2021.8.5

加速する住宅省エネ化 動き出す断熱材市場

脱炭素化でギアチェンジ

2021年4月から省エネ基準適合の説明義務化がスタートした。
また、2020年10月、菅政権が2050年の脱炭素化を宣言したことで、住宅・建築物の省エネ化に向けた動きが一気に加速。
国土交通省、経済産業省、環境省合同の省エネ対策のあり方検討会を開催し、新築住宅の省エネ基準の義務化などについて検討を進める。
さらに、欧米並みのより高いレベルへと、省エネ基準自体の見直しの議論も活発化してきている。
住宅の省エネ化への機運が一段と高まってきていることを、断熱材メーカー各社はチャンスと捉え、さまざまな取り組みで新規需要の獲得、高性能断熱材への移行、販売拡大を狙う。


住宅・建築分野での2050年の脱炭素化に向け、国土交通省、経済産業省、環境省の3省連携で設置した「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」は、2021年6月、第4回の検討会を開催し、取りまとめに向けた素案を公表した。

素案では住宅・建築物の省エネ対策の強化に関連し、①省エネ性能を底上げするために基礎となる取組(ボトムアップ)、②省エネ性能を段階的に引き上げていくための取組(レベルアップ)、③市場全体の省エネ性能の向上、牽引するための取組(トップアップ)により施策を進めていく方針を示した。

ボトムアップに関しては、住宅の省エネ基準適合義務化を明記。基準の水準は現行を基本とすることとしたが、将来的には、基準の段階的な引き上げを行っていく考えも示した。

まずは省エネ基準適合義務化が先行している大規模建築物で引き上げを行い、その後、住宅などでも検討していくとした。

素案の内容は概ね委員から賛同を得たものの、「施策の数値目標や目標年度を示すロードマップが必要」とする意見が多数挙がったことから、次回開催の検討会までにこうした指摘も踏まえて、7月中にも最終取りまとめ案を作成する予定だ。国の政策のベースに脱炭素が位置付けられたことで、関連する施策や規制も強化され、住宅の省エネ性能の向上も、従来から一段階も二段階もギアを上げて進んでいくことになりそうだ。

説明義務化への対応含め
ボトムアップをサポート

2021年4月に施行された改正建築物省エネ法では、延べ床面積300㎡未満の小規模な住宅・建築物を新築する際に、建築主へ設計者や建築士が省エネ性能に関して説明することを義務付けた。小規模な住宅・建築物の建築主は省エネ性能への理解が不十分なケースもあることから、省エネ基準の適合の説明を義務化することで、建築主の行動変容につなげることを目的とする。

国土交通省が第1回の「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」で公開した資料によると、2019年度の実績値として、小規模建築物の省エネ基準適合率は、89%に達している。一方で、中小工務店・建築士それぞれに対して、省エネ基準への習熟状況についてアンケート調査を行ったところ、中小工務店・建築士ともに、省エネ計算ができると回答した者は約5割にとどまることが分かった。また、建築士事務所に対して、省エネ基準への習熟状況についてアンケート調査を行ったところ、計算または仕様基準にて自ら確認できる割合は5〜6割程度、業務委託や習熟予定等を含めると9割以上が義務化への対応準備中という回答であった。

この9割に迫る住宅の省エネ基準への適合率と、省エネ計算への対応ができる工務店などは5割以下にとどまるというデータのギャップをどう読み解けばよいのか。断熱材メーカーの関係者は、「国交省の資料の、小規模建築物の省エネ基準適合率が89%に達しているというデータは、新築住宅の仕様からUA値を算出して、省エネ基準に適合しているかを国交省が導き出した数字。高性能化が進む断熱材や窓を組み合わせることで、仕様として省エネ基準をクリアする住宅の割合が増えている」と説明する。

つまり、仕様として住宅の高性能化は着実に進んできているものの、工務店などが省エネ計算をして省エネ基準の適合を判断し、説明できるかは別の問題であり、説明義務化がスタートしたものの、多くの事業者が十分に対応できていない実態が浮かびあがる。

国は説明義務化に伴い、省エネ基準への適否を従来よりも容易にできるようにした省エネ性能評価方法「簡易計算(モデル住宅法)」を新設した。簡易計算シートを用いて外皮性能(熱貫流率など)と、一次エネルギー消費性能を算定することで、省エネ基準の適否を手計算で計算できる。しかし、「このモデル住宅法には、住宅の形状などの一定の制限があるため、条件から漏れる住宅では使用しにくい面がある。また、モデル住宅法は、確実に性能が確保されるように安全面を考慮して設計されている。より断熱材の厚みを薄くして性能確保を目指すのであれば、詳細な省エネ計算が必要になるが、そこまで対応できる工務店は少ない」(断熱材メーカー担当者)。

こうした中で、大手建材流通が、工務店などに対して省エネ計算や説明義務化の対応をサポートするサービスの利用は、4月以降、前年同月比2倍、3倍のペースで推移しているという。

個別対応で住宅事業者に合わせた
断熱パッケージを提案

また、断熱材メーカー各社も、省エネ計算や説明義務化への対応のサポートを含めて、工務店などが取り組む住宅の省エネ性能のボトムアップを支援する動きを活発化している。複数の事業者を対象としたセミナーなどを実施しつつ、個別対応で、各住宅事業者の実態に合わせた断熱パッケージを提案するなど、きめ細かく対応する取り組みが目立つ。

旭ファイバーグラスが開催する実際の住宅を用いた施工講習会の様子。住宅省エネ化のニーズが高まる中、住宅事業者から個別に対応してほしいという要望が増えている

旭ファイバーグラスは、コロナ禍の状況下で、工務店などを対象としたオンラインセミナーやウェビナーの開催を強化する。住宅における断熱の効果や国の動向、また断熱材の種類や施工方法、省エネ基準説明義務制度について説明するオンラインセミナーや、モデル住宅法の計算方法をテーマとしたオンラインセミナー、地域別のパッケージプランなどを紹介するウェビナーなどを開催する。

「セミナーやウェビナーの開催後、個別の住宅事業者からの要望に対応して、求める省エネ性能をクリアする断熱材などの仕様を例示し、最初の省エネ計算などをサポートすることも増えてきている。実際の住宅を用いた施工講習会のニーズも高い」(同社)。

マグ・イゾベールは、工務店を始め、設計事務所、流通事業者などに対して、オンライン、オフライン両方のセミナーを開催し、4月からスタートした説明義務化や、地域別の断熱材の仕様例、さらに、グリーン住宅ポイント制度に対応した仕様例などを示し、「住宅の省エネ性能向上に関連する国の政策の動向や、どのような対策が求められているのかを丁寧に説明することに力を入れている。とはいえ、セミナーの後に、『実務に落とし込んだ時に、何をすればよいのかわからない』といった問い合わせが多いため、各住宅事業者を対象に、個別の勉強会を開催し、各住宅事業者の実情に合わせた具体的な断熱パッケージを示すなど、一歩踏み込んだ提案を行っている」(同社)。

需要の中心のGWをグレードアップ
ボトムアップをスムーズに

マグ・イゾベールの住宅用断熱材 ポリカット10K100mm。7月からリニューアルし、最低熱抵抗値を、2.0から2.2へと引き上げる

また、マグ・イゾベールは断熱材のグレードアップで、省エネ基準への適合を目指す工務店などのボトムアップの取り組みを支援する。2021年7月から、住宅用断熱材 ポリカット10K100mm(密度10kg/㎥、厚み100mm)を高性能化し、大幅にリニューアルする。木造住宅向けグラスウール需要の中心を占めてきた10K100mm製品ラインナップの最低熱抵抗値を、2.0㎡・K/Wから2.2㎡.K/Wへと高性能化する。これは日本のグラスウール断熱材業界で初めての取り組みとなる。仕様基準に対応する熱抵抗値2.2㎡・K/Wのポリカットを採用することで、詳細な計算の必要がなく手軽に省エネ基準をクリアできる。

同社の三和裕一マーケティング部長は、「ポリカット10K100mmを高性能化し、シンプルで分かりやすいラインナップとすることで、省エネ基準達成への取り組みを簡易化し、住宅事業者が提供する住宅の『省エネ性能ワンランクアップ』をサポートしていきたい。工務店の中には、業界内の慣習として、熱抵抗値ではなく、『10K100mmを持ってきてくれ』と注文する事業者も少なくない。そうした事業者にとっても、今回のポリカットのリニューアルにより、これまでの仕様のまま、省エネ基準をクリアしやすくなる」と話す。

工務店などが取り組む省エネ基準適合の動きを、よりスムーズな形で促す、大きなターニングポイントとなる新商品発売となりそうだ。

さまざまな取り組みでトップアップ
目指すべき次世代水準はG2レベル?

脱炭素化に向け、住宅の省エネ化にもスピードアップが求められている。2021年年4月、菅首相は、「2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向けて、挑戦を続けていく」と表明した。9年間しか時間的な猶予がないため、待ったなしの状況だ。3省合同の住宅・建築物の省エネ対策検討会では、住宅の省エネ基準の適合義務化は既定路線と見られている。近い将来、省エネ基準の適合義務化がスタートすれば、もはやその省エネ基準レベルの性能では差別化は図れない。

こうした中で、次世代に目指すべき省エネ性能の水準として、多くの断熱材メーカーの担当者が挙げるのはHEAT20のG2レベルだ。その根拠として「G2レベルの断熱性能を備えた住宅では、リビングだけでなく、寝室や脱衣所でもWHOが推奨する最低室温18℃以上に保つことができ、ノンエナジーベネフィットの効果を高められる」、「G2レベルが、コストとの兼ね合いで、冷暖房費の削減効果や、ノンエナジーベネフィットの効果を最大化できる。G3レベルまで、省エネ性能を高めれば、現時点では、断熱材や窓のコストが跳ね上がり、そのコストに見合う効果があるとは言いにくい」といった理由を挙げる。

また、住宅性能表示制度の省エネ性に関する基準、断熱等性能等級の見直しが必要という声も聞かれる。「最高等級の等級4が省エネ基準適合レベルで、等級1は無断熱となっている。より高いレベルの断熱性が求められる中で、時代にそぐわないものになっている」(断熱材メーカー担当者)。この課題については、国交省が設置する、長期優良住宅認定基準の見直しを進める検討会において、住宅性能評価における、より上位等級の創設などについても検討を進めている。

どの水準の省エネ性能を目指すのかは、住宅事業者の判断次第だが、ハウスメーカーが住宅の省エネ化をけん引し、また、パワービルダーなども高断熱仕様の住宅を標準化しPRを強化する中で、事業者の規模に関わらず、省エネ化に取り組まざるを得ない状況が生まれてきていることは確かだ。

省エネ基準レベルがスタートラインという時代が迫る中で、断熱材メーカー各社は、すでに省エネ基準以上の省エネ性能で勝負する住宅事業者などのトップアップのサポートで、高性能品への切り替えを促し、販売拡大を目指す。

断熱材シェアトップのGW
シェアの維持拡大へ

断熱材市場においては、コストと性能のバランスから、グラスウール断熱材が広く普及し、5割超のトップシェアを占める。グラスウール断熱材のメーカーは、住宅高性能化の波に乗り、各社それぞれの取り組みで、シェアの維持拡大を目指す。

旭ファイバーグラスは、2020年7月、「アクリアR57」を発売した。高性能20Kの200mm品で、熱抵抗値は5・7㎡・K/W、熱伝導率は0・035W/(m・K)。1・2地域の天井の断熱基準に要求される熱抵抗値を1層でクリアできるのが大きなポイントだ。ZEHやHEAT20などを手掛けている住宅事業者に向け新商品の案内を積極化させている。アクリアR57を起爆剤に高性能化をさらに促していく考えだ。

また、既存の高性能グラスウール断熱材の製造方法を工夫し、床断熱対応の新商品として「アクリアUボードピンレス」のラインアップを拡充。既存のラインアップにある密度32K、24Kに、密度を20Kを追加。下げたことにより柔らかく、弾力性が向上。大引の間へのアジャスト性を高めたことにより現場でのカット作業を大幅に削減できる。細繊維なので密度20Kで高性能24Kと同性能となり、厚さ90mmで熱抵抗値2.5㎡・K/Wを実現している。「床の断熱は、プレカット対応するボード系の断熱材のシェアが高く、グラスウール断熱材は低いシェアにととどまっている。弾力性を高め、新しくラインアップに加えたアクリアUボードピンレスで、床断熱のシェアも高めていきたい」(同社)考えだ。

マグ・イゾベールはグラスウールだけでなく、フェノールフォームの床用断熱材、EPSの基礎用の断熱材、遮音材や調湿シート、副資材や道具などもラインアップし、2020年度から省エネ建築に関する総合的なソリューション企業としてのブランド確立を進める。省エネ建築の価値・効果を理解するため「体感ハウス」を活用し、性能やスペックなどについて勉強会で知識を深めてもらい、商品の選定については家一棟を同社製品で提案する。さらに施工についてもトレーニングセンターで対応と、一連の流れで住宅事業者に対する提案を始めている。トレーニングセンターと体感ハウスをからめて省エネ建築に必要な要素を一日で学べるツアーなども企画、今後、ワンストップでの提案を加速させる考えだ。

パラマウント硝子工業が配信するYouTubeの動画コンテンツ「PARAチャンネル」。エンドユーザーも意識し動画コンテンツの充実を図る

パラマウント硝子工業は、「省エネ基準適合の説明義務化や、脱炭素化に向けた住宅の省エネ化の加速といった動きとは別に、コロナ禍により、家で過ごす時間が長くなるのに伴い、住宅の快適性向上の観点から、省エネ性能について関心を持つユーザーが増えてきている」として、YouTubeを活用した情報発信を強化し、工務店などのプロユーザーだけでなく、エンドユーザーの視聴も想定したコンテンツづくりに注力する。

「コロナ禍により、対面での営業展開が難しくなる中で、24時間いつでもどこでも気軽に視聴ができる、動画コンテンツの制作を強化している。コロナの感染拡大が落ち着き、対面での営業活動ができるようになっても、補助的に動画コンテンツを使用することで、国の施策や、当社の断熱材の特長などをより分かりやすく説明できる」(同社 営業本部 業務推進部 田中英明 部長)。

動画コンテンツは「PARAチャンネル」と命名。「製品説明」、「パラマン館」、「行政施策の解説」、「パラマウント硝子工業の会社説明」の4つのカテゴリーを設定する。

「製品説明」の住宅向けの動画コンテンツでは、北海道の住宅断熱材市場でトップシェアを持つピンク色の高性能断熱材「太陽SUN」シリーズや、ZEHなどにも対応できる次世代のスタンダード品として販売を強化する「ハウスロンZERO」といった主力商品を紹介する。

PARAチャンネルの中でも、キラーコンテンツとして位置付けるのは、「パラマン館」だ。2019年10月、福島県須賀川市本社・長沼工場の敷地内に開設した断熱体感棟で、屋根・天井、壁に主力の太陽SUNRを多用するなどして、外皮平均熱貫流率UA値3.0を実現。ほぼ1〜3地域のHEAT20のG2レベル(UA値0.28)が体感できる。隙間相当面積C値は0.3となっている。また、「充填のみを扱うビルダーに付加断熱を知ってもらうきっかけ」を狙い、「パラマン館」の断熱仕様のモックアップも展示している。当初は、工務店がエンドユーザーを連れ、高断熱住宅のショールーム代わりに活用してもらうことを想定していたが、コロナの感染拡大で、そうした利用が難しくなった。

そこで、動画コンテンツの「パラマン館」では、週ごとの、パラマン館の各居室の温熱環境と外気温の変化の動画やデータなどを示し、グラスウール断熱材の快適性や心地よさが、視覚的にわかるように工夫して、エンドユーザーに刺さる動画コンテンツの制作に力を入れていく考えだ。

ボード系断熱材への注目度が上昇
さらなる高みへ厚手化が進行

ZEHやHEAT20といった高性能な住宅に求められる、断熱性能をクリアするのに注目が高まっているのが、より高い断熱性能を備えたボード系の断熱材だ。付加断熱として使用し、住宅外周をすっぽりと覆うことで、気密性能を確保もしやすい点も強みとなっている。住宅の高断熱化の進展に伴い、断熱材の厚手化に対するニーズが高まっており、メーカー各社は対応を急ぐ。

アキレスの「ジーワンボード」を使用した住宅建設の現場。アルミ箔付きで、水分・湿気の影響を受けないため、雨対策としても注目を集めている

アキレスは、硬質ウレタンボード「キューワンボード」の厚手化を進める。これまで屋根が40〜50mm、壁が30〜40mm程度であったものが、ここ数年、60〜70mm、また、80mmなどの厚物品の出荷割合が増えている。

キューワンボードは、熱伝導率0.021W/(m・K)という最高クラスの断熱性能を有する。採用する事業者はもともと高性能住宅を展開しており、その次の差別化を狙っている事業者が多い。例えば、全館空調を取り入れる、G2、G3のレベルを狙って付加断熱を検討するといった具合だ。

同社が強化するのが実践型の施工講習会だ。職人不足が深刻化する中で、設計通りの性能が現場施工で確保できているのかということは、近年、大きな問題としてクローズアップされている。「住宅の高性能化が進むほど、最後は施工が重要になる。より高いレベルの省エネ性能を目指すのであれば、実践で施工のノウハウを学び、ディティールの収め方などを学ぶことが重要になる」(同社 断熱資材販売部 戸建特販課 久富肇課長)。そこで、高性能住宅づくりで豊富な実績を持つ住宅事業者の協力を得て、モデルとなる住宅棟を使用して施工講習会を開催。遠方から参加する工務店関係者も多い。

さらに、ウッドステーションが展開する、大型パネル生産パートナー会にも賛助会員として参加。在来木造を工業化する大型パネルに、キューワンボードが使用される事例も増えきている。「工場でキューワンボードを一体化し大型パネルを製造することで、施工品質を高められる」(久富課長)。

また、近年、大型台風、ゲリラ豪雨などが頻発する中で、アルミ箔付きで、水分・湿気の影響を受けない断熱材として「ジーワンボード」への注目度も高まっている。「躯体を雨ざらしにならないように、ブルーシートで覆い、養生する現場が増えているが、ジーワンボードを外張り断熱で使用することで、そうした心配や手間は一切かからない」(久富課長)。

JSPは、より高い断熱性能を求める声に対応し「ミラフォームΛ」に厚さ100mmのサイズをラインアップした

JSPは2020年12月、押出法ポリスチレンフォーム断熱材「ミラフォームΛ」に厚さ100mmのサイズをラインアップした。「ミラフォームΛ」は、熱伝導率0.022W/m・Kと押出法ポリスチレンフォームで最高レベルの性能を持つ。これまで厚みは、25、30、40、50、55、75、90mm厚の7種類を展開しており、ここに厚さ100mmサイズを加える。同社では100mmの厚さに対しては、50mm厚を2層にすることで対応を図ってきたが、施工の負担が増すことから、厚さ100mmサイズをラインアップし、より高い断熱性能を求める声に対応した。

また、同社は床の断熱材のプレカットサービスを約20年前、業界に先駆け開始し、住宅事業者からの支持を集めている。現場で規格品の断熱材をカットし施工すると、1日仕事になるが、プレカット断熱材を用いることで、2時間程度に施工時間を短縮できる。図面情報から工場で正確にプレカットして現場に納めるため、性能確保にも寄与する。「コロナの影響で住宅着工が落ち込む中で、20年度も前年並みの水準で推移した」(同社)。

この床の断熱材のプレカットサービスで培ってきたノウハウを生かして、壁の断熱材のプレカットサービスの展開も検討する。「SDGsといった観点から、現場のごみを減らしたいというニーズは年々高まってきている。特に都心の狭小地の住宅では、資材を運び込むことが難しく、近隣への迷惑などを考慮すれば、壁の断熱材のプレカットサービスへのニーズは高いはず」(同社)。すでに壁の断熱材のプレカットに対応し、図面からの拾い出し作業を簡略化できるソフト開発にも着手する。床の断熱材のプレカットは15種類ほどのパネルを用意すれば済むが、壁の断熱材のプレカットとなると、コンセントボックスや金物との干渉なども考慮する必要があり、100種類以上のパネルを用意する必要がある。「ハードルは高いが、検証作業を進めて早期の実用化を目指したい。住宅の省エネ性能の向上にも貢献できる」(同社)。

旭化成建材の「ネオマフォーム」。近年は90mm、100mmを当たり前に使用する事業者が増えている

旭化成建材は、2014年にネオマフォームの製造ラインを増強、生産能力を引上げるとともに、厚さ66mmが限度であったものを100mmまで対応できるようにした。その頃から徐々に厚手化商品の割合が高まってきたが、近年では、90mm、100mmを当たり前のように使う事業者が増えているという。一方で床専用の「ジュピー」を廃止した。ジュピーは66mmまでしか対応しておらず、90mm、100mmのネオマフォームが使われる割合が高まっていたため、一本化を図った。

業界最高水準の熱伝導率0.018W/(m・K)を誇るネオマゼウスの販売も順調に伸びている。105角の柱に中に、厚さ65mmのネオマゼウスを充填し、コンセントボックスや金物の干渉を避けながら、高性能住宅を実現したいといった要望が多く、引き合いが増えている。「説明義務化といった流れとは別のところで、住宅高性能化に関心を持ち、取り組みを加速する住宅事業者は、全国で着実に増えてきている」(断熱住宅資材事業企画部 亀井喜朗部長)。

また、ネオマフォームの主原料は熱に強いフェノールフォーム樹脂であり、燃えにくいという性質を生かして、木外装とフェノールフォーム外張り断熱との組み合わせで、木造軸組「防火構造30分認定」を新たに取得した。雰囲気のある木外装の人気は高いが、防火の制限により、実現のハードルは高かった。この「防火構造30分認定」を使用することで、都市部の防火の制限がかかるエリアにおいても、木外装を実現できる。

在庫、加工拠点を整備
毎月のWEBセミナーも

遮熱性能を付加したフクビ化学工業の「フェノバボード遮熱」。プレカットサービスと合わせて、屋根断熱で採用されるケースが増えている

フクビ化学工業は、高性能フェノールフォーム断熱材「フェノバボード」の事業を譲受し2019年1月から販売を開始した。「フェノバボード」は熱伝導率0.019W/(m・K)と建築向け断熱材のなかで最高ランクのもの。顧客の中心は、ZEHレベル以上の高性能な住宅づくりを手掛ける住宅事業者だ。

同社は、在庫拠点や加工拠点の整備を進め、全国エリアに対応し、よりスピーディに供給できる体制の構築を進める。また、コロナ禍をきっかけに、工務店などを対象としたWEBセミナーを月1回〜2回のペースで開催。国の省エネ対策に関連する補助事業の他、省エネ性能を高めることで期待できる、居住性や住み心地の向上、光熱費削減効果などを含め、トータルで施主への提案力を強化できる内容のWEBセミナーとなっている。同社の建材事業本部 インシュレーション推進部 フェノバボード推進室の田島裕敬室長は、「3年間の販売活動を経て、フクビ化学工業のフェノバボードという認識が広がりつつある」と手ごたえをつかむ。

また、「脱炭素化に向け、住宅の省エネ性能向上の取り組みが加速する中で、省エネ基準レベルの外皮性能では、もはや差別化にはならず、埋もれてしまうと危機感を持つ工務店は多い。そうした工務店から、ZEHやHEAT20といった住宅づくりをサポートしてほしいという要望も増えている」(田島室長)。同社は、住宅事業者の外皮性能強化の相談に積極的に対応している。外皮計算を根拠に、事業者の実情に合わせた断熱仕様の提案、サポートを行っている。コロナ禍の状況下で、オンラインで断熱材の仕様の打ち合わせをすることも増えている。「フェノバボードを用いて、外張り断熱に対応でき、高性能住宅に対応できるという選択肢を持つことは、工務店にとって強力な武器になる」(田島室長)。

また、同社は2020年11月、SDGs宣言を行った。そのSDGs宣言を具現化していくために、より環境に配慮した商品やサービスの開発、提供に力を入れる。その一環として、フェノバボードを用いた床のプレカットと屋根に必要な性能の納まりに合わせた商品を強化する。2019年8月には、フェノバボードの面材に遮熱機能を付加した「フェノバボード遮熱」を発売しており、屋根断熱と遮熱を一度に行える商品として販売好調だ。プレカットと合わせて採用する事業者も増えている。

カネカはグループの総合力で
住宅高性能化を推進

カネカとカネカケンテックが製造・販売する「カネライトフォームFX」。仕様例を用意して、構造に合わせた品種の使い分けや使用部位などを示し、高性能断熱材の提案を強化する

押出法ポリスチレンフォーム断熱材「カネライトフォーム」を製造・販売するカネカとカネカケンテックは、「平成28年基準から始まりZEH、HEAT20などの水準に合わせるため、複雑化する外皮性能確保のための仕様や条件、資材の使用方法などについて、誰もが取り組めるような分かりやすい仕組みを確立し、認知・普及活動を進めていきたい」と話す。

具体的には、外皮の高性能化、外皮計算などに苦手意識を持つ流通店や工務店などに対して、ZEHや、HEAT20のG1、G2に求められる外皮性能をクリアするためのカネライトフォームなどを使用した仕様例を用意して、構造に合わせた品種の使い分けや使用部位などを示し、高性能断熱材の提案を強化する。
「カネライトフォーム」は、独立気泡の小さな泡の中に気体を閉じ込めることで、熱伝導の三要素「伝導・輻射・対流」の数値を小さく固定し、優れた断熱性能を発揮。独立気泡が熱をさえぎり結露を抑制する。また、JIS規格品として、工場での厳格な品質管理の下、製造、出荷する。

独立した気泡構造により、吸水・吸湿性がほとんどないことも強みだ。断熱の大敵である水が入りにくく、断熱性能の劣化を防ぐため、外張り断熱、高湿な環境下の床下用途にも適している。また、屋根に用いることで、高い遮熱効果を発揮し、夏期においても小屋裏を室内同様、快適に利用できる。

環境性能にも定評があり、フロン及びPRTR法対象物質の発泡剤としての使用を撤廃し、ホルムアルデヒドも一切含まない。また、マテリアルリサイクルも可能で、グリーン購入法にも適合している。

断熱材に加えて、カネカグループを含めた住宅資材の提案も強化する。例えば、外断熱と二重通気を組み合わせた独自の「カネカのお家 ソーラーサーキット」のほか、太陽光発電、蓄電池、OLED(有機EL照明)など、関連事業の横のつながりを生かしたエネルギー効率の良い、高断熱、省エネ住宅の提案で差別化を図る。

そのほか、顧客のニーズにきめ細かく対応するため、全国4つの製造拠点のほかに、より多くのデリバリーセンターを配置し、デリバリー体制の充実にも力を入れる。また、床断熱を中心に、全国でプレカット加工品の提供にも対応する。

トップクラスの断熱材を組み合わせ
「G3チャレンジ」を実施

断熱材市場においては、コストと性能のバランスから、グラスウール断熱材が広く普及し5割超のシェアを占める。一方で、より高いレベルまで住宅高性能化を進めようとすると、グラスウール単体での対応は難しくなる。

特に、寒冷地において、HEAT20のG2、G3レベルの高性能住宅を実現しようとすれば、ボード系断熱材による付加断熱との組み合わせが実用的である。

こうした異素材の断熱材を組み合わせで、住宅の高性能化を実現しようという取り組みの中でも注目を集めるのが、旭ファイバーグラスと旭化成建材が共同で実施する「G3チャレンジ」だ。

両社は、HEAT20におけるG2レベル、G3レベルという高い断熱性能を実現するため、アクリアとネオマフォームの2種類の断熱材を組み合わせた理想的な断熱材仕様例を公表した。

この2社の連携は、より高い断熱性能を実現するには1社単独では難しかったことが理由だ。「グラスウールのみでは壁に充填した上で、外張り部に200mmや250mmというかなりの厚さが必要になり施工は容易ではない」(旭ファイバーグラス 布井洋二 専任主幹渉外技術担当部長)。フェノールフォーム側から見ても「壁に現場でネオマフォームを施工しようとすると、加工が非常に多くなり施工に大変な負荷がかかる。また、天井もグラスウールの方が施工しやすい」(旭化成建材 亀井喜朗 断熱住宅資材事業企画部長)と、それぞれの断熱材が持つ特性を生かして適材適所に使用することで理想的な仕様を作成した。

特にG3レベルは、使用する断熱材のグレードや厚みが一気に高まるため、1種類だけの断熱材で対応することは実用的ではない。適材適所に断熱材を使用していくことが求められる。そこで、両社は、より高いレベルの省エネ住宅づくりに関心を持つ住宅事業者を募集し、今回示した2種類の断熱材を組み合わせた実用的な断熱材仕様例で、G3レベルの住宅を実際に建てる「G3チャレンジ」プロジェクトを実施する。3社以上の住宅事業者と連携し、東日本と、西日本のそれぞれのエリアでG3住宅を建設する。今年の秋から冬頃に最初のG3住宅が完成する予定だ。「断熱工事はスムーズに進むのか」、「建設コストはどの程度かかるのか」、「快適性の向上など、ノンエナジーベネフィットはどの程度見込めるのか」、「光熱費の削減効果はどの程度見込めるのか」といったことを検証し、その結果を随時公表し、G3レベルの住宅づくりに関心をもつ住宅事業者を後押していきたい考えだ。

住宅高性能化の波に乗り
隙間を埋める「インサルパック」が好調

また、断熱材メーカー各社が高性能品への移行、販売拡大を進める中で、エービーシー商会は、断熱施工の補助剤として、一液タイプの発泡ウレタン断熱材「インサルパック」の販売を伸ばす。ボード系断熱材を採用した基礎断熱の、断熱材同士の継ぎ目、基礎と土台の間の隙間などを埋める際に使用されるほか、ボード系断熱材を使用した床断熱の、断熱材と根太の隙間、そのほか、床と柱の取り合い部の隙間などにも使用される。加えて、サッシまわりの隙間は、一般的にグラスウール断熱材をちぎってはめ込みテープを貼るという形が多いが、インサルパックを用いることで簡単に隙間を埋めることができる。発泡倍率を抑えたサッシ用の「インサル エラスティックフォーム」もラインアップしている。「住宅の高性能化が進むほど、気密はおろそかにできない重要なポイントになる。住宅高性能化の流れの中で、住宅1棟あたりで使用される個所は増えている。年間数万缶単位で販売は伸びている」(インサル事業部 東京営業課 佐藤佳信課長)。

省エネ性能+αの性能で
住宅事業者の差別化戦略を支援

ここにきて、断熱材の省エネ性能に加えて、+αの性能、機能を売りにして、工務店などの差別化戦略をサポートするメーカー各社も存在感を高めている。

断熱材を一体化したパネルで
災害に強い家づくりに寄与

イノアックコーポレーションの「新サーマックス」。2019年2月、宮城県栗原市に新工場を新設し、製造方法などを一新して、販売を開始。従来品より断熱性能、難燃性などをさらに高めた

イノアックコーポレーションでは、40年前から、国内でポリイソシアヌレートフォーム断熱材「サーマックス」を展開してきたが、2019年2月、宮城県栗原市に、新工場を新設し、製造方法などを一新して、従来品よりも断熱性能、難燃性などをさらに高めた「新サーマックス」の製造・販売を開始した。

硬質ウレタンフォームは、断熱用途として1940年代に誕生し、建築材料として広く採用されてきた。

1970年代に入り、耐熱性、防火性を高めるためアメリカでポリイソシアヌレートフォームが開発された。このポリイソシアヌレートフォームを採用したラミネートボードは、欧米では従来の硬質ウレタンフォームボードに替えて、今ではほぼ100%のシェアを持つ「世界標準」の断熱材料として広く普及している。

「従来品のサーマックスも、燃えにくいという性質を有していたが、新サーマックスの開発に当たっては、燃えにくさの指標である素材の酸素指数を高めることにこだわった。火を近づけても、火は着かず、溶けることもなく、炭化して残存する。新サーマックスならではの強みになる」(同社)。また、水分、湿気の影響を受けないことも強みだ。熱伝導率は0.020〜0.022W/(m・K)と、「G2レベルの高性能住宅を、十分に設計できる」(同社)優れた断熱性能を備えている。

加えて、「新サーマックス」は、災害に強い家づくりにも寄与する。同社では、名城大学や地域のパネルメーカーなどと連携して、新サーマックスを一体化した「真壁式外断熱パネル」、「真壁式充填断熱パネル」を開発し、パネルの普及にも力を入れる。パネル化により、足場からではなく、内側から施工できるため、作業の安全性を確保できるほか、工期短縮、品質安定、廃棄物削減などのメリットをもたらす。
さらに、パネル化することにより、耐震性能の向上にも寄与することが、豊橋技術科学大学と共同で実施した耐震性能の評価実験で明らかになっている。「壁を一つの箱型にしたモノコック構造にし、柱と柱の間に組み込むことで、壁自体の耐力を高め、一度の地震だけでなく繰り返される震動に対し、家屋が変形しにくくなる」(同社)。

また、地震が発生すれば、火災が広がる恐れもあるが、新サーマックスは、燃え広がらない断熱材として、火災からも住まいを守る。災害に強い家づくりをサポートする断熱材として、差別化に取り組む工務店などに訴求する。

2021年4月には、同社の安城事業所(愛知県安城市)内に住宅型ショールーム「INOAC HOME(イノアックホーム)」をオープンした。「新サーマックスのほか、防音パーテーション、住宅用目地ガスケットなど多種多様なイノアック製品を内外装へ組み込み、次世代住宅のカタチとして示した。家づくりのヒントと未来の快適性を積極的に提案していきたい」(同社)考えだ。

多機能を備える木質繊維断熱材
優れた蓄熱、調湿質性能など

ウッドファイバーが多機能建材として提案を強化する木質繊維断熱材「ウッドファイバー」。ナイスグループのネットワークを活用し、よりスピーディに供給できる体制を構築した

ナイスグループのウッドファイバー(北海道苫小牧市)は、木質繊維断熱材「ウッドファイバー」の生産・販売を強化する。原料には基本的に、北海道のカラマツやトドマツのバージンチップを使用。要望に応じて、スギやヒノキなどの地域材でのOEM生産にも対応する。同社の田原武和社長は、「生産から住宅の省エネ化に至るまで、CO2の削減に寄与する。供給量が増えていけば、その分、国産材を有効利用し、山の循環利用に貢献できる」と話す。

また、高性能グラスウール断熱材と同等の断熱性能を有する。同社は、断熱性能+αの機能として、優れた蓄熱性能、調湿性能、吸音性能などの木材の特長を兼ね備えた多機能建材として訴求し、普及を目指す。

繊維系断熱材と比較して約7倍という優れた蓄熱性能により急激に出入りする熱をダムのように貯め込み、緩衝機能として働くことで家の中の温度変化を抑制し、結果として快適性の向上に寄与する。北海道では、この優れた蓄熱性能を生かして、薪暖房との併用で採用されるケースも多い。

さらに、吸放湿性能が高いといわれるセルローズファイバーや羊毛よりも高い吸放湿性能を発揮し、壁体内の結露の発生を抑制し、室内の湿度環境を快適に保つ。

繊維系断熱材を使用する場合、結露を防止するため、壁体内の室内側に防湿シートを施工することが求められるが、同社では、ウッドファイバーを用いた実験棟での実証実験により、防湿シートがない方が室内への水蒸気移動を妨げないことを確認している。「水蒸気を防湿シートで遮断するよりも、ウッドファイバーを緩衝体として捉える設計方法が有効であることが分かった。防湿シートなしの方が、ウッドファイバーの調湿機能を十分に発揮でき、室内の快適性をより高める効果が期待できる。ただし、室内外の温度差が大きい北海道では、防湿シートなしでは、どうしても結露発生のリスクがあるため、北海道以外のエリアで、防湿シートなしで、ウッドファイバーを使用することをおすすめしている」(宮代博幸取締役)。

また、冬季に、洗濯物の部屋干しや開放型ストーブの使用など、住まい方、室内環境によっては、屋外側の壁体内が結露するリスクがあることも分かった。この対策として、室内の温湿度環境をコントロールすることで、結露を防ぐことができるため、防湿シートなしのウッドファイバーの使用を推奨している。
ウッドファイバーは、木質繊維に難燃剤を添加することで高い防火性能も備える。万が一燃えても、表面が炭化するだけで、内部にまで燃え広がる心配はない。また、ホウ酸を添加することで、カビの発生を抑制するほか、シロアリを予防するなどの効果を発揮し、優れた耐久性も付与した。

2021年4月から、全国のナイスの物流センターに、ウッドファイバーの在庫を持ち、よりスピーディに、輸送コストを抑えて供給できる体制を整えた。「2009年から国内でウッドファイバーを製造・販売してきた。自然素材にこだわりを持つ、住宅事業者、設計事務所などから根強い人気がある。今回、全国で安定的に供給できる体制が整ったことを契機にさらに販売を強化していきたい。供給量が増えていけば、量産効果からコスト競争力も高められる」(田原社長)。

寒冷地の天井断熱で普及
音環境の改善効果も

王子製袋が展開するセルロースファイバー断熱材「ダンパック」。材工込みの販売で、技術を持ったスタッフが施工を担う安心感が支持を集めている

王子製袋が展開するセルロースファイバー断熱材「ダンパック」は、寒冷地の住宅において、天井断熱で普及している。特に北海道の住宅は、大半が陸屋根であり、溶けた雪水を流すためのダクトを設置する必要があるため、その分、小屋裏空間を圧迫する。限られた小屋裏空間に、セルロースファイバー断熱材は、吹込み施工で厚みを調整でき、グラスウールやロックウールなどと比較して厚みを抑えられるメリットもあり、寒冷地の多くの住宅で天井断熱として採用されている。

また、ZEHレベル以上の住宅において、天井断熱の選択肢の一つとして、大手ハウスメーカーが使用するケースも多い。

壁体内にセルロースファイバー断熱材を隙間なく充填することで、音環境の改善効果も期待できる。一般的な住宅で使用するセルロースファイバー断熱材の総重量は1トンにも上る。振動の緩和効果は、重量に比例するため、静音性を高めた空間を創出できる。

材工込みの販売で、施工品質を確保しやすいことも強みだ。職人不足が常態化する中で、技術を持ったスタッフが施工を担う安心感が支持を集めている。「セルロースファイバー断熱材は、施工が命。製品だけの状態では半製品であり、施工が伴い100%の製品になる。それだけに、施工会社の組織である全国ダンパック会と連携して、定期的に講習会を開催し、UA値別の性能の確保や、防耐火認定を取得するための施工の仕方、その他の注意事項などを学ぶための座学、施工研修を実施し、技術の研鑽に努めている」(営業本部 ダンパック販売部 田畑薫部長)。

省エネ性能向上のニーズへの対応も進めている。同社を含め、セルロースファイバー断熱材を取り扱うメーカー4社が参加するセルローズファイバー工業会が中心となり、セルロースファイバー断熱材と、押出法ポリスチレンフォーム断熱材の付加断熱を組み合わせた、高断熱仕様で「防火構造30分認定」の取得に向けた申請作業を進めている。2021年中にも認定を取得できる見通しだ。

ロックウール断熱材も厚手化が進行
耐火性能を求める工務店に訴求

ニチアスが展開するロックウール断熱材「ホームマット」。素材の性質から燃えにくく、省令準耐構造を実現しやすい

ニチアスは、住宅用断熱材として、ホームマットとホームマットNEOをラインアップする。どちらも防湿フィルムでくるむ袋入り断熱材で充填用。天井・壁向けとなる。

ホームマットNEOには、省エネ基準に適合するJIS A6930同等の防湿フィルムを使用。省エネ基準をクリアできるR2.2以上の高性能品をラインナップする。ただし、現状ではホームマットとホームマットNEOの出荷の割合は、9割以上がホームマットとなっている。住宅の省エネ性能向上の機運の高まりにより、R2.0で省エネ基準未達の厚さ75mm品から、R2.4の性能を持つ厚さ90mm品への切り替えが進んできている。90mm厚品を使っている事業者は100mm厚品への切り替えを検討しており、厚手化が進んできている。

優れた耐火性能を備えていることもロックウール断熱材の強みだ。ロックウール断熱材の採用により、省令準耐火構造の認定を取得しやすくなるため、2×4住宅で多く使用されている。ニチアスでは、耐火性能を求める工務店などに対して提案を強化する。

2050年脱炭素化へ
避けて通れないストックの性能向上

脱炭素化の実現に向けては、5000万戸にのぼる既存住宅の省エネ性能向上も避けては通れない。省エネ基準に適合している住宅は2018年度時点で約11%となっており、また、無断熱の住宅は約30%となっている。こうした中で、断熱材メーカー各社は、ストックの性能向上に向けた新商品開発、提案にも注力する。

フクビ化学工業は2021年5月、既存住宅及び建築物の高断熱リフォーム用断熱パネル、「フェノバボードR」を発売した。

断熱性能に優れた断熱材フェノバボードと軽量せっこうボードを貼り合わせたフェノバボードRSと、重量物などの固定が可能な合板を張り合わせたフェノバボードRGの2種類をラインアップ。既存仕上げ材の上からの施工が可能なため、住みながらの断熱リフォームに適している。せっこうボードや合板の厚みを加えても、総厚は29.5mmに抑えている。また、重量も1枚当たり10kg未満と、従来品に比べて約2割軽量化している。さらに、開口部まわりに使用する専用の見切り部材も用意。リフォーム事業者や工務店などが扱いやすく、施主に対して提案がしやすいように工夫した。省施工で意匠性を高めることが可能であり、扱いやすいと高評価を得ている。

同社の田島室長は、「日本で、なかなかストックの省エネ性能の向上が進まない背景には、冬は寒くて当たり前、我慢して住むものというマインドが根強く残っていることがある。本格的な普及拡大に向けては、住まいを高断熱化することで、より快適に過ごすことができ、健康の維持増進にも寄与するといったメリットを、業界全体で継続してPRし、マインドを変えていく取り組みが不可欠。また、我々メーカーが、コストなど、住まい手への負担を見える化し、簡単に施工できる断熱改修の手法を充実させ、ハードルを下げていく必要がある」と話す。

2液タイプ現場発泡断熱材
待望のノンフロン化

エービーシー商会が8月頃から販売を開始する2液タイプの現場発泡断熱材「インサルパック NB-PRO シリーズ(ノンフロン)」。安全安心をアピールして、既存住宅の部分改修などの需要獲得を目指す

エービーシー商会は、2021年8月頃、性能と施工性を備えた2液タイプの現場発泡断熱材を一新し、ノンフロンタイプの「インサルパック NB‐PROシリーズ(ノンフロン)」を発売する。同社は約40年前から、2液タイプの現場発泡断熱材を輸入・販売してきた。近年は環境への負荷を考慮した製品づくりが求められる中で、ノンフロン商品の開発を継続して行ってきたが、使用期間の確保や、フォームの安定性を確保するためのハードルが高く、長年にわたりノンフロン化の実現には至っていなかった。今回、輸入元であるアメリカのメーカーが、発泡ガスに代替フロンを使用しないノンフロン(HFO)化に成功。従来品と比べ、使用期限は同等レベル、フォームの安定性もほぼ同じ、断熱性能は向上している。「2023年までの代替フロンの完全撤廃の義務化が迫る中、念願と言える新商品」(インサル事業部 東京営業課 佐藤佳信課長)。

RC造のオフィスビルや新築マンションなどで普及する現場発泡断熱材は、2トントラックに、専用の機材を搭載し、長い専用のホースで現場に対応し、吹き付け施工する。新築には適しているが、リフォームには再度、トラックを手配するなど、準備が大がかりになるため適していない。一方、そうしたリフォームに適しているのが、小回りが利く、2液タイプの現場発泡断熱材だ。5〜10㎡ほどの空間の断熱改修に適している。しかし、一定の需要はあるものの、ノンフロン化への要求が強まる中で、普及拡大にブレーキがかかる状況が続いていた。そこに、今回、待望となるノンフロンタイプの「インサルパック NB‐PROシリーズ(ノンフロン)」が登場した。ノンフロン化を実現した安心安全な断熱材として、既存住宅の断熱改修に一石を投じる新商品になりそうだ。「認知度向上に向けたPRを強化するほか、リフォーム会社などと連携し施工体制を整え、普及拡大を目指していきたい」(佐藤課長)。

2050年脱炭素化の宣言を受けて、ギアが一段上がり住宅省エネ化のスピートが加速している。また、コロナ禍の中で、おうち時間の増加に伴い、住宅の快適性向上の観点から、省エネ性向上に関心を持つエンドユーザーも増えている。省エネ基準レベルが当たり前となるのは時間の問題だ。住宅事業者にとって、さらに上のレベルの省エネ化を目指し、断熱材の選択、差別化を図っていくことが、これまで以上に重要になってきている。