国土地理院が「自然災害伝承碑」をウェブ地図で発信
先人が伝える災害の教訓。第1弾は158碑
国土地理院がこのほど先人が伝える災害の教訓「自然災害伝承碑」をウェブ地図「地理院地図」に掲載を始めた。
自然災害に見舞われ続けてきたわが国に先人たちは、その時の様子や教訓を石碑やモニュメントに刻み後世の我々に遺してくれた。災害は忘れた頃にーーーを忘れさせないメッセージだ。だが、現実にはどうか。これらの碑が、先人たちが想い、願ったように後世に伝承されているだろうか。残念ながら、胸を張れる状況には無い。東日本大震災では、過去の津波被害の様子を伝える石碑や伝承が三陸海岸の各地に残されていながら碑の魂は伝わっていなかった。平成30年の西日本豪雨で大きな被害を受けた広島県や岡山県でも100年以上前に起きた同じような災害を伝える伝承碑が建てられていた。だが地域住民は「石碑があるのは知っていたが、内容は良く知らなかった」と語っていた。先人が石碑に託したメッセージは届かなかったと言うことだ。
津波被害や土砂災害は繰り返す。過去に災害に遭ったという事実は重い教訓だ。災害の備えになればと、国土地理院がはじめた今度の「自然災害伝承碑」の収集とウエブ地図公開は、まさに時宜を得たものと言っていいだろう。地理院は地方公共団体や国土交通省と連携し、自然伝承碑の収集を始め、200町村と公開準備を進め、今回はこのうち48町村の158基の公開に踏み切ったものである。これに伴って新たな地図記号も13年ぶりに制定した。
自然伝承碑には津波、洪水、火山災害、土砂災害、地震など自然災害の種類、建立年そして災害の規模や被災者数など碑に刻まれた碑文の内容、写真等の情報が盛り込まれ、地図情報に落とし込まれる。今度公開された158碑には、岩手県が明治三陸地震(1896)や昭和三陸地震(1933)の碑が収集され、宮城県、福島県では東日本大震災(2011)が、千葉県では関東大震災(1923)、神奈川県は延宝大噴火(富士山大噴火1707)、新潟県では大正6年の曽川切れ(1917)、昭和39年新潟地震(1964)、長野県では平成26年の御嶽山噴火(2014)、三重県では昭和34年の伊勢湾台風(1959)、兵庫県では阪神淡路大震災(1995)ーーー等々だ。詳しくはウェブ地図を見て欲しい。
この伝承碑情報、災害への備えとしてはもちろんだが、全国から誰もが検索できるわけで、災害・防災学への貴重な資料となり、行政にとっては,地図上での検索で簡単に出来ることから、防災・減災施策を進める上でのきわめて有効な情報になるだろう。
国土地理院は、現在、さらに約150市区町村と自然災害伝承碑の公開に向けて準備中と言うが、災害の伝承は被害の物理的な記録にとどまらない。被災者をはじめとする地域住民のそれこそ喜怒哀楽の諸々を包み込んだ苦闘の物語の伝承と言う側面を持つことも忘れて欲しくない。伝承碑の整備は地方自冶体などに改めて伝承碑を発掘させ、その災害記録と共に災害にまつわるエピソードも掘り起こしてくれそうな気がする。物語として災害を語り継ぐことは次代を生きる子どもたちへの防災教育、さらには郷土愛を育むと言う点でも大きな意味を持つと思うからだ。
都市化の波は人々に土地とのかかわりを希薄にしてしまった。自然災害は地形や土地の成り立ちとも深く結び付いている。それを意識することが、いざと言う災害時に自助、共助の実を発揮する。伝承碑の整備はそうした意識を高め多彩な防災へのスタートラインになりそうだ。
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