令和2年度 住政策の方向性
省エネからストック対策、災害対応まで
各省庁の令和2年度予算案が決定した。
住関連施策では、ストックや省エネ、生産性向上など住宅産業が抱える課題に対する支援が目白押し。
加えて、近年、相次ぐ自然災害に対する安全・安心への取り組みも加速する。
省エネのさらなる加速
3省連携のZEH支援を継続 リーディングPJへの支援も
今、国の最も大きな課題の一つが地球温暖化対策である。
昨年6月には「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」が閣議決定され、2050年以降の高い目標が示された。国全体でCO2排出量削減の動きが加速するなか、特に民生部門においては住宅の省エネ対策が重要な課題になっている。
住宅の省エネ・創エネの旗頭となっているのがZEH。令和2年度も昨年度に引き続き、環境省、経済産業省、国土交通省の3省連携によるZEHへの支援が行われる。複数の支援事業を通じて多面的にZEHの普及拡大を図る。
環境省は戸建住宅におけるネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化支援事業で戸建住宅(注文・建売)に対して戸当たり60万円を補助する予定だ。
環境省と経済産業省が連携する新築集合住宅・既存住宅等における省CO2化促進事業では、ZEH︲Mの新築に対し、6〜20層は2分の1、5層以下は戸当たり50万円を補助する。
経済産業省では、省エネルギー投資促進に向けた支援補助金において太陽光発電の自家消費比率拡大を目指すZEH+の実証などを支援する。家庭用蓄電池よりも蓄電容量が大きい電気自動車やエコキュートなど省エネ設備の活用を踏まえた内容となる見込み。
また、多発する自然災害を踏まえて、停電時でも自律的に電力が供給可能な、蓄電池などを備えたZEHの導入及びレジリエンス性を高めたコミュニティ単位でのZEHを支援する。
一方、国土交通省では地域型住宅グリーン化事業のなかで、中小工務店などの連携によるZEHの取り組みに補助を行う。
省エネ関連の施策は、ZEH以外でも数多く取り組まれる。例えば、経済産業省は、既存住宅の省エネ改修に向けた工期短縮が可能な高性能断熱建材や快適性向上にも資する蓄熱・調湿材などの次世代省エネ建材の効果の実証を支援する。
また、国土交通省は、住宅・建築物の省エネ化・長寿命化の推進において、サステナブルな社会の形成に資するリーディングプロジェクト(先進的な省エネ・省CO2プロジェクト、気候風土適応型プロジェクト、既存建築物の省エネ改修、省エネ性能の高い街区形成)に対する支援を行う。さらに住宅金融支援機構のフラット35Sの金利引下げの対象について、省エネルギー性能に関する基準を一部見直し、省エネ性能の高い住宅の取得を推進する考えだ。
災害に強い住宅・まちづくり
地震、台風など相次ぐ自然災害に 安全・安心な暮らしを
近年、自然災害が激甚化、多頻度化するなか、住宅の倒壊・半壊や浸水など人命や財産に係る被害が拡大している。自然災害に対する不安が従前以上に高まるなか、各省庁ではこうした災害に対する安心・安全の取り組みに力を入れる。
国土交通省では、災害に強いまちづくりの支援として、密集市街地の防災性を高めるため、無接道敷地の解消に資する敷地取得を伴う戸建住宅の建替えや防災改修を促進するとともに、民間事業者と連携した老朽住宅居住者の受け皿となる住宅の整備に対する支援を強化する。また、土砂災害の被害の増加を踏まえ、災害により被害を受けるおそれのある住宅に居住する人が、安全に生活できる住宅を確保するため、住宅の移転や改修などを推進する。
また、住宅・建築物の耐震改修等の推進に引き続き力を入れる。特に耐震性が低い建築物の耐震改修などへの支援を強化するとともに、耐震改修促進法に基づく耐震診断義務付け対象建築物の耐震改修などに係る重点的・緊急的な支援措置を引き続き推進。また、ブロック塀等の安全性を確保するため、危険なブロック塀などの除去、改修などに対する支援も引き続き行う。
一方、環境省では建築物等の脱炭素化・レジリエンス強化促進事業において、エネルギーの自給自足により、災害にも強く、ヒートショック対策にもなるZEHのさらなる普及を進める。さらにこれらの建築物にCLTなどの新たな部材の活用も促進しながら、激甚化する災害など気候変動への適応を高めつつ、快適で健康な社会の実現を目指す。
また、脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業では、台風などの大規模災害による停電発生時にもエネルギー供給が可能な地域づくりを進めるため、再生可能エネルギー設備、蓄電設備、自営線などを組み合わせた面的なエネルギーシステム構築に係る支援を行う。また、地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業では、変動性再エネを主力電源化するため、需要側の設備などにおいてEV(電気自動車)、建物間での自営線、直流給電システムなどを活用し、地域の調整力を向上させる体制構築を支援することで脱炭素化を図ると同時に、レジリエンスの強化を目指す。
ストック対策の強化
空家対策をさらに強化 リフォームや流通活性化も支援
新築市場が縮小化しつつあるなかストック市場の拡大が大きなテーマとなっており、国の施策の大きな柱の一つ。こうしたなか、ストックマーケットの整備や空家対策、また、リフォーム市場の拡大などさまざまな取り組みを進める。
国土交通省はマンションの管理適正化・再生円滑化において、老朽化マンションの再生検討から長寿命化に資する改修などを行うモデル的な再生プロジェクトに対して支援を行う。
また、マンション管理の実態調査をはじめ、地方公共団体などが行うマンションの管理適正化・再生に向けた取り組みへの支援を強化する考えだ。
また、空家や対策の強力な推進にも取り組む。空家の除却・利活用を進めるとともに、その発生を抑制するため、地方公共団体による空家等対策計画に基づく総合的な空家対策をいっそう推進するとともに、自主的対応が困難である空家を行政代執行で除去する場合を支援対象に追加するなど支援を強化する考えだ。
その一方で、空家相談のための人材育成、法務・不動産・建築等の多様な専門家と連携した相談体制の構築、空家対策に関する新たなビジネスの構築等のモデル的な取り組みに対しても支援を行う。
既存ストックの有効活用・市場の活性化については、安心して既存住宅の取得やリフォームを行うことができるように安心R住宅制度や住宅リフォーム事業者団体登録制度などの既存住宅流通・リフォーム市場の活性化に向けた施策の普及を進める取り組みに対して支援を行う。
また、良質な住宅ストックが市場において適正に評価される市場環境の構築に向け、インスペクション等を活用した住宅ストックの維持向上・評価・流通・金融などの一体的な仕組みの開発・普及を進める取り組みに対して支援を行う。
そのほか、住宅金融支援機構のフラット35リノベについて金利引下げの要件を緩和し、既存住宅の取得とあわせて質の向上に資する一定規模以上のリフォームを行う際の支援を強化する。
効率化・生産性向上の取り組み
新たな生産体制の構築に 技能者育成やBIM推進も
住宅産業界の大きな課題となっているのが職人不足。担い手である大工技能者の減少や高齢化が進むなかで、人材の育成とあわせて生産性の向上が大きなテーマとなっている。
国土交通省は地域の良質な木造住宅・建築物の生産体制の強化などにおいて、民間団体などが行う大工技能者などの確保・育成の取り組みや、拡大余地のある都市木造建築物を担う設計者の育成・サポート等の取り組みに対する支援を行う。さらにCLTなど新たな木造建築技術を活用した住宅・建築物の整備や、地域の気候風土に応じて環境負荷の低減を図るモデル的な木造住宅などの建設に対する支援も行う考えだ。
一方で、新技術などへの取り組みも後押しする。住宅・建築分野における生産性向上では、業務の効率化や生産性向上を進めるため、住宅・建築物の設計・施工・維持管理に係る生産性向上に資する新技術・サービスの開発・実証に対する支援を行う。
また、官民一体で構成する建築BIM推進会議において、建築物の生産・維持管理プロセスでBIMを利用可能とするための標準フォーマットなどの議論を行い、その成果を実際の建築プロジェクトに活用し、課題や改善方策の報告を行う事業に対して検証費用を支援する予定だ。
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