公共建築物のレインボーオーシャン

今年の夏は例年より暑かった。日本の気候は常に変化していて、何年か前とは大きく違う。夏の高温化はデータで見ても分かるとおりで気候が変わってしまったと言っていい。

学校での熱中症が問題になり、全国の学校に冷房をつけることに2400億円の予算がついた。このこと自体は良いことなのかもしれないが、現在の全く断熱材のない建物に冷房することの無駄さを考えなくてはいけない。本来これは建物の高断熱化や日射遮蔽の問題とセットで考えられるべき問題である。

具体的に考えてみよう。屋上のすぐ下の教室は屋上自体が温まっているから、その下の教室はその影響を大きく受ける。一方、周りを教室に囲まれている部屋はそれほどでもない。日射遮蔽に関しては、グリーンカーテンやよしずなどで日射を入れないことが求められる。ガラスを通して、一旦入ってしまった熱はなかなか抜けない。炎天下の駐車場に止めた車のことを考えればイメージしやすい。日陰ではそれほど暑くならない。ガラスを通して入った赤外線は外には出ていかないのである。それだけ考えても、屋上の断熱、日射遮蔽が重要なことであることが分かる。

体育館は地域の避難所になることもあるが、こちらの建物の断熱性能も低いままである。また、クラブ活動をしている生徒たちの健康状態も気になる。まるで、蒸し風呂のようだという。地震や集中豪雨、台風など、これだけ自然災害が多い国だ。体育館のアメニティはもっと考えられるべきである。

横浜市の真夏日日数の推移
横浜市の年間の真夏日は、1930年から2017年の間で、約20日増えている。10年あたりでは2.1日増えている(緑の棒グラフは毎年の値、青い折れ線は5年移動平均値、赤い直線は長期変化傾向)
出典:気象庁

一方、マクロの話をすると、社会の低炭素化はそれほど進んでいない。国際公約があるにもかかわらず、炭素量を管理する経済産業省と他の省庁の足並みは揃っているとは言い難い。より一層の努力が求められている。これと同様なことがヨーロッパなどの先進地でもあった。民間に義務を強いる前に、公共建築物の高断熱化に着手し、その後、社会全体に広げていった。日本でも同様の方法が取られるだろう。指導する側の役人が常に使う役所、広く多くの人に使われる学校などから着手されるに違いない。

これらの工事はそれほど難しいわけではない。どちらかというと断熱材を貼っていくような地味な仕事である。だから、工事する組織が大きい必要もない。だが、どのくらい効果的にできるか、どこにコストをかけ、どこを省略するか、様々なノウハウを必要とする。現在の日本では温熱計算をして、適材適所を見極め、その方法を提案できるゼネコンはそう多くない。おそらく中規模なゼネコンよりも、地域で高断熱高気密住宅を提案できる小さな工務店の方がノウハウを多く持っている。彼らは単なる住宅の高断熱化だけにとどまらず公共建築の断熱改修も担っていけるポテンシャルを持っている。現在の日本の住宅で、ある程度の断熱ができている(2020年基準)住宅はわずか5%程度である。残りの95%の断熱は足りていない。公共建築物の断熱改修はここに含まれていない。これらの業務と言われる建物は規模も大きく、動くお金の規模も大きい。住宅の断熱改修だけでも大きい市場なのだが、公共建築物を入れると全く手付かずのレインボーオーシャンなのである。

※ レインボーオーシャン 現在、手つかずの潜在性の高い市場をブルーオーシャンというが、一般に気がつかれていない潜在性の高い市場をレインボーオーシャンという。

Housing Tribune最新刊

住宅産業総合誌「ハウジング・トリビューン」は隔週金曜日発売。年間購読者には電子版News Report「Housing Tribune Weekly」を配信しています。

ハウジング・トリビューンVol.619(2021年8・9号)

特集:

パンデミック後の住産業

コロナ感染拡大の第一波から1年が過ぎた。
特に緊急事態宣言下で、仕事や暮らしが一定の制限を受け、社会そのものが大きく変わらざるを得ない状況が続いている。
こうした変化を受け、住生活でも大きな変化が起こり、新たなニーズが生まれている。
パンデミックで何が変わり、何が変わらないのか。
この一年の変化と、これからを探った。

目次を見る