日本企業だから追求できるCSVがある 共感、絆を生む価値創出力に磨きを

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 特任教授 名和高司 氏

ビジネスを通じて社会課題の解決を目指すCSV (Creating Shared Value、共通価値の創造)という概念が注目を集め、次世代の経営モデルとして導入する国内外の企業が増えている。一橋大学大学院の国際企業戦略研究科の名和高司特任教授は「日本ならではのCSVを追求することで、世界に通用するモデルに育つ可能性がある。社会課題が山積する日本には、CSVを推進する上でアドバンテージがある」と話す。

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 特任教授 名和高司氏

──なぜ今、CSVという概念が注目されているのでしょうか。

2008年のリーマンショックを機に、持続可能性を無視した競争や株価至上主義に陥りやすい資本主義の限界が明らかになりました。企業は、利益創出だけを目指していても持続的な成長は望めないという世界的な風潮が強まっています。また、資本市場や投資家側からも、投資先の企業を選択するために、企業に対して環境、社会、企業統治に関する取り組み「ESG」の情報開示を求める声が強まっています。

こうしたなかで注目を集めているのがCSVという概念です。2011年にハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授が、ハーバード・ビジネスレビューに発表した「CSV論文」で、広く知られるようになりました。社会課題を解決することによって社会価値と経済価値の両方を創造する次世代の経営モデルを提唱したのです。

ポーター教授がCSVを提唱する以前から社会価値創造の重要性を説く思想はありましたが、社会価値と経済価値の両立を目指すことを企業戦略と結びつけてポーター教授が提示することで、世の中の関心を集めたのは事実です。リーマンショック後、「営利企業は悪」とまでいった風潮が広がるなかで、企業は何を旗印に活動を続けて良いか戸惑っていました。そこに、資本主義の旗手とも言えるポーター教授が、資本主義の復権を狙った新しい経営モデルをタイムリーに打ち出したのです。実際に、ユニリーバやダウ、P&G、ペプシコといったグローバル企業が、次々に全社的な取り組みとしてCSVを掲げています。

CSVを本業の真ん中に位置づけ、経済価値と社会価値の両立を目指す企業が増えている背景には、「ミレニアル世代」と呼ばれる、これまでの世代とは明らかに異なる考え方を持つ人たちが台頭し始めていることもあげられます。

彼らには、お金儲けに対する関心が低い一方で、社会貢献活動などに非常に強い関心を示す傾向が見られます。かつて才気あふれる若者は一攫千金を夢見て起業家を目指しました。しかし最近では、クールな若者ほど、NPOやNGOを通じた社会貢献を目指す。とくにビジネススクールでトップの成績を修めるような優秀な人ほどそうした傾向が強まっています。

こうしたミレニアル世代の若者にとって、儲けだけを追求している企業は魅力的には映りません。CSVのような視点を経営の真ん中に置き、環境や社会に配慮した取り組みも強化していかなければ、企業は優秀な人材を確保し、持続的な成長を実現していくことは難しいと言えるでしょう。

──日本企業には、「三方よし」という考え方が根付いています。それゆえにCSVが正確に理解されにくい面があるようです。


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