オピニオン |  2019.2.5

シックハウスと住まい【前編】

千葉大学予防医学センター 健康都市・空間デザイン学分野特任准教授 鈴木規道

シックハウスの相談は4年連続増加
規制の化学物質以外にも配慮を

(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センターが公表するシックハウスに関する相談件数をみると、2014年から4年連続で増加している。なぜ近年、シックハウスに関する相談が増えているのか。シックハウスに対して、住宅業界には改めてどのような取り組みが求められているのか。千葉大学の予防医学センターの健康都市・空間デザイン学分野の鈴木規道特任准教授に聞いた。

1981年5月生まれ 東京電機大学工学部建築学科卒業。 設計事務所勤務を経て、2013年に千葉大学予防医学センターに着任。2017年より特任准教授に就任。環境改善型予防医学・0次予防の視点より健康をキーワードに室内環境やまちの建造環境が人に与える影響を研究。

――洗濯の柔軟剤に含まれる芳香剤などが原因で化学物質過敏症を発症する人が増えているという報道を見ました。実際には、患者数は増えているのでしょうか。

まず、シックハウス症候群と化学物質過敏症は異なります。シックハウス症候群は室内の空気汚染全般が原因で、その代表的な物が建材や日用品から放散される化学物質です。カビやダニの生物要因も原因物質に含まれます。発症も室内に限定され、その場から離れる事で症状が軽減される特徴があります。一方、化学物質過敏症は室内外問わず微量な環境中の化学物質に反応し様々な症状を訴える病態とされております。またWHO/IPCSでは、症状の原因が環境中の特定の化学物質とは断定できず、因果関係が証明できないことから「化学物質」という言葉は使わず、本態性環境不耐症と言う言葉を用いています。室内の環境に由来する健康障害「シックハウス症候群」とは異なる疾患と考えられています。これらからも、我々の研究はシックハウス症候群を対象にしております。

千葉大学予防医学センターでは、2007年からハウスメーカーと協同で、「ケミレスタウンR・プロジェクト」を立ち上げ、化学物質を可能な限り削減した住宅・学校・クリニックを建設し、その知見を実際の街づくりに活かす事を目的とした研究を進めています。

シックハウス症候群については、2000年代前半に社会問題化し、国や業界団体による取り組みが進みました。国は2003年に建築基準法を改正し、シックハウスの原因となるホルムアルデヒド発散建材の使用を制限しました。また、業界団体などが中心となり揮発性化学物質(VOC)の表示制度などを整備するなど、シックハウスについての取り組みが進みました。しかし、未だにシックハウス症候群に悩む人がいるのも事実です。(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センターが公表するシックハウス症候群に関する相談件数をみると、2014年から4年連続で増加する傾向にあります。相談件数は2003年の546件から年々減少する傾向にありましたが、2013年の68件を境に増加に転じ、2017年には135件まで増えています。

――相談が増えている理由について、どのように見られていますか。

住宅の高気密・高断熱化があげられます。省エネで住みよい住宅である反面、室内の空気汚染が顕在化しやすくなる傾向にあります。

また、ぜんそくや、アレルギーなどの患者数が増えていることとも関係しているのではないかと思います。厚生労働省が公表する「アレルギー疾患 推計患者数の年次推移」を見ると、ここ10年ほどアレルギーの患者数が増加傾向にあることが分かります。アレルギー疾患を持つ人がシックハウス症候群になりやすいとの報告もあります。さらに、多くの人がインターネットなどを通じて、アレルギーやシックハウス症候群に関する情報に触れることで、認知が広がり、医療機関などに相談に行く人が増え、結果として症状に気づく方も増えているのではないでしょうか。

一方で、シックハウス症候群の患者数を正確に把握することは難しいと思っています。軽度な場合、気がつかない事が多いからです。窓を開けて換気する、あるいは外に出れば症状は軽減されます。我々がウェブ上で一般の方を対象に行ったアンケート調査では、ほとんどの方が、シックハウス症候群の診断を受けたことがないと回答しました。一方で、住宅・建物内で少しでも、シックハウスの症状である皮膚や免疫の刺激症状、頭痛などを経験したことがある人が一定数いることも分かりました。軽度な症状で深刻ではないと考えている人が多いことがうかがえますが、放置するとリスクは増大します。長期間にわたり原因物質の影響を受けると、症状が顕在化、悪化していく可能性があります。

――新建材がシックハウスの要因になることは考えられますか。

多くのメーカーが建材からの化学物質低減に対して様々な取り組みをされていますが、一つの化学物質を規制しても代替品が出てくるという「いたちごっこ」の状態です。シックハウス症候群が社会問題化したことを受けて国は、2003年、24時間換気システムの設置義務化やホルムアルデヒドの発散等級を星の数で表示するラベリング制度を整備しました。一方、ホルムアルデヒド以外の化学物質についての表示制度は整備されていません。健康被害のリスクがある化学物質を理解している一般消費者は少ないはずです。「F☆☆☆☆フォースター」なので「安全な建材である」は大きな間違いです。

厚生労働省はホルムアルデヒドに加えて、トルエン、キシレンなど13の化学物質について指針値を設け、規制をかけていますが、それ以外の化学物質についての対策は特になされていません。最近の研究では、13物質以外の未規制の物質と健康影響の報告がなされています。

こうした中で、厚生労働省は、化学物質の規制を見直し、新たに3物質について指針値を設定、既存の4物質に対し規制強化の検討を進めています。住宅関連事業者にとっては耳の痛い話ですが、すでに規制された化学物質以外にも、シックハウスを引き起こすリスクがある化学物資に対してアンテナを張り、注目しておく必要があるでしょう。

(後編に続く 聞き手・沖永篤郎)