2019.9.18

【トップインタビュー】三井ホーム 池田明 社長

強みを発揮する領域をフォーカスし成長力のある会社に

戸建て住宅はアッパーミドル層をターゲット、施設系にも注力

上場を廃止、三井不動産の子会社となった三井ホーム。大きく変わりつつある住宅業界のなかで2×4のトップ企業はどこに向かおうとしているのか──。今年4月に新社長に就任した池田明氏に、これからの方向性について聞いた。

兵庫県出身、1961年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。
1985年三井不動産入社。賃貸住宅事業部長、執行役員、三井不動産レジデンシャル常務執行役員、 三井不動産特任顧問、三井ホーム専務執行役員、取締役専務執行役員などを経て、現職

──昨年、三井不動産の完全子会社となりました。

今、お客様の嗜好の多様化が進み、こうしたニーズに対して的確にソリューションを提供することが勝ち残るための重要なポイントとなります。

三井不動産グループは新築、中古、注文、分譲、賃貸とほとんどすべての住宅領域をカバーしています。お客様のニーズをワンストップに受け止め、ソリューションを提供できれば、より多くの事業機会を獲得することができます。そこが一番の連携強化のポイントです。

今、積極的に人事交流を進めており、実際の仕事のなかでの成功体験を積み重ねていくことに力を入れています。

三井ホームも、自社の強みをさらに強化しつつ、グループの連携をより強め、成長力のある会社にしていく考えです。

──事業ごとの戦略を教えてください。

三井ホームの強みを発揮する領域をフォーカスしていきたいと思っています。

注文住宅については、人口が減少するなかでもボリュームの拡大が予想される富裕層やアッパーミドル層にしっかりと訴求していきます。

マーケット全体が縮小しているといってもセグメントごとには動きがあります。特に、今マーケットの中心になりつつあるのは若いミレニアル世代です。若年層でありながら世帯年収も高く、ローン金利が安いなか住宅取得意欲は高い。この層にしっかりとアピールすることが重要になります。

加えて、シニア層です。現在の住まいが、住みやすい間取りや仕様かというと必ずしもそうではありません。建替えやリフォームなど、しっかりアプローチしていきたい。もしかすると平屋などダウンサイジングもあるかもしれませんが、そうしたニーズをしっかりと捉えることも重要なポイントだと思います。

特にシニア層に対しては、グループ全体でどのように取り組むかだと思います。必ずしも建替えだけでなく資産を組み替えながら有効活用するといったニーズもあり、グループ連携の強みを発揮できるでしょう。三井ホームは、もっと大きな領域の仕事を取り扱うことができるのだという意識改革を進める必要があると思っています。

──ターゲットとする層に向けての商品開発のポイントは?

ただ格好いい、きれいというだけではなく、どういうライフスタイルを求めているのか、ポイントを絞ってニーズに応える商品開発が中心になってくると思います。

ZEHへの対応などを考えると、住宅そのものの基本性能を上げていく必要があります。そこで今年、ベースとなる構造の高規格化を行いました。加えて、さらなる工業化にも力を入れていきます。コストダウンが大きな目的ですが、職人が不足するなか工場でできるだけ作り込み、現場での回転率を高めることが重要だと考えています。

昨年度、2×4住宅の新築全体に占めるシェアはこれまでで最高となりました。耐震性、気密性、断熱性など住宅の性能に対する世の中のニーズは高まっており、さらに高い規格の住宅をお客様に提供していきたいと思っています。

──賃貸住宅の取り組みは?

賃貸住宅をめぐってはマイナスとなるニュースが続いていますが、当社が主に手がけている都市部のマーケットは引き続き堅調です。非常に稼働率も高く、賃料も安定しており、今後も積極的に取り組んでいきます。

今は2、3階建ての低層が中心ですが、建築基準法の改正で耐火について緩和措置が取られ、少し大型のものでも取り組みやすい状況になりました。技術開発を進め、木造住宅が対応できる領域をさらに広げていきたいと思っています。

──施設系の中大規模木造にも力を入れていくとのことですが。

国が積極的に推進策を取っていることもあり、マーケットニーズは間違いなく拡大していくとみています。国内の森林資源の有効活用が求められていることに加え、SDGsを重視し、環境貢献の意識が高まっていることも追い風です。我々にとっても、この事業を拡大すること自体が大きな社会貢献につながりますので、力を入れていきます。

施設系では、医院や保育園、特別養護老人ホームなどの分野を得意としてきました。これは木が持つ調温調湿に優れるという特性、つまり人にやさしいということから採用されてきたのだと思います。

今後はさらに用途を広げていきたい。木造でも大きな空間を作る技術が開発され、ワイドスパンで天井高が求められる商業施設、オフィス空間などにも対応できるようになっています。最近注目されているCLTなど、新しい材料の活用などもポイントになってくるでしょう。

この分野を飛躍的に広げていこうとするなら、それに見合った体制をつくらなければなりません。今、人材を獲得しづらく、施工の手が不足しています。そこをいかにクリアし、体制を構築するかが、一番大きなテーマだと思います。

中大規模木造の事業に力を入れ、これまでの保育園や特別養護老人ホームなどから商業施設やオフィスにまで用途を広げていく

──2×4の可能性についてどう考えていますか。

今、私は社内で「クオリティマネジメント経営」を推進しています。我々がメインターゲットにしていこうと思っているお客様や、広げていこうとしている事業領域から評価いただけるようなクオリティをしっかりと提供しよう、クオリティのレベルをさらに上げていこうということです。

クオリティとは、当然、施工精度などもありますが、感性に響くような──例えば、部屋に入ったら空間の広がりが大きく心に響くような、そんなクオリティです。私たちが持つ2×4の技術はこうした面に活かせるのではないでしょうか。外観や空間のつくり方、また、住んでみて本当に気持ちのよい空間や環境など、色々なことを感じていただく手段として2×4に力を入れることは有効なのではないかと考えています。

2×4でなければいけないというわけではありませんが、45年間培ってきたものはかなり生かすことができます。

ただ、大規模な木造建築になると、一つの工法だけにこだわると設計上の制約なども生じてきますから、クオリティを高めるために柔軟に様々な工法にチャレンジする姿勢も持っておく必要があります。

強みを生かしながら、さらに広げていく必要があるのであれば取り入れていく。三井不動産グループのコーポレートマークは“&(アンド)マーク”です。これはAかBかではなく、両方を共存させるというコンセプトです。我々の持つ強みと、新たに取り入れるものと、両方を活かしながらより成長できればと考えています。