2022.3.3

金子建築工業、大型パネルで2階建て共同住宅建設

超高断熱仕様でパッシブハウス認定を目指す

金子建築工業(岐阜県恵那市)は、地元企業からの依頼を受け、外国人技能実習生が住む共同住宅の建設を進める。工期的な制約などを考慮して大型パネルを採用。約200坪、2階建ての建物を1日で上棟した。

大型パネルの採用により、約200坪、2階建ての建物を1日で上棟した

金子建築工業は、恵那市岩村町で2階建て共同住宅の建設を進める。施主は、愛知県豊田市に本社を置く地元企業で、金型設計・製作・プラスチック成形・表面処理などの事業を展開する三協高分子。岩村工場で働く、外国人技能実習生が暮らす社員寮となる。建築面積は約430㎡、延べ床面積やく690㎡の2階建の建物で、最大43人が生活できる。

三協高分子の兵藤裕子常務は、「コロナ禍で現在はストップしているが、インドネシアから毎年多くの外国人技能実習生を社員として受け入れている。恵那市内で複数のアパートを借りて、社員寮として活用しているが、習慣や文化の違いよりトラブルが何度か生じていた。また、厳冬・酷暑が特徴の恵那の気候になかなかなじめないという声も聞いていた。夏も冬もエアコンはつけっぱなしで、膨大な光熱費がかかるという課題もあった。であるならば、省エネ性能に優れた共同住宅を建設し、そこで快適に健康的に生活してもらうことで、社員の満足度向上、光熱費の削減につながる。ひいては、会社のイメージアップにもつながり、口コミの効果で、より優秀な人材の確保にもつながるのではないかと考えた」と話す。

建設途中の建物の内観。完成すると最大43人が生活できる

社員寮の新設に関連して相談を持ち掛けた鎌倉寿建築設計室の鎌倉寿氏は、超高断熱仕様で共同住宅を建設し、共同住宅として初となる、世界基準のパッシブハウス認定の取得を目指すことを提案。「パッシブハウスをつくることが、企業にとって、脱炭素に向けた1つの手段になり、社会に貢献できる」(鎌倉氏)。この提案を受けて、兵藤常務は、「パッシブハウス仕様にすると通常より2000万円ほど建築費が高くなるが、試算では年間の光熱費を170万円節約し、10年ほどで回収でき、コスト的に大きなメリットがある。何より、外国人技能実習生に、快適で健康に生活してもらい、元気に働いてもらいたい」と判断し、建築プロジェクトを進めることが決定した。

柱間にネオマフォーム90㎜を充填、外壁の外側にネオマフォーム100㎜を施工した付加断熱仕様の外壁パネル

とはいえ、パッシブハウスは意気込みだけでは実現できない。そこで、“楽園住宅”というブランドで、高断熱高気密住宅を展開し、豊富な知見と技術を有する金子建築工業に白羽の矢が立った。今回の建築プロジェクトでは、延べ床面積約700㎡近いという大規模な物件であり、かつ「物件の引き渡しが4カ月後の6月初旬引渡し」という制約があったため、工場生産する大型パネルを初採用した。パッシブハウスレベルの建築物の施工には、熟練の技術を持つ大工を数多く手配する必要があるが、同社建築部の受注が好調な状況もあり、熟練の大工を複数名、長期間、確保することが難しく、工期短縮と職人不足への対応という切実な問題から大型パネル採用に至った。

外皮平均熱貫流率は0.181
10台のエアコンで全館冷暖房

パッシブハウス認定を目指す共同住宅は、超高断熱仕様となる。開口部のサッシには、佐藤の木製サッシ「smartwin」、玄関ドアにはYKK APの「イノベストD70」を採用。外壁の柱間にネオマフォーム90㎜を充填、さらに面材のモイスTMに、ネオマフォーム100㎜を付加断熱した。天井にもネオマフォームを100㎜+100㎜を施工。床にも大引間にネオマフォーム100㎜、根太間にネオマフォーム60㎜を施工した。外皮平均熱貫流率0.181W/㎡Kという断熱性能を持たせた。

「建物の南側に山があり、日射取得で不利な面もあったため、パッシブハウスを目指す室内環境と消費エネルギー量を満たすために、必要な外皮性能を決めた」(同社)。

また、暖冷房設備としてパナソニック製の「エオリアJ」を10台導入した。「パッシブハウスレベルの外皮性能を確保することで、この建物の規模で、10台のエアコンで全館冷暖房を実現できる」(同社)。

東濃桧を積極的に使用
地域産材比率は5割

地域産材を積極的に使用することにもこだわった。地元の東濃桧(ぎふ認証材)を主に使用して大型パネルを製造した。小屋組、床組、柱・間柱などに桧の人工乾燥材を使用。建物全体で82.768㎥の木材使用量のうち、ぎふ証明材は43.14㎥にのぼる。「ウッドショックの木材不足の中、長年にわたり地元製材工場との連携していたことが奏功し、地域産材比率を50%にまで高められた。今後、地域産材比率を高めるには、横架材供給に課題がある。サイズ・量・構造計算にのせやすい正確な強度の把握など、改善していくべき課題は多い」(同社)。

また、床合板についても、地域産材比率を高めることに挑戦した。オール国産材針葉樹合板16.873㎥、表層が国産でない合板11.515㎥を地元合板工場で製造し使用した。「東濃桧は、合板も含めて地産材ネットワークを構築しやすい」(同社)。

同社は、建設事業部が中心となり、住宅建設を行うほか、流通事業を展開し、地域工務店などへの木材、建材の販売も行っている。そこで地域の工務店などを対象に、今回の建築プロジェクトの上棟見学会を開催した。
パッシブハウスレベルの高性能な住宅・建築物を建設するノウハウを広め、高性能住宅づくりに取り組む工務店のネットワークを広げるとともに、大型パネルや、地域産材の活用のメリットを訴求することで、地域の住宅産業を盛り上げていきたい考えだ。

「脱炭素、SDGsといった観点から、木材(木造)には強い追い風が吹いていて、更に木造を望む声は大きくなると考えている、これまでS造など他工法でつくられていた建物も、木造化が進むと期待している。しかし、施工力が追い付かず、請けきれない仕事も増えてくる懸念がある。大型パネル工法は、我々、そして地域工務店にとっても、これらの解決策の一つになりえる」(同社)。