プレハブから木造へ 板倉構法で建築した学童保育施設
クラウドファンディングも利用し資金を調達
【物件】あおぞら学童保育クラブ(愛知県名古屋市)
【施工】株式会社 安井工務店(愛知県名古屋市)
プレハブで建築されることが多い学童保育施設を木造にできないか―。名古屋市の緑区に建築されたあおぞら学童保育クラブは、地域住民のこうした想いが形になった建築物だ。資金調達にクラウドファンディングを利用するなど、関係者の熱意と工夫で木造化を実現している。
学童保育は、学校が終わった放課後に子ども達を預かってくれる施設で、共働き世帯の増加などに伴い需要が増えている。厚生労働省によると、2020年5月1日現在で全国に2万6625カ所の学童保育施設があり、登録児童は131万1008人にも達している。その一方で慢性的に学童保育施設が不足している地域も多い。
なお、学童保育施設の設置・運営主体は、市区町村だけでなく、社会福祉法人、保護者会などの場合もある。愛知県名古屋市緑区に2020年7月に完成した学童保育施設「あおぞら学童保育クラブ」は、愛知県産材を活用した木造の建築物だ。
子ども達のために木造化を検討 板倉構法を用いて“仮設〞木造に
名古屋市では、地域の保護者会などが学童保育施設を設置する場合、プレハブ建築を貸与する制度がある。土地を地域住民などから借り、プレハブを建築することで学童保育施設の不足を補おうというわけだ。しかし、プレハブの場合、夏は暑く、冬は寒い。子ども達の声が建物の内外に反響してしまうといった問題があった。熱中症の心配もある。もっと快適な学童施設を実現できないだろうか―。そこで、もともとあったプレハブの施設を建て替える際に木造化を検討することになったという。
あおぞら学童保育クラブは地域の保護者会が運営しているが、新しい施設の建て替えのために(一社)木の香るあおぞらの会という組織も設立している。あおぞら学童保育クラブの要望に対して、「森と子ども未来会議」という有志グループが協力をすることになった。学童保育施設の木造化を推し進めているグループだ。あおぞら学童保育に先駆けて、名古屋市昭和区の山里学童保育クラブの木造化にも取り組んでいる。
また、学童保育所木造化プロジェクトを推進する一環として、「木こりキャンプ」として、子ども達に木こり体験をしてもらう取り組みなども行っている。
学童施設の木造化に当たり、まず検討すべきことが、あくまでも“仮設〞でなくてはいけない点。土地を貸借して建てる場合が多く、児童数によって利用状況も変わるため、事情が変わったら施設を撤去することが求められるのだ。プレハブであれば、不要になれば解体して再利用できるが、木造建築ではそうはいかない。
そこで森と子ども未来会議が提案しているのが板倉構法。釘を使わずに、柱と柱の間にスギ板などを落とし込んでいく日本の伝統的な工法であり、東日本大震災の際には仮設住宅の建築に利用された。解体し移設することができるため、プレハブ建築のような使い方ができるというわけだ。
材料には全て愛知県産材を利用し、落とし込みに使うスギ板も県内の製材所で加工した。しかし、板倉構法のための材料を製造した経験がなかったことから、設計を担当した東海林建築設計事務所の東海林修代表と、施工を担当した安井工務店の安井健社長も製材業者に同行し、静岡の製材業者を視察したという。
施工については、「東日本大震災の際に板倉構法の仮設住宅を建築したことがある大工さんを中心として進めていきました」(安井社長)そうだ。また、温熱環境を改善するために外断熱を採用し、落とし込んだ壁の外側に断熱材を施工した。
クラウドファンディングで約715万円の資金を調達
学童保育施設の木造化に向けたもうひとつの課題が建設資金をどうやって調達するのか。前述したようにプレハブであれば、名古屋市が無償で提供してくれるが、木造ではそうはいかない。
あおぞら学童保育クラブの規模は、2階建て、延べ床面積250㎡。総費用は6600万円。積立金や保護者などによる出資を合わせても、総費用をまかなうことができなかった。
そこで県産材に関する補助金を活用したほか、名古屋で開催された全国植樹祭で使われたヒノキを譲り受け、建物に使用することにした。東海林建築設計事務所の東海林代表と、安井工務店の安井社長も計画の初期段階から保護者会のメンバーと一緒になり、できるだけ予算内で納まるような設計や施工方法を検討した。
しかし、それでも500万円ほど資金が不足しており、クラウドファンディングによる資金調達に踏み切った。その結果、目標金額500万円を上回る714万8000円もの資金調達に成功。「クラウドファンディングで目標金額に達しないことも想定し、もしもの場合は例えば外構工事の内容を変更するといった対応策をとれるようにしておきました」(安井社長)。
名古屋市では、あおぞら学童がきっかけとなって家賃補助制度が実現したことで学童クラブの木造化の波が広がっており、2022年3月にも木造の施設が完成した。資金調達から設計、材料調達、施工といった流れがパッケージ化されたことで、後に続く学童保育クラブが木造化を検討しやすくなっているようだ。
今後、伝統的な板倉構法を使った学童保育クラブが全国的に広がっていくことも十分考えられそうだ。
安井工務店 安井 健 社長
私自身が保護者会の会長として、学童保育クラブの重要性や難しさに直面した経験があるので、できるだけ学童保育クラブの木造化にも協力したいと考えています。通常の木造建築とは異なり、資金面での制約条件が厳しい場合も多く、我々も一緒になって知恵を出し合うことが求められますが、子ども達のためにもプレハブではなく木造の施設をひとつでも多く実現できればと考えています。
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