リノベーションと住まい【前編】

横浜国立大学 都市イノベーション研究院 准教授 江口亨

リノベーションは、自分が望む暮らしや住まいを手に入れる手段

社会が成熟し、人々の趣味、嗜好が多様化するなか、今後、暮らしや住まいは生活者が自らの手でつくり出していく時代になると横浜国立大学大学院の江口亨准教授は指摘する。これを実現する手段として重要な役割を果たすのがリノベーションなのだという。

横浜国立大学 都市イノベーション研究院 准教授 江口亨 /1978年生まれ。2002年、東京大学工学部建築学科を卒業。2008年に同大学大学院工学系研究科建築学専攻を修了後、ラフバラ大学研究員などを経て、2010年に横浜国立大学大学院工学研究院 助教に。2013年に准教授となり現在に至る。著書に「箱の産業~プレハブ住宅技術者たちの証言」(共著)などがある。

──建築ストック活用について研究しているそうですね。

今は建物が余っている時代です。そのため、従来のスクラップ&ビルドではなく、今ある建物をできるだけ長く使うストック型社会への転換が求められています。ストック型社会で人々が豊かに暮らしていくためには誰がどのような役割を果たし、どんな仕事をしていくのか。そんな観点から研究活動を行っています。

学生時代に松村秀一先生(現在、東京大学教授)の著書を通してリノベーションと出会い、設計やデザインがとりたてて優れているわけではない普通の建物でも後から手を加えることでその価値を高めることができることを知りました。古い建物の機能を現代に適したものに変えるだけでなく、新たな価値を付与することもできる。それがリノベーションなのだと思います。そんなリノベーションによって建物を再生することに可能性を感じました。そこで、松村先生の研究室に入れてもらい、リノベーションの研究を始めました。

現在ではスケルトン・インフィル住宅など建物の長寿命化の手法も確立されており、本格的なストック活用型社会へ転換を図っていくうえで、リノベーションを行いやすい環境が整ってきています。

一方で、日本が成熟社会を迎え、人々の生活スタイルや趣味、嗜好は多様化しています。そのような時代に、豊かな生活を実現するためには、自分が望む暮らしや住まいは自らの手でつくり出していかなければならない、そう志向する人が増えているのを感じます。生活者が自ら豊かな生活を獲得しようとするなかで、リノベーションの果たす役割がますます大きくなると考えています。

──生活者が自分の望む暮らしや住まいを実現するための手段のひとつとしてリノベーションが注目されるということでしょうか。


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