位の整備・拡充、③関係先と連携したBIM、エクセルデータ作成の効率化、といった課題に取り組んでいくとした。

住友林業は木を軸に川上から川下までのバリューチェーンである「WOOD CYCLE」を確立することで、事業を通じた脱炭素を進める方針を示しており、光吉社長は「森林、木材、建築に関わる一連の流れを生み出し、脱炭素社会の課題解決に一層取り組む」と話した。