2019.10.30

食生活の変化と住まい【後編】

流通ウォッチャー 代田実 氏

食材の購入は、まとめて・どかっと週1回
ライフスタイルに応じたストック提案を

ライフスタイルの変化が、消費者の食材購入のパターンを変えてしまった。これからは、食材は週一回で、大量購入する時代に。「食材ストック」という考え方を重視する消費者が増える。それに住まいは、どのように対応すればいいのか─。流通ウォッチャーの代田実氏に聞いた。


前編はこちら

──ハレの日やちょっとしたイベントを、ホームパーティーで楽しもうとするのはなぜでしょうか。

昔は、ハレの日は外食をする家族も多かったのですが、前回、お話しした通り、今は、ライフスタイルの変化から、同じ時間に、同じ場所で、同じこと(食事)をするという感覚が、薄れているからではないでしょうか。外食ですと、特に時間と場所に縛られてしまいます。そもそも、家族みんなで楽しめればいいわけですから。そう考えると、同じ場所にいながら、しかも自分のペースで食事と時間を使えるホームパーティーという楽しみ方が、今の家族の生活スタイルに合っているのでしょう。

さらに、それぞれが好きなものを食べる「個食」の時代でも、ホームパーティーならば対応が楽です。例えば、肉を食べたいと、家族みんながそう思っても、お父さんは豚肉、お母さんは鶏肉、娘は牛肉──なんてこともあります。特に、ホットプレートを使えば、みんなが食べたいものを食べて満足できるわけです。外食ですと、なかなかそれが出来ません。お父さんは中華、お母さんは和食、娘はイタ飯…。家族での調整がつかずに結局、近所のファミレスなんてことも少なくありません。それならば、ホームパーティーで好きなものを食べようということになるのです。

しかし、ホームパーティーが増えると、前回お話した野菜のストックとは違った問題が発生します。魚、煮物料理から肉中心の食生活に変わってきたおかげで、鍋物料理からホットプレートを使って焼肉、鉄板焼きを楽しむ家族が本当に増えました。そうなると、厄介なのは煙です。キッチンの換気扇だけでは足りません。リビングのメインテーブルの前に排気ダクトのある構造があってもいいじゃないかと思います。

──ここでも食生活の変化に住まいが対応できていないと。

そうです。煙だけではありません。ホットプレートで焼肉をすると困るのが油ハネ。テーブルや窓についた油をふき取るのは本当に大変です。これまで住宅設計に関わってきた多くは男性だったのでしょうか。もっと女性目線が欲しいですね。また、最近は気密性の高い住宅が多いため、夏場に鉄板焼きをやると熱が逃げなく、エアコンをフル稼働しても部屋は暑いままです。趣味で、パンを焼く人も増えています。オーブンを使うわけですが、そうするとそこから出る熱が、家にこもってしまいます。パンを自ら焼くというのも「個食」の流れの1つです。最初にあるのは「自分で焼いた様々なパンを食べたい」という価値観で、家族にふるまうのは、その次の話しです。その時々によって「個食」と「団欒」を楽しむのが今の食生活です。これからの住まいづくりには、こうした食生活の視点も必要となります。

──これからの食のキーワードは何でしょうか。

「時短」と「ごみ問題」です。

時短については、ライフスタイルの変化から、調理や買物に費やす時間をできるだけ減らそうと考える人がさらに増えるからです。今、ミールキットという商品に注目が集まっています。これは、カットされた野菜や肉、調味料などが1つの袋に入って、フライパンで炒めれば、それで調理完了というものです。例えば、酢豚ですと、皮が剥かれ、食べごろサイズにカットされたタマネギやニンジンに、豚肉、調味料が1つの袋にまとまっています。買物する時間や下ごしらえする手間が省け、「時短」商品として人気が高まっています。

同時に、この商品は、「ごみ」を減らすという点からも注目されています。以前は、ゴミの収集は生ごみで週3回の自治体も多かったのですが、今は2回が多い。そうなると、生ごみを、収集日までどこに置くかはとても重大な問題となります。

例えば、食べ終わったスイカやメロンの皮。ごみ問題から、購入を避ける人も少なくありません。ミールキットですと、皮は剥かれた状態で袋に入っているので、ごみ捨てで悩む必要もありません。今の消費者は、ストックやごみ問題のように、食品を買った後の事まで考えて、購入するかどうかを決めます。

──消費者の購買動向が変化しています。住宅業界はどのような対応が必要でしょうか。

一度で買物を済ます人がさらに増えるため、スーパーへの来店頻度は減るでしょう。バイヤー目線でいいますと、特売商材を増やします。例えば通常販売する1袋600~700gジャガイモやタマネギを、週末は1、2kgの大型パックで用意するでしょう。そうなると、家にストックする場所が必要になります。もちろん、近隣にスーパーやコンビニがあれば、ストックとして、それらを活用すればいいでしょう。大型冷蔵庫があれば、それでもいい。床下収納もありでしょう。これからは、食のキーワードを見据えながら、ライフスタイルのパターンを考慮した住宅設計が、これまで以上に必要ではないでしょうか。