ジャパンホームシールド 住宅基礎を工場生産する新工法を開発
戸建住宅の地盤調査・建物検査を手掛けるジャパンホームシールドは、住宅基礎の新工法「アイランドベース」を開発した。工場で生産することで大幅な工期短縮、品質向上を実現。製造拠点、認定施工店を増やし2023年度に4000戸超の受注獲得を目指す。
住宅基礎の分野でも職人不足が深刻化しており、工期が長期化するという課題が顕在化してきている。ジャパンホームシールドが住宅事業、建設会社90社を対象に実施したヒアリング調査によると、最多の44の事業者が、住宅基礎の工期は「3週間」と回答した。「基礎工事業者は掛け持ち現場が多く、現場に職人がいない日も多い」、「春休みの引渡しに向けて年末年始の期間は特に混む。工事開始を1ヶ月待つこともある」といった課題を抱える声も聞かれた。
さらに、入職者の減少により、技術継承が進まず、結果として品質低下のリスクも高まっている。具体的には、型枠を外したコンクリート構造物の表面に砂利が凝集・露出する「ジャンカ」や、コンクリートを打ち重ねる際に一体化せず、打ち重ねた部分に不連続な面が生じる「コールドジョイント」のほか、「天端が波打つ」、「アンカーが垂直ではない」といった不具合が発生するリスクが高まっている。「基礎工事業者を3社も変えた。最初の構造部分の工程で躓きたくない」、「天端調整や、土台の穴あけ作業で1日かかるなど基礎工程で工期が延びる。基礎工程は、施主に見せたくない」といった困りごとを抱える住宅事業者は少なくない。
スラブへの影響を解析し
基礎の立ち上がりを最適化
こうした現状を踏まえて、ジャパンホームシールドは、工場で住宅基礎を製造する新工法「アイランドベース」を開発した。時間がかかる人材確保・育成にとらわれず、新工法の開発により生産性向上を実現することで、住宅基礎に関する課題解決に貢献していきたい考えだ。
2階建て以下、500㎡以下の木造住宅などに使用できる住宅基礎として、(一財)日本建築センター(BCJ)の評定を取得した。プレキャスト基礎の分野で豊富な実績を持つグランデージ社(石川県宝達志水町)と共同で申請し評定取得に至った。
また、ジャパンホームシールドが開発したスクリュードライバーサウンディング(SDS)試験による地盤調査・解析のノウハウを生かすことで、住宅基礎の設計業務からもサポートする。住宅事業者から提供された住宅の図面をもとに、ジャパンホームシールドが柱の軸力と、SDS試験から導き出される地盤の反力が、 基礎のスラブに及ぼす影響を解析し、アイランドベースの内部の立上りを配置する。また、全棟で構造計算を実施するほか、評定を取得した工場が製造、納品し、研修を修了した認定施工店による施工を徹底することで、より高いレベルで安全・安心を確保する。
工程を半分以下の1週間に短縮
スラブとの一体化にも成功
アイランドベースは圧倒的な工期短縮を実現する。現場でのコンクリート打設作業はスラブ部分のみで、工場で製造した分割した基礎部品(外周部と内部それぞれの立ち上がり)を現場に運び、クレーンで設置する。
設置を始めてから、仮置きまでにかかる時間は1時間半程度。力仕事もないため女性の職人でも対応しやすい。現場打ち基礎で2〜3週間かかっていた型枠工程・配筋工程が、アイランドベースは、スラブ養生のみで1週間に短縮できる。同社の基礎事業部の中村亨事業部長は「70㎡以下の基礎面積であれば5日で完工する。工期の短縮化によって年間にこなせる工事件数も多くなるため、建売で多棟施工になるほど、キャッシュフローに対する効果も大きくなる」と話す。
品質向上にも寄与する。スラブと、外周部立ち上がりの接合部の形状を工夫することで、均一に一体化できる技術を確立。「コールドジョイント」を防止する。また、評定を取得した製造工場が厳格な評定規定の下で製造することで、「ジャンカ」の発生を防止。さらに、工場製造時にアンカーボルトを鉛直に配置することで、「アンカーが垂直ではない」といった不具合の発生を抑制。安定した強度を実現する。加えて、工場で横打ちの型枠で製造することで、真っすぐに基礎天端が仕上がり、現場での調整作業が不要になるように工夫した。
同社が実施した建物検査によると基礎の不具合数は、築年数10年未満の物件で9%であるのに対して11年目以降になると34%と、経年により不具合が急増することが分かっている。そこで、アイランドベースでは30N/㎟の長寿命コンクリートを使用することで、 経年劣化のリスクを抑制できるように配慮した。
「住宅基礎のプレキャスト化には大手ハウスメーカーを始め、さまざまな事業者が挑戦してきたが、スラブとの一体化などの技術的なハードルが高く、工法の確立、普及には至っていないのが実情。今回、グランデージ社と弊社のノウハウを組み合わせることで、アイランドベースの開発に成功した」(中村事業部長)。
工事前後の工程の手間も削減
長期優良、耐震等級3に最適
アイランドベースは基礎工事前後の工程の手間の削減効果ももたらす。基礎も含めたメンテナンス計画が求められる長期優良住宅や、基礎にもより高い耐震性が求められる耐震等級3の住宅についても、全棟構造計算を実施し、基礎伏図を作成するアイランドベースを採用することで、メンテナンス業務や設計業務をよりスムーズに進めやすくなる。
また、工場でアンカーボルトを垂直に、設計図通りの位置に配置することで、プレカット工場で、土台に穴あけを行うことも可能。現場での作業の負担を軽減できる。
床下環境の改善にも寄与する。住宅基礎の内部立ち上がりは、居室の区画に沿う形で、区画されているものが一般的だが、前述したように、アイランドベースでは、柱の軸力と、SDS試験から導き出される地盤の反力が、 基礎のスラブに及ぼす影響を解析し、内部の立上りの配置を最適化する。結果的に、より開放的な床下空間となり通気性が向上。土台の劣化を防止する。配管レイアウトの自由度も高まり、スムーズな床下点検を可能にする。
2021年3月時点で、九州から関東までのエリアで15のアイランドベースの製造拠点を配置した。研修修了の認定施工店は同じく九州から関東までのエリアで13社。今期中に東北進出を予定する。郊外の分譲事業者、品質訴求の強い注文住宅事業者、自社設計の事業者など新築住宅事業者にターゲットを絞り営業提案を強化しているが、反響は大きい。
試験販売を開始した20年度の受注件数は50件、21年度は435件と8倍以上に伸長した。現在は20年度上期6か月間で受注した棟数を1か月で受注しており、勢いが増している。22年度1940件、23年度4090件へと受注拡大を目指す。「将来的に、日本全国どのエリアでも100㎞内で製造できるよう供給体制の整備を進めていく」(中村事業部長)考えだ。
ジャパンホームシールド株式会社
https://www.j-shield.co.jp/
住宅基礎の新工法 アイランドベース
https://www.j-shield.co.jp/islandbase/
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