2022.6.1

2021年度決算[不動産]

商業施設などの好転が牽引し大幅な増収・増益相次ぐ

大手不動産5社の決算が出揃った。
コロナ禍の影響から抜け出したとは言えないものの、商業施設の回復などから大幅な増収増益の数字が並んだ。


不動産大手5社は軒並みの好業績。各社増収増益で、過去最高の数字となった企業も多い。三井不動産は営業収益、営業利益とも過去最高、東急不動産ホールディングスは営業利益で過去最高、住友不動産は経常利益で過去最高といった具合だ。
2020年度は、コロナ禍の影響が大きく、増収した三井不動産を除いて減収減益であった。感染対策として外出抑制、施設の営業時間の短縮や人数制限などにより商業施設やホテル事業などの不振が響いたためだ。

2021年度、好業績を牽引したのはこうした前年度に不振だった事業の好転が大きい。

三井不動産の2022年3月期決算は、コロナ禍の影響が継続するなかで、商業施設賃貸の回復、投資家向け分譲の物件売却の伸長、貸し駐車場、個人向け仲介などの伸びにより、営業収益は前期比4.6%の増収と過去最高を更新した。営業利益は同20.2%増の増益であり、特に、分譲、マネジメントの営業利益も過去最高となった。

三菱地所の2022年3月期の連結決算は、営業収益が同11.8%増、営業利益が同24.3%増、経常利益が同20.3%増の増収増益で、営業利益、親会社株主に帰属する当期純利益ともに過去最高となった。キャピタルゲインの増加、常盤橋タワーの稼働、商業施設.ホテルの回復、投資マネジメント事業のフィー収入増加が主な要因である。

東急不動産ホールディングスは、売上高が同9.0%減、営業利益は同48.3%増、経常利益は同56.4%増と業績が大幅に回復した。特に営業利益はホールディングス体制への移行前も含めて過去最高益である。賃貸オフィスは大型オフィスビルの通期稼働、アセット売却は活況な不動産売買市況により売却益が増加、また、住宅分譲や売買仲介が好調に推移した。
住友不動産は、売上高が同2.4%増、営業利益が同6.7%増、経常利益が同7.2%増の増収増益。経常利益は最高益となった。主力のオフィスビル事業が増収増益、不動産賃貸事業も増収増益となった。

野村不動産ホールディングスの2022年3月期連結決算は、売上高が同11.1%増、営業利益が同19.5%増、経常利益が同25.2%増の増収増益となった。住宅分譲の好調が牽引した。住宅部門、都市開発部門、資産運用部門、仲介.CRE部門、運営管理部門のすべてで増収増益となった。

マンション販売好調で住宅分野も増収や増益相次ぐ

分譲住宅市場が好調に推移した2021年度、分譲住宅の新設住宅着工戸数は前年度比3.9%増の24万8384戸と増加した。ただ、分譲戸建住宅と分譲マンションでは明暗が分かれ、戸建住宅が14万4124戸、同11.4%増であるのに対し、マンションは10万2762戸、同5.0%の減少であった。

住宅事業で好調なのが野村不動産。住宅部門の売上高は3092億2500万円、同13.4%増、事業利益325億5000万円、同45.3%増と大幅な増収増益となった。住宅分譲事業において計上戸数4329戸、同18.0%と増加したこと、粗利益率が向上したことが要因だ。2023年3月期経常予定売上高に対する期初時点での契約進捗率は74.6%と順調に推移している。

三菱地所も住宅事業の営業収益は3809億5900万円、同5.0%増、営業利益は301億7300万円、同25.4%増の増収増益となった。国内マンション事業は計上戸数3046戸、同12.4%減と減少したものの、戸当たり単価の増加により増収となった。また、注文住宅事業は営業収益389億1000万円、同21.4%の大幅な増収。売上棟数および平均単価が増加したことなどが要因だ。

東急不動産ホールディングスのセグメント別業績「都市開発」のなかの「住宅分譲(分譲マンション)」をみると、売上高は1399億円と同32.0%増の大幅増収。「住宅の質の改善ニーズなどにより実需層が強く、引き続き堅調な販売」となっている。計上戸数は2194戸と同417戸増加、新規供給戸数は同248戸減らしたものの、期末完成在庫は同166戸減少と順調に契約が進んでいる。

住友不動産の分譲マンションを中心とする不動産販売事業は、マンション.戸建の計上戸数が3569戸と同14.0%減となったことから減収減益となったが、営業利益は504億円と期初の計画通りの高水準で好調に推移している。また、マンション契約戸数は3047戸と計画通り順調で、次期計上戸数約3000戸に対し期首時点で約80%が契約済だ。

一方、完成工事業は2043億6100万円、同8.3%増など増収増益。計上棟数で新築そっくりさんが7971棟、同5.4%増、注文住宅も2611戸、同10.0%増とともに増加した。また、受注も新築そっくりさんが同11.0%増、注文住宅が同4.1%増と好調に推移している。

三井不動産の分譲事業は、全体で営業収益6438億5100万円、同708億8700万円の減収、営業利益は1383億4300万円、同201億2900万円の増益。国内住宅分譲は、中高層分譲が3208戸(同567戸減)、戸建分譲が507戸(同8戸減)の計3715戸(同575戸減)となった。

計上戸数の減少及び戸当たり単価の減少により、営業利益は159億7500万円の減益となったが、「営業利益率は10%と好調」な推移が続いている。また、3月末の完成在庫も89戸と史上最少と販売は順調だ。

一方で、投資家向け.海外住宅分譲等はJリートをはじめとする投資家への物件売却の伸長などにより増収増益となり全体として増収増益、特に営業利益は過去最高を更新した。

2023年度も好調を堅持
史上最高売上、利益の見込みも

さまざまな資材の高騰、エネルギー危機など不透明な状況にある一方で、コロナ禍の感染拡大が収束しつつあり、事業環境に明るさが出てきている。

こうしたなか各社の今期の見通しは明るく、さらなる増収、増益を見込む。

三井不動産の2023年3月期の見込みは、商業施設、ホテル.リゾートなどで業績が回復傾向にあることに加え、オフィス.商業施設などの新規竣工物件などにより、営業収益2兆2000億円、営業利益3000億円のほか、経常利益、当期純利益のいずれも過去最高の更新を見込む。

分譲事業においては、国内住宅分譲における戸当たり単価の増加、利益率の改善などにより増収.増益を見込み、営業利益も過去最高を見込んでいる。

三菱地所の2023年3月期の見通しは、営業収益1兆4160億円、営業利益2910億円、経常利益2710億円の増収増益を見込む。常盤橋タワーの通期稼働による新規ビルの賃貸利益が増加、商業施設.ホテルは各種制限の緩和による国内需要の回復を中心に収益が改善すると見込む。

ただ、住宅事業については国内分譲マンションの分譲戸数減による売上高3450億円、同9.4%減、営業利益270億円、同10.5%減の減収減益を見込んでいる。

東急不動産ホールディングスの2023年3月期の見込みは、売上高1兆円、営業利益900億円の過去最高の売上高.営業利益を計画する。

引き続き活況な不動産売買市況によるアセット売却益の増加や売買仲介の拡大、管理運営事業においてはワクチン接種の進展などによる国内需要の一定の回復などを見込むものだ。

ただ、住宅分譲については計上戸数1215戸と大きく減少する見込みで、営業収益も841億円(同39.9%減)と減少を見込んでいる。

住友不動産の2023年3月期の見通しは、売上高9500億円、同1.1%増、営業利益2400億円、同2.6%増、経常利益2350億円、同4.4%増の増収増益と、2期連続の経常最高益を見込んでいる。

また、野村不動産の2023年3月期の見通しは、売上高6800億円、同5.4%増、経常利益850億円、同3.0%増の増収増益を見込む。このうち住宅部門の売上高は3250億円、同5.1%増だ。