イタリアで独自に進化したアグリツーリズム 地元銀行が資金融資 学ぶ場も提供
case7. イタリア・エミリアロマーナ州その①
イタリア北東部エミリアロマーナ州の山間地標高約200mにあるファジョリー農場で毎年実施されている中央大学法学部工藤裕子教授のゼミに参加した。2015年についで2度目の参加。ゼミは10年以上続けられている。会場になっているファスト・ファジョリー氏の農場は、アグリツーリズムの実践の場として知られていて研修も実施されているところだ。ここで仕組みと成り立ちを学ぶというものである。

農場を運営するファジョリーさんは、隣町の出身。ドイツ系の企業で働いていたが、1982年、現在の地の少し上の大きな家屋を使い宿泊・飲食を開業。そのあと、近くに移り新たなアグリツーリズムを始めた。当時は、若者が農村から出て行き、空き家も多い山間地に人が来るなんてありえないと思われていた。しかし、隣村のワイナリー、チーズ工房、農家レストラン、ふもとの商店街など、広域で連携していくことで、共感した人たちのネットワークが広がり、農村には都会にない体験、環境、何より、ここだけの食と自然の多いくつろぎの空間があることに魅せられた人たちが来るようになった。

ファジョリー農場は、敷地内に家族が住む家屋と、そのほかに、宿泊施設が5つ、セミナー会場と、キッチンとリビングがある。30 haがあり、葡萄、野菜、果物などが栽培されていて、家族経営で農業では雇用もしている。宿泊は年間2500名ほどが訪れるという。
アグリツーリズムとは、農家で宿泊ができるようにしたもの。日本では農家民泊と訳されているが、形態は、かなり異なる。これまで、エミリアロマーナ州とつながるピエモンテ州、トスカーナ州のアグリツーリズムにもかなり泊まったのだが、どこもお洒落で快適だ。
部屋は、それぞれ独立していて、キッチン、リビング、シャワー、トイレなどがある。食事は、軽い朝食程度で、あとは外で食べるか、自分たちでキッチンで料理をする。

もともと農家をリノベーションして作られたものなので、地域の景観に溶け込んでいる。それぞれが個性的だ。イタリアの人が夏休みや休暇、観光にアグリツーリズムをよく利用するというのがよくわかる。約2万軒ある。これは日本の農家民泊の10倍くらいの数となる。
この仕組みは、やがて町が、州が、そしてEUも支援をする事業となった。1985年にはアグリツーリズム法も生まれた。農業振興のために51%以上の農業労働に従事していることが必要。衛生管理も施設も整えておかないといけない。そのかわりEUからの補助制度もあり、ファジョリー農場のあるエミリア=ロマーナ州では、事業のプロジェクトの40%の補助、島のシチリア州、サルデーニャ州、南部の農村地帯の多いガンバーニア州、カラーブリア州、ブーリア州、バジリカータ州の6州はプロジェクトの59%の補助がある(最大20万ユーロ)。また、いいビジネスプランを提出した場合、それを国が形にして貸しだし、40年間かけて買い戻すという仕組みもある。2019年からは女性が起業をした場合、国から15年間の無利子で、最大30万ユーロの融資を受けられる制度も始まった。

資金調達には地元の銀行も連携していて事業の融資も行っている。開業にあたっては、事業プランが必要で、そのためのセミナーもある。ファジョリー農場もゼミの会場にもなっている。事業がうまくいかなければ、農村の振興につながらないわけで、そのために学ぶ場があるというわけだ。アグリツーリズムは、日本でも、今、注目の的となっている。というのは、農村の空き家が活用され、若者や女性が起業をし、観光や特産品の売り上げ輸出につながるからだ。
(つづく)
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