断熱材メーカーの戦略から見えてきた 住宅の省エネ性能 新たなスタンダード
ZEHレベルの標準仕様化が加速する
2022年6月、省エネ関連法案が成立し、2025年度以降新築される住宅・非住宅建築物の省エネ基準適合義務化が決定した。また、2022年10月から住宅性能表示制度の断熱等性能等級6、7が新設されるほか、これに合わせて長期優良住宅や「フラット35S」の認定基準なども2022年10月からZEH基準相当に引き上げられる。こうした行政側の動きは今後の住宅市場にどのような影響を及ぼすのだろうか。住宅の省エネ性能向上に向けて重要な役割を果たす断熱材業界の戦略から、今後の省エネ性能をめぐる動向を探った。
ZEHレベルは当たり前?
住宅メーカーでは等級6の標準化が進む
2022年6月、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律案」(省エネ関連法案)が成立したことで、省エネ基準の適合義務化がいよいよ決定した。これにより、2025年度以降に新築される住宅・非住宅建築物すべてに現行の省エネ基準レベルの省エネ性能の確保が求められることとなった。
また、住宅性能表示制度における断熱等性能等級において、ZEH基準に相当する等級5が、一次エネルギー消費量等級にもZEH基準に相当する等級6がそれぞれ新設され、今年4月から運用が開始されている。
さらに、この10月からHEAT20のG2、G3レベルに相当する断熱等性能等級6、7も創設される。これに合わせて長期優良住宅や低炭素住宅など認定住宅の省エネ性能に係る認定基準も変更される。
例えば、長期優良住宅については、現行では断熱等性能等級4をクリアすることが要件になっているが、改正後は断熱等性能等級5、一次エネルギー消費量等級6をクリアすることが求められる。つまり、ZEHレベルの断熱性能と一次エネルギー消費量が求められるようになるのだ。
加えて、(独)住宅金融支援機構でも、住宅ローンの金利を一定期間優遇する「フラット35S」の要件を10月からZEH基準相当に引き上げる。
こうした法制度などの改定に呼応し、標準仕様を見直そうという動きが出てきている。住宅メーカーや工務店に断熱材を供給する断熱材メーカーからは、「大手ハウスメーカーなどから断熱等性能等級6を標準仕様にするための相談が増えている」、「分譲住宅事業者からも断熱の仕様を見直したいという要望が増えている」、「ハイエンドモデルとして等級7を用意し、標準仕様は断熱等性能等級6を少し超えたくらいのレベルを狙っているようだ」といった声が聞かれ、企業規模の大小を問わず、住宅事業者が一斉に断熱仕様の見直しに着手しているようだ。
中でも大手ハウスメーカーについては、多くの企業が長期優良住宅の基準を標準にしていることを考慮すると、もはやZEHレベルはスタンダード基準であり、省エネ性能という観点で差別化を図るのであれば、断熱等性能等級の6、さらには7へとチャレンジすることが求められそうだ。
そして、住宅事業者の動きに呼応するように、断熱材メーカーも省エネ性能を向上させたいという企業のニーズに応えるための取り組みを加速させている。
新商品の発売、講習会の実施などソフトとハード両面から手厚い支援
住宅事業者の省エネ性能向上に向けた意識が高まる中で、より優れた性能を備えた断熱材の提案を強化しようという動きが目立ってきている。
アキレスでは、断熱等性能等級7にも対応する新商品として、高性能硬質ウレタンフォーム断熱材「キューワンボードMA」を10月から発売する。同社の主力商品である「キューワンボード」を貼り合わせ加工することで、初めて厚さ100㎜を実現。これにより、これまでの最高厚(61㎜)を更新し、2.8㎡・K/Wだった熱抵抗値も4.6㎡・K/Wと1.6倍以上アップする。
旭ファイバーグラスでは、製品面で誘導基準の仕様基準案に対応した商品ラインアップの拡充を図っていく。誘導基準の仕様基準案は、省エネ計算によらずZEH水準の省エネ性能の適合確認を可能にするために国が準備を進めているもの。
天井などでその仕様例に合う商品を持っていないことから、今後、拡充を予定している。
さらに、講習会などを通じて住宅会社を支援する取り組みも行っている。年間600回を目標に、地域ごとの支店が主体となった工務店やビルダー向けのWeb講習会を開催している。このなかで、断熱等性能等級の5と6、7という2つに分けた講習会も実施。住宅事業者が目指す性能レベルに応じて、伝える情報を変えるといった配慮を行っている。
同社によると、断熱等性能等級6、7を意識する工務店やビルダーが増えてきているようで、「単に義務化への対応を図るのではなく、その先の等級6、7へとチャレンジしようという企業が増えている印象がある」(営業本部 グラスウール営業支援グループ 池田昌彦グループリーダー)と話す。
同社では先ごろ、グラスウールを芯材に使用した建築用真空断熱材について、国内で初めて建築用真空断熱材JIS認証を取得。今後、建築用真空断熱材製品の販売に注力するなかで、新築用も展開していきたい考えだ。
フェノールフォーム断熱材「フェノバボード」を製造・販売するフクビ化学工業は、工務店、ビルダー、設計事務所、流通業者などに向けて、2020年6月からウェビナーを開催している。「昨今の断熱への関心の高まりから反響も大きい。お客様が必要な情報を届けることができているのではないか」(建材事業本部 建材事業企画部 建材事業推進課 小仲雄久課長代理)。
加えて、ビルダーや工務店を支援する取り組みとして、木造住宅のUA値の計算サービスも2020年からスタート。「フェノバボード」の採用を検討している住宅事業者に対して、求めている性能値を実現するための提案をするもので、同社のホームページから申し込むことができる。申し込みから2週間以内で提案書を作成し、それを基に打ち合わせを行う。小仲氏は、「お客様の悩みどころに応えることで、検討の入り口になれば」と話す。
その他にも、多くの断熱材メーカーが製品面での拡充だけでなく、ソフト面での取り組みも強化しており、住宅事業者を支援しながら、需要の創造につなげていこうとしている。
仕様例の例示で採用促す
付加断熱が企業コラボの起爆剤に
住宅事業者が仕様の見直しなどを行いやすくするために、等級毎に自社製品の仕様例を例示する取り組みも進んでいる。
押出法ポリスチレンフォーム断熱材「カネライトフォーム」シリーズを製造・販売するカネカとカネカケンテックは、外皮の性能計算などに苦手意識を持つ流通店や工務店などに対し、使用部位や構造に合わせて同社の断熱材を使い分ける提案を進めており、ZEHやHEAT20のG1、G2に求められる性能の仕様例を提示することで断熱の提案を強化している。
同社の「カネライトフォーム」は独立した気泡構造により、吸水・吸湿性が低く、断熱の大敵である水を含みにくいことから、断熱性能の劣化を防ぐことができる。そのため、外張り断熱のほか、床下など高湿箇所への施工に適している。
また、プレカットにも対応しており、工期短縮・コスト削減・品質安定など施工性と省エネ性を両立している。そのほか、ノンフロン製品でもあり、マテリアルリサイクルも可能なため、グリーン購入法にも適合するなど環境性能が高いことも特徴だ。「カネライトフォームスーパーE−Ⅲ」をはじめ、「カネライトフォームスーパーEX」、「カネライトフォームFX」は、厚さを充実させており、断熱上位等級への対応も可能にしている。
なかでも、「カネライトフォームFX」は、輻射抑制剤をポリスチレン樹脂の中に混ぜ込む輻射伝熱抑制技術に加え、高断熱性の発泡剤を高濃度に分散することで、熱伝導率0.022W/(m・K)という高レベルの断熱性能を備えている。そのため、木造住宅の床断熱については、厚さ75㎜の場合、熱抵抗値を3.3㎡・K/W以上に抑えることができる。これらの特徴から、(独)住宅金融支援機構の性能ランク分けにおいて、断熱材では最高レベルにあたる「Fランク」に分類されている。
さらに、断熱材のほかにも瓦一体型太陽電池や蓄電池、有機EL照明も製造、オリジナルの外断熱・二重通気工法「ソーラーサーキットの家」も含め、関連事業を展開することで、総合的な高断熱、省エネの提供を行い、ビルダーのZEH、HEAT20の断熱グレードの実現をサポートする。
仕様例の提案については、企業間の垣根を越えた動きも加速してきている。その背景には、付加断熱への期待感がある。
断熱等性能等級7をクリアしようとすると、付加断熱を採用することが現実的な手法となる。繊維系断熱材による充填断熱と、発泡系断熱材による外断熱を組みわせることで、壁厚を極端に厚くすることなく断熱性能を高めることが求められるのだ。
また、断熱等性能等級6についても、場合によっては付加断熱の方が取り組みやすいという声も聞かれる。そのため、異素材の断熱材メーカー同士が協働し、さらには開口部メーカーなども巻き込みながら、コラボレーションの輪を広げようという試みが表面化してきている。
旭ファイバーグラスは、断熱等性能等級6、7の推進を図る方針を掲げ、付加断熱の仕様例を提案している。断熱等性能等級6については、5~7地域のような温暖地域では、同社の「アクリアα(アルファ)」の36K、105㎜品を充填断熱で使用することで付加断熱なしで対応を可能にしているが、断熱等性能等級7を目指すには付加断熱が不可欠になってくる。そこで、同社はボード系断熱材「ネオマフォーム」を販売する旭化成建材とコラボし、充填と付加断熱の仕様例の提案に注力している。
王子製袋は、セルロースファイバー断熱材と押出法ポリスチレンフォーム断熱材(XPS)の組み合わせによって、HEAT20のG2レベルの断熱性能をクリアできる仕様を確立している。同社を含めセルロースファイバー断熱材を取り扱うメーカー4社から成る日本セルローズファイバー工業会を中心として、セルロースファイバーとXPSを組み合わせた付加断熱で「防火構造30分認定」を取得しており、今後は、この認定を45分に拡大することや、フェノールフォーム断熱材など他材との組み合わせによる付加断熱の拡充を検討する。
アキレスは、住宅全体の性能を高めるためには断熱だけでなく、空調や開口部、気密なども重要なファクターであると考え、様々な業界にまたがる情報の発信が重要だとして、同業種に限らず、異業種も巻き込んだコラボウェビナーを開催している。これについて同社は、「セミナーの参加者から、断熱材だけでなく開口部などほかの関連部位の話も一緒に聞くことができて良かったと好評を得ている」と話す。
また、上位の断熱等級、特に等級7を目指す動きを支援するために、異素材との付加断熱も視野に入れ、仕様例の公表も検討している。「等級7になってくると単一素材での達成は難しい。そのため、組み合わせによる付加断熱が必要不可欠になってくるが、まずは一番汎用性の高いグラスウールとの仕様例を確立し、提案の強化を図る」(同社)。
マグ・イゾベールは、開口部メーカーなどとのコラボにも注力している。
同社は元々、3カ月に一度の周期で断熱に関するセミナーを単独で開催しており、工務店や設計事務所、流通事業者などに向けた情報発信を行っていた。こうした中、開口部メーカーからの声掛けを契機に、今年5月からは共同セミナーにも力を入れている。「当初の予想以上に反響があり、共同セミナーを引き合いに新規顧客を獲得することで、今までになかった需要を発掘できている。また、コラボセミナー開始後は、当社単体のセミナーの方も参加者が右肩上がりで推移している」(マーケティング部 魚躬大輝住宅商品戦略マネージャー)。
今後は開口部メーカーなどと共同で断熱推奨仕様などを検討していくという。
「EPS(ビーズ法ポリスチレンフォーム)をはじめとした発泡系断熱材は付加断熱の普及によって、新たな需要を取り込むことができるのではないか」。こう話すのは、発泡スチロール協会だ。
繊維系断熱材の充填施工に慣れている住宅事業者にとっては、どうしても発泡系断熱材への切り替えに二の足を踏んでしまう。しかし前述したように、上位等級の実現に向けて付加断熱へ切り替えるとなると、発泡系断熱材の出番が自ずと訪れる。
同協会では、付加断熱の普及に向けた機運が高まっていることを好機と捉え、EPS断熱建材の特徴を広く訴求していきたい考えだ。EPS断熱建材については、200年以上が経過しても熱伝導率が変化しないことが試験で判明しているなど、断熱性能だけでなく、長期にわたり性能を維持でき、新築時の設計通りの断熱性能(暖かさ/涼しさ)を保ち続けるので、長年にわたり安心して住み続けられるといった特徴を備えている。
加えて、木造軸組において外装材に木板、付加断熱にEPS断熱建材を用いた仕様で防火構造30分の認定も取得していて、2×4工法でも防火構造30分認定を申請中である。また、外壁に窯業系外装材を用いた仕様でも同じ認定を取得しようとしている。こうした取り組みを通じて、付加断熱でEPS断熱建材が採用されやすい環境を創造していこうとしている。
「EPSをはじめとした発泡系断熱材は、付加断熱がもともと得意な素材であり、この分野でEPSの使用量を増やしていきたい」(同協会 山田一己専務理事)。
高断熱への期待を裏切らないために気密性能がより大切になる
さらなる高性能化が進むほど、設計上の性能値だけでなく、住みはじめてからの性能がより重要になるのではないかという指摘もある。
多くの住宅事業者が、高断熱住宅のエネルギー面でのメリットだけでなく、快適性や健康性にまで踏み込んだPR活動を行っている。それだけに、設計上の断熱性能などが高まることで、施主の完成後の住宅に対する期待値も高くなるだろう。さらに言えば、最近では高断熱化に伴い全館空調や少ない台数のエアコンで住宅全体の空調を行うケースも増えているが、設計上の断熱性能が再現されていない住宅では、逆に快適性や経済性が損なわれる懸念もある。
こうしたリスクを回避するうえで、重要になるのが気密性能だ。どんなに断熱性能に優れていても、気密性能が低ければ快適な居住環境は実現できないだろう。全館空調のポテンシャルを発揮することもできない。
こうした背景から、近年では断熱材メーカー各社でも気密性を重要視する傾向が見られる。
パラマウント硝子工業は、「HEAT20のG2、G3を目指すのであれば、裸のグラスウールに別張りの防湿気密フィルムを適切に施工し、気密性を担保する必要があるのではないか」(営業本部 業務推進部 田中英明部長)として、気密性能を確保するための部資材をまとめた「気密推奨部材カタログ」を用意した。
グラスウール断熱材については、袋入りの製品と防湿層がない”裸”のままの製品がある。断熱施工に慣れている北海道などの住宅事業者は、裸の製品を使用することが多く、気密性能を確保するための防湿気密フィルムを別張りで施工することが一般的だ。一方、袋入りの製品については、断熱材を梱包している袋によって気密性能を確保できるという考えから、別張りで防湿気密フィルムを施工しない場合もある。
HEAT20のG2やG3では、単なる断熱性能だけでなく、無暖房時の最低室温などの基準も設けており、省エネだけでなく、住宅全体の快適性の向上などを目指している。そのため、より高いレベルでの気密性能の確保が必要になることから、別張りでの気密施工が求められるというわけだ。
同社では、温暖地に向け防湿層を持たない高性能グラスウール断熱材「太陽SUNR」の拡販に注力していく考え。そのための「防湿気密」部材として、特に可変調湿気密シート「太陽SUNR 調湿すかっとシート プレミアム」を提案していきたい考えだ。
マグ・イゾベールは、自社で気密部材を多数そろえ、差別化を図る。同社はフランスの建材メーカーグループの「サンゴバングループ」に所属しており、ヨーロッパの気密システムを導入している。
「イゾベール・バリオ」と呼ばれるこのシステムは、商品群に調湿気密シート、仮留め固定用補助部材、気密テープ(2種)、気密ボンドを取り揃え、「5つのコンポーネント」で気密処理と湿気の管理をサポートする。同社の魚躬マネージャーは、「国の省エネ基準には気密に関する基準が現在はないが、先進的な地方自治体では既に住宅補助の助成条件に気密性能を求める動きもある。こうしたことから、気密性の確保は今後、建築業界全体で高まるのではないか」と指摘する。
気密性能に関する意識のさらなる高まりに期待するのは、エービーシー商会だ。同社が販売する一液タイプの発泡ウレタン断熱材「インサルパック」は、断熱施工の補助剤として利用されている。ボード系断熱材同士の継ぎ目や基礎と土台の間の隙間、さらにはサッシまわりの隙間を埋める際にも使われる。まさに気密性能の確保を手助けする断熱材だ。
部位や用途に応じて様々なタイプの製品を取り揃えており、発泡倍率を抑えたサッシ用のものなどを用意している。
2021年8月には性能と施工性を両立した2液タイプの製品を一新。ノンフロンタイプの「インサルパック NB・PROシリーズ(ノンフロン)」を発売している。同社は現場発泡断熱材を補修部材と考えており、今後、住宅着工戸数が減少しても、隙間に充填することで気密を確保できることから需要が高まると見込んでいる。インサル事業部の佐藤佳信課長は、「近年の高気密、高断熱の流行りから一棟当たりの使用量は増加傾向にある」という。
施工負荷の増加を抑制しながらさらなる高性能化を支援
高断熱化の進展に伴い高まる不安もある。施工負荷の増大だ。とくに付加断熱を採用するとなると、これまでよりも施工手間が増えることになる。こうした不安をプレカットサービスで解消しようというのがJSPだ。
同社はプレカットに対応した製品で差別化を図っている。同社が販売しているのが押出法ポリスチレン断熱材(XPS)「ミラフォーム」シリーズ。熱伝導率0.022W/(m・K)を実現した「ミラフォームΛ(ラムダ)」もラインナップしている。
同社の断熱材は床の断熱施工で使われることが多く、10年以上前から床に施工する断熱材のプレカット加工を行ってきた。ここ数年、職人の減少や工期の遅延問題などが浮上する中で、時代のニーズに合致し、プレカット加工への注目度が高まってきたという。また、工場内で端材を回収し、リサイクルに取り組むことで環境面でも訴求力を高めており、さらなる他社との差別化につなげている。
同社でも今後、付加断熱の普及に伴いXPSが壁や屋根の断熱にも使われる機会が増えると見ており、今後は壁や屋根でもプレカット加工サービスを実施していくことを検討しているという。東日本建材営業統括部の内村光寿部長は、「これから付加断熱の流れが加速していけば、XPSはグラスウールなどとの組み合わせで外貼り断熱材として需要が高まると考えている。そのため、特に壁をプレカット対応できるようになれば大きな武器になり得る」と話す。
同社では引き続きプレカット対応を進めることで、施工性と省エネ性への貢献を前面に訴求していきたい考えだ。
また、デュポン・スタイロも高断熱を促進させるサービス提案として床断熱材のフルプレカットサービスを実施している。同社が特に打ち出す商品はXPS断熱材「スタイロフォーム」の高性能グレード「High−R」シリーズで、特に最近では「スタイロフォームFG」の引き合いが多いという。
また、防蟻性能を付与した「スタイロフォームAT」の引き合いも好調だという。同社製品の「スタイロフォーム」に防蟻薬剤を混入し、断熱材自体がシロアリの食害を防ぐ性能を持つことで長期にわたる住宅性能を確保する断熱材だ。基礎断熱を行う場合、シロアリが断熱材に蟻道を作り、構造躯体内に侵入してしまうリスクがあるため、防蟻薬剤を混入した同社の断熱材が使われることが増えているそうだ。
施工性という点では、王子製袋のセルロースファイバー断熱材「ダンパック」も注目を集めている。寒冷地の天井断熱などで多くの実績を持っており、小屋裏空間にセルロースファイバー断熱材を吹き込んでいく方法で断熱施工を行う。そのため、施工には特殊な技能が求められ、同社では施工込みの販売を行っている。そのため、住宅事業者は施工手間を増やすことなく、施工品質も確保できる。
施工店から成るダンパック工業会を組織し、施工品質の維持・向上にも努めており、講習会を年2回開催するなど、施工者によるバラツキを無くすための取り組みを行っている。
なお同社によると、「等級6、7が開始されることを受けて、大手ハウスメーカーなどからは天井断熱の選択肢としてセルロースファイバーのブローイング施工を検討したいという問い合わせが増えている」という。
エンドユーザー向けの取り組みも加速
動画や体験型施設を活用
断熱性能や気密性能の重要性を広く知ってもらうために、消費者を意識したPR活動を行う断熱材メーカーも登場してきている。
エービーシー商会は、発泡ウレタンフォームの親しみやすさを向上させる目的でエンドユーザーも意識した施策を強化している。「インサルパック」の特徴などを分かりやすく説明する動画を作成し、Web上で公開している。同社の「インサルパック」はホームセンターなど一般流通店でも取り扱いがあるため、そうした場所でこの動画を流すことで、エンドユーザーへの認知度を高めたい考え。
フクビ化学工業は、フォワード ハウジング ソリューションズが主導し、2016年7月に設立した(一社)高性能住宅コンソーシアムに参画し、体験施設を生かした訴求に取り組んでいる。このコンソーシアムには、同社以外にYKK AP、永大産業、シネジックなども参画している。同コンソーシアムは高性能住宅の普及を目指した活動を行っており、兵庫県に「S−ZEHモデルハウス at 淡路島」というモデルハウスも開設している。コンソーシアムが提案する高性能住宅を具現化したもので、北海道におけるHEAT20のG2レベルの断熱性能を備えている。建築事業者のプロの方が性能を体感する施設としてだけでなく、条件を満たせば、一般消費者が宿泊体験を行うこともでき、連日宿泊体験の予約が埋まっているほどの盛況ぶりだという。
来年2月には茨城県小美玉市にも宿泊体験ができるモデルハウス「S−ZEHの家」を竣工する予定で、実際に高断熱住宅に宿泊してもらうことで、高性能住宅の需要創造につなげていきたい考えだ。
パラマウント硝子工業は、施主や工務店など施工事業者に高い断熱性能の住宅を実際に体感してもらう目的で、断熱体感棟「パラマン館」を2019年9月、福島県須賀川市本社・長沼工場の敷地内に竣工し、同年10月にオープンした。「パラマン館」は屋根・天井、壁、床に、同社製品の「太陽SUNR」を使用し、UA値0・30を実現した超高性能住宅。建物内部にはグラスウールの特徴を体感できる様々な展示も用意する。現在は新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から閉鎖を余儀なくされているが、今後、状況次第では再び活用を見込む。
また、コロナ禍で対面営業が難しくなった中でオンラインを活用した訴求力を高める取り組みにも注力している。YouTubeチャンネル「PARAチャンネル」を開設し、オンラインセミナーの配信や、パラマン館の施工の様子などプロユーザーだけでなく、エンドユーザーを意識した動画コンテンツも展開している。
新たな断熱等性能等級の創設などによって、住宅の断熱性能をめぐる状況が大きく動きはじめている。断熱材メーカーにとっては、千載一遇のチャンスでもあり、足元の戦略次第で将来のマーケットシェアが変わるといっても過言ではないだろう。さらに言えば、断熱材メーカーの動き次第で、今後の省エネ性能の〝平均値〟も大きく変わる可能性を秘めている。それだけに、引き続きハード、ソフト両面で新たな戦略が打ち出されることになりそうだ。
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