住宅・建築物から温室効果ガスの20% 住宅から過去30年間で50%増
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC※)は今月4日、「緩和策」報告書を発表し、「二酸化炭素などの温室効果ガスが現在のペースで増え続けると10年以内に、気象災害が現在より危険なレベルで頻発する可能性がある」と指摘。その上で「危機を回避する方法は揃っており、これまで重視されていなかった需要側からの取組みでも削減の大きな可能性がある」と記載した。住宅産業を中心に、関連するエネルギー、産業、林業の緩和策も紹介する。
住宅・建築物の大きな役割
世界全体で、年間600億tの温室効果ガス(2019年)が排出されている。世界人口78億人(2019年)で割ると、一人当たり7.7tになる。つまり一人当たり、10t積みトラックの過半を占める量を排出していることになる(もちろん富裕層の排出量は、それ以外と比べ圧倒的に大きい)。
世界全体の温室効果ガスの2割は住宅・建築物から発生する。
これには建築に使われたセメントや鉄鋼からの排出も含まれる。建築と改修を含めた年間排出量は、120億t(2019年)。
住宅からの排出量は、1990年からの30年間で50%増加した。研究では、3種類の政策で2050年までに排出される量の61%は削減可能であることも分かった(図1参照)。
報告書は、2030年までの10年間が脱炭素”学習”上、決定的に重要だと指摘する。脱炭素の成果をあげるために必要な技術やノウハウを獲得するだけでなく、制度・慣習、ガバナンス、ファイナンスなどを改善し、学習効果を加速することが欠かせないと記載している。
建築の各段階で緩和策を組込むことも提案した。例えば設計段階では、加齢やライフスタイルの変化とともにユーザーのニーズが変わることを見越し、将来、大きさや形を変えられるよう柔軟性を持たせる。建築時には、製造時の排出量が少ない建材や省エネ・省資源効果の高い建物外皮を選択する。
使用時には、再生可能エネルギーや高効率な電化製品を利用する。加えて、エネルギー使用の最適化システムも導入する。廃棄段階を考え、リサイクル、再利用可能な素材を採用する。
住宅産業は、産業全体とも密接にかかわる。産業部門で大幅に排出量を削減するには、需要マネジメント、省エネ・省資源、それに原材料の循環型利用をバリューチェーン全体で協力しあうことが前提になると記述する。
住宅産業は緩和策と適応策の要
住宅は、緩和策と適応策を組み合わせることで相乗効果を上げやすい分野でもある。屋上緑化、緑のファサード、公園とオープンスペースのネットワーク化、都市林や湿地の保全、都市農業などは適応策であり、同時に冷房需要を下げるので緩和策ともなる。生活を快適にしつつ資産価値を上げる効果もある。
住宅が集中する都市は、脱炭素化を効率的に行う機会も提供する。都市の形、インフラやエネルギー・システム、サプライチェーン全体を体系的に変革する上でも住宅産業の役割は大きいといえよう。
図2は住宅産業の視点からみた報告書のエッセンスである。
(記:水口哲、フリージャーナリスト)
注:IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Changeの略称。気候変動に関する最新の科学論文の知見を整理し、約8年ごとに4種類の評価報告書をまとめる。昨年8月に公表した「自然科学」編では気候変動が人間活動によることは「科学的に疑う余地がない」と指摘した。
今年2月の「影響と適応策」編は、気候変動が進めば人間も自然も「適応の限界」に達すると報告した。これら2本の報告書と今回4月の発表分を統合した最終報告書が9月に発表される。
そして9月には、日本を含む世界中の大手メディアが手を組んで大掛かりな気候変動キャンペーンが予定されている。
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