今、介護の現場で何が起きているのか

医療崩壊と表裏一体の介護崩壊を防ぐために

新型コロナウイルス感染症との戦いが長期化の様相を呈するなか、医療崩壊だけでなく、介護崩壊のリスクも高まっている。今、介護の現場で何が起きているのか。ミサワホームグループで介護事業を展開するマザアスの吉田肇社長に話を聞いた。


ミサワホームグループでシニア事業を展開するマザアスは、デイサービスや居宅介護サービスなどを提供しているだけでなく、介護付、並びに住宅型有料老人ホームやケアハウス、サービス付き高齢者向け住宅など、様々な施設や高齢者住宅を運営している。25の介護保険事業所と500名以上の従業員を抱えており、新型コロナウイルス感染症の影響が拡大するなか、細心の注意を払いながら事業を継続している。

同社では、いち早く新型コロナウイルスに特化した感染対策マニュアルを作成し、全スタッフで対応を徹底しているという。しかし、マスクや防護服、エタノール消毒液などの確保が難しくなり、100円ショップで調達した材料で防護服などを手作りするといった対応が迫られている。また、最近では体温計用のボタン電池(LR41)が購入できないといった問題も表面化してきているそうだ。

100円ショップなどで調達した材料で手作りした防護服など
100円ショップなどで調達した材料で手作りした防護服など

現在、デイサービスや訪問介護サービスについては、利用者の意向を聞いたうえで、サービス提供を行っているが、比較的介護度が低い方や同居ご家族がいる方は利用を控える傾向が高く、要介護度3以上の中重度の方になると、食事や入浴などの介助が必要になるため、サービスを停止することが難しく継続される方が多いと聞く。

しかし、要介護度が高いということは、それだけ新型コロナウイルスに感染した際のリスクも高くなる。介護サービスを提供する側としても、徹底した感染症対策を行っているとはいえ、やはり不安感は残る。そうした不安を抱えつつも、日々、“介護のプロ”としての仕事を遂行しているのだ。

介護度が低いサービス利用者の状況も気になるところだ。介護サービスが受けられなくなり、部屋に閉じこもる時間が長くなるなかで、要介護度が高くなってしまう懸念もある。「我々は、単に介護サービスを提供するだけでなく、利用者の方々の生活支援をするという役割も担っています。とくに認知症の症状のある方や単身で暮らす方々、老老介護と言われる高齢夫婦の方にとってはその役割が重要になるのです。しばらく利用者の方々にサービスを提供できないとなると、その点も心配です」(マザアスの吉田社長)。

一方、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅でも極限の対応が求められている。現在、家族も含め外部からの面会は原則停止しており、入居者は隔離された状態になっている。ただし、通院が必要な入居者もいるため、外部からの感染リスクはゼロではない。

また、当然ながらスタッフ側から感染を広げてしまう懸念もある。マザアスでは、少しでも発熱などの症状が出た場合、必要に応じて一定期間の自宅待機をスタッフに求めているケースが増えてきているという。しかし、ただでさえ介護人材不足のなかで、スタッフの数が減ることでサービスの質が低下することも考えられ、マネジメントが難しい状況を迎えている。

さらに言うと、万が一、スタッフや入所者に陽性反応が出た場合の対応も考えなくてはいけない。施設を全面的に閉鎖し、入所者を他の施設などに移すことができればいいが、今の状況下ではそれも難しい。隔離できる部屋があったとしても、重度の認知症を患っている場合、部屋に留まり続けること自体が困難である。

高齢者のための施設や住宅を完全に閉鎖するためには、想像以上に多くのハードルがあるのだ。

「医療崩壊と介護崩壊は表裏一体」と語るマザアスの吉田社長
「医療崩壊と介護崩壊は表裏一体」と語るマザアスの吉田社長

吉田社長は、「例えば陽性者反応が出た場合、濃厚接触者のみならず速やかにスタッフや入居している方々全員がPCR検査を受けられる環境があれば、クラスター発生の最悪のケースを回避する対応ができるかもしれないが、現状では難しい。これからの話になるのでしょうが、抗体・抗原検査などが出来る状況が整えば、対応方法も変わってっくるのではないでしょうか」と語る。

イギリス・フランスでは、新型コロナウイルス感染症による死者数の約4割が介護施設などの入居者で占められているという情報が伝えられるなかで、日本でも介護崩壊を招きかねない状況になってきている。実際に有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅などがクラスター化する事例も表面化してきている。

吉田社長は、「医療崩壊と介護崩壊は表裏一体です。介護が崩壊すれば、新型コロナウイルス感染症によって重症化する患者さんの数は自ずと増えていくでしょう」と警鐘を鳴らす。

医療崩壊とともに介護崩壊をどう防ぐのか―。一刻も早くその対策を講じていく必要がありそうだ。

また、介護の現場では、高齢者の生活を支えるために、新型コロナウイルスの影を感じながらも、今も大勢の人々が働き続けている。介護報酬の見直しは3年に一度であり、次回は来年の4月である。緊急事態下で、前倒しで介護報酬などを見直し、経済的な支援を講じていくことも必要ではないだろうか。