サイディング業界が動く 壁で新たな価値提案を

窯業系、金属系で活発化する付加価値提案

新設住宅着工の減少傾向、ストックマーケットへの期待といった住宅市場そのものの大きな変化、また、住宅のデザイン性を求めるニーズの高まりなどを背景に、外壁材業界が大きく動いている。

(一社)日本サッシ協会の調査によると、戸建住宅の外壁材素材別シェアは、窯業サイディングが78.3%と圧倒的なシェアを占め、アルミサイディング8.8%、金属サイディング3.7%、ALC0.4%、モルタル5.8%、木質0.8%、その他2.4%となっている。

(一社)日本窯業外装材協会の統計で窯業サイディングの販売量をみると、2020年は9350万㎡であり、前年比8.5%減であった。新設住宅着工戸数の減少傾向に新型コロナウイルス拡大が拍車をかけ、マーケットが冷え込んだことが影響した。

こうしたなかで窯業サイディングメーカー各社は、これからの時代を見据えた新たな戦略を相次いで打ち出している。

一方、近年、新築住宅市場で存在感を強めているのが金属サイディング。金属系サイディングは圧倒的にリフォームでの採用が多かったが、シンプルモダンの住宅デザインがトレンドとなるなか、金属ならではのデザイン性が評価され新築住宅における採用が増加している。

サイディングマーケットはどのように動いているのか、最新の動きを探った。


【窯業サイディング】新たな差別化戦略が加速 メーカーの存在価値の確立を目指す

新築住宅で約8割と圧倒的な採用率の窯業サイディング。それだけに市場は住宅着工に大きく影響を受ける。昨年からコロナ禍、ウッドショックとマイナス要素が相次いだが、住宅着工が戻りつつあるなか、各社の販売は好調さが漂う。「想定していたほど落ち込まずに済んだ」という状況のなか、特に今年に入って前年を上回る販売が続く。

窯業サイディングの大きな流れは、高級化、高付加価値化だ。意匠性や耐久性を高め、外壁材に新たな魅力を付加するものである。こうしたなかで、さらなる差別化戦略が展開され、用途拡大が進んでいる。

高い付加価値が施主の評価につながっているニチハの「フュージェ プレミアム」

付加価値戦略を大きな成果につなげているのが、業界トップ企業であるニチハだ。2020年度、着工戸数が減少するなかで国内の販売数量こそ前年同期比9・7%減としたものの、売上高は同3.1%減にとどめた。その大きな要因が高付加価値商品の拡販などによる業界シェアの拡大である。「高意匠・高性能をうたう製品へのシフト」(営業企画部企画課・佐伯直昭課長)がシェアアップにつながり、54.5%(同3.5%増)を占めるまでに至っている。

その高付加価値化を牽引しているのが2018年に発売した「プレミアムシリーズ」、なかでも「フュージェ プレミアム」の評価が高い。プレミアムシリーズは、無機塗料と有機塗料のメリットを兼ね備える超高耐候塗料「プラチナコート30」と、汚れにくい高耐久シーリング材「プラチナシール」を使うことで業界初の30年保証を付与することが大きな特徴。なかでも「フュージェ プレミアム」は「四方合いじゃくり」によるシーリングレス仕様で、サイディング同士の継ぎ目が目立たないことが大きな特徴だ。「シームレスで一体感のある仕上がりと、超高耐久でメンテナンス費用を大幅に削減できることが施主に高く評価」(同)と、高い付加価値が採用につながっている。

高級化・高付加価値化のベースになっているのがサイディングの厚手化である。それまで12mm厚や、14mm厚が主流であったものが、2008年頃に15mm厚が取って代わり、現在は15〜16mmの中厚品が市場の6割を占めるようになっている。

ケイミューは新生光セラ18で18mm厚品のデファクトスタンダード化を狙う

この厚手化の流れをさらに一歩先へと進める戦略として「外壁ルネサンス」新生光セラ18を今年3月に打ち出したのがケイミューである。新生光セラ18の、深堀による格調と風格、色の40年品質、抗菌・抗ウイルスという3つのポイントを強く打ち出し、18mm厚品による住宅外観の重厚感アップや長寿命化を強く訴求する。

2mm厚みを増すことで住宅の意匠に重厚感を与えることができる。その分、重くなる懸念があるが、同社独自の「中空構造」により、厚手化と軽量化を両立させた。そして表面塗装には新たに「トリプルコート」を採用。従来の光触媒コートを含む二層のコートに「高耐候性コート」を一層加えることで、これまでの「30年品質」から「40年品質」の耐候性を実現した。また、光触媒工業会による認証を取得し、抗菌・抗ウイルスを新たに謳う。こうした新たな特徴を付加しながら16mm厚品の光セラと同様の価格で提供する。この新生光セラ18の普及により、さらなる住宅の高機能化、長寿命化に貢献していきたい考えだ。

同社の窯業サイディングの出荷は今年度に入って前年超えが続くが、この戦略の効果が出始めていることも大きな要因だ。

新生光セラ18が評価されているもっとも大きなポイントはやはり18mmの厚さ。「中厚品と呼ばれる商品のなかでの差別化ができなくなっていた」(川井拓郎執行役員)なか、「窯業サイディングはもっと進化できるはずだ」(同)と、新生光セラ18で新たな価値の提供を目指した。
「18mm厚になったから高くなる、重くなるでは、企業としての存在価値がない。メリット、ベネフィットを感じていただけること、それがルネサンス」(同)だという。ケイミューが目指しているのは、18mm厚品のディファクトスタンダード化により、住宅の品質を高め社会に貢献していくことだ。

こだわり層にターゲットを絞る差別化戦略を取る旭トステム外装の「SHiZEN SAND」

旭トステム外装も強く差別化を打ち出す。2020年に外壁/内壁用建築素材の新ブランド「SHiZEN」を立ち上げ、今年4月には第2弾となる「SAND」を発売した。「同業他社と差別化を図り、旭トステム外装が存在する意味を見直そう」と打ち出した新たな戦略に基づく商品だ。

同社の生産拠点は茨城県の鹿島工場のみであり、幅広い商品を生産できるわけではない。そこでターゲットをデザインにこだわる層へ絞り込み、この一年間、つながりが薄かった設計事務所やデザインビルダーとの接点づくりを続けてきた。

「SHiZEN」はデザイン性と機能性をあわせ持つことで設計者に新たな可能性を提示する。ターゲット層が従前と大きく変わることから立ち上げ当初は苦労したというが、2020年度の販売目標をクリアした。これまで窯業サイディングを採用していた層からは「どう使うの?」という声が聞かれるものの、設計事務所やデザインビルダーからは「面白いね、是非、使いたい」と評価は大きく分かれるという。ターゲットを絞り込むという同社の狙い通りと言えるだろう。「ボリュームゾーンを狙う商品ではないが、採用先を広げながら、リピート採用を増やすことに注力」(同社)している。

これまでになかった商品だけに、今後は使い方などの提案に力を入れる考え。興味は持ってもどのように使ってよいのか分からないビルダーも多くいるとみられ、施工事例やコーディネイトをコンテンツ化し”かっこいい”使い方を打ち出していく。採用事例では塗り壁やガルバリウムなどとの張り分けが多く、金属サイディングとの張り分け提案なども検討中。WEBにおける「SHiZEN」特設サイトの充実を図り、情報提供を進める考えだ。

さらに今年、新たに「AT‐WALL Archi」シリーズを設定、6月から順次発売を開始した。トレンドになっているシンプルモダン系のラインアップを大幅に強化したもので、やはりデザインを重視する設計事務所やデザインビルダーに向けた商品だ。

「ターゲットを絞り込み、採用いただける所にしっかりとアピールしていく」(同社)という狙いだ。

今後、新築マーケットの縮小が予測されるなか、「メーカーとして存在価値を出し続けるため、しっかりと価値のある商品を提供していく」(同社)とこだわりをみせる。

非住宅分野への用途拡大
新たな開拓に向けて商品提案が活発化

窯業サイディングの新たな動きとして注目されるのが非住宅分野、中高層分野というこれまで窯業サイディングが採用されていなかった分野への拡大であり、窯業サイディングが持つ”低層住宅向け”というイメージからの脱却が進みつつある。

ニチハは「外壁1時間耐火構造」の認定を拡充したことに加え、窯業サイディングメーカーとして初めて「2時間耐火構造認定(柱・梁の合成被覆)」を取得するなど、中高層建築に求められる耐火性能、耐風圧性能、耐震性能など機能性を兼ね備え、その採用を拡大させている。大手設計事務所やアトリエ系の設計事務所、ゼネコンなど窯業サイディングの新たな販路拡大を進めている。

商品では、2020年に中高層建築に適した「タイルデザインパネル」として通し目地タイプのモエンエクセラード18フュージェ「サンドグリッド Type‐A」、ウマ目地タイプの同「Type‐Z」を相次いで発売した。タイル仕上げの経年劣化によるリスクを抑え、メンテナンスや維持管理コストを低減する。デザイン面では人気の「50二丁タイル」風のデザインで最大6mmの目地深さを実現した高級感のある深エンボス加工を施す。18mm厚品ならではの重厚な風合いがポイントであるが、さらにオリジナルカラーデザインが可能な「オーダーカラー」に対応することが最大の特徴といえる。計97色の標準色に加え、ベースカラーとサブカラー、アクセントカラーといった組み合わせでイメージにあった色を実現できる。「中高層建築という新たなユーザーに対して窯業サイディングを受け入れてもらうため、自由な発想ができること」(ニチハ・佐伯課長)を狙ったものだ。

今後も「認定の拡充や新工法の開発など、市場開拓のスピードアップを進め、売上倍増を狙う」(同)と力を入れていく考えだ。

【金属サイディング】新築の市場開拓に攻勢 “金属らしさ”で市場を拡大

金属サイディングをめぐる直近の動きでは、やはり”メタルショック”の影響は大きい。鋼材価格の高騰により、6月中旬から8月にかけて各社が相次いで価格改定を実施した。アイジー工業が17%アップ、ケイミューが20%前後、旭トステム外装が15%程度と、これまでになかった大幅な値上げであり、金属サイディングのシェアが高い北日本では、一部ユーザーが他素材の外壁材に切り替えるという動きも出ているという。

新築市場で評価が高いアイジー工業の「SF-ビレクト」

そもそも2020年はコロナの影響もあり金属サイディングの主戦場であるリフォーム市場が動かず厳しい状況であった。今年に入ってから回復基調にあり、各社手応えを感じているが、鋼材価格のさらなる値上がりへの懸念、調達できる量が減ることから出荷制限の懸念もあり、不透明感は否めない。

今、金属サイディングの新築住宅での採用が広がりつつある。金属サイディングの多くはリフォーム向けとして採用されているが、「若い世代などでデザインにこだわりを持つ層が増えるなか、新築で金属サイディングを採用するケースが増えている」(ニチハ・佐伯課長)という流れだ。

2020年の売り上げが前年度比99.8%と健闘したアイジー工業。それを牽引したのは新築住宅向けのシンプルモダンシリーズだ。

シンプルモダンシリーズは「SF‐ガルスパンJF」、「SF‐ガルブライトJF」などシンプルな金属らしいデザインを持つ商品シリーズ。なかでも独自のデザインを持つ「SF‐ビレクト」が人気で、金属の質感が際立つフォルムが好まれている。特に、工務店や設計士から勧められたのではなく、こだわりを持つユーザーが自ら選ぶ傾向が強くなっているという。デザイン面だけでなく高い耐久性も大きな特徴。耐久性に対する施主のニーズの高まりに対し、長寿命で酸性雨や酸性雪に強いガルバリウム鋼板、色褪せに強い遮熱性フッ素樹脂塗装による塗膜変退色10年保証、優れた防錆性能など維持メンテナンスが少なくてすむことを強く打ち出している。

同社は戦略的に新築住宅の採用拡大に力を入れてきており、金属サイディングの採用に興味を持つ地域のビルダーの開拓、また、関東以西の需要開拓を進めてきた。すでに新築とリフォームの売り上げの割合は7:3と新築が大きく上回る。これまで窯業サイディングを採用してきたビルダーなどで金属サイディングに対する注目も高まっている。こうしたビルダーの開拓に注力する。

その一方で、今、力を入れているのがSNSを活用したエンドユーザーに対する直接的な情報発信だ。昨年、YouTubeやInstagram、Facebookを開始し、事例などの情報発信を進めている。施主からの指名採用が増えるなか、直接エンドユーザーにアピールする重要性が増し、特に若年層を中心にSNSから情報を得て建材を決めるケースが多くなっていることに対応するものだ。

長期的な減少だけでなく、ウッドショック、価格改定などの影響で新築市場は厳しさが見込まれているが、そのなかでも同社は金属サイディングの新築住宅向けの市場は拡大していくことができるとみている。新築市場においては窯業サイディングが圧倒的なシェアを持ち、金属サイディングの市場は数%でしかない。金属系のシェアを少しずつ拡大していくことで、まだまだ新築市場を拡大していくことができるとみて、新築住宅向けへの拡販に力を入れていく考えだ。

新築住宅向けの提案に力を入れる旭トステム外装の「Dan サイディングジオストライプS」


旭トステム外装も金属系サイディングの新築住宅向けの提案に力を入れており、「Danサイディング」ニュースタンダードシリーズのスパンサイディングやジオストライプの拡販に注力している。

今年、「Danサイディング」の開口部をすっきりと納められる新工法「クリアフレーム工法」を開発した。これは新築住宅の需要拡大に向けての提案である。従来、開口部との接合部分は、漏水リスクに配慮し二重シーリング処理などを行ってきたが、見た目が野暮ったく、施工の手間もかかった。こうした課題をクリアした「クリアフレーム工法」は、開口部まわりに取付ける「J形ジョイナー」と窓枠の下に取付ける「水抜き部材」という専用部材により、水密性をしっかりと確保したうえで役物が外観側に出ることがなく、一回のシーリング処理ですっきりと美しく納めることができる。特に「ニュースタンダードシリーズ」などスパン系のサイディングをすっきりと納めるのに適した工法だ。

さらに今年6月に、傷がついた時の補修がしにくい、補修が目立つといった金属サイディングのネックをクリアするため、ニュースタンダードシリーズ向けの「補修スプレーキット」を発売した。車のキズ補修の技術そのままに、スパンのようなフラット面であっても傷が目立ちにくくなる。スパン系のサイディングを少しでも採用しやすいようにする狙いで、施工店からも好評だ。
新柄の開発、バリエーション拡充だけでなく、プラスの付加価値を高める取り組みにチャレンジしている。

ニチハは「センターサイディング プレミアムシリーズ」にフラット系の課題をクリアした「M型スマートフラット プレミアム」などをラインアップ

ニチハは、今年5月に「センターサイディング プレミアムシリーズ」の新商品「M型スマートフラット プレミアム」、「FN型デリカーブ プレミアム」、「FB型レフィーナ プレミアム」を発売した。金属サイディングは金属ならではの素材感を生かすフラット系の製品のニーズが強い。しかし、フラット系は傷がつきやすいなどの課題があった。それらの課題に対し、設備改良、新たな鋼板の採用などによりクリアし「満を持して発売」したのがプレミアムシリーズだ。反応は非常に良く、引き合いも多いという。

ニチハは窯業サイディングでシェアナンバーワンを誇り、金属と窯業の組み合わせのコーディネイトの幅は広い。例えば、スパン系で切れ目なく一体的に張り上げ、アクセントとして窯業系の木柄を提案するといった提案などだ。「デザイン重視の施主、ビルダーなどに向けた提案、PRを強化しており、相乗効果も出てきている」(佐伯課長)と、金属ならではの意匠性を生かして新築向けの市場開拓を進める。

主戦場のリフォーム市場
ニーズの変化に存在価値を高める

アイジー工業は、リフォームではナチュラルシリーズが人気だ。ナチュラルシリーズは「NFI‐フィネストーンⅡ」や「NFI‐グラブロッシュ」など、石やタイル、木目など自然素材の質感を表現したデザインが特徴。今年、「NF‐シャドーライン」と「NF‐ファブリックライン」に新色を追加、バリエーションを拡充し、選択肢の幅を広げている。

自然素材の質感を表現するナチュラルシリーズは、リフォームで多く採用される傾向がある。しかし、近年、総2階や片流れ屋根、いわゆるシンプルモダンなデザインがトレンドとなっており、数年後にはシンプルモダンシリーズもリフォーム向けとして採用が増えていくとみている。
同社のリフォーム向けの金属サイディングの売上高は、コロナ禍で対面営業が難しかったことなどから前年度比90%程度。厳しい状況下においてはまずまずの数字で手堅く広がっているとみており、コロナ禍で在宅時間の増加によるリフォーム市場の拡大も感じている。

金属サイディングは、もともと北海道、東北、北陸など積雪地域で採用率が高く、リフォームにおいてもこれらの地域における需要が非常に多い。同社における新築とリフォームの出荷割合は7:3程度。今後もこの割合はほぼ変わらず推移していくと見込んでいる。

一方、旭トステム外装では、リフォーム市場に向けて、この8月に「サポートカバー工法」を新たに導入した。既存の壁にDanサイディングを重ね張りする時、胴縁の留め付けピッチや土台との金具補強を施すことで壁基準耐力を0・7kN/m相当に向上させる工法だ。簡易的に外壁リフォームのついでに耐力を高めるという価値を付加した。サイディングは特別なものではなく、その施工方法の工夫で耐力を高める。窯業系サイディング同様に、金属サイディングにおいても、デザイン面だけでなく工法などで付加価値をつけて採用の拡大を提案している。

ストックマーケットの広がりのなか、金属サイディングのリフォーム需要は着実に増えていくとみられる。外壁リフォームは塗り替えが多いが、「2回目のリフォームは金属サイディングで長寿命化を図ろうというケースも増えている」という変化も表れ始めており、金属サイディングはますます存在感を高めそうだ。