一条工務店 腰までつかる水位でも床下・床上浸水から守る
防災科研と耐水害住宅で共同実験、実用化へ弾み
一条工務店は国立研究開発法人防災科学技術研究所(防災科研)と共同で、実大規模での「耐水害住宅」の公開実験を実施。水位が腰の高さまで上昇しても、開口部を防ぐなどの工夫で浸水を防いだ。同社は商品化への手応えを掴んだ。
一般住宅 わずか数分で換気口へ水浸入
耐水害住宅は水の浸入シャットアウト
防災科研の敷地内に大きな水槽(920平方メートル)を設置。高さ3.5mの水槽に、降雨装置で大量の雨を降らし、機械で水流を発生させ、豪雨下での洪水状態を再現。そこに同社のB棟「耐水害住宅」(写真①)と、一般的な住宅(A棟・写真②)の2棟を建て、浸水状況などを検証した。
記者は実験の経過を住宅の外側から目視で確認。実験会場でリアルタイムにモニターに映し出された映像も使って、実験状況をレポートする。
実験は13:46にスタート。水の注水と人工降雨が始まった。
スタートから6、7分で、モニターに映し出されたA棟の水位は、換気口ギリギリに(写真③)。13:55。基礎内部には水が入り込んできた(写真④=一条工務店提供)。数分後に映し出された床下の映像は、褐色の汚れた水だけしか見えなかった。
ほぼ同時刻に、B棟も外側からは基礎換気口に到達したことを記者は確認。モニターにはフロート弁が上下に動き始めた様子が映し出された(写真⑤)。水位上昇につれて、フロートが上下に大きく動くが、床下への浸水は確認できなかった。
14:04。A棟の水位は玄関までぎりぎりのところにまで上昇(写真⑥)。室外機も半分ぐらい浸かっていた。その2、3分後には玄関下に水が押し寄せる。モニターで、じわじわ玄関内部への流入を確認した。14:09。トイレの水が逆流し、茶色く濁った水が便器内部に。14:11には、リビングにあるマット3、4枚が浮かび始めた(写真⑦=同社提供)。風呂場にも異変が。洗い場に真っ黒な水が(写真⑧)。この時の時刻は14:14。
14:18。さらに雨脚は強まり、モニターの状況を説明するアナウンスが聞き取りにくい。A棟のトイレから茶色い水が見える。その1分後に映し出された映像には、リビングのソファー座面あたりに水が。テーブルも流される。洗濯機も、冷蔵庫も浮かぶ(写真⑨)。その時もB棟に異変はない。
14:34さらに雨量は強まり、ゴーという音と大きな雨粒、10分で50mmを再現した。
水は、14:35にA棟の玄関ドアのノブに到達。水流ポンプ、6台全てが稼働し、水の勢いがさらに強まる。隣の記者の声が全く聞こえない。
モニターに映し出されたA棟のリビングは、部屋内部の水と外の水位が同じように見えた(写真⑩)。14:40。B棟も部屋内部から外を見ると、人の腰ぐらいの高さまでの水位が確認できるも、部屋への浸水はない(写真⑪)。
14:45分に実験は終了(写真⑫)。A棟は部屋のいたるところで、浸水を確認した。だが、B棟は床下も、キッチンなどの部屋も、室外機も、パワコンも水に浸かっていなかった(写真⑬~⑯=同社提供)。
結果報告をした一条工務店の担当者は「途中、大型水槽内に最大流速1秒間当たり1mの水流を作った。外部水圧で、リビングの窓が室内側に3mm変形、外壁は外から0.5mmたわんだ」ことを説明。「この程度の変形は問題ない」と話した。
基礎換気口から玄関鍵まで徹底した開口部対策
電気系統などの機械類はべた置きから上部に
水の浸入をシャットアウトした耐水害住宅にはどんな仕掛けがあるのか──。耐水害住宅の大きな特徴の1つは開口からの水の浸入を防ぐための、工夫がいくつもあることだ。
まずは、普段は床下に空気を通す基礎換気口。洪水になると、換気口から水が浸入。耐水害住宅では、基礎換気口の内側のボックスに設置されたフロート式の弁が浮いて、蓋をすることで、床下への侵入を防ぐ(図上)。水が引くと、フロート弁も下がり、再び元の状態に戻って換気口として機能する(写真⑰)。
次に窓開口。ここも洪水になると、水圧でのガラスの割れや、ドアの隙間から水が流入する。耐水害住宅では、こうした水害時の状態を把握し、窓には水深1mあたり1トンになる水圧に耐えるよう5mm厚の強化ガラスを採用。窓に洪水による水圧がかかっても漏水しないように、自動車ドアの技術を応用した、押し付けられるほど隙間を塞ぐ中空パッキンを採用し、宅内への浸水を防いだ。強化ガラスの耐風圧性能は一般的なガラスの約3.5倍。台風バリア仕様でさらに厚みを増したことで、強度が7倍以上にアップ。
防水が困難な窓周りは、あらかじめ工場で壁に取り付けることで防水性能を高めた。
玄関の鍵穴も、洪水では水の浸入口となる。耐水害住宅では、鍵穴位置を上げ、ドアとドア枠の隙間が水圧で埋まるよう、丁番の位置を調整した。窓同様中空パッキンを使用した。
洪水なると、キッチンやトイレ、浴室などの排水管から汚水が噴き出す危険もある。耐水害住宅には、排水管逆流防止弁を装着。排水管に自動で弁を閉じて逆流を防ぐ、オリジナル開発の逆流防止弁を取り付けた(図下・写真⑰)。
洪水が発生すると住宅周辺の水位も上昇する。貯湯タンク(エコキュート)も水に浸かる危険も。耐水害住宅では、ポンプや電磁弁などの電気動力部品、基盤や電源などの電気・電子部品を設備の最上部に配置することで、本体の一部が水没しても稼働できるよう、メーカーと共同開発した。エアコンの室外機も基礎に固定された独自設計の専用架台に乗せて、水没しにくい高さまで上げた。また、水没による故障・導電対策として、外部コンセント、太陽光発電のパワーコンディショナー、蓄電池なども水没しにくい高さまで、設置位置を上げた(写真⑱)。
建物全体には、耐水性能を確保でき、かつ屋内結露を防止できる防水(透湿)シートで壁面全体を包み込むように施工し、壁面からの宅内侵入を防いだ。シートジョイント部や、シートと基礎の接続部分には防水性能のある専用テープ、防水塗料で気密を確保する。
普及を意識し、50万円程度で商品化に
同社は、この耐水害住宅を、新築で50万円ぐらいの上乗せで実現できると明かす。年々、増加するゲリラ豪雨や台風による大雨での床下・床上浸水などの水害。「コストを無茶苦茶掛けても普及しない。はなるべくコストを掛けずに、実用化したい」(同社萩原氏)と話す。
防災科研水・土砂防災研究部門主任研究員 酒井直樹氏
実験結果は想定通りだった。ところが、実際の災害では、対策していれば安全かというとそうではなく、いろいろな場合がある。自分が住んでいるところが危険、安全かを知っておくことが必要。特に新しい住宅だと、気密性が高く、より安全性が高まっているといえる。
今回の実験で、思ったより、早いうちから変化するということが分かった。こうした情報やデータから、対策するときに、何をすれば避難するまでにどのくらいの時間があるのかということも、今後の解析で分かっていく。対策としては、やはり水がくる前に逃げてほしい。今回の実験結果で、どういった対策をすべきか、考えるきっかけにしてほしい。
一条工務店開発責任者 萩原浩氏
河川氾濫を想定。流水を起こし、水の勢いが建物に与える影響を調べた。A 棟はいたるところから水が浸入した。想定外だったのは、一般住宅は内側に水が流入することで、掃き出しサッシなど弱い部分が外側とイコールになり、建物にやさしいことが分かった。B棟は水圧をまともに受けたが、水圧が1t かかっても、サッシや壁の強度も十分再現できた。現状は、床上浸水でも腰の高さぐらいまでを想定。これ以上の水位だと津波レベルとなり、車や流木などの漂流物も考えなければならない。
一軒だけ対策しても限界があるものの、開発した建物は、十分効果が発揮できることを実験で証明できた。国の統計では30万棟を超える床上浸水被害がある。このレベルの仕様であれば、ほぼ被害から救える。地震より、実現可能な技術であることを証明した。
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