2020.5.1

高齢者介護サービスが危機的状況に。悪夢の高齢者

事業所の休業、業務縮小、経営破たんの荒波

新型コロナウイルスの蔓延がやまないなか、医療をはじめ様々な分野で、「崩壊」の悲鳴が上がっているが、なかでも深刻化の度合いを深めているのが≪介護崩壊≫だ。高齢者介護サービスが事業者職員の感染拡大や事業所の休業・縮小、職員離職などでこれまで通りの対応が難しくなってきているのだ。ともすると医療分野への支援が優先されがちの中、介護崩壊は結果として医療負担を拡大し、医療崩壊の引き金になりかねないと関係者は危機感を募らせている。

高齢社会を突っ走る中、特別養護老人ホームやデイサービス(通所介護)、ショートステイ(短期入所)、ホームヘルプ・サービス(訪問介護)など介護サービスは今や重要な社会インフラとなっているが、新型コロナによって施設も利用者も未体験の荒波に翻弄されている。中でも顕在化しつつあるのが、事業所の休業、業務の縮小だ。そこには、いわゆる「3密」を避けることが難しい規模の施設が多いことに加えて利用者がコロナ感染で重症化しやすく、基礎疾患のある要介護高齢者が主対象であり、しかも自ら感染対策をとれない認知症の高齢者が多いという利用者の特性がある。さらに施設職員のスキルに今度のコロナウイルスのような感染対策は含まれておらず、医療関係と違って防護服などの装備も備蓄もないし、感染対策の知識。ノウハウも乏しい。このところ、介護施設でのコロナウイルスによるクラスター事例が出てきているのもこうした事情によるとみられ、これが事業所の休業、サービス縮小につながっている。緊急事態宣言が出されてから4月20までに休業した施設は、厚労省によると全国で通所・短期入所系が858事業所、訪問系が51事業所となっている。全国介護事業者連盟が4月16日に発表した緊急アンケート調査(有効回答1789事業所)によると、コロナ感染により経営面で「すでに影響を受けている」が特養で23%、訪問系で31%、通所系で82%であり、さらに「今後影響を受ける」は特養68%、訪問系59%、通所系14%にのぼる。すでに通所系施設は4月上旬で8割を超える施設が影響を受けているわけで、コロナ終息が長引けば、介護事業所のすべてが経営的に影響を受けるとみている。

日本記者クラブでこのほどライブ会見を行った東洋大学ライフデザイン学部准教授の高野龍昭氏は、「通所・短期入所、訪問サービスの経営は危機的状況にあり、すでに定員減、サービス時間減少、訪問回数減、代替サービス実施など業務縮小を余儀なくされている。通常業務を行えている施設のほうが少数派だろう」と語る。また、経営破たん・倒産についても「介護報酬(出来高払)の請求、支払いシステムにより4月の休業・縮小の減収の影響が6月以降に出てくるので、経営体力の弱い事業所が多いだけに6〜7月の経営破たんの増加が懸念される」と心配する。

高野氏は今のままでコロナウイルス拡大が長引くことによる介護サービスの最悪のシナリオも描く。高齢者の心身機能の悪化、疾病者の増加、医療負担の増加に加え、家族の介護負担の増加による介護離職や虐待リスクも増える、という社会的孤立の懸念。さらに、事業所の経営破たんによる雇用への悪影響、介護職員の離職などで、高齢者が必要な介護を受けられないという事態を招きかねない。まさに≪介護崩壊≫に陥るというわけだ。

そしてこの介護崩壊を防ぐためにも、介護サービス職員への支援策、事業所への経営支援が必要になる。具体的には、従事者・職員に対しては医療機関との情報共有を含めマスク、消毒用アルコール、防護服など必要物資の早急の提供、感染対策の専門家によるノウハウの提供、さらには心理的サポートをはじめ危険手当など報酬面でのインセンティブが求められよう。また、事業所に対しては、感染者や濃厚接触者への介護に対する介護報酬の創設、雇用調整助成金を受けやすい条件整備、減収分助成などが大事になるだろう。

訪問系サービスの危機的な状況については同じく日本記者クラブでNPO事業者らが会見を行い窮状や要望を訴えている。「利用者の食事や排せつ、身体の清潔など日常生活を維持し、命と健康を守るためにホームヘルパーの訪問は最後の砦にもかかわらず、事業所への行政のバックアップはあまりに貧弱」(小島美里・特定非営利活動法人暮らしネット・えん代表理事)と悲痛な叫びを放つ。医療と介護は表裏一体である。介護サービスへのまなざしが置き去りにされるようなことがあってはならない。緊急事態宣言の延長が決まった現在、なおさら迅速な支援策の実行が望まれるといえよう。

東洋大学ライフデザイン学部准教授の高野龍昭氏
東洋大学ライフデザイン学部准教授 高野龍昭氏
ケアサイクル論